【電力】令和4年 (上期) 問5|風力発電の構造・エネルギー特性・発電機構に関する穴埋め問題
次の文章は,風力発電に関する記述である。
風力発電は,風のエネルギーによって風車で発電機を駆動し発電を行う。風車は回転軸の方向により水平軸風車と垂直軸風車に分けられ,大電力用には主に \( \fbox{(ア)} \) 軸風車が用いられる。
風がもつ運動エネルギーは風速の \( \fbox{(イ)} \) 乗に比例する。また,プロペラ型風車を用いた風力発電で取り出せる電力は,損失を無視すると風速の \( \fbox{(ウ)} \) 乗に比例する。風が得られれば電力を発生できるため,発電するときに二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーであり,また,出力変動の \( \fbox{(エ)} \) 電源とされる。
発電機には誘導発電機や同期発電機が用いられる。同期発電機を用いてロータの回転速度を可変とした場合には,発生した電力は \( \fbox{(オ)} \) を介して電力系統へ送電される。
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選択肢:
\[ \begin{array}{cccccc} & (ア) & (イ) & (ウ) & (エ) & (オ)\\ \hline (1) & 水平 & 2 & 2 & 小さい & 増速機\\ \hline (2) & 水平 & 2 & 3 & 大きい & 電力変換装置\\ \hline (3) & 水平 & 3 & 3 & 大きい & 電力変換装置\\ \hline (4) & 垂直 & 3 & 2 & 小さい & 増速機\\ \hline (5) & 垂直 & 2 & 3 & 大きい & 電力変換装置\\ \hline \end{array} \]
合格への方程式
風力発電の基礎
風力発電とは
風力発電は、風のもつ運動エネルギーを風車(風力タービン)で機械的エネルギーに変換し、さらに発電機で電気エネルギーに変換する発電方式です。自然の風を利用するため、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの代表例です。
風力発電の仕組み
- 風が風車のブレード(羽根)に当たる
- ブレードが回転し、回転軸(ロータ)を駆動
- 増速機でロータの回転速度を上げる(必要に応じて)
- 発電機で機械エネルギーを電気エネルギーに変換
- 電力変換装置で系統に適した電力に変換
- 変圧器を通じて電力系統に送電
風力発電の特徴
- 環境面:CO₂排出なし、クリーンエネルギー
- 経済面:燃料費不要、運転コストが安い
- 技術面:出力変動が大きい、風況に依存
- 立地面:風の良い場所が必要
再生可能エネルギーとしての位置づけ
風力発電は太陽光発電と並んで、世界的に急速に普及している再生可能エネルギーです。日本では2050年カーボンニュートラル実現に向けて、洋上風力発電の大規模導入が計画されています。
風車の種類
風車の分類
風車は回転軸の方向によって大きく2つに分類されます。現在、大型の風力発電では圧倒的に水平軸風車が使用されています。
水平軸風車
- 構造:回転軸が地面に対して水平
- 形状:プロペラ型が主流(3枚翼が一般的)
- 特徴:効率が高い、大型化に適している
- 用途:大電力用風力発電(メガワット級)
- 風向対応:ヨー制御で風向きに追従
垂直軸風車
- 構造:回転軸が地面に対して垂直
- 形状:ダリウス型、サボニウス型など
- 特徴:風向きに関係なく動作、効率は水平軸より低い
- 用途:小型風力発電、都市部設置
- 風向対応:風向きを問わない
大電力用風車の選択理由
大電力用(メガワット級)の風力発電では、以下の理由で水平軸風車(プロペラ型)が主流です:
- エネルギー変換効率が高い(理論最大59.3%、実用的には40-50%)
- 大型化に適している(ブレード直径100m以上も可能)
- 技術的に成熟している
- 経済性に優れている
ブレード枚数の考慮
現在の大型風車では3枚翼が標準です。これは効率、振動、騒音、コストのバランスを考慮した最適解とされています。
風のエネルギーと出力
風の運動エネルギー
風がもつ運動エネルギーは、風速の3乗に比例します。これは風力発電の出力特性を理解する上で最も重要な関係式です。
風の運動エネルギーの式
単位時間あたりに風車を通過する空気の運動エネルギー Pwind [W] は:
\[ P_{\mathrm{wind}} = \frac{1}{2} \rho A v^3 \]ここで、
- ρ [kg/m³]:空気密度(標準状態で約1.225 kg/m³)
- A [m²]:風車の受風面積(πr²、rはブレード半径)
- v [m/s]:風速
風速の3乗則
上式から分かるように、風のもつエネルギーは風速の3乗に比例します。これは風速が2倍になると、利用可能なエネルギーが8倍(2³=8)になることを意味します。
風力発電の出力特性
実際の風力発電機の出力は、ベッツの理論により風の運動エネルギーの最大59.3%までしか取り出せません。実用的には:
\[ P_{\mathrm{turbine}} = \frac{1}{2} \rho A v^3 C_p \]ここで、Cp は出力係数(パワー係数)で、通常0.3~0.5程度です。
プロペラ型風車の出力
プロペラ型風車を用いた風力発電で取り出せる電力は、損失を無視すると風速の3乗に比例します。これは風のもつ運動エネルギーが風速の3乗に比例することから導かれます。
出力変動の特徴
風速の3乗に比例するため、風力発電は出力変動が非常に大きい電源です。風速が少し変わるだけで出力が大きく変動するため、電力系統への影響を考慮した制御が必要です。
発電機と電力変換
風力発電に使用される発電機
風力発電では主に以下の2種類の発電機が使用されます:
- 誘導発電機:構造が簡単、保守性良好
- 同期発電機:効率が高い、制御性良好
誘導発電機の特徴
- 構造:かご形誘導電動機と基本的に同じ
- 動作原理:同期速度以上で回転させると発電
- 利点:構造が簡単、堅牢、安価
- 欠点:回転速度の制御範囲が狭い
- 用途:小・中型風力発電、固定速運転
同期発電機の特徴
- 構造:永久磁石式または電磁石式
- 動作原理:回転磁界と同期して発電
- 利点:効率が高い、可変速運転可能
- 欠点:構造が複雑、高価
- 用途:大型風力発電、可変速運転
可変速運転の必要性
風速は常に変化するため、風車の回転速度を風速に応じて最適化することで、最大の電力を取り出すことができます。これを可変速運転と呼びます。
電力変換装置の役割
同期発電機を用いて可変速運転を行う場合、発電機の出力周波数は回転速度に比例して変化します。電力系統は一定周波数(50Hzまたは60Hz)で運用されているため、電力変換装置(パワーコンディショナ)が必要になります。
系統連系システム
系統連系の課題
風力発電を電力系統に接続する際の主な課題は、出力変動が大きいことです。風速の変化により発電出力が大きく変動するため、電力品質に影響を与える可能性があります。
固定速運転システム
- 構成:誘導発電機 + 増速機
- 特徴:構造が簡単、低コスト
- 系統連系:変圧器を介して直接系統に接続
- 制御:ピッチ制御またはストール制御
可変速運転システム
- 構成:同期発電機 + 電力変換装置
- 特徴:高効率、出力変動抑制可能
- 系統連系:電力変換装置を介して系統に接続
- 制御:最大電力点追従制御(MPPT)
電力変換装置の構成
可変速運転では以下の電力変換が行われます:
- AC-DC変換:発電機出力を直流に変換
- DC-AC変換:直流を系統周波数の交流に変換
- 電圧・周波数制御:系統要求に合わせた出力制御
増速機の役割
風車のロータは通常10~50rpm程度の低速で回転しますが、発電機は効率的な発電のため1000~1800rpm程度の高速回転が必要です。そのため、固定速運転では増速機(ギアボックス)が必要になります。
出力変動対策
風力発電の出力変動を抑制するため、以下の対策が取られます:
- ピッチ制御:ブレードの角度調整
- 電力変換装置:電力平滑化機能
- 蓄電池:短期間の出力変動吸収
- 予測制御:気象予測による運転計画
系統安定性への影響
大量の風力発電が系統に接続されると、以下の課題があります:
- 周波数変動の増大
- 電圧変動の増大
- 慣性力の低下
- 短絡容量の変化
これらの対策として、系統側での調整力確保や風力発電の系統協調制御が重要になります。
🔍 ワンポイントアドバイス: 風力発電の問題では、「水平軸(プロペラ型)が大電力用の主流」「風速の3乗に比例する出力特性」「可変速運転には電力変換装置が必要」という3つのポイントが重要です。また、風力発電は「出力変動が大きい電源」であることを理解し、その対策として電力変換装置が果たす役割を覚えておきましょう。問題文の空欄では、技術的な合理性を考えて選択肢を絞り込むことがコツです。
今日は、風力発電の問題やな!
この問題はな、風力発電の仕組みを物理的に理解することがポイントやで。
まずは風車の軸方向から、そして風のエネルギーと発電出力の関係を整理していこか。
これ、意外と引っかかりやすいポイントがあるんやで〜。
1.風力発電の基本原理と構造
①風車の軸方向による分類
- 大電力用風力発電では主に水平軸風車(プロペラ型)が用いられます。これは風を効率よく捉えることができ、風向きに追従するナセル機構を持つためです。
- 垂直軸風車は小規模用途に使用されることが多く、大電力用には効率面で劣ります。
②風速と出力の関係
- 風の運動エネルギーは物理の基本公式 E = (1/2)mv² により風速の2乗に比例します。
- 風力発電の出力は単位時間あたりの風の量(風速の1乗)と運動エネルギー(風速の2乗)の積となり、風速の3乗に比例します。
2.各空欄の解説
(ア) 大電力用には主に水平軸風車が用いられます。プロペラ型風車は効率が良く、風向きに追従する機構を持つため大規模発電に適しています。
(イ) 風がもつ運動エネルギーは風速の2乗に比例します。これは物理の基本公式 \( E = \frac{1}{2}mv^2 \) によるものです。
(ウ) 風力発電で取り出せる電力は風速の3乗に比例します。単位時間の風の量(\( v^1 \))と運動エネルギー(\( v^2 \))を組み合わせた結果、\( P = \frac{1}{2}\rho Av^3 \) となります。
(エ) 出力が風速の3乗に比例するため、風速の変動が出力に大きく影響し、風力発電は出力変動の大きい電源とされます。風速が2倍になると出力は8倍になります。
(オ) 同期発電機で可変速運転を行う場合、発生する電力の周波数が不安定になるため、電力変換装置を介して系統周波数に合わせる必要があります。
3.風力発電の特徴と課題
風力発電は再生可能エネルギーとして環境負荷が小さい一方で、出力変動が大きいという特徴があります。風速の3乗に比例する出力特性により、風況の変化が発電量に大きく影響するため、電力系統の安定化技術や蓄電技術の発展が重要となっています。また、可変速運転による効率向上のため、電力変換装置の技術も重要な要素となっています。