【理論】平成22年 問9|Y結線の三相交流回路における電圧・電流・電力関係に関する論説問題

\( \mathrm{Y} \)結線の対称三相交流電源に\( \mathrm{Y} \)結線の平衡三相抵抗負荷を接続した場合を考える。

負荷側における線間電圧を\( V_{\mathrm{ℓ}} \) [V],線電流を\( I_{\mathrm{ℓ}} \) [A],相電圧を\( V_{\mathrm{p}} \) [V],相電流を\( I_{\mathrm{p}} \) [A],各相の抵抗を\( R \) [Ω],三相負荷の消費電力を\( P \) [W]とする。

このとき,誤っているのは次のうちどれか。

(1) \( V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3} V_{\mathrm{p}} \) が成り立つ。

(2) \( I_{\mathrm{ℓ}} = I_{\mathrm{p}} \) が成り立つ。

(3) \( I_{\mathrm{ℓ}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R} \) が成り立つ。

(4) \( P = \sqrt{3} V_{\mathrm{p}} I_{\mathrm{p}} \) が成り立つ。

(5) 電源と負荷の中性点を中性線で接続しても,中性線に電流は流れない。

合格への方程式

三相交流の基礎

三相交流とは

三相交流は、位相が120°ずつ異なる3つの正弦波交流で構成される電力システムです。単相交流と比較して、電力の脈動が少なく、効率的な電力伝送が可能になります。工業用電源として世界中で広く使用されています。

三相交流の表現

三相交流の各相は以下のように表現されます:

  • a相:\(e_{\mathrm{a}} = E_{\mathrm{m}} \sin(\omega t)\)
  • b相:\(e_{\mathrm{b}} = E_{\mathrm{m}} \sin(\omega t - \frac{2\pi}{3})\)
  • c相:\(e_{\mathrm{c}} = E_{\mathrm{m}} \sin(\omega t - \frac{4\pi}{3})\)

各相は120°(2π/3 rad)ずつ位相が遅れています。

三相交流の利点

  • 電力脈動の低減:瞬時電力がほぼ一定
  • 伝送効率向上:同じ電力を少ない導体で伝送可能
  • 回転磁界生成:三相電動機の動作原理
  • 平衡時の中性線不要:3線式で電力伝送可能

対称三相と平衡負荷

  • 対称三相電源:各相の振幅が等しく、位相差が正確に120°
  • 平衡三相負荷:各相の負荷インピーダンスが等しい
  • 平衡状態:対称電源に平衡負荷を接続した理想的な状態

結線方式

三相回路の結線方式には主に2種類があります:

  • Y結線(スター結線):各相の一端を共通点(中性点)に接続
  • Δ結線(デルタ結線):各相を三角形状に接続

Y結線の特徴

Y結線の構造

Y結線(スター結線)は、3つの相巻線の一端を共通の中性点に接続し、他端を各線に接続する結線方式です。アルファベットのYの形に似ていることからY結線と呼ばれます。

Y結線の構成要素

  • 相巻線:a相、b相、c相の3つの巻線
  • 中性点(N):3つの相巻線が接続される共通点
  • 線導体:a線、b線、c線の3本(中性線を含めると4本)
  • 中性線:中性点から引き出される導体(必要に応じて設置)

電圧の定義

  • 相電圧(Vp:各相巻線の両端間電圧(線と中性点間の電圧)
  • 線間電圧(V:異なる線導体間の電圧

例:Van、Vbn、Vcnが相電圧、Vab、Vbc、Vcaが線間電圧

電流の定義

  • 相電流(Ip:各相巻線を流れる電流
  • 線電流(I:各線導体を流れる電流

Y結線では、各相巻線と線導体は直列に接続されているため、相電流と線電流は等しくなります。

Y結線の特徴まとめ

  • 電流関係:I = Ip(線電流 = 相電流)
  • 電圧関係:V = √3 Vp(線間電圧 = √3 × 相電圧)
  • 中性点:平衡時は中性点電位が0V
  • 用途:電力系統、大型電動機、変圧器など

電圧・電流関係

Y結線における相電圧と線間電圧の関係

Y結線において、線間電圧は相電圧のベクトル差として求められます。対称三相の場合、線間電圧の大きさは相電圧の√3倍となります。

線間電圧の導出

線間電圧Vabを例に取ると:

\[ \vec{V}_{\mathrm{ab}} = \vec{V}_{\mathrm{an}} - \vec{V}_{\mathrm{bn}} \]

対称三相の場合、VanとVbnの位相差は120°なので:

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$$ |\vec{V}_{\mathrm{ab}}| = \sqrt{V_{\mathrm{an}}^2 + V_{\mathrm{bn}}^2 - 2V_{\mathrm{an}}V_{\mathrm{bn}}\cos(120^\circ)} $$

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Van = Vbn = Vp、cos(120°) = -1/2 を代入すると:

\[ \begin{aligned} |\vec{V}_{\mathrm{ab}}| &= \sqrt{V_{\mathrm{p}}^2 + V_{\mathrm{p}}^2 - 2V_{\mathrm{p}} \cdot V_{\mathrm{p}} \cdot (-\frac{1}{2})} \\[10pt] &= \sqrt{V_{\mathrm{p}}^2 + V_{\mathrm{p}}^2 - 2V_{\mathrm{p}}^2 \cdot (-\frac{1}{2})} \\[10pt] &= \sqrt{V_{\mathrm{p}}^2 + V_{\mathrm{p}}^2 + V_{\mathrm{p}}^2} \\[10pt] &= \sqrt{3V_{\mathrm{p}}^2} \\[10pt] &= \sqrt{3}V_{\mathrm{p}} \end{aligned} \]

Y結線の基本関係式

  • 電圧関係:V = √3 Vp
  • 電流関係:I = Ip
  • 位相関係:線間電圧は相電圧より30°進み

抵抗負荷における電流計算

各相に抵抗Rが接続されている場合:

\[ I_{\mathrm{p}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R} \]

Y結線では I = Ip なので:

\[ I_{\mathrm{ℓ}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R} \]

線間電圧で表現すると:

\[ I_{\mathrm{ℓ}} = \frac{V_{\mathrm{ℓ}}}{\sqrt{3}R} \]

Δ結線との比較

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項目 Y結線 Δ結線
電圧関係 \(V_{\ell} = \sqrt{3} V_{\mathrm{p}}\) \(V_{\ell} = V_{\mathrm{p}}\)
電流関係 \(I_{\ell} = I_{\mathrm{p}}\) \(I_{\ell} = \sqrt{3} I_{\mathrm{p}}\)
中性点 あり なし
線数 3線式または4線式 3線式

三相電力計算

三相電力の基本

三相回路の電力は、各相の電力の和として計算されます。平衡負荷の場合、各相の電力は等しいため、1相分の電力を3倍すれば全体の電力が得られます。

Y結線における電力計算(相値使用)

各相の消費電力:

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\[ P_{\mathrm{phase}} = V_{\mathrm{p}} I_{\mathrm{p}} \cos\phi \]

三相全体の消費電力:

\[ P = 3V_{\mathrm{p}} I_{\mathrm{p}} \cos\phi \]

抵抗負荷の場合(cosφ = 1):

\[ P = 3V_{\mathrm{p}} I_{\mathrm{p}} \]

Y結線における電力計算(線間値使用)

線間電圧と線電流で表現する場合:

V = √3 Vp、I = Ip の関係を使用して:

\[ P = 3 \cdot \frac{V_{\mathrm{ℓ}}}{\sqrt{3}} \cdot I_{\mathrm{ℓ}} \cos\phi = \sqrt{3} V_{\mathrm{ℓ}} I_{\mathrm{ℓ}} \cos\phi \]

抵抗負荷の場合:

\[ P = \sqrt{3} V_{\mathrm{ℓ}} I_{\mathrm{ℓ}} \]

電力公式の使い分け

  • 相値使用:P = 3VpIpcosφ(Y結線、Δ結線共通)
  • 線間値使用:P = √3VIcosφ(Y結線、Δ結線共通)

どちらの公式を使っても同じ結果が得られます。

よくある間違い

問題文で「P = √3VpIp」という式が示された場合、これは誤りです。正しくは:

  • P = 3VpIp(相値使用)
  • P = √3VI(線間値使用)

相値と線間値を混同しないよう注意が必要です。

電力の別表現

抵抗負荷における電力は以下のようにも表現できます:

\[ \begin{aligned} P &= 3I_{\mathrm{p}}^2 R = 3I_{\mathrm{ℓ}}^2 R \\[10pt] P &= 3\frac{V_{\mathrm{p}}^2}{R} = \frac{V_{\mathrm{ℓ}}^2}{R} \end{aligned} \]

中性線と平衡負荷

中性線の役割

中性線は、Y結線において電源側と負荷側の中性点を結ぶ導体です。平衡負荷では中性線に電流は流れませんが、不平衡負荷では中性線が重要な役割を果たします。

平衡負荷における中性線電流

平衡負荷の場合、各相電流の和は零になります:

\[ \vec{I}_{\mathrm{a}} + \vec{I}_{\mathrm{b}} + \vec{I}_{\mathrm{c}} = 0 \]

キルヒホッフの電流則により、中性線電流Inは:

\[ \vec{I}_{\mathrm{n}} = -(\vec{I}_{\mathrm{a}} + \vec{I}_{\mathrm{b}} + \vec{I}_{\mathrm{c}}) = 0 \]

したがって、平衡負荷では中性線に電流は流れません。

中性点電位

対称三相電源に平衡負荷を接続した場合:

  • 電源側中性点:各相電圧の中性点として電位0V
  • 負荷側中性点:同様に電位0V
  • 電位差:電源側と負荷側の中性点間の電位差は0V

中性線の必要性

  • 平衡負荷:理論上は中性線不要(3線式で運用可能)
  • 不平衡負荷:中性線が必要(4線式で運用)
  • 実用面:安全性確保のため通常は中性線を設置

不平衡負荷での中性線効果

不平衡負荷の場合、中性線がないと:

  • 負荷側中性点の電位が変動
  • 各相電圧が不均等になる
  • 負荷の動作に悪影響

中性線があると、負荷側中性点電位が安定し、各相に定格電圧が印加されます。

実際の配電系統

実際の低圧配電系統では:

  • 3相4線式:工業用(三相負荷 + 単相負荷)
  • 単相3線式:家庭用(単相負荷のみ)
  • 中性線の接地:安全確保のため接地

計算例題

例題1: Y結線の電圧・電流関係

Y結線の三相電源において、相電圧が200Vの場合、線間電圧はいくらか。

解答

Y結線における線間電圧と相電圧の関係式:

\[ V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3} V_{\mathrm{p}} \]

値を代入すると:

\[ V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3} \times 200 = 346.4 \mathrm{\ V} \]

よって、線間電圧は約346Vです。

例題2: 三相電力の計算

Y結線の平衡三相抵抗負荷において、各相の抵抗が10Ω、相電圧が100Vの場合、三相消費電力を求めよ。

解答

まず相電流を計算:

\[ I_{\mathrm{p}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R} = \frac{100}{10} = 10 \mathrm{\ A} \]

三相電力を計算:

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\[ P = 3V_{\mathrm{p}}I_{\mathrm{p}} = 3 \times 100 \times 10 = 3000 \mathrm{\ W} = 3 \mathrm{\ kW} \]

よって、三相消費電力は3kWです。

例題3: 線間値による電力計算

線間電圧400V、線電流5Aの平衡三相抵抗負荷の消費電力を求めよ。

解答

線間値を用いた三相電力の公式:

\[ P = \sqrt{3} V_{\mathrm{ℓ}} I_{\mathrm{ℓ}} \]

値を代入すると:

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\[ P = \sqrt{3} \times 400 \times 5 = 1732 \times 5 = 3464 \mathrm{\ W} \approx 3.46 \mathrm{\ kW} \]

よって、消費電力は約3.46kWです。

例題4: 誤りの判定

Y結線平衡負荷について、次のうち誤っているものはどれか。

  1. P = 3VpIp
  2. P = √3VpIp
  3. P = √3VI
  4. I = Ip

解答:(2)

相値を用いる場合の正しい電力式は P = 3VpIp です。√3がつくのは線間値を用いる場合(P = √3VI)なので、(2)は相値と線間値を混同した誤りです。

計算時の注意点

  • 電圧・電流の区別:相値(Vp, Ip)と線間値(V, I)を正確に区別
  • √3の位置:Y結線では電圧に√3、Δ結線では電流に√3
  • 電力公式:相値使用時は係数3、線間値使用時は係数√3
  • 単位変換:V、A、Ω、Wの単位を統一

🔍 ワンポイントアドバイス: Y結線の問題では「電圧に√3、電流は等しい」「電力は相値で3倍、線間値で√3倍」という基本関係を確実に覚えましょう。特に電力計算では、相値(P=3VpIp)と線間値(P=√3VI)を混同しないよう注意が必要です。また、平衡負荷では中性線電流は0になることも重要なポイントです。問題では図を描いてベクトル関係を確認すると理解が深まります。

理論 Y結線三相回路の特性

今日はY結線の対称三相回路について勉強していくで。
三相回路では線間電圧と相電圧、線電流と相電流の関係が重要やねん。
Y結線とΔ結線で関係が違うから、それぞれきちんと理解しておく必要があるで。
まずは(1)のY結線での線間電圧と相電圧の関係について説明してくれるかな?
Y結線では線間電圧は相電圧の何倍になるやろか?
Y結線において、線間電圧と相電圧の関係はベクトル図で考えるとよくわかります。
三相の相電圧は互いに120°位相差を持っており、線間電圧は2つの相電圧のベクトル差となります。
例えば、a相とb相の線間電圧V_abは、V_aからV_bを引いたベクトルになります。
この計算を行うと、線間電圧の大きさは相電圧の√3倍になります。
つまり、\(V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3}V_{\mathrm{p}}\)が成り立ちます。
したがって、(1)の記述は正しいです。

解説

正解は (4) です。

各選択肢の詳しい解説:

  • (1) 正しい:Y結線では、線間電圧は相電圧の√3倍になります。これは3つの相電圧が120°ずつ位相差を持っているため、線間電圧(2つの相電圧のベクトル差)が√3倍になるからです。\(V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3}V_{\mathrm{p}}\)
  • (2) 正しい:Y結線では各相が直列に接続されているため、線電流と相電流は同じ値になります。\(I_{\mathrm{ℓ}} = I_{\mathrm{p}}\)
  • (3) 正しい:各相の抵抗がRの場合、オームの法則により相電流は\(I_{\mathrm{p}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R}\)となり、Y結線では線電流と相電流が等しいため、\(I_{\mathrm{ℓ}} = \frac{V_{\mathrm{p}}}{R}\)が成り立ちます。
  • (4) 誤り:三相負荷の消費電力を相電圧・相電流で表現する場合は、各相の電力\(V_{\mathrm{p}}I_{\mathrm{p}}\)の3倍となるため、\(P = 3V_{\mathrm{p}}I_{\mathrm{p}}\)が正しい式です。選択肢の\(P = \sqrt{3}V_{\mathrm{p}}I_{\mathrm{p}}\)は誤りです。なお、線間電圧・線電流で表現する場合は\(P = \sqrt{3}V_{\mathrm{ℓ}}I_{\mathrm{ℓ}}\)となります。
  • (5) 正しい:三相平衡負荷では、各相の電流のベクトル和が0になるため、中性線には電流が流れません。また、電源側と負荷側の中性点電位も等しくなるため、中性線に電位差も生じません。

Y結線とΔ結線では電圧・電流・電力の関係が異なるため、それぞれの特性を正確に理解しておくことが重要です。特に電力の計算では、相電圧・相電流表示と線間電圧・線電流表示で係数が変わることに注意が必要です。

この問題のポイント

  • Y結線の電圧関係:\(V_{\mathrm{ℓ}} = \sqrt{3}V_{\mathrm{p}}\)
  • Y結線の電流関係:\(I_{\mathrm{ℓ}} = I_{\mathrm{p}}\)
  • 三相電力(相表示):\(P = 3V_{\mathrm{p}}I_{\mathrm{p}}\)
  • 三相電力(線表示):\(P = \sqrt{3}V_{\mathrm{ℓ}}I_{\mathrm{ℓ}}\)
  • 三相平衡時の中性線電流は0