【法規】令和6年(下期) 問10|変流器の取扱いと安全性に関する論説問題
次の文章は,計器用変成器の変流器に関する記述である。その記述内容として誤っているものを,次の (1) ~ (5) のうちから一つ選べ。
(1) 変流器は,一次電流から生じる磁束によって二次電流を発生させる計器用変成器である。
(2) 変流器は,二次側に開閉器やヒューズを設置してはいけない。
(3) 変流器は,通電中に二次側が開放されると変流器に異常電圧が発生し,絶縁が破壊される危険性がある。
(4) 変流器の通電中に,電流計をやむを得ず交換する場合は,二次側端子を短絡して交換し,その後に短絡を外す。
(5) 変流器は,一次電流が一定でも二次側の抵抗値により変流比は変化するので,電流計の選択には注意が必要になる。
合格への方程式
変流器の基礎と原理
変流器(CT)とは
変流器(Current Transformer:CT)とは、一次側の大電流を二次側の測定可能な小電流に変成する計器用変成器です。高電圧・大電流回路の電流を安全に測定するために不可欠な機器です。
変流器の基本機能
- 電流変成: 大電流を測定可能な小電流に変換
- 絶縁分離: 高電圧回路から測定回路を絶縁
- 安全確保: 測定器・作業者の安全を確保
- 標準化: 二次電流を5A or 1Aに標準化
変流器の動作原理
電磁誘導による変流
- 一次電流: 主回路に流れる測定対象電流
- 磁束発生: 一次電流により鉄心に磁束が発生
- 誘導起電力: 二次巻線に起電力が誘導
- 二次電流: 二次回路に電流が流れる
変流器の基本式
巻数比と変流比の関係
\[ \frac{N_1}{N_2} = \frac{I_2}{I_1} \]
記号の意味:
- \( N_1 \):一次巻線の巻数
- \( N_2 \):二次巻線の巻数
- \( I_1 \):一次電流
- \( I_2 \):二次電流
変流器の構造と種類
構造分類 | 特徴 | 用途 | 電圧適用範囲 |
---|---|---|---|
巻線形 | 一次・二次とも巻線 | 一般計測用 | 低圧~高圧 |
貫通形 | 一次は貫通導体 | 大電流測定 | 低圧~特高圧 |
支柱形 | がいし支柱一体型 | 屋外開閉所 | 高圧~特高圧 |
ブッシング形 | 機器ブッシング内蔵 | 変圧器・遮断器 | 高圧~特高圧 |
変流器と計器用変圧器の比較
項目 | 変流器(CT) | 計器用変圧器(VT) |
---|---|---|
変成対象 | 電流 | 電圧 |
接続方法 | 直列接続 | 並列接続 |
巻数比 | N₁/N₂ = I₂/I₁ | N₁/N₂ = V₁/V₂ |
二次側禁止事項 | 開放厳禁 | 短絡厳禁 |
定格二次値 | 5A または 1A | 110V または 100V |
変流器の定格と仕様
変流器の表示例
- 定格: 600/5A、10VA、クラス0.5
- 意味:
- 一次定格電流:600A
- 二次定格電流:5A
- 定格負担:10VA
- 精度クラス:0.5%
変流器の精度クラス
用途別精度要求
- 0.1級: 精密測定用(標準器級)
- 0.2級: 電力量計用(収益測定)
- 0.5級: 一般計測用(監視・制御)
- 1.0級: 指示計器用(概略把握)
- 3.0級: 保護継電器用(事故検出)
変流器の設置場所と役割
電力系統での設置例
- 発電機出口: 発電電力の計測
- 変電所母線: 負荷電流の監視
- 送電線: 潮流・故障電流の検出
- 配電線: 負荷分担の把握
- 需要家受電点: 電力量の計量
変流器の取扱注意事項
二次側開放の絶対禁止
変流器で最も重要な注意事項は、通電中の二次側開放を絶対に行ってはならないことです。これは変流器の構造的特性から生じる根本的な制約です。
二次側開放時に発生する現象
- 励磁電流の急増: 二次電流が零になり、一次電流がすべて励磁電流となる
- 磁束密度の急増: 鉄心が磁気飽和状態になる
- 異常高電圧発生: 二次巻線に数千~数万Vの電圧発生
- 発熱・焼損: 鉄心の異常発熱により変流器が焼損
- 絶縁破壊: 高電圧により絶縁材料が破壊
- 感電危険: 作業者の感電事故
なぜ開放厳禁なのか
変流器の動作特性
- 正常時: 二次電流により一次電流が打ち消される(変圧器と同じ)
- 開放時: 二次電流=0のため、一次電流がそのまま励磁電流となる
- 結果: 鉄心の磁束密度が急激に増大
- 危険: 磁気飽和により制御不能な状態に
二次側に設置してはいけない機器
機器 | 設置可否 | 理由 | 代替方法 |
---|---|---|---|
開閉器 | × 禁止 | 開放時に異常電圧発生 | 一次側での制御 |
ヒューズ | × 禁止 | 溶断時に開放状態 | 過負荷保護は一次側 |
遮断器 | × 禁止 | 遮断時に開放状態 | 一次側遮断器で保護 |
電流計 | ○ 設置可 | 測定が目的 | 短絡器での安全確保 |
継電器 | ○ 設置可 | 保護・制御用 | 適切な接続 |
電流計交換時の安全手順
通電中の電流計交換手順
- 準備: 短絡器(テストスイッチ)を用意
- 短絡: 変流器二次側端子を短絡器で短絡
- 取外し: 電流計を安全に取外し
- 交換: 新しい電流計を取付け
- 確認: 接続の確実性を確認
- 短絡解除: 短絡器を開放
- 動作確認: 電流計の正常動作確認
短絡器(テストスイッチ)の構造
安全な電流計交換のための装置
- 構造: 短絡位置と開放位置を持つスイッチ
- 動作: 短絡→電流計取外し→取付け→開放
- 安全性: 絶対に開放状態にならない設計
- 確実性: 機械的に確実な短絡接続
二次側配線の注意事項
配線時の安全確保
- 太い電線使用: 断線リスクを最小化
- 確実な接続: 接続部の緩み防止
- 機械的保護: 物理的損傷の防止
- 一点接地: 二次回路の一点で接地
- ループ防止: 二次回路のループ形成防止
緊急時の対応
万一、二次側が開放された場合
- immediate action: 直ちに一次電流を遮断
- 接近禁止: 変流器に近づかない
- 電源確認: 完全に無電圧であることを確認
- 点検・修理: 専門技術者による点検
- 絶縁試験: 絶縁性能の確認後に復旧
保守点検時の注意
定期点検での確認項目
- 接続部点検: 端子の緩み、腐食の確認
- 絶縁測定: 一次-二次間、二次-接地間
- 二次開路試験: 無負荷時の開路電圧測定
- 変流比測定: 精度の確認
- 外観点検: 亀裂、変色、異臭の確認
変流比と誤差特性
変流比の定義
変流比とは、一次電流と二次電流の比であり、理論的には巻数比によって決まります。しかし実際の変流器では、励磁電流や鉄心損失により理論値からの誤差が生じます。
理論変流比と実際の変流比
- 理論変流比: \( \frac{N_2}{N_1} \)(巻数比のみ)
- 実際の変流比: \( \frac{I_2}{I_1} \)(励磁電流を考慮)
- 誤差要因: 励磁電流、鉄心損失、負荷インピーダンス
選択肢(5)の誤りについて
なぜ選択肢(5)が間違いなのか
- 誤った記述: 「二次側の抵抗値により変流比は変化する」
- 正しい理解: 変流比は基本的に巻数比で決まる
- 抵抗の影響: 変流比ではなく、誤差特性に影響
- 実際の現象: 負荷抵抗増加→励磁電流増加→誤差増大
変流器の等価回路
誤差発生のメカニズム
- 励磁電流Im: 磁束を作るための電流
- 一次電流I₁: 負荷電流I₁' + 励磁電流Im
- 二次電流I₂: 負荷電流I₁'に対応
- 誤差: 励磁電流Imによる変流比のずれ
負荷による誤差の変化
負荷条件 | 励磁電流 | 比誤差 | 位相差 | 対策 |
---|---|---|---|---|
軽負荷 | 小 | 小 | 小 | 適正使用範囲 |
定格負荷 | 中 | 規定値以内 | 規定値以内 | 設計値での使用 |
過負荷 | 大 | 大 | 大 | 負荷軽減必要 |
開放 | 最大 | ∞(測定不能) | - | 危険状態 |
変流器の誤差要因
誤差に影響する要因
- 励磁特性: 鉄心材料・設計による励磁電流
- 周波数特性: 鉄心損失の周波数依存性
- 温度特性: 巻線抵抗の温度変化
- 負荷特性: 二次回路のインピーダンス
- 製作誤差: 巻数、鉄心ギャップ等のバラツキ
精度向上のための設計
高精度変流器の設計要素
- 大きな鉄心: 磁束密度を下げて励磁電流を減少
- 高透磁率材料: 励磁電流の最小化
- 適切な巻数比: 所要の変流比を正確に実現
- 低抵抗巻線: 巻線損失の最小化
- ギャップレス: 鉄心のギャップを最小化
電流計選択時の考慮事項
正しい電流計選択の観点
- 定格電流: 変流器の二次定格(5Aまたは1A)に適合
- 精度: 要求精度に見合った計器精度
- 負荷: 計器の消費電力が変流器定格負荷以内
- 周波数: 使用周波数での特性確認
- 環境: 設置環境に適した計器選択
変流器の校正と管理
精度管理の実務
- 定期校正: 法定期間での精度確認
- 比較測定: 標準器との比較による精度確認
- 環境管理: 温度・湿度の適切な管理
- 記録保持: 校正結果・使用履歴の記録
- トレーサビリティ: 国家標準への校正系統
🔍 ワンポイントアドバイス: 変流器の最重要ポイントは「二次側開放厳禁」です。開閉器・ヒューズは設置不可、電流計交換時は必ず短絡してから実施。変流比は巻数比で決まるため、選択肢(5)「二次側抵抗で変流比が変化」が誤り。負荷抵抗は変流比ではなく誤差に影響します。VTは「二次短絡厳禁」、CTは「二次開放厳禁」の対比も覚えておきましょう。計器用変成器は電力系統の監視・制御・保護に不可欠な重要機器です!
計器用変成器の変流器に関する記述
変流器は大電流を測定可能な小さな電流に変換する重要な機器や。計器用変圧器(VT)とは正反対の特性を持つから、しっかり区別して覚えなアカンで。
まずは(1)から見ていこか。変流器の基本的な動作原理についてやけど、どう思う?
変流器(CT)は一次電流が流れることで鉄心に磁束が発生し、その磁束によって二次電流を発生させる計器用変成器です。
これは変圧器と同様の電磁誘導の原理を利用しており、一次側の大電流を二次側の測定可能な小電流に変換する役割を持っています。
解説
正解は (5) です。
各選択肢の詳しい解説:
- (1) 正しい - 変流器は一次電流により生じる磁束で二次電流を発生させる計器用変成器
- (2) 正しい - 二次側に開閉器やヒューズを設置すると開放の危険があるため禁止
- (3) 正しい - 二次開放により励磁電流が増加し、異常電圧が発生して絶縁破壊の危険
- (4) 正しい - 電流計交換時は二次側端子を短絡して安全に作業する
- (5) 誤り - 変流比は巻数比\(\frac{N_1}{N_2} = \frac{I_2}{I_1}\)で決まり、二次側抵抗値では変化しない
この問題は変流器の基本特性を問う重要な問題です。特に変流器は計器用変圧器と正反対の特性(二次開放厳禁vs二次短絡厳禁)を持つため、両者を対比して理解することが重要です。変流比が巻数比によって決まる定数であることは、変流器の基本原理として必ず理解しておく必要があります。
この問題のポイント
- 変流器の二次開放厳禁:開放すると異常電圧が発生し危険
- 変流比は巻数比で決まる:\(\frac{N_1}{N_2} = \frac{I_2}{I_1}\)の関係
- 計器用変圧器との対比:CTは二次開放NG、VTは二次短絡NG
- 安全作業手順:電流計交換時は二次端子を短絡してから作業