【電力】平成23年 問8|受変電・送配電設備に設置されるリアクトルの用途に関する知識を問う選択問題

受変電設備や送配電設備に設置されるリアクトルに関する記述として,誤っているものを次の (1)~(5) のうちから一つ選べ。

(1) 分路リアクトルは,電力系統から遅れ無効電力を吸収し,系統の電圧調整を行うために設置される。母線や変圧器の二次側・三次側に接続し,負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使用される。

(2) 限流リアクトルは,系統故障時の故障電流を抑制するために用いられる。保護すべき機器と直列に接続する。

(3) 電力用コンデンサに用いられる直列リアクトルは,コンデンサ回路投入時の突入電流を抑制し,コンデンサによる高調波障害の拡大を防ぐことで,電圧波形のひずみを改善するために設ける。コンデンサと直列に接続し,回路に並列に設置する。

(4) 消弧リアクトルは,三相電力系統において送電線路にアーク地絡を生じた場合,進相電流を補償し,アークを消滅させ,送電を継続するために用いられる。三相変圧器の中性点と大地間に接続する。

(5) 補償リアクトル接地方式は,\( 66 \) [kV] から \( 154 \) [kV] の架空送電線において,対地静電容量によって発生する地絡故障時の充電電流による通信機器への影響を抑制するために用いられる。中性点接地抵抗器と直列に補償リアクトルを接続する。

合格への方程式

調相設備の種類と特徴

調相設備とは、電力系統の無効電力を調整するための設備です。無効電力とは、実際に使われない電力のことで、これを適切に制御することで電圧の安定や電力損失の低減ができます。

重要ポイント:調相設備は「無効電力を調整する設備」であり、電圧の安定化や系統の力率改善に使われます。

代表的な調相設備には以下の4種類があります:

種類 調整能力 調整方法 コスト 保守性
電力用コンデンサ 進相電力を吸収(電流を進ませる) 段階的 安価 容易
分路リアクトル 遅相電力を吸収(電流を遅らせる) 段階的 安価 容易
同期調相機 遅れから進みまで調整可能 連続的 高価 複雑
静止形無効電力補償装置(SVC) 遅れから進みまで調整可能 連続的 高価 容易

理論的理解

無効電力(Q)は次の式で表されます:

$$Q = V \cdot I \cdot \sin \phi$$

ここで、Vは電圧、Iは電流、φは電圧と電流の位相差です。

間違いやすいポイント:電力用コンデンサと分路リアクトルの働きを混同しないようにしましょう。コンデンサは「進相」、リアクトルは「遅相」の調整に使います。

基本説明:

  • 電力用コンデンサ:電気をためる装置で、電流を電圧より進ませる効果があります。負荷が多い時間帯に電圧を上げる助けになります。
  • 分路リアクトル:コイルのような装置で、電流を電圧より遅らせる効果があります。夜間など負荷が少ない時に電圧を下げるのに役立ちます。
  • 同期調相機:モーターのような回転する機械で、進みも遅れも自由に調整できますが、保守が大変です。
  • SVC:電子部品を使った最新の装置で、回転部分がなく素早く調整できます。

中性点接地方式

中性点接地方式とは、三相交流回路の中性点(Y結線における星の中心点)と大地との接続方法を指します。接地方式の選択は主に電圧階級によって決まります。

重要ポイント:接地方式は「系統保護」と「電圧安定化」のために重要です。電圧が高くなるほど、直接接地に近い方式が選ばれます。

接地方式 適用電圧階級 健全相電位上昇 一線地絡電流 特徴
非接地方式 6.6 kV 中性点と大地を接続しない
消弧リアクトル接地方式 22~77 kV 最小 地絡電流を打ち消す効果
抵抗接地方式 22~154 kV 地絡電流を制限する
直接接地方式 187 kV以上 健全相の電位上昇を抑制

理論的理解

一線地絡が発生した場合、健全相の対地電圧は通常の√3倍(約1.73倍)まで上昇する可能性があります。これは次の式で表されます:

$$V_{健全相-大地} = \sqrt{3} \times V_{相電圧}$$

間違いやすいポイント:試験では電圧階級と接地方式の対応関係がよく問われます。特に77~154kVの範囲では抵抗接地が使われることを覚えておきましょう。

基本説明:

  • 非接地方式:電気の回路と地面をつながない方法です。小さな電圧の系統で使われます。
  • 消弧リアクトル接地方式:地絡(電気が地面に漏れること)が起きたとき、その電流を打ち消すコイルを使う方法です。
  • 抵抗接地方式:電気の回路と地面の間に抵抗を入れて、地絡電流を適度に制限する方法です。
  • 直接接地方式:電気の回路と地面を直接つなぐ方法で、高い電圧の系統で使われます。地絡が起きたとき健全な相の電圧上昇を防ぎます。

補償リアクトル接地方式

補償リアクトル接地方式は、主に154kVまでの地中送電線で使用される特殊な接地方式です。地中ケーブルの特性に対応するために設計されています。

重要ポイント:補償リアクトル接地方式は「通信線への電磁誘導障害防止」が主な目的です。抵抗接地方式にリアクトルを追加した方式と考えることができます。

地中送電線の特徴と問題点:

  • 地中ケーブルは対地静電容量が大きく、進み電流が発生しやすい
  • 通常時は三相平衡状態のため、磁界は打ち消し合い、通信線への影響はない
  • 地絡事故時には三相不平衡となり、進み電流が通信線に電磁誘導障害を引き起こす可能性がある

理論的理解

補償リアクトルの原理は、地絡時の静電容量による進み電流(容量性電流)をリアクトルの遅れ電流(誘導性電流)で打ち消すことです。理想的には次の式が成り立ちます:

$$I_C + I_L = 0$$

ここで、ICは容量性電流、ILは誘導性電流です。

補償リアクトル接地方式の構成:

  • 基本的には抵抗接地方式に補償リアクトルを並列接続したもの
  • リアクトルにより地絡時の進み電流を補償(打ち消す)
  • 抵抗により故障検出や保護継電器の動作を確保

間違いやすいポイント:補償リアクトル接地方式は「消弧リアクトル接地方式」と混同されやすいですが、目的が異なります。消弧リアクトルは地絡電流そのものを消弧することが目的ですが、補償リアクトルは通信線への電磁誘導障害防止が目的です。

基本説明:

  • 地下にある電線(ケーブル)は、地面との間に電気をためる性質があります。
  • 普段は問題ありませんが、事故が起きると近くの電話線などに悪影響を与えることがあります。
  • そこで、地面とのつなぎ方を工夫して、特別なコイル(補償リアクトル)を使います。
  • このコイルは、ケーブルが出す「進み電流」を打ち消すことで、電話線などへの影響を防ぎます。

実際の適用例:

  • 都市部の地中送電線(主に154kVまで)
  • 通信線が並行している区間の送電線
  • 電磁誘導障害に敏感な施設近くの送電設備

🔍 ワンポイントアドバイス: 調相設備と接地方式は、試験では電圧階級との対応や特徴の比較がよく出題されます。表の形で整理して覚えると効率的です。特に「何のために使うのか」という目的を理解すると、各方式の特徴が論理的に結びつきます。例えば、電圧が高くなるほど絶縁破壊の影響が大きくなるため、健全相の電位上昇を抑える直接接地方式が採用されることを理解しましょう。

(電力)平成23年 問8 受変電・送配電設備に設置されるリアクトルの用途に関する知識を問う選択問題

(1) 分路リアクトルは,電力系統から遅れ無効電力を吸収し,系統の電圧調整を行うために設置される。母線や変圧器の二次側・三次側に接続し,負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使用される。
(2) 限流リアクトルは,系統故障時の故障電流を抑制するために用いられる。保護すべき機器と直列に接続する。
(3) 電力用コンデンサに用いられる直列リアクトルは,コンデンサ回路投入時の突入電流を抑制し,コンデンサによる高調波障害の拡大を防ぐことで,電圧波形のひずみを改善するために設ける。コンデンサと直列に接続し,回路に並列に設置する。
(4) 消弧リアクトルは,三相電力系統において送電線路にアーク地絡を生じた場合,進相電流を補償し,アークを消滅させ,送電を継続するために用いられる。三相変圧器の中性点と大地間に接続する。
(5) 補償リアクトル接地方式は,\(66\,\mathrm{kV}\) から \(154\,\mathrm{kV}\) の架空送電線において,対地静電容量によって発生する地絡故障時の充電電流による通信機器への影響を抑制するために用いられる。中性点接地抵抗器と直列に補償リアクトルを接続する。
今日はリアクトルについての問題やで。
リアクトルは電力系統で色んな目的で使われとる大事な設備やからな。
それぞれのリアクトルの特徴と使い方について、間違った記述を探していこか。
まずは(1)の分路リアクトルについてや。
これって系統からどんな無効電力を吸収するんやろな?そして何のために使うんやったかな?
分路リアクトルは、電力系統から遅れ無効電力を吸収します。
目的は系統の電圧調整のためです。負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使われるため、段階的な調整ができると思います。
したがって、(1)の記述は正しいと考えます。

解説

正解は (5) です。

各選択肢の詳しい解説:

  • (1) 正しい:分路リアクトルは、電力系統から遅れ無効電力を吸収し、系統の電圧調整を行います。特に軽負荷時に系統電圧が上昇するのを抑えるために使用されます。負荷変動に応じて投入・切離しを行うため、段階的な調整が可能です。
  • (2) 正しい:限流リアクトルは、系統故障時の故障電流(短絡電流)を抑制するために用いられます。保護すべき機器と直列に接続することで、インピーダンスを増加させ短絡電流を制限します。
  • (3) 正しい:電力用コンデンサに用いられる直列リアクトルは、コンデンサ回路投入時の突入電流抑制、高調波障害防止、電圧波形ひずみ改善のために設けられます。コンデンサと直列に接続し、その組み合わせを回路に並列に設置します。
  • (4) 正しい:消弧リアクトルは、送電線路のアーク地絡時に進相電流を補償し、アークを消滅させて送電継続を可能にします。三相変圧器の中性点と大地間に接続され、主に22kV~77kV系統で用いられます。
  • (5) 誤り:補償リアクトル接地方式は、主に地中送電線において使用される方式です。また、中性点接地抵抗器と並列に補償リアクトルを接続するのが正しいです。この方式は対地静電容量による進み電流を補償するために用いられます。

電力系統におけるリアクトルの種類と用途を理解することは、電気主任技術者として重要です。特に各リアクトルの接続方法と目的を正確に理解しておくことで、適切な設備設計や保守が可能になります。

この問題のポイント

  • 分路リアクトル:遅れ無効電力を吸収し電圧調整(特に軽負荷時)に使用
  • 限流リアクトル:直列接続で故障電流を抑制
  • 直列リアクトル:コンデンサと直列接続し突入電流抑制・高調波対策
  • 消弧リアクトル:中性点接地方式の一種で地絡電流を最小化
  • 補償リアクトル:地中送電線で使用、抵抗器と並列接続