磁気現象は、古代から人類に知られている自然現象の一つです。古代中国では、磁石の持つ方向性を利用した羅針盤が発明され、航海術の発展に大きく貢献しました。現代においても、磁気現象は私たちの生活に欠かせない重要な役割を果たしています。スピーカー、ハードディスク、MRI装置、リニアモーターカーなど、身の回りの多くの機器が磁気の性質を利用して動作しています。
磁石には常に2つの極が存在します。これを「N極(北極)」と「S極(南極)」と呼び、それぞれ異なる性質を持ちます。2つの磁石を近づけると、N極とS極は互いに引き合い(異極相引)、N極同士やS極同士は互いに反発し合います(同極相斥)。この性質は、磁気力の基本法則として知られており、電気の正負の電荷の関係と似ています。しかし、電荷とは異なり、磁石を細かく分割しても、常にN極とS極が対になって現れ、単独の磁極(磁気単極子)は自然界では発見されていません。
磁場(磁界)は、磁石の周りに形成される、他の磁石や磁性体に磁気力を作用させることができる空間領域です。この概念は、19世紀のファラデーによって導入され、現代の電磁気学の基礎となっています。磁場は目に見えませんが、砂鉄を使った実験により、その存在と方向を視覚的に確認することができます。磁力線(磁束線)は、磁場の方向と強さを表現する仮想的な線で、N極から出てS極に入る閉じた曲線として描かれます。
地球そのものが巨大な磁石として働いており、これを「地磁気」と呼びます。地磁気のN極は地理的な南極付近に、S極は地理的な北極付近にあります。これは一見矛盾するように感じられますが、方位磁針のN極が地理的な北を指すのは、地理的な北極付近にある地磁気のS極に引かれるためです。地磁気は、太陽風から地球を保護する重要な役割も果たしており、オーロラの発生原因でもあります。
物質の磁気的性質による分類は、電気工学において極めて重要です。強磁性体(鉄、ニッケル、コバルトなど)は、外部磁場により強く磁化され、磁場を除去した後もある程度の磁化が残る性質(残留磁気)を持ちます。この性質により、永久磁石の製作が可能になります。常磁性体(アルミニウム、酸素など)は、外部磁場により同じ方向に弱く磁化されますが、磁場を除去すると磁化は消失します。反磁性体(銅、金、ダイヤモンドなど)は、外部磁場と逆方向に非常に弱く磁化される性質を持ちます。
磁化のメカニズムを原子レベルで理解することは、磁性材料の特性を把握する上で重要です。原子は、電子の軌道運動と自転(スピン)により、微小な磁気双極子モーメントを持っています。通常の状態では、これらの磁気モーメントはランダムな方向を向いているため、物質全体としては磁化されていません。しかし、外部磁場が印加されると、磁気モーメントが磁場の方向に配向し、物質が磁化されます。強磁性体では、隣接する原子の磁気モーメント同士が強い相互作用により同じ方向を向こうとする性質があり、これがドメイン構造を形成します。
磁気双極子モーメントは、磁石の強さを定量的に表す物理量です。電流ループも磁気双極子モーメントを持ち、これが電流と磁場の関係を理解する基礎となります。磁気双極子モーメントの大きさは、電流と囲む面積の積で表され、その方向は右手の法則により決まります。この概念は、原子レベルの磁気現象から巨視的な磁石の性質まで、一貫した理論で説明できる優れた物理量です。
ここで、\(I\):電流 [A]、\(\vec{S}\):面積ベクトル [m²]
1820年、デンマークの物理学者ハンス・クリスチャン・エルステッドが、電流が流れる導線の近くに置いた方位磁針が振れることを発見しました。この発見は、それまで別々の現象と考えられていた電気と磁気が密接に関連していることを示す歴史的な瞬間でした。エルステッドの発見により、電流が磁場を生成することが明らかになり、その後のアンペール、ビオ・サバールらによる定量的な研究へとつながりました。
直線導体に電流が流れるとき、その周りには同心円状の磁場が形成されます。この磁場の方向は、右手の親指を電流の方向に向けたとき、他の4本の指が描く円の方向となります。これを「右手の法則」と呼び、電流と磁場の関係を判断する基本的な方法です。磁場の強さは、電流からの距離に反比例し、電流の大きさに比例します。この関係は、ビオ・サバールの法則として定式化されています。
ここで、\(I\):電流 [A]、\(r\):導体からの距離 [m]
直線導体が作る磁界の様子
360°で学ぶ!直線導体が作る磁界シミュレーション円形コイルに電流が流れる場合、コイルの中心軸上に磁場が形成されます。この磁場は、コイルの各部分から発生する磁場の重ね合わせとして計算できます。円形コイルの中心での磁場の強さは、コイルの半径に反比例し、電流の大きさに比例します。また、巻数に比例するため、多巻きコイルでは強い磁場を得ることができます。
ここで、\(N\):巻数、\(I\):電流 [A]、\(a\):コイル半径 [m]
ソレノイド(長い円筒形コイル)の内部には、ほぼ均一な磁場が形成されます。この磁場の方向は、コイルの軸方向であり、右手の法則により決まります。ソレノイド内部の磁場の強さは、単位長さあたりの巻数と電流の積に比例します。十分に長いソレノイドでは、端部効果を無視でき、内部の磁場は均一と見なすことができます。
ここで、\(n = N/l\):単位長さあたりの巻数 [1/m]、\(l\):ソレノイドの長さ [m]
解答:
\[ \begin{aligned} H &= \frac{NI}{l} \\[10pt] &= \frac{1000 \times 2.0}{0.2} \\[10pt] &= \frac{2000}{0.2} \\[10pt] &= 10000 \, \mathrm{[A/m]} = 10 \, \mathrm{[kA/m]} \end{aligned} \]ソレノイドコイルが作る磁界の様子
360°で学ぶ!ソレノイドコイルの磁界可視化トロイダルコイル(環状コイル)は、ドーナツ状の鉄心に巻線を施したコイルです。この構造では、磁場がコイル内部に閉じ込められ、外部に漏れる磁場がほとんどありません。この性質により、変圧器のコアや各種フィルタのインダクタとして広く使用されています。トロイダルコイル内部の磁場は、中心からの距離に反比例します。
ここで、\(r\):環の中心からの距離 [m]
アンペールの周回積分の法則(アンペールの法則)は、電流による磁場を計算する強力な手法です。この法則によれば、任意の閉じた経路に沿った磁場の周回積分は、その経路を貫く電流の総和に比例します。この法則は、対称性の高い問題において、磁場の計算を大幅に簡素化できます。
閉じた経路での磁場の周回積分 = 貫く電流の総和
磁場を定量的に表現するために、いくつかの物理量が定義されています。磁場の強さ(磁界の強さ)\(H\) [A/m] は、電流によって作られる磁場の基本的な量で、媒質の性質に依存しません。磁束密度 \(B\) [T] は、実際に物質中に現れる磁場の強さを表し、媒質の透磁率を考慮した量です。磁束 \(\Phi\) [Wb] は、ある面を貫く磁束密度の総量を表します。
磁場の強さ \(H\) と磁束密度 \(B\) の関係は、媒質の透磁率 \(\mu\) によって結ばれます。真空中では \(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\) [H/m] という定数で表され、これを真空の透磁率(磁気定数)と呼びます。実際の物質では、比透磁率 \(\mu_r\) を用いて \(\mu = \mu_0 \mu_r\) と表されます。
ここで、\(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\) [H/m]:真空の透磁率
比透磁率は、物質の磁気的性質を表す重要なパラメータです。真空や空気では \(\mu_r = 1\)、強磁性体では \(\mu_r\) が数百から数万の値を取ります。例えば、純鉄では \(\mu_r \approx 5000\)、珪素鋼では \(\mu_r \approx 3000\) 程度の値を持ちます。この高い透磁率により、強磁性体中では磁束密度が大幅に増強されます。
磁束は、磁束密度がある面を貫く量的な表現です。均一な磁束密度 \(B\) が面積 \(S\) に垂直に貫く場合、磁束 \(\Phi = BS\) となります。磁束密度が面に対して角度 \(\theta\) をなす場合は、\(\Phi = BS\cos\theta\) となります。磁束の概念は、電磁誘導現象を理解する上で基本となる重要な物理量です。
均一磁場では:\(\Phi = BS\cos\theta\)
解答:
まず磁場の強さを求める:
\[H = \frac{NI}{l} = \frac{500 \times 3.0}{0.25} = 6000 \, \mathrm{[A/m]}\]磁束密度を求める:
\[ \begin{aligned} B &= \mu_0 \mu_r H \\[10pt] &= 4\pi \times 10^{-7} \times 2000 \times 6000 \\[10pt] &= 1.51 \, \mathrm{[T]} \end{aligned} \]磁束を求める:
\[ \begin{aligned} \Phi &= BS \\[10pt] &= 1.51 \times 50 \times 10^{-4} \\[10pt] &= 7.55 \times 10^{-3} \, \mathrm{[Wb]} = 7.55 \, \mathrm{[mWb]} \end{aligned} \]磁場の測定には、様々な方法と装置が用いられます。ホール効果を利用したホール素子は、半導体に電流を流し、垂直方向の磁場により発生するホール電圧を測定することで磁束密度を求める方法です。磁気抵抗効果(MR効果)を利用した磁気センサーは、磁場により電気抵抗が変化する現象を利用します。SQUID(超伝導量子干渉計)は、極めて微弱な磁場まで検出できる高感度な測定装置です。
ガウスメーターやテスラメーターは、磁束密度を直読できる測定器です。これらの装置は、プローブ部に組み込まれたホール素子や磁気抵抗素子により磁場を検出し、校正された目盛りで磁束密度を表示します。測定レンジは、mT(ミリテスラ)からT(テスラ)オーダーまで幅広く対応でき、永久磁石や電磁石の特性評価に広く使用されています。
物理量 | 記号 | 単位 | 意味・定義 |
---|---|---|---|
磁場の強さ | \(H\) | [A/m] アンペア毎メートル | 電流による磁場の基本量 |
磁束密度 | \(B\) | [T] テスラ | 実際の磁場の強さ |
磁束 | \(\Phi\) | [Wb] ウェーバー | 面を貫く磁束密度の総量 |
透磁率 | \(\mu\) | [H/m] ヘンリー毎メートル | 磁化のしやすさ |
比透磁率 | \(\mu_r\) | 無次元 | 真空に対する相対的透磁率 |
磁気回路の考え方は、電気回路のオームの法則と類似した概念です。磁気回路では、起磁力(NI)が電圧に、磁束(Φ)が電流に、磁気抵抗(Rm)が電気抵抗に対応します。この類推により、複雑な磁気回路も電気回路と同様の手法で解析することができます。
ここで、\(R_m = \frac{l}{\mu S}\):磁気抵抗 [H⁻¹]
1820年にエルステッドが電流と磁場の関係を発見した直後、フランスの物理学者アンドレ・マリ・アンペールは、磁場中に置かれた電流に力が作用することを発見しました。この力を「電磁力」または「ローレンツ力」と呼び、現代の電気機器の動作原理の根幹となっています。モータが回転する原理、スピーカーから音が出る仕組み、電流計の針が振れる理由など、私たちの身の回りの多くの現象がこの電磁力によって説明されます。
電磁力の大きさは、磁束密度、電流の大きさ、導体の長さに比例します。これは実験的に確かめられた基本法則で、電磁力の定量的な計算の基礎となります。また、電磁力の方向は、電流の方向と磁場の方向の両方に垂直になります。この方向関係を判断するために、「フレミングの左手の法則」が広く用いられています。
フレミングの左手の法則は、電磁力の方向を簡単に判断できる便利な方法です。左手の親指、人差し指、中指を互いに垂直になるように立て、人差し指を磁場(N極からS極)の方向、中指を電流の方向に向けると、親指が電磁力の方向を示します。この法則は、イギリスの物理学者ジョン・アンブローズ・フレミングによって提案され、世界中で電磁気学の学習に用いられています。
※3本の指は互いに垂直に立てる
直線導体に流れる電流が一様な磁場から受ける力の大きさは、次の式で表されます。この式は電磁力の基本公式として、多くの実用計算で用いられます。磁束密度と電流の方向が垂直でない場合は、sinθの項が加わり、平行な場合(θ=0°)には力は作用しません。
ここで、\(B\):磁束密度 [T]、\(I\):電流 [A]、\(l\):導体長 [m]、\(\theta\):磁場と電流のなす角
垂直の場合:\(F = BIl\) [N]
解答:
\[ \begin{aligned} F &= BIl \\[10pt] &= 0.5 \times 3.0 \times 0.2 \\[10pt] &= 0.3 \, \mathrm{[N]} \end{aligned} \]荷電粒子が磁場中を運動する場合にも、電磁力(ローレンツ力)が作用します。電荷量 \(q\) の粒子が速度 \(v\) で磁場中を運動するとき、粒子は \(F = qvB\sin\theta\) の力を受けます。この力は常に速度に垂直であるため、粒子のエネルギーは変わらず、運動の軌道のみが変化します。等速円運動の場合、粒子は半径 \(r = \frac{mv}{qB}\) の円軌道を描きます。
この現象は、ブラウン管テレビ(CRT)の動作原理や、サイクロトロンなどの粒子加速器、質量分析装置などで実用化されています。また、地球の磁場により宇宙からの荷電粒子(太陽風)が偏向され、オーロラが発生する現象も同じ原理によるものです。現代の半導体技術においても、ホール効果素子などで荷電粒子の運動制御が重要な役割を果たしています。
ここで、\(q\):電荷量 [C]、\(v\):速度 [m/s]、\(B\):磁束密度 [T]
電磁力の応用例として、電流計(検流計)の動作原理を理解することは重要です。可動コイル形電流計では、永久磁石の間に置かれたコイルに電流を流すと、コイルが電磁力により回転します。この回転角度は電流の大きさに比例するため、電流の測定が可能になります。復元バネにより、電流に比例した角度で釣り合い、指針がその位置で静止します。
スピーカーも電磁力を利用した代表的な装置です。音声信号により変化する電流がボイスコイルに流れると、永久磁石の磁場により電磁力が発生し、ボイスコイルが振動します。この振動がコーン紙を通じて空気に伝えられ、音として放射されます。現代のスピーカーでは、ネオジム磁石の使用により小型化と高性能化が図られています。
磁場中に置かれた方形コイルに電流を流すと、コイルの各辺に電磁力が作用し、コイル全体に回転力(トルク)が発生します。この現象は、直流モータの動作原理そのものであり、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する重要なメカニズムです。また、逆に機械的にコイルを回転させると電磁誘導により起電力が発生し、発電機として動作します。このように、モータと発電機は基本的に同じ構造を持つ可逆的な装置です。
方形コイルの各辺に作用する電磁力を詳しく分析してみましょう。コイルが一様な磁場中に置かれている場合、磁場に平行な辺には電磁力が作用しませんが、磁場に垂直な2つの辺にはそれぞれ逆方向の電磁力が作用します。これらの力は大きさが等しく、作用線が異なるため、コイルには回転モーメント(トルク)が発生します。このトルクの大きさは、コイルの面積、電流、磁束密度、および磁場とコイル面の法線とのなす角に依存します。
N回巻きの方形コイルが一様な磁場中で受けるトルクは、次の式で表されます。このトルクは、コイル面が磁場に垂直な位置(θ=90°)で最大となり、平行な位置(θ=0°, 180°)で零となります。実際のモータでは、トルクが零になる位置を避けるため、複数のコイルを適切な角度で配置したり、整流子を用いて電流の方向を切り替えたりする工夫がなされています。
ここで、\(N\):巻数、\(B\):磁束密度 [T]、\(I\):電流 [A]、\(S\):コイルの面積 [m²]、\(\theta\):磁場とコイル面法線のなす角
解答:
コイルの面積:\(S = 0.1 \times 0.1 = 0.01 \, \mathrm{[m^2]}\)
磁場とコイル面法線のなす角:\(\theta = 90° - 30° = 60°\)
\[ \begin{aligned} T &= NBIS\sin\theta \\[10pt] &= 100 \times 0.2 \times 2.0 \times 0.01 \times \sin 60° \\[10pt] &= 100 \times 0.2 \times 2.0 \times 0.01 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[10pt] &= 4.0 \times 0.866 \\[10pt] &= 3.46 \times 10^{-2} \, \mathrm{[N \cdot m]} \end{aligned} \]直流モータの動作原理を詳しく理解することは、電気工学において極めて重要です。永久磁石界磁形直流モータでは、ステータ(固定子)に永久磁石を用い、ロータ(回転子)に電機子コイルを配置します。電機子コイルに直流電流を流すと、永久磁石の磁場により電磁力が発生し、ロータが回転します。ロータの回転に伴い、整流子(コンミテータ)とブラシにより電流の方向が適切なタイミングで切り替えられ、連続的な回転が可能になります。
モータのトルク特性は、負荷に応じて変化します。起動時には大きなトルクが必要であり、このときの電流も大きくなります。定常運転時には、負荷トルクとモータトルクが釣り合った状態で一定回転数を維持します。モータの効率は、入力電力に対する出力機械動力の比で表され、損失(銅損、鉄損、機械損)を最小化することが重要です。
ステッピングモータは、デジタル信号により正確な角度制御ができる特殊なモータです。ロータの周囲に複数の電磁石を配置し、これらに順次電流を流すことでロータを段階的に回転させます。1ステップあたりの回転角度は、モータの構造により決まり、通常1.8°(200ステップ/回転)や0.9°(400ステップ/回転)などの値を持ちます。プリンタ、CNC工作機械、ロボットの関節部など、精密な位置決めが必要な用途で広く使用されています。
サーボモータは、フィードバック制御により正確な位置や速度制御ができるモータシステムです。エンコーダやレゾルバなどの位置検出器を内蔵し、指令値と実際の位置や速度を比較して制御を行います。応答性が良く、高精度な制御が可能なため、産業用ロボットや工作機械の送り軸駆動などに使用されています。近年では、永久磁石同期モータをベースとしたACサーボモータが主流となっています。
2本の平行な直線導体にそれぞれ電流が流れるとき、それらの間には相互作用力が働きます。これは、一方の導体が作る磁場が、他方の導体に流れる電流に作用することによって生じる電磁力です。この現象は、1820年にアンペールによって発見され、「アンペールの法則」の基礎となりました。また、この相互作用力は、電流の単位「アンペア」の定義にも用いられている基本的な電磁現象です。
2本の平行導体間に働く力の向きは、電流の方向により決まります。同じ方向に電流が流れる場合(同方向電流)、導体間には引力が作用します。逆方向に電流が流れる場合(逆方向電流)、導体間には斥力が作用します。この力の向きは、各導体が作る磁場の方向と、他方の導体を流れる電流の方向をフレミングの左手の法則で判断することにより求められます。
真空中における2本の平行直線導体間の単位長さあたりの相互作用力は、次の式で表されます。この力は、両方の電流の大きさの積に比例し、導体間の距離に反比例します。また、導体の材質や太さには依存せず、純粋に電流と距離のみで決まることが特徴です。
ここで、\(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\) [H/m]、\(I_1, I_2\):各導体の電流 [A]、\(d\):導体間距離 [m]
解答:
\[ \begin{aligned} f &= \frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi d} \\[10pt] &= \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 10 \times 15}{2\pi \times 0.05} \\[10pt] &= \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 150}{2\pi \times 0.05} \\[10pt] &= \frac{2 \times 10^{-7} \times 150}{0.05} \\[10pt] &= 6.0 \times 10^{-4} \, \mathrm{[N/m]} \end{aligned} \]同方向電流なので、導体間には引力が作用する。
この相互作用力の現象は、電流の単位「アンペア」の定義に用いられています。アンペアは、「真空中において1メートル間隔で平行に配置された無限に長い2本の直線導体に同じ大きさの電流を流したとき、導体間の単位長さあたりに \(2 \times 10^{-7}\) ニュートンの力が作用する電流の大きさ」として定義されています。この定義により、電流の単位が力学的な量(長さ、質量、時間)から導出されることになります。
送電線においても、この相互作用力は重要な考慮事項となります。3相送電線では、各相に位相差120°の交流電流が流れるため、瞬時値により相互作用力が時間的に変化します。短絡事故時には非常に大きな電流が流れるため、導体間の電磁力も急激に増大し、送電線の機械的損傷を引き起こす可能性があります。このため、送電線の支持間隔や機械的強度の設計では、この電磁力を十分に考慮する必要があります。
変圧器や電動機の巻線においても、導体間の相互作用力は重要です。変圧器では、一次巻線と二次巻線の間、および各巻線内の導体間に電磁力が作用します。特に短絡時には大電流により巨大な力が発生し、巻線の変形や絶縁破壊の原因となることがあります。このため、巻線の機械的固定や絶縁設計では、電磁力を考慮した十分な強度確保が必要です。
リニアモータは、この平行導体間の相互作用力を直線運動に応用した装置です。通常の回転モータでは回転運動を得ますが、リニアモータでは直接直線運動を得ることができます。リニアモータカーでは、地上側に設置された長いコイル(ガイドウェイコイル)と車両側のコイルとの間の電磁力により推進力を得ます。摩擦がないため高速運転が可能で、騒音も少ないという利点があります。
電磁レールガンも平行導体間の相互作用力を利用した装置です。2本の平行なレール間に導電性の弾体を置き、大電流を流すことで弾体を高速で射出します。従来の火薬を用いる方法と比べて、初速度の制御が容易で、連射性能も高いという特徴があります。現在は主に研究段階ですが、将来的には宇宙開発や防衛分野での応用が期待されています。
応用例 | 動作原理 | 特徴 | 用途 |
---|---|---|---|
直流モータ | コイルの回転トルク | 制御しやすい | 電気自動車、工作機械 |
スピーカー | ボイスコイルの振動 | 音声信号に忠実 | 音響機器 |
電流計 | 可動コイルの回転 | 高精度測定可能 | 測定機器 |
リニアモータ | 直線状の電磁力 | 直線運動直接獲得 | リニアモータカー |
電磁ブレーキ | 渦電流による制動 | 摩耗なし | 鉄道車両 |
電磁誘導ブレーキ(渦電流ブレーキ)は、導体が磁場中を運動するときに発生する渦電流と磁場の相互作用により制動力を得る装置です。新幹線や在来線の電車では、主電動機を回生ブレーキとして使用するほか、補助的に渦電流ブレーキを併用しています。摩擦がないため保守性に優れ、速度に比例した制動力が得られるという特徴があります。
電磁クラッチや電磁クレーンも電磁力の応用例です。電磁クラッチでは、電磁石により金属板を吸引して動力を伝達し、励磁を切ることで瞬時にクラッチを切ることができます。電磁クレーンでは、強力な電磁石により鉄材を持ち上げ、励磁を切ることで荷物を離すことができます。これらの装置では、電気的な制御により機械的な動作を正確に制御できる利点があります。
磁気回路は、磁束の通り道となる回路のことで、電気回路と類似した概念で解析することができます。実際の電力機器では、効率的に磁束を制御するために強磁性体(主に鉄やその合金)で作られた鉄心が使用されます。環状鉄心は、磁束漏れが少なく、理論的な解析が比較的容易であるため、磁気回路の基本的な理解に適した構造です。変圧器、チョークコイル、CT(変流器)、PT(変圧器)などの重要な電力機器でこの構造が採用されています。
磁気回路の解析において、電気回路との類推は非常に有用です。電気回路では、起電力により電流が流れ、抵抗によりエネルギーが消費されます。同様に磁気回路では、起磁力(magnetomotive force: MMF)により磁束が流れ、磁気抵抗(reluctance)により「磁気的なエネルギー」が消費されます。この類推により、複雑な磁気回路も電気回路解析の手法を応用して解くことができます。
環状鉄心に巻かれたN回のコイルに電流Iが流れるとき、鉄心内部に発生する起磁力は NI [A] となります。この起磁力により、鉄心内に磁束が発生します。鉄心が均質で断面積が一定であれば、アンペールの法則により鉄心内の磁場の強さは一定となり、\(H = \frac{NI}{l}\) で表されます。ここで、lは磁束の平均経路長です。
ここで、\(N\):巻数、\(I\):電流 [A]、\(l\):磁路の平均長 [m]
磁気抵抗(リラクタンス)は、磁束の流れにくさを表す量で、電気抵抗に対応します。磁気抵抗は磁路の長さに比例し、断面積と透磁率に反比例します。この関係は、電気抵抗が導体の長さに比例し、断面積と導電率に反比例することと全く同じ形式です。磁気抵抗の概念により、磁気回路をあたかも電気回路のように扱うことができます。
ここで、\(l\):磁路長 [m]、\(\mu\):透磁率 [H/m]、\(S\):断面積 [m²]
磁気回路のオームの法則は、起磁力、磁束、磁気抵抗の関係を表す基本法則です。この法則により、複雑な磁気回路も電気回路と同様の手法で解析できます。磁気回路の直列接続では磁束が共通で磁気抵抗が加算され、並列接続では起磁力が共通で磁気コンダクタンス(磁気抵抗の逆数)が加算されます。
磁束 = 起磁力 ÷ 磁気抵抗
解答:
磁路の平均長:\(l = 2\pi r = 2\pi \times 0.1 = 0.628 \, \mathrm{[m]}\)
起磁力:\(NI = 500 \times 2.0 = 1000 \, \mathrm{[A]}\)
透磁率:\(\mu = \mu_0 \mu_r = 4\pi \times 10^{-7} \times 2000 = 2.51 \times 10^{-3} \, \mathrm{[H/m]}\)
\[ \begin{aligned} R_m &= \frac{l}{\mu S} = \frac{0.628}{2.51 \times 10^{-3} \times 5 \times 10^{-4}} \\[10pt] &= \frac{0.628}{1.26 \times 10^{-6}} = 4.98 \times 10^5 \, \mathrm{[H^{-1}]} \\[10pt] \Phi &= \frac{NI}{R_m} = \frac{1000}{4.98 \times 10^5} \\[10pt] &= 2.01 \times 10^{-3} \, \mathrm{[Wb]} = 2.01 \, \mathrm{[mWb]} \end{aligned} \]ギャップを持つ磁気回路は、実際の電力機器でよく見られる構造です。モータや発電機では、回転子と固定子の間に必要な空隙があり、継電器やソレノイドでは動作のために可動部分との間にギャップが設けられています。空気ギャップの透磁率は鉄心と比べて極めて小さいため(μ₀ ≈ 4π×10⁻⁷ [H/m])、小さなギャップでも磁気回路全体の磁気抵抗に大きな影響を与えます。
ギャップを含む磁気回路では、鉄心部分とギャップ部分の磁気抵抗を個別に計算し、それらを直列に加算します。通常、ギャップの磁気抵抗が全体の大部分を占めるため、ギャップの長さが磁気回路の特性を大きく左右します。このため、実際の機器設計では、必要最小限のギャップ長を保ちつつ、所望の特性を得るような工夫が重要となります。
通常、\(R_{m,gap} \gg R_{m,iron}\) となる
解答:
鉄心部の磁路長:\(l_{iron} = 0.628 - 0.002 = 0.626 \, \mathrm{[m]}\)
ギャップ部の磁路長:\(l_{gap} = 0.002 \, \mathrm{[m]}\)
鉄心部の磁気抵抗:
\[R_{m,iron} = \frac{0.626}{2.51 \times 10^{-3} \times 5 \times 10^{-4}} = 4.97 \times 10^5 \, \mathrm{[H^{-1}]}\]ギャップ部の磁気抵抗:
\[R_{m,gap} = \frac{0.002}{4\pi \times 10^{-7} \times 5 \times 10^{-4}} = 3.18 \times 10^6 \, \mathrm{[H^{-1}]}\]全磁気抵抗:
\[R_{m,total} = 4.97 \times 10^5 + 3.18 \times 10^6 = 3.68 \times 10^6 \, \mathrm{[H^{-1}]}\]磁束:
\[\Phi = \frac{1000}{3.68 \times 10^6} = 2.72 \times 10^{-4} \, \mathrm{[Wb]} = 0.272 \, \mathrm{[mWb]}\]2mm のギャップにより磁束が約1/7に減少した。
磁束漏れは、実際の磁気回路で避けられない現象です。理想的な磁気回路では、すべての磁束が設計された経路を通りますが、実際には一部の磁束が意図しない経路(主に空中)を通って漏れます。変圧器では、一次巻線で発生した磁束のうち、二次巻線と鎖交しない漏れ磁束が存在し、これが漏れリアクタンスの原因となります。
磁束の重ね合わせ原理も重要な概念です。複数の起磁力が同一磁気回路に作用する場合、各起磁力による磁束の代数和が全体の磁束となります。変圧器の二次巻線に負荷電流が流れると、一次電流による起磁力に対して二次電流による起磁力が作用し、両者の合成により実際の磁束が決まります。
磁性体の最も重要な特性は、外部磁場に対する磁化の応答です。強磁性体では、磁場の強さH [A/m] と磁束密度B [T] の関係は単純な比例関係ではなく、複雑な非線形特性を示します。この関係を表すグラフを「磁化曲線」または「B-H曲線」と呼び、磁性材料の特性を評価する最も基本的な指標となります。電力機器の設計では、この磁化曲線の理解が不可欠です。
初磁化曲線は、磁化されていない状態(H=0, B=0)から磁場を徐々に増加させたときのB-H関係を表します。最初は磁束密度が緩やかに増加しますが、ある点から急激に増加し、やがて飽和に近づいて増加率が鈍化します。この曲線の形状は、強磁性体内部の磁区(ドメイン)の配向メカニズムによって説明されます。
磁化曲線は、一般的に以下の3つの領域に分けて考えることができます。第1領域(線形領域)では、Bがほぼ比例的に増加し、比透磁率μᵣは低い値を示します。第2領域(急変領域)では、磁区の配向により透磁率が急激に増加し、磁束密度も急激に上昇します。第3領域(飽和領域)では、磁区の配向がほぼ完了し、透磁率は低下して最終的に真空の透磁率μ₀に近づきます。
ヒステリシス現象は、強磁性体の重要な特性の一つで、磁化の履歴効果を表します。磁場を増加させて磁性体を磁化した後、磁場を減少させても、磁束密度は元の経路を逆戻りしません。磁場をゼロにしても残留磁束密度Bᵣ(残留磁気)が残り、逆方向の磁場Hc(保磁力)を加えることでようやく磁束密度がゼロになります。このヒステリシス現象により、ヒステリシス損失が発生します。
ここで、\(k_h\):ヒステリシス損失係数、\(f\):周波数 [Hz]、\(B_{max}\):最大磁束密度 [T]、\(n\):指数(通常1.6~2.0)、\(V\):体積 [m³]
渦電流損失は、交流磁場により磁性体内部に発生する渦状の電流による損失です。ファラデーの電磁誘導法則により、時間変化する磁束により導体内部に起電力が発生し、この起電力により渦電流が流れます。渦電流は磁性体の抵抗により熱として消費され、これが渦電流損失となります。この損失は周波数の2乗と磁束密度の2乗に比例します。
ここで、\(k_e\):渦電流損失係数、その他の記号は上記と同じ
実用的な磁性材料では、用途に応じて様々な特性が要求されます。変圧器用の珪素鋼板では、低損失と高透磁率が重要で、結晶方向性を制御した方向性珪素鋼板が使用されます。永久磁石材料では、高い残留磁束密度と保磁力が要求され、ネオジム磁石やフェライト磁石などが用途に応じて選択されます。
材料 | 比透磁率μᵣ | 飽和磁束密度[T] | 特徴・用途 |
---|---|---|---|
純鉄 | 5000 | 2.1 | 高透磁率、電磁石用 |
珪素鋼板 | 3000 | 2.0 | 低損失、変圧器用 |
パーマロイ | 80000 | 0.8 | 極高透磁率、精密機器用 |
フェライト | 1000 | 0.4 | 高周波特性、コア用 |
ネオジム磁石 | - | - | 強力永久磁石、モータ用 |
解答:
ヒステリシス損失(n = 1.6として):
\[ \begin{aligned} P_h &= k_h f B_{max}^{1.6} V \\[10pt] &= 200 \times 50 \times 1.5^{1.6} \times 0.0025 \\[10pt] &= 200 \times 50 \times 1.93 \times 0.0025 \\[10pt] &= 48.3 \, \mathrm{[W]} \end{aligned} \]渦電流損失:
\[ \begin{aligned} P_e &= k_e f^2 B_{max}^2 V \\[10pt] &= 0.05 \times 50^2 \times 1.5^2 \times 0.0025 \\[10pt] &= 0.05 \times 2500 \times 2.25 \times 0.0025 \\[10pt] &= 0.70 \, \mathrm{[W]} \end{aligned} \]全鉄心損失:\(P_{iron} = P_h + P_e = 48.3 + 0.70 = 49.0 \, \mathrm{[W]}\)
積層構造は、渦電流損失を減少させる重要な技術です。変圧器や電動機の鉄心では、厚さ0.35mmや0.5mmの薄い珪素鋼板を絶縁処理して積層します。この構造により、渦電流の経路が分断され、渦電流損失を大幅に減少させることができます。積層数が多いほど(薄いほど)渦電流損失は減少しますが、製造コストや積み重ね係数(実効断面積の減少)を考慮して最適な厚さが選択されます。
アモルファス材料は、結晶構造を持たない磁性材料で、極めて低い鉄損を実現できます。従来の珪素鋼板と比べて1/3~1/5程度の鉄損を実現でき、特に変圧器の効率向上に大きく貢献します。ただし、機械的強度が低く、加工が困難であるため、特殊な製造技術が必要です。近年、省エネルギーへの要求の高まりにより、アモルファス変圧器の需要が増加しています。
磁気シールドは、磁場の影響から機器を保護する技術です。高透磁率材料で覆うことにより、磁束線を意図した経路に誘導し、保護したい空間への磁場の侵入を防ぎます。CRTディスプレイの地磁気対策、精密測定器の外部磁場遮蔽、MRI装置の磁場封じ込めなど、様々な用途で使用されています。シールド効果は、材料の透磁率、厚さ、形状により決まります。
温度特性も磁性材料の重要な特性です。キュリー温度では、強磁性体が常磁性体に変わり、透磁率が急激に低下します。このため、高温で使用される機器では、キュリー温度を考慮した材料選択が必要です。また、温度上昇により透磁率や飽和磁束密度が変化するため、温度補償や冷却システムの設計も重要となります。
1831年、イギリスの科学者マイケル・ファラデーは、磁場の変化により電流が誘導される現象を発見しました。この発見は「電磁誘導」と呼ばれ、現代の電力技術の基礎となる最も重要な物理現象の一つです。発電機、変圧器、誘導電動機など、私たちの生活に欠かせない電力機器の動作原理はすべて電磁誘導に基づいています。この発見により、機械エネルギーから電気エネルギーへの変換が可能となり、電力の大量生産と供給システムが実現されました。
電磁誘導現象は、「磁束の変化により起電力が発生する」現象として理解されます。これをより具体的に表現すると、コイルを貫く磁束が時間的に変化するとき、その変化を妨げる方向に起電力が誘導されます。この起電力の大きさは、磁束の時間変化率に比例し、コイルの巻数にも比例します。これが「ファラデーの電磁誘導法則」として知られている基本法則です。
ファラデーの法則は、数式で次のように表されます。この式の負号は、レンツの法則を表しており、誘導起電力の方向が磁束変化を妨げる方向であることを示しています。実際の計算では、この負号の意味を理解して起電力の方向を正しく判断することが重要です。
ここで、\(e\):誘導起電力 [V]、\(N\):コイルの巻数、\(\Phi\):磁束 [Wb]、\(t\):時間 [s]
レンツの法則は、誘導電流の方向を決定する重要な法則です。この法則によれば、「誘導電流は、それを生じさせる磁束の変化を妨げる方向に流れる」とされています。これは自然界のエネルギー保存則の表れであり、もしこの法則が成り立たなければ、エネルギーが無限に増大してしまうことになります。実際の問題では、フレミングの右手の法則と組み合わせて誘導電流の方向を判断します。
電磁誘導が起こる具体的な状況は、大きく3つに分類できます。第1に、磁場が一定でコイルが動く場合(運動起電力)、第2に、コイルが静止していて磁場が変化する場合(変圧器起電力)、第3に、コイルと磁場の両方が変化する場合です。実際の電力機器では、これらの組み合わせによって起電力が発生します。
解答:
磁束の変化量:\(\Delta\Phi = 2.0 - 5.0 = -3.0 \, \mathrm{[mWb]} = -3.0 \times 10^{-3} \, \mathrm{[Wb]}\)
時間:\(\Delta t = 0.1 \, \mathrm{[s]}\)
\[ \begin{aligned} e &= -N\frac{\Delta\Phi}{\Delta t} \\[10pt] &= -100 \times \frac{-3.0 \times 10^{-3}}{0.1} \\[10pt] &= -100 \times (-0.03) \\[10pt] &= 3.0 \, \mathrm{[V]} \end{aligned} \]磁束が減少しているため、その変化を妨げる方向に 3.0 [V] の起電力が誘導される。
運動起電力は、導体が磁場中を運動することにより発生する起電力です。長さ \(l\) の導体が磁束密度 \(B\) の均一磁場中を速度 \(v\) で垂直に運動するとき、導体の両端に起電力 \(e = Blv\) が発生します。この現象は、フレミングの右手の法則により起電力の方向を判断できます。発電機の基本原理は、この運動起電力の応用です。
ここで、\(B\):磁束密度 [T]、\(l\):導体長 [m]、\(v\):速度 [m/s]、\(\theta\):磁場と速度のなす角
フレミングの右手の法則は、運動起電力の方向を判断する基本的な方法です。右手の親指を導体の運動方向、人差し指を磁場の方向(N極からS極)に向けると、中指が起電力(電流)の方向を示します。この法則は、発電機の動作解析において必須の知識です。
※左手の法則(モータ)と右手の法則(発電機)を混同しないよう注意
解答:
\[ \begin{aligned} e &= Blv \\[10pt] &= 0.8 \times 0.5 \times 10 \\[10pt] &= 4.0 \, \mathrm{[V]} \end{aligned} \]渦電流は、変化する磁場により導体内部に発生する環状の電流です。変圧器の鉄心や誘導加熱装置では、この渦電流が重要な役割を果たします。しかし、多くの場合、渦電流は損失の原因となるため、鉄心の積層構造により渦電流の経路を分断して損失を低減する工夫がなされています。
誘導加熱は、渦電流を積極的に利用した技術です。高周波の交流磁場により金属内部に渦電流を発生させ、その抵抗損失により金属を加熱します。IH調理器、金属の焼入れ、溶解炉などで実用化されており、効率的で制御性の良い加熱方法として広く使用されています。
インダクタンス(誘導係数)は、電流の変化に対する磁束の応答を表す重要な回路定数です。コイルに電流が流れると磁束が発生し、この電流が変化すると磁束も変化して自分自身に起電力を誘導します。これを「自己誘導」と呼び、その比例定数を「自己インダクタンス」といいます。インダクタンスは、電気回路における「慣性」のような役割を果たし、電流の急激な変化を妨げる性質があります。
自己インダクタンス L は、コイルに流れる電流 I とそれによって生じる磁束鎖交数 Ψ の比として定義されます。磁束鎖交数は、磁束とコイルの巻数の積(Ψ = NΦ)で表されます。インダクタンスの単位はヘンリー [H] で、「1アンペアの電流変化により1ボルトの起電力が誘導されるインダクタンス」として定義されます。
ここで、\(\Psi\):磁束鎖交数 [Wb]、\(N\):巻数、\(\Phi\):磁束 [Wb]、\(I\):電流 [A]
自己誘導による起電力は、電流の時間変化率に比例します。この起電力は、電流の変化を妨げる方向に作用するため、コイルは電流の急激な変化に対して「抵抗」します。これがインダクタの基本的な動作原理で、フィルタ回路、チョークコイル、共振回路などで重要な役割を果たします。
負号はレンツの法則を表す(電流変化を妨げる方向)
ソレノイドの自己インダクタンスは、その構造パラメータから計算できます。空心ソレノイドの場合、インダクタンスは巻数の2乗に比例し、断面積に比例し、長さに反比例します。鉄心を挿入すると、透磁率の増加によりインダクタンスは大幅に増加します。ただし、鉄心の非線形性により、電流値によってインダクタンスが変化することに注意が必要です。
ここで、\(N\):巻数、\(S\):断面積 [m²]、\(l\):長さ [m]、\(\mu_r\):比透磁率
解答:
\[ \begin{aligned} L &= \mu_0\frac{N^2S}{l} \\[10pt] &= 4\pi \times 10^{-7} \times \frac{1000^2 \times 10 \times 10^{-4}}{0.2} \\[10pt] &= 4\pi \times 10^{-7} \times \frac{10^6 \times 10^{-3}}{0.2} \\[10pt] &= 4\pi \times 10^{-7} \times 5 \times 10^3 \\[10pt] &= 6.28 \times 10^{-3} \, \mathrm{[H]} = 6.28 \, \mathrm{[mH]} \end{aligned} \]相互インダクタンスは、2つのコイル間の電磁結合の強さを表す量です。一方のコイルに流れる電流が変化すると、そのコイルが作る磁束の変化により他方のコイルに起電力が誘導されます。この現象を「相互誘導」と呼び、変圧器の動作原理の基礎となります。相互インダクタンスの大きさは、両コイルの構造、位置関係、および結合の度合いにより決まります。
ここで、\(\Psi_{21}\):コイル2の磁束鎖交数、\(I_1\):コイル1の電流
相互誘導による起電力は、相手コイルの電流変化率に比例します。変圧器では、一次巻線の電流変化により二次巻線に起電力が誘導され、電圧の変換が行われます。結合係数 k は、相互インダクタンスと両コイルの自己インダクタンスの関係を表し、0≤k≤1 の値を取ります。k=1 の場合を「完全結合」、k<1 の場合を「不完全結合」と呼びます。
\(k\):結合係数、\(L_1, L_2\):各コイルの自己インダクタンス
インダクタンスの接続では、抵抗やコンデンサと同様に直列・並列の合成が可能です。ただし、相互インダクタンスがある場合は、その影響を考慮する必要があります。相互インダクタンスの極性(加勢接続か減勢接続か)により、合成インダクタンスが増加したり減少したりします。
変圧器の等価回路では、漏れインダクタンスが重要な要素となります。理想変圧器では一次巻線のすべての磁束が二次巻線と鎖交しますが、実際には一部の磁束が一次巻線のみと鎖交し、これが漏れインダクタンスとなります。漏れインダクタンスは、変圧器の電圧変動率や短絡電流の制限に影響を与える重要なパラメータです。
磁場には、電場と同様にエネルギーが蓄えられています。コイルに電流を流して磁場を形成する過程では、外部から電気エネルギーが供給され、その一部が磁場エネルギーとして蓄積されます。この磁場エネルギーは、電流を遮断する際に放出され、しばしばアークや高電圧サージの原因となります。磁場エネルギーの理解は、電力機器の設計や保護システムの構築において極めて重要です。
インダクタに蓄えられる磁場エネルギーは、自己インダクタンスと電流の関係で表されます。この式は、コンデンサの静電エネルギー(W = ½CV²)と形式的に類似していますが、物理的な意味は大きく異なります。磁場エネルギーは、電流の2乗に比例するため、大電流機器では非常に大きなエネルギーが蓄積されることになります。
ここで、\(L\):インダクタンス [H]、\(I\):電流 [A]
解答:
\[ \begin{aligned} W &= \frac{1}{2}LI^2 \\[10pt] &= \frac{1}{2} \times 50 \times 10^{-3} \times 10^2 \\[10pt] &= \frac{1}{2} \times 0.05 \times 100 \\[10pt] &= 2.5 \, \mathrm{[J]} \end{aligned} \]磁場エネルギー密度は、単位体積あたりの磁場エネルギーを表します。この密度は磁束密度の2乗に比例し、透磁率に反比例します。強磁性体中では透磁率が大きいため、同じ磁束密度でもエネルギー密度は小さくなります。逆に、空気ギャップでは透磁率が小さいため、エネルギー密度が大きくなります。
ここで、\(\mu\):透磁率 [H/m]、\(B\):磁束密度 [T]、\(H\):磁場の強さ [A/m]
実際の磁気回路では、エネルギーの大部分が空気ギャップに蓄えられることが多くあります。これは、ギャップ部分の透磁率が鉄心部分と比べて極めて小さいためです。このため、ギャップを持つ磁気回路のエネルギー計算では、ギャップ部分のエネルギーが支配的となります。
解答:
ギャップの体積:\(V = S \times l = 10 \times 10^{-4} \times 2.0 \times 10^{-3} = 2.0 \times 10^{-6} \, \mathrm{[m^3]}\)
エネルギー密度:
\[w = \frac{B^2}{2\mu_0} = \frac{1.0^2}{2 \times 4\pi \times 10^{-7}} = 3.98 \times 10^5 \, \mathrm{[J/m^3]}\]全エネルギー:
\[W = w \times V = 3.98 \times 10^5 \times 2.0 \times 10^{-6} = 0.796 \, \mathrm{[J]}\]相互インダクタンスがある場合の磁場エネルギーは、各コイルの自己エネルギーに加えて、相互エネルギーの項が加わります。この相互エネルギーは、2つのコイルの電流の積に比例し、相互インダクタンスの符号(結合の向き)により正または負の値を取ります。変圧器の設計では、この相互エネルギーの考慮が重要です。
複号は相互インダクタンスの極性による
磁場エネルギーの変化は、電磁力や機械的仕事と密接に関係しています。可動部分を持つ電磁デバイス(リレー、ソレノイド、スピーカーなど)では、磁場エネルギーの変化により機械的力が発生します。エネルギー法は、複雑な形状の電磁デバイスにおける力の計算に有効な手法です。
超伝導コイルは、磁場エネルギーの貯蔵装置として注目されています。超伝導状態では電気抵抗が零になるため、一度電流を流すと理論的には永続的に電流が流れ続け、磁場エネルギーを長期間保持できます。SMES(超伝導磁気エネルギー貯蔵)システムは、この原理を利用した大容量エネルギー貯蔵システムとして研究開発が進められています。
応用例 | 誘導の種類 | 原理 | 特徴・用途 |
---|---|---|---|
発電機 | 運動起電力 | コイルの回転 | 機械→電気エネルギー変換 |
変圧器 | 相互誘導 | 磁束の変化 | 電圧の昇降 |
誘導電動機 | 電磁誘導 | 回転磁場 | 電気→機械エネルギー変換 |
IH調理器 | 渦電流 | 高周波磁場 | 効率的加熱 |
無線充電 | 相互誘導 | 交流磁場 | 非接触電力伝送 |
渦電流ブレーキ | 渦電流 | 導体の運動 | 摩擦なし制動 |
電磁誘導による高電圧サージは、電力系統や電子機器にとって重要な問題です。遮断器の開放時やスイッチング時に発生する過電圧は、インダクタンスに蓄えられたエネルギーが急激に放出されることにより生じます。この対策として、サージ吸収器、アークホーン、避雷器などの保護機器が使用されます。
LC共振回路では、インダクタとコンデンサの間でエネルギーが振動的に交換されます。磁場エネルギーと電場エネルギーが周期的に相互変換され、特定の周波数で共振現象が起こります。この原理は、無線通信の同調回路、フィルタ回路、発振回路などで広く応用されています。