交流回路における電力の概念は、直流回路よりもはるかに複雑です。電圧と電流が時間的に変化し、さらに位相差がある場合、瞬時電力も時間的に変化します。この瞬時電力の平均値が「有効電力」として実際に仕事をする電力となりますが、それ以外にも「無効電力」や「皮相電力」という概念が重要な役割を果たします。これらの理解は、電力系統の運用や電気機器の設計において不可欠です。
瞬時電力は、その瞬間の電圧と電流の積として定義されます。正弦波交流において、電圧と電流に位相差 \(\phi\) がある場合の瞬時電力を解析すると、直流成分と交流成分(周波数は基本波の2倍)が現れます。直流成分が平均電力(有効電力)に相当し、交流成分は電源と負荷の間でエネルギーが往復するだけで、平均値は零となります。
有効電力(Active Power)は、実際に負荷で消費され、熱や機械的仕事に変換される電力です。これは瞬時電力の時間平均値として定義され、電圧と電流の実効値の積に力率(\(\cos\phi\))を乗じた値となります。有効電力の単位は [W](ワット)で、電力料金の計算基準となる重要な量です。
無効電力(Reactive Power)は、電源と負荷の間でエネルギーの授受は行うものの、実際には消費されない電力成分です。主にインダクタンスやキャパシタンスにおける磁界・電界エネルギーの蓄積と放出に関連します。無効電力は実際の仕事をしませんが、電流を増加させるため、送電容量や電圧調整に大きな影響を与えます。
解答:
実効値:
\[ \begin{aligned} V &= \frac{141.4}{\sqrt{2}} = 100 \quad \mathrm{[V]} \\[10pt] I &= \frac{7.07}{\sqrt{2}} = 5.0 \quad \mathrm{[A]} \\[10pt] \phi &= 30° \end{aligned} \]有効電力:
\[P = VI\cos\phi = 100 \times 5.0 \times \cos(30°) = 500 \times 0.866 = 433 \quad \mathrm{[W]}\]無効電力:
\[Q = VI\sin\phi = 100 \times 5.0 \times \sin(30°) = 500 \times 0.5 = 250 \quad \mathrm{[var]}\]電流が電圧より30°遅れているので、遅れ無効電力となる。
複素電力は、有効電力と無効電力を統一的に扱うための概念です。電圧フェーザーと電流フェーザーの共役複素数の積として定義され、実数部が有効電力、虚数部が無効電力に対応します。この表現により、電力の計算と解析が大幅に簡素化されます。
三相交流における電力計算も重要です。平衡三相回路では、三相の有効電力の総和は各相の電力の3倍となります。線間電圧 \(V_l\)、線電流 \(I_l\)、力率 \(\cos\phi\) を用いると、三相電力は \(P = \sqrt{3}V_l I_l \cos\phi\) で表されます。この関係式は、三相電動機や変圧器の電力計算で頻繁に使用されます。
皮相電力(Apparent Power)は、電圧と電流の実効値の積として定義される電力で、回路が扱う電力の総容量を表します。皮相電力は、有効電力と無効電力のベクトル和として表すことができ、電力の三角形として視覚化されます。変圧器や発電機の容量は、この皮相電力で表示されることが一般的です。
力率(Power Factor)は、皮相電力に対する有効電力の比として定義され、電力の利用効率を表す重要な指標です。力率が1に近いほど効率的な電力利用を意味し、力率が低いと同じ有効電力を得るためにより大きな電流が必要となります。これは送電損失の増加や設備容量の増大を招くため、電力系統では力率の改善が重要な課題となります。
フェーザ図と電力(P・Q・S)の関係を理解する
【電験三種】インタラクティブ フェーザ図学習ツール | 有効電力・無効電力・皮相電力を視覚的に理解力率改善は、電力系統の効率向上において極めて重要な技術です。誘導性負荷(モータなど)による遅れ力率を改善するために、並列にキャパシタンスを接続して進み無効電力を供給し、全体の無効電力を削減します。これにより、同じ有効電力に対して必要な電流が減少し、送電効率が向上します。
解答:
改善前の状態:
\[ \begin{aligned} P &= 10 \quad \mathrm{[kW]} \\[10pt] \cos\phi_1 &= 0.6, \quad \phi_1 = \arccos(0.6) = 53.1° \\[10pt] Q_1 &= P\tan\phi_1 = 10 \times \tan(53.1°) = 10 \times 1.33 = 13.3 \quad \mathrm{[kvar]} \end{aligned} \]改善後の状態:
\[ \begin{aligned} \cos\phi_2 &= 0.9, \quad \phi_2 = \arccos(0.9) = 25.8° \\[10pt] Q_2 &= P\tan\phi_2 = 10 \times \tan(25.8°) = 10 \times 0.48 = 4.8 \quad \mathrm{[kvar]} \end{aligned} \]必要なキャパシタンスの無効電力:
\[Q_C = Q_1 - Q_2 = 13.3 - 4.8 = 8.5 \quad \mathrm{[kvar]}\]8.5 [kvar] の進み無効電力を発生するキャパシタンスが必要。
電力の測定方法も実用上重要です。単相回路では電力計を用いて直接測定できますが、三相回路では2電力計法(ブロンデルの定理)や3電力計法が使用されます。また、デジタル電力計では、電圧と電流を同時にサンプリングして瞬時電力を計算し、その平均値から有効電力を求める方法が一般的です。
高調波の影響も現代の電力システムでは重要な問題です。非線形負荷(インバータ、整流器など)により発生する高調波は、基本波以外の周波数成分を含むため、従来の力率の概念だけでは不十分となります。高調波を考慮した場合、力率は基本波力率と歪み率の積として表される総合力率で評価する必要があります。
電力の三角形
有効電力 P を水平軸、無効電力 Q を垂直軸とする直角三角形:
負荷の種類 | 力率 | 位相関係 | 無効電力 | 代表例 |
---|---|---|---|---|
純抵抗 | 1.0 | 同位相 | 0 | 電熱器、白熱灯 |
誘導性 | 0.8〜0.9(遅れ) | 電流遅れ | 遅れ無効電力 | モータ、変圧器 |
容量性 | 0.8〜0.9(進み) | 電流進み | 進み無効電力 | コンデンサ、ケーブル |
項目 | 公式 | 単位 | 備考 |
---|---|---|---|
有効電力 | \(P = VI\cos\phi\) | [W] | 実際に消費される電力 |
無効電力 | \(Q = VI\sin\phi\) | [var] | エネルギーの授受のみ |
皮相電力 | \(S = VI\) | [VA] | 設備容量を決定 |
力率 | \(\cos\phi = P/S\) | 無次元 | 0〜1の範囲 |
三相電力 | \(P = \sqrt{3}V_l I_l \cos\phi\) | [W] | 平衡三相回路 |
解答:
(1) インピーダンス:
\[ \begin{aligned} X &= X_L - X_C = 80 - 50 = 30 \quad \mathrm{[Ω]} \\[10pt] |\dot{Z}| &= \sqrt{R^2 + X^2} = \sqrt{50^2 + 30^2} = \sqrt{3400} ≈ 58.3 \quad \mathrm{[Ω]} \\[10pt] \phi &= \arctan\left(\frac{X}{R}\right) = \arctan\left(\frac{30}{50}\right) ≈ 31.0° \end{aligned} \](2) 電流:
\[I = \frac{V}{|\dot{Z}|} = \frac{100}{58.3} ≈ 1.72 \quad \mathrm{[A]}\](3) 各種電力:
\[ \begin{aligned} P &= VI\cos\phi = 100 \times 1.72 \times \cos(31.0°) \\[10pt] &= 172 \times 0.857 ≈ 147 \quad \mathrm{[W]} \\[10pt] Q &= VI\sin\phi = 100 \times 1.72 \times \sin(31.0°) \\[10pt] &= 172 \times 0.515 ≈ 89 \quad \mathrm{[var]} \\[10pt] S &= VI = 100 \times 1.72 = 172 \quad \mathrm{[VA]} \end{aligned} \](4) 力率:
\[\cos\phi = \frac{P}{S} = \frac{147}{172} ≈ 0.857 \quad \text{(遅れ)}\]検算:\(S^2 = P^2 + Q^2 = 147^2 + 89^2 = 21609 + 7921 = 29530\)
\(S = \sqrt{29530} ≈ 172\) [VA] ✓
複素数は、交流回路解析において極めて重要な数学的ツールです。実数だけでは表現できない電気的な位相関係を、複素数を用いることで代数的に扱うことができます。複素数は、実数部と虚数部からなる数で、\(z = a + jb\) の形で表されます。ここで \(j\) は虚数単位で、\(j^2 = -1\) を満たします。電気工学では、電流の記号 \(i\) と区別するため、虚数単位を \(j\) で表記します。
複素数の基本的な概念を理解するために、まず実数との関係を明確にしましょう。実数は数直線上の点として表現できますが、複素数は複素平面(ガウス平面)上の点として表現されます。横軸を実軸、縦軸を虚軸とする平面で、複素数 \(z = a + jb\) は座標 \((a, b)\) の点に対応します。この幾何学的解釈により、複素数の演算を視覚的に理解することができます。
複素数の加法と減法は、実数部と虚数部をそれぞれ独立に計算します。これは、ベクトルの成分ごとの加減算と同じ考え方です。複素平面上では、複素数の加法は平行四辺形の法則に従い、2つの複素数を表すベクトルの和として表現されます。
解答:
加法:
\[ \begin{aligned} z_1 + z_2 &= (3 + j4) + (2 - j1) \\[10pt] &= (3 + 2) + j(4 - 1) \\[10pt] &= 5 + j3 \end{aligned} \]減法:
\[ \begin{aligned} z_1 - z_2 &= (3 + j4) - (2 - j1) \\[10pt] &= (3 - 2) + j(4 - (-1)) \\[10pt] &= 1 + j5 \end{aligned} \]複素数の乗法は、実数の乗法を拡張したもので、分配法則を適用して計算します。重要なのは、\(j^2 = -1\) の関係を利用することです。乗法の結果も複素数となり、元の2つの複素数の位相関係が新しい複素数に反映されます。
複素数は、交流回路解析において極めて重要な数学的ツールです。実数だけでは表現できない電気的な位相関係を、複素数を用いることで代数的に扱うことができます。複素数は、実数部と虚数部からなる数で、\(z = a + jb\) の形で表されます。ここで \(j\) は虚数単位で、\(j^2 = -1\) を満たします。電気工学では、電流の記号 \(i\) と区別するため、虚数単位を \(j\) で表記します。
複素数の基本的な概念を理解するために、まず実数との関係を明確にしましょう。実数は数直線上の点として表現できますが、複素数は複素平面(ガウス平面)上の点として表現されます。横軸を実軸、縦軸を虚軸とする平面で、複素数 \(z = a + jb\) は座標 \((a, b)\) の点に対応します。この幾何学的解釈により、複素数の演算を視覚的に理解することができます。
複素数の加法と減法は、実数部と虚数部をそれぞれ独立に計算します。これは、ベクトルの成分ごとの加減算と同じ考え方です。複素平面上では、複素数の加法は平行四辺形の法則に従い、2つの複素数を表すベクトルの和として表現されます。
解答:
加法:
\[ \begin{aligned} z_1 + z_2 &= (3 + j4) + (2 - j1) \\[10pt] &= (3 + 2) + j(4 - 1) \\[10pt] &= 5 + j3 \end{aligned} \]減法:
\[ \begin{aligned} z_1 - z_2 &= (3 + j4) - (2 - j1) \\[10pt] &= (3 - 2) + j(4 - (-1)) \\[10pt] &= 1 + j5 \end{aligned} \]複素数の乗法は、実数の乗法を拡張したもので、分配法則を適用して計算します。重要なのは、\(j^2 = -1\) の関係を利用することです。乗法の結果も複素数となり、元の2つの複素数の位相関係が新しい複素数に反映されます。
複素数の除法は、分母を実数にするために共役複素数を利用します。複素数 \(z = a + jb\) の共役複素数は \(\bar{z} = a - jb\) で表され、\(z \times \bar{z} = a^2 + b^2\) となって実数になります。この性質を利用して除法を実行します。
解答:
乗法:
\[ \begin{aligned} z_1 \times z_2 &= (2 + j3)(1 + j2) \\[10pt] &= 2 \times 1 + 2 \times j2 + j3 \times 1 + j3 \times j2 \\[10pt] &= 2 + j4 + j3 + j^2 6 \\[10pt] &= 2 + j7 - 6 \\[10pt] &= -4 + j7 \end{aligned} \]除法:
\[ \begin{aligned} \frac{z_1}{z_2} &= \frac{2 + j3}{1 + j2} \\[10pt] &= \frac{(2 + j3)(1 - j2)}{(1 + j2)(1 - j2)} \\[10pt] &= \frac{2 - j4 + j3 - j^2 6}{1 - j^2 4} \\[10pt] &= \frac{2 - j1 + 6}{1 + 4} \\[10pt] &= \frac{8 - j1}{5} = \frac{8}{5} - j\frac{1}{5} \end{aligned} \]複素数の大きさ(絶対値)と偏角は、複素平面上での極座標表示の基礎となります。複素数 \(z = a + jb\) の大きさは \(|z| = \sqrt{a^2 + b^2}\) で定義され、偏角は \(\arg(z) = \arctan(b/a)\) で定義されます。これらの量は、交流回路における電圧・電流の実効値と位相に対応する重要な概念です。
複素数の極座標表示は、複素数を大きさと角度で表現する方法で、交流回路解析において非常に重要です。直交形式 \(z = a + jb\) では加減算が簡単ですが、乗除算では極座標形式 \(z = r\angle\theta\) または \(z = re^{j\theta}\) の方が計算が簡単になります。この表示方法により、複素数の乗除算が大きさの乗除と角度の加減に分離され、計算が大幅に簡素化されます。
極座標表示への変換は、三角関数とピタゴラスの定理を用いて行います。複素平面上の点を原点からの距離(大きさ)と、実軸からの角度(偏角)で表現します。この変換により、複素数の幾何学的意味がより明確になり、回転や拡大・縮小といった操作を直感的に理解できるようになります。
ベクトル図の作図ツール
電験三種 数学基礎 | 複素数(複素平面)インタラクティブ解説ツール
上記は複素平面を直感的に理解できるインタラクティブなグラフツールです。
複素数の演算を通じて、ベクトルの作図や動きを視覚的に学ぶことができます。めることができます。
逆に、極座標形式から直交形式への変換は、オイラーの公式を用いて行います。オイラーの公式 \(e^{j\theta} = \cos\theta + j\sin\theta\) は、複素数と三角関数を結ぶ美しい関係式で、複素数理論の基礎となっています。この公式により、指数関数的表現と三角関数的表現を相互に変換できます。
解答:
(1) 直交形式 → 極座標形式:
\[ \begin{aligned} r &= \sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = 5 \\[10pt] \theta &= \arctan\left(\frac{4}{3}\right) = 53.1° \\[10pt] z_1 &= 5\angle53.1° \end{aligned} \](2) 極座標形式 → 直交形式:
\[ \begin{aligned} a &= 5\cos(60°) = 5 \times 0.5 = 2.5 \\[10pt] b &= 5\sin(60°) = 5 \times 0.866 = 4.33 \\[10pt] z_2 &= 2.5 + j4.33 \end{aligned} \]複素数の乗法・除法は、極座標表示を用いると非常に簡単になります。乗法では大きさを掛け合わせ、角度を加算します。除法では大きさを割り、角度を減算します。この規則により、複雑な複素数の計算も効率的に実行できます。
複素数のベクトル表示は、複素平面上で複素数を矢印(ベクトル)として表現する方法です。この表現により、複素数の加減算は平行四辺形の法則に従うベクトルの合成として、乗除算は回転と拡大・縮小として視覚的に理解できます。交流回路解析では、電圧や電流の位相関係をベクトル図として描くことで、回路の動作を直感的に把握できます。
ベクトルとしての複素数は、始点を原点とし、終点が複素数の値を示す矢印で表されます。矢印の長さが複素数の大きさ(絶対値)に対応し、実軸の正方向からの角度が偏角に対応します。この表現により、複素数の演算の幾何学的意味が明確になります。
複素数の回転は、虚数単位 \(j\) を乗じることで実現されます。\(j = 1\angle90°\) であるため、複素数に \(j\) を乗じると、その複素数を反時計回りに90度回転させることになります。同様に、\(-j\) を乗じると時計回りに90度回転します。この性質は、交流回路における位相の進み・遅れの概念と直接対応しています。
複素平面上での基本的な複素数
複素平面上の主要な点:
複素数の乗除算における極座標表示の威力は、特に連続した演算において顕著に現れます。多段の増幅回路や多相交流回路など、複数の複素数が関係する計算では、極座標表示を用いることで計算ミスを大幅に減らし、物理的意味も理解しやすくなります。また、べき根や対数といった高度な演算も、極座標表示では比較的簡単に扱えます。
ド・モアブルの定理は、複素数のべき乗を極座標表示で扱う際の基本定理です。この定理により、複素数のn乗は、大きさをn乗し、角度をn倍することで求められます。この性質は、交流回路における高調波解析や、周期関数のフーリエ級数展開などで重要な役割を果たします。
解答:
ド・モアブルの定理を適用:
\[ \begin{aligned} z^3 &= (2\angle30°)^3 \\[10pt] &= 2^3\angle(3 \times 30°) \\[10pt] &= 8\angle90° \\[10pt] &= 8j \end{aligned} \]直交形式で確認:
\[ \begin{aligned} z &= 2(\cos30° + j\sin30°) = 2(0.866 + j0.5) = 1.732 + j \\[10pt] z^3 &= (1.732 + j)^3 \\[10pt] &\text{(計算は複雑だが、結果は } 8j \text{ となる)} \end{aligned} \]複素数の平方根や立方根も、極座標表示では規則的に求めることができます。n次根を求める場合、大きさはn分の1乗し、角度はn分の1にした後、\(360°/n\) ずつ異なるn個の根が得られます。この性質は、交流回路における対称座標法や、制御理論における極零解析で応用されます。
記号法(フェーザー法)は、複素数を用いて交流回路を解析する強力な手法です。時間的に変化する正弦波交流を、回転する複素数ベクトル(フェーザー)として表現することで、微分方程式を代数方程式に変換し、直流回路と同様の手法で解析できます。まず最も基本的な純抵抗回路から記号法による解析を学びましょう。
純抵抗回路では、電圧と電流の位相が一致するため、フェーザー表示においても両者は同じ方向を向きます。抵抗のインピーダンスは実数値 \(R\) となり、複素数の虚数部は零です。この特性により、抵抗回路の記号法による解析は、実質的に直流回路の解析と同じになります。
記号法を用いることで、抵抗回路における電力計算も簡潔に表現できます。複素電力の実数部が有効電力に対応し、虚数部が無効電力に対応します。純抵抗では無効電力は零となり、すべての電力が有効電力として消費されます。
解答:
電流フェーザー:
\[ \begin{aligned} \dot{I} &= \frac{\dot{V}}{\dot{Z}_R} = \frac{100\angle30°}{50} \\[10pt] &= 2\angle30° \quad \mathrm{[A]} \end{aligned} \]複素電力:
\[ \begin{aligned} \dot{S} &= \dot{V}\dot{I}^* = 100\angle30° \times 2\angle-30° \\[10pt] &= 200\angle0° = 200 + j0 \\[10pt] \text{有効電力:} \quad P &= 200 \quad \mathrm{[W]} \\[10pt] \text{無効電力:} \quad Q &= 0 \quad \mathrm{[var]} \end{aligned} \]純インダクタンス回路の記号法による解析では、インピーダンスが純虚数 \(j\omega L\) となることが重要な特徴です。これにより、電流フェーザーは電圧フェーザーより90度位相が遅れます。記号法を用いることで、この位相関係を数値計算として正確に扱うことができます。
インダクタンス回路では、平均電力の消費は零となり、エネルギーは電源とインダクタンスの間で往復します。記号法では、これが複素電力の虚数成分として表現されます。この無効電力は、磁界エネルギーの蓄積と放出に関連しています。
解答:
誘導リアクタンス:
\[X_L = 2\pi fL = 2\pi \times 50 \times 0.1 = 31.4 \quad \mathrm{[Ω]}\]インピーダンス:
\[\dot{Z}_L = j31.4 = 31.4\angle90° \quad \mathrm{[Ω]}\]電流フェーザー:
\[ \begin{aligned} \dot{I} &= \frac{100\angle0°}{31.4\angle90°} \\[10pt] &= \frac{100}{31.4}\angle(0° - 90°) \\[10pt] &= 3.18\angle-90° \quad \mathrm{[A]} \end{aligned} \]複素電力:
\[ \begin{aligned} \dot{S} &= \dot{V}\dot{I}^* = 100\angle0° \times 3.18\angle90° \\[10pt] &= 318\angle90° = 0 + j318 \\[10pt] \text{有効電力:} \quad P &= 0 \quad \mathrm{[W]} \\[10pt] \text{無効電力:} \quad Q &= 318 \quad \mathrm{[var]} \text{ (遅れ)} \end{aligned} \]純キャパシタンス回路では、インピーダンスが負の虚数 \(-j/(ωC)\) となります。これにより、電流フェーザーは電圧フェーザーより90度位相が進みます。記号法における負の虚数部は、位相の進みを表現する重要な要素です。
キャパシタンス回路では、インダクタンス回路と同様に平均電力の消費は零となりますが、無効電力の符号が逆になります。これは進み無効電力と呼ばれ、電界エネルギーの蓄積と放出に関連しています。記号法では、複素電力の虚数部が負となって表現されます。
解答:
容量リアクタンス:
\[X_C = \frac{1}{2\pi fC} = \frac{1}{2\pi \times 50 \times 100 \times 10^{-6}} = 31.8 \quad \mathrm{[Ω]}\]インピーダンス:
\[\dot{Z}_C = -j31.8 = 31.8\angle-90° \quad \mathrm{[Ω]}\]電流フェーザー:
\[ \begin{aligned} \dot{I} &= \frac{100\angle0°}{31.8\angle-90°} \\[10pt] &= \frac{100}{31.8}\angle(0° - (-90°)) \\[10pt] &= 3.14\angle90° \quad \mathrm{[A]} \end{aligned} \]複素電力:
\[ \begin{aligned} \dot{S} &= \dot{V}\dot{I}^* = 100\angle0° \times 3.14\angle-90° \\[10pt] &= 314\angle-90° = 0 - j314 \\[10pt] \text{有効電力:} \quad P &= 0 \quad \mathrm{[W]} \\[10pt] \text{無効電力:} \quad Q &= -314 \quad \mathrm{[var]} \text{ (進み)} \end{aligned} \]R-L-C直列回路の記号法による解析は、交流回路理論の集大成です。各素子のインピーダンスを複素数として表現し、直列接続では単純に加算することで合成インピーダンスを求めます。この手法により、複雑な位相関係も代数的に正確に計算できます。
直列回路では、各素子に同じ電流が流れるため、電流を基準フェーザーとして各部の電圧を計算するのが一般的です。各素子の電圧フェーザーは、その素子のインピーダンスと電流フェーザーの積として求められ、電源電圧はこれらのベクトル和となります。
記号法による解析では、回路の性質(誘導性・容量性・抵抗性)が合成インピーダンスの虚数部の符号によって直ちに判断できます。\(X_L > X_C\) なら誘導性(電流遅れ)、\(X_L < X_C\) なら容量性(電流進み)、\(X_L = X_C\) なら抵抗性(電流同位相)となります。
解答:
(1) 合成インピーダンス:
\[ \begin{aligned} \dot{Z} &= R + j(X_L - X_C) \\[10pt] &= 30 + j(50 - 20) \\[10pt] &= 30 + j30 \\[10pt] |\dot{Z}| &= \sqrt{30^2 + 30^2} = 30\sqrt{2} ≈ 42.4 \quad \mathrm{[Ω]} \\[10pt] \phi &= \arctan\left(\frac{30}{30}\right) = 45° \end{aligned} \](2) 電流フェーザー:
\[ \begin{aligned} \dot{I} &= \frac{\dot{V}}{\dot{Z}} = \frac{100\angle0°}{42.4\angle45°} \\[10pt] &= \frac{100}{42.4}\angle(0° - 45°) \\[10pt] &= 2.36\angle-45° \quad \mathrm{[A]} \end{aligned} \](3) 各部の電圧フェーザー:
\[ \begin{aligned} \dot{V}_R &= R\dot{I} = 30 \times 2.36\angle-45° = 70.8\angle-45° \quad \mathrm{[V]} \\[10pt] \dot{V}_L &= jX_L\dot{I} = j50 \times 2.36\angle-45° \\[10pt] &= 50\angle90° \times 2.36\angle-45° = 118\angle45° \quad \mathrm{[V]} \\[10pt] \dot{V}_C &= -jX_C\dot{I} = -j20 \times 2.36\angle-45° \\[10pt] &= 20\angle-90° \times 2.36\angle-45° = 47.2\angle-135° \quad \mathrm{[V]} \end{aligned} \]検算:\(\dot{V}_R + \dot{V}_L + \dot{V}_C = 100\angle0°\) ✓
(4) 複素電力:
\[ \begin{aligned} \dot{S} &= \dot{V}\dot{I}^* = 100\angle0° \times 2.36\angle45° \\[10pt] &= 236\angle45° \\[10pt] &= 236(\cos45° + j\sin45°) \\[10pt] &= 236(0.707 + j0.707) \\[10pt] &= 167 + j167 \\[10pt] \text{有効電力:} \quad P &= 167 \quad \mathrm{[W]} \\[10pt] \text{無効電力:} \quad Q &= 167 \quad \mathrm{[var]} \text{ (遅れ)} \end{aligned} \]記号法による並列回路の解析では、アドミタンス(インピーダンスの逆数)を用いると計算が簡単になります。各枝のアドミタンスを求め、それらを加算して合成アドミタンスを求めます。この手法により、複雑な並列回路も系統的に解析できます。
記号法は、交流回路における共振現象の解析にも威力を発揮します。直列共振では \(X_L = X_C\) のとき合成インピーダンスが最小となり、並列共振では合成アドミタンスが最小(インピーダンスが最大)となります。これらの条件を複素数の観点から理解することで、共振現象の本質を深く把握できます。
素子 | インピーダンス | 極座標表示 | 位相関係 | 電力特性 |
---|---|---|---|---|
抵抗 R | \(R\) | \(R\angle0°\) | 同位相 | 有効電力のみ |
インダクタンス L | \(jX_L\) | \(X_L\angle90°\) | 電流90°遅れ | 遅れ無効電力 |
キャパシタンス C | \(-jX_C\) | \(X_C\angle-90°\) | 電流90°進み | 進み無効電力 |
解答:
R-L直列部分のインピーダンス:
\[ \begin{aligned} \dot{Z}_{RL} &= R + jX_L = 40 + j30 \\[10pt] |\dot{Z}_{RL}| &= \sqrt{40^2 + 30^2} = 50 \quad \mathrm{[Ω]} \\[10pt] \arg(\dot{Z}_{RL}) &= \arctan\left(\frac{30}{40}\right) = 36.9° \end{aligned} \]キャパシタンスのインピーダンス:
\[\dot{Z}_C = -jX_C = -j50 = 50\angle-90° \quad \mathrm{[Ω]}\]各枝のアドミタンス:
\[ \begin{aligned} \dot{Y}_{RL} &= \frac{1}{\dot{Z}_{RL}} = \frac{1}{50\angle36.9°} = 0.02\angle-36.9° \\[10pt] &= 0.02(\cos(-36.9°) + j\sin(-36.9°)) \\[10pt] &= 0.02(0.8 - j0.6) = 0.016 - j0.012 \quad \mathrm{[S]} \\[10pt] \dot{Y}_C &= \frac{1}{\dot{Z}_C} = \frac{1}{50\angle-90°} = 0.02\angle90° \\[10pt] &= j0.02 \quad \mathrm{[S]} \end{aligned} \]合成アドミタンス:
\[ \begin{aligned} \dot{Y}_{total} &= \dot{Y}_{RL} + \dot{Y}_C \\[10pt] &= (0.016 - j0.012) + j0.02 \\[10pt] &= 0.016 + j0.008 \\[10pt] |\dot{Y}_{total}| &= \sqrt{0.016^2 + 0.008^2} = 0.0179 \quad \mathrm{[S]} \\[10pt] \arg(\dot{Y}_{total}) &= \arctan\left(\frac{0.008}{0.016}\right) = 26.6° \end{aligned} \]総電流:
\[ \begin{aligned} \dot{I}_{total} &= \dot{V} \times \dot{Y}_{total} \\[10pt] &= 100\angle0° \times 0.0179\angle26.6° \\[10pt] &= 1.79\angle26.6° \quad \mathrm{[A]} \end{aligned} \]この回路は全体として容量性(電流進み)となる。