原子力発電は、ウランやプルトニウムなどの重い原子核が中性子を吸収して分裂する「核分裂反応」によって生じる膨大なエネルギーを利用する発電方式です。原子核は陽子と中性子から構成されており、これらを核子と呼びます。ウラン235(235U)の原子核に熱中性子(低速の中性子)が衝突すると、原子核が2つ以上の核分裂片に分裂し、同時に2〜3個の中性子とガンマ線、そして大量のエネルギーが放出されます。
核分裂の代表的な反応式は以下のとおりです。ウラン235が中性子を吸収してウラン236となり、これが不安定な状態から瞬時に分裂します。分裂の仕方は多数ありますが、代表的なものとして、バリウム144とクリプトン89に分裂する場合があります。この反応で放出される中性子が次のウラン235に吸収されることで、連鎖的に核分裂が継続します。これが「核分裂連鎖反応」の基本原理です。
図1-1 ウラン235の核分裂反応の模式図
核分裂で放出されるエネルギーの源は「質量欠損」にあります。アインシュタインの質量エネルギー等価式 E = mc² により、質量とエネルギーは等価であることが示されています。核分裂反応において、反応前の原子核の質量の合計と反応後の核分裂片・中性子等の質量の合計を比較すると、反応後の方がわずかに軽くなります。この質量の差が「質量欠損」であり、この失われた質量に相当するエネルギーが核分裂エネルギーとして放出されるのです。
ここで、E:エネルギー[J]、m:質量[kg]、Δm:質量欠損[kg]、c:光速(2.998×10⁸ m/s)
ウラン235の核分裂1回あたり約200MeV(メガ電子ボルト)のエネルギーが放出されます。この値は化学反応(例えば石炭の燃焼では1原子あたり約4eV)と比較すると、約5,000万倍という桁違いの大きさです。これが「少量の燃料で膨大なエネルギーを取り出せる」原子力発電の最大の利点の根拠です。ウラン1gの核分裂で得られるエネルギーは、石炭約3トンの燃焼エネルギーに相当します。
200MeVのエネルギーの内訳は、核分裂片の運動エネルギーが約168MeV(約84%)と大部分を占め、これが炉心内で熱に変換されます。その他、中性子の運動エネルギー約5MeV、ガンマ線約7MeV、ベータ崩壊エネルギー約8MeV、ニュートリノ約12MeV(回収不能)などです。実質的に利用可能なエネルギーは約190MeV程度となります。
ウラン235 1gに含まれる原子数:N = N_A / M = 6.022×10²³ / 235 ≒ 2.56×10²¹ 個
\begin{align} E_{1g} &= 2.56 \times 10^{21} \times 3.204 \times 10^{-11} \\[5pt] &= 8.20 \times 10^{10} \text{ J} \approx 82 \text{ GJ} \approx 22{,}800 \text{ kWh} \end{align}解答:
\begin{align} \Delta m &= \frac{E}{c^2} = \frac{200 \times 1.602 \times 10^{-13}}{(2.998 \times 10^8)^2} \\[5pt] &= \frac{3.204 \times 10^{-11}}{8.988 \times 10^{16}} \\[5pt] &= 3.564 \times 10^{-28} \text{ kg} \approx \textbf{0.215 u} \end{align}(u:原子質量単位、1u = 1.661×10⁻²⁷ kg)
ウラン235の質量の約0.09%が質量欠損としてエネルギーに変換される。
原子力発電の基本的な仕組みは、核分裂反応で発生する熱エネルギーで蒸気を発生させ、蒸気タービンを回転させて発電機で電気エネルギーに変換するものです。エネルギー変換の流れは、核エネルギー→熱エネルギー→運動エネルギー(蒸気)→回転エネルギー(タービン)→電気エネルギー(発電機)となります。蒸気タービン以降の発電過程は、火力発電と同様の原理です。
図1-2 原子力発電のエネルギー変換過程
原子力発電の熱効率は軽水炉の場合約33〜34%であり、火力発電(約40〜63%)と比較して低い値です。これは、軽水炉の蒸気条件が温度約280℃、圧力約7MPa(BWRの場合)と、火力発電の超臨界圧条件(600℃、25MPa以上)と比べて低いためです。蒸気条件が低い理由は、核燃料の被覆管材料(ジルコニウム合金)の耐熱温度に制約があるためです。
原子力発電は、少量の核燃料で長期間にわたって大量の電力を安定的に供給できるベースロード電源としての役割を持っています。出力100万kW級の原子力発電所では、約13ヶ月の連続運転(1サイクル)が可能であり、その間の設備利用率は70〜90%程度です。核燃料の交換は13〜18ヶ月ごとに定期検査と併せて行われ、炉心の約1/3〜1/4の燃料集合体が新燃料に交換されます。
経済的特徴として、原子力発電は建設費(資本費)が非常に大きい一方、燃料費は極めて小さいという特徴があります。発電コストに占める燃料費の割合は約10〜20%程度であり、石油やLNGの価格変動の影響を受けにくい安定した電源です。ただし、安全対策費、廃炉費用、使用済燃料の再処理・処分費用など、いわゆるバックエンドコストを含めた総合的な経済性評価が重要です。
環境面では、発電時にCO₂をほとんど排出しないことが最大の利点です。ライフサイクル全体(建設、燃料製造、運転、廃炉)のCO₂排出量で見ても、再生可能エネルギーと同程度の低い水準です。一方、放射性廃棄物の処理・処分、万一の事故時のリスク、核不拡散の観点からの国際的管理など、固有の課題も存在します。
沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)は、原子炉圧力容器内で冷却水(軽水)を直接沸騰させて蒸気を発生させ、この蒸気でタービンを駆動する方式です。冷却材と減速材を兼ねた軽水が原子炉圧力容器の下部から炉心に流入し、核分裂による熱で加熱されて蒸気となります。蒸気は圧力容器上部の気水分離器・蒸気乾燥器を通って湿分を除去された後、直接タービンに送られます。タービンを通過した蒸気は復水器で凝縮されて水に戻り、給水ポンプで再び原子炉に送られる循環系統を形成します。
BWRの運転条件は、原子炉圧力が約7MPa、冷却材温度が入口約215℃・出口約286℃、炉心出口での蒸気の質量割合(クオリティ)が約14%です。BWRでは原子炉で発生した蒸気が直接タービンに導かれるため、タービン系統は放射性物質を含む蒸気が流れる「放射線管理区域」となります。このため、タービン建屋内での保守作業には放射線防護上の配慮が必要です。
図2-1 沸騰水型原子炉(BWR)の系統概要図
加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)は、原子炉内の冷却水を高い圧力で加圧して沸騰を抑え、高温の加圧水として蒸気発生器に送り、蒸気発生器の二次側で蒸気を発生させる方式です。原子炉を通過する一次冷却材は約15.5MPaの高圧に保たれ、入口温度約289℃、出口温度約325℃で循環します。この一次冷却材は蒸気発生器内の伝熱管を通り、管外側の二次冷却水に熱を伝達します。二次側の水は約6〜7MPaで蒸気となり、タービンを駆動します。
PWRの最大の特徴は、放射性物質を含む一次冷却系と、タービンを駆動する二次冷却系が蒸気発生器を介して完全に分離されている点です。これにより、タービン系統には放射性物質がほとんど含まれず、タービン建屋の保守作業が容易になります。一方、蒸気発生器という大型の熱交換器が必要となるため、系統が複雑になり建設コストが若干高くなる傾向があります。
図2-2 加圧水型原子炉(PWR)の系統概要図
BWRとPWRは、いずれも軽水(普通の水)を冷却材および中性子減速材として使用する「軽水炉」に分類されます。日本の商用原子力発電所はすべて軽水炉であり、BWRとPWRがほぼ同数設置されています。両者の最も根本的な違いは蒸気発生の方式にあり、BWRは原子炉内で直接蒸気を発生させる「直接サイクル」、PWRは蒸気発生器を介する「間接サイクル」を採用しています。
| 項目 | BWR(沸騰水型) | PWR(加圧水型) |
|---|---|---|
| 蒸気発生方式 | 直接サイクル(炉内で沸騰) | 間接サイクル(SG使用) |
| 原子炉圧力 | 約7 MPa | 約15.5 MPa |
| 冷却材温度(出口) | 約286℃ | 約325℃ |
| 蒸気発生器 | 不要 | 必要 |
| 加圧器 | 不要 | 必要(圧力制御) |
| 制御棒挿入方向 | 下部から上方へ挿入 | 上部から下方へ挿入 |
| 出力調整法 | 制御棒+再循環流量 | 制御棒+ホウ酸濃度 |
| タービン系の放射性 | あり(管理区域) | ほぼなし(非管理区域) |
| 燃料集合体 | チャンネルボックスあり | チャンネルボックスなし |
| 代表的メーカー | GE、日立、東芝 | WH、三菱重工 |
軽水炉以外にも、さまざまな型式の原子炉が開発されています。高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、高速中性子を利用して核分裂反応を起こすとともに、炉心周辺のブランケットに配置したウラン238にプルトニウム239を生成させる原子炉です。消費した以上の核燃料を生産できることから「増殖炉」と呼ばれます。冷却材には中性子を減速させにくい液体ナトリウムが使用されます。日本では「もんじゅ」が建設されましたが、ナトリウム漏れ事故等を経て2016年に廃炉が決定しました。
重水炉(HWR:Heavy Water Reactor)は、重水(D₂O)を減速材として使用する原子炉です。重水は軽水に比べて中性子吸収断面積が小さいため、天然ウラン(濃縮なし)を燃料として使用できる利点があります。カナダのCANDU炉が代表的です。黒鉛減速炉は、黒鉛(炭素)を減速材として使用するもので、英国のマグノックス炉やAGR、旧ソ連のRBMK型が該当します。チェルノブイリ原発事故を起こしたのはRBMK型炉です。
ガス冷却炉(GCR:Gas Cooled Reactor)は、冷却材にCO₂ガスやヘリウムガスを使用する原子炉です。高温ガス炉(HTGR)はヘリウムを冷却材とし、炉心出口温度700〜950℃の高温が得られるため、発電効率が高く、水素製造などの産業利用も期待されています。日本のJAEAでは高温工学試験研究炉(HTTR)が運転されています。
| 炉型 | 減速材 | 冷却材 | 燃料 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 軽水炉(BWR/PWR) | 軽水 | 軽水 | 低濃縮UO₂ | 世界の主流、実績豊富 |
| 重水炉(CANDU) | 重水 | 重水/軽水 | 天然UO₂ | 濃縮不要、運転中燃料交換可 |
| 高速増殖炉(FBR) | なし(高速中性子) | 液体Na | MOX | 増殖比>1、Pu生産 |
| 黒鉛減速炉 | 黒鉛 | CO₂/He | 天然U/低濃縮U | 英国AGR、旧ソ連RBMK |
| 高温ガス炉(HTGR) | 黒鉛 | He | 被覆粒子燃料 | 高温出力、水素製造可能 |
原子力発電の燃料となるウランは、天然に存在する放射性元素です。天然ウランは、核分裂しやすいウラン235(235U)が約0.7%、核分裂しにくいウラン238(238U)が約99.3%の割合で存在しています。軽水炉で使用するためには、ウラン235の割合を3〜5%程度に高める「濃縮」が必要です。この過程をウラン濃縮と呼び、現在の主流は遠心分離法です。
ウラン燃料の製造過程は、ウラン鉱石の採掘→精錬(イエローケーキ:U₃O₈の製造)→転換(六フッ化ウラン:UF₆への変換)→濃縮(遠心分離法等でU-235を3〜5%に)→再転換(UO₂粉末への変換)→成型加工(ペレット成型・燃料棒・燃料集合体の製造)の順で行われます。最終的な燃料形態は、UO₂(二酸化ウラン)を円筒形に焼き固めたペレットで、直径約10mm、高さ約10mmの小さな円柱です。
図3-1 核燃料の構造(ペレットから燃料集合体まで)
核分裂連鎖反応とは、核分裂で放出された中性子が次の核分裂を引き起こし、連続的に繰り返される反応です。ウラン235の核分裂1回で平均2.5個の中性子が放出されますが、一部は漏洩し、一部はウラン238等に吸収されます。連鎖反応の持続状態を表す指標として実効増倍率 keffがあり、keff = 1(臨界)で一定出力運転が行われます。
図3-2 実効増倍率と臨界状態の関係
k_eff = 1 → ρ = 0(臨界)、k_eff > 1 → ρ > 0(超臨界)、k_eff < 1 → ρ < 0(未臨界)
核分裂で放出される中性子は約2MeVの高エネルギー(高速中性子)を持ちますが、ウラン235が核分裂しやすいのは約0.025eVの熱中性子です。軽水中の水素原子との弾性衝突で減速され、約18回の衝突で熱中性子になります。
η(再生率):燃料に吸収された中性子1個あたりの核分裂中性子数
f(熱中性子利用率):熱中性子が燃料に吸収される割合
p(共鳴逸脱確率):U-238の共鳴吸収を逃れる確率
ε(速中性子核分裂係数):高速中性子によるU-238核分裂の寄与
P_f, P_th:速中性子・熱中性子の非漏洩確率
核燃料サイクルとは、ウランの採掘から使用済燃料の再処理・廃棄物処分までの一連の流れです。使用済燃料には燃え残りのU-235(約1%)、新たに生成されたPu(約1%)、核分裂生成物(FP:約3〜5%)が含まれます。再処理してUとPuを回収しMOX燃料として再利用する「クローズドサイクル」と、そのまま廃棄する「ワンススルー」があります。
図3-3 核燃料サイクルの概要
原子炉圧力容器(RPV)は、炉心、制御棒、炉内構造物を収容し、高温高圧の冷却材を保持する鋼製の容器です。BWRでは約7MPa、PWRでは約15.5MPaの圧力に耐える構造が求められ、材質は低合金鋼に内面ステンレスクラッドが施されています。中性子照射脆化による経年劣化の監視が重要な管理項目です。
蒸気発生器(SG)はPWR特有の大型熱交換器で、逆U字型の伝熱管(数千本)を通じて一次冷却材の熱を二次冷却水に伝達します。伝熱管材質は応力腐食割れ対策としてインコネル690が使用されています。蒸気発生器の健全性は、伝熱管破損が一次系から二次系への放射性物質漏洩に直結するため極めて重要です。
図4-1 PWR蒸気発生器の構造概略
原子炉格納容器(CV)は、原子炉圧力容器や一次冷却系配管を収納する気密性の高い大型容器で、冷却材喪失事故(LOCA)時に放射性物質の外部放出を防止する役割を果たします。BWRはドライウェルとウェットウェル(圧力抑制室)で構成され、PWRは大型鋼製ドーム型が一般的です。
図4-2 放射性物質を閉じ込める多重障壁の概念
化学体積制御系(CVCS)はPWR特有で、一次冷却材中のホウ酸濃度調整による反応度制御と冷却材浄化を行います。残留熱除去系(RHR)は停止後の崩壊熱除去、使用済燃料プールは取出し後の燃料を水中冷却・貯蔵する設備です。
原子炉の運転において、核分裂連鎖反応を安全かつ安定的に維持するためには、反応度を精密に制御する必要があります。反応度ρは実効増倍率keffからρ = (keff - 1)/keff で定義されます。反応度がゼロ(keff = 1)の状態が臨界であり、原子炉の通常運転はこの状態で行われます。出力を上昇させるときは一時的に正の反応度を加え(超臨界)、所定の出力に達したら再び臨界状態に戻します。
原子炉の反応度に影響を与える要因として、燃料の燃焼(U-235の減少とFPの蓄積)、核分裂生成物による中性子吸収(特にキセノン135とサマリウム149)、冷却材温度の変化、制御棒の挿入・引抜き、ホウ酸濃度の変化(PWR)などがあります。特にキセノン135は中性子吸収断面積が非常に大きく(約2.6×10⁶バーン)、出力変動後の反応度変化に大きな影響を及ぼします。
βeff:実効遅発中性子割合。反応度がβeffを超える(1ドルを超える)と即発臨界となり制御困難に。
制御棒は、中性子吸収材を棒状に成形した炉心の反応度制御装置で、原子炉の出力調整と緊急停止(スクラム)に使用されます。制御棒の材料には、ハフニウム(Hf)、銀-インジウム-カドミウム合金(Ag-In-Cd)、炭化ホウ素(B₄C)などの中性子吸収材が用いられます。BWRでは十字形の制御棒が炉心下部から水圧駆動で挿入され、PWRではクラスタ型の制御棒が炉心上部から電磁石保持・重力落下方式で挿入されます。
化学シム制御はPWR特有の反応度制御方式で、一次冷却材中に溶解したホウ酸(H₃BO₃)の濃度を調整することで反応度を制御します。ホウ素(B-10)は中性子吸収断面積が大きいため、ホウ酸濃度を高くすると反応度が低下し、薄くすると反応度が上昇します。この方式は燃焼に伴う長期的な反応度変化の補償に適しており、制御棒と組み合わせて使用されます。
図5-1 BWRとPWRの制御棒挿入方向の比較
非常用炉心冷却装置(ECCS:Emergency Core Cooling System)は、冷却材喪失事故(LOCA:Loss of Coolant Accident)発生時に、原子炉炉心に冷却水を注入して炉心の冠水を維持し、燃料の過熱・損傷を防止するための安全系統です。ECCSは原子力発電所の安全設計において最も重要な工学的安全施設の一つです。
BWRのECCSは、高圧炉心スプレイ系(HPCS)、低圧炉心スプレイ系(LPCS)、低圧注水系(LPCI)、自動減圧系(ADS)で構成されます。高圧系は原子炉圧力が高い状態でも注水が可能で、低圧系は圧力低下後に大量の冷却水を注入します。自動減圧系は高圧系が故障した場合に逃がし安全弁を開放して圧力を低下させ、低圧系による注水を可能にします。
PWRのECCSは、蓄圧注入系(ACC)、高圧注入系(HHSI)、低圧注入系(LHSI)で構成されます。蓄圧注入系は窒素ガスで加圧されたタンク内の冷却水を、原子炉圧力低下時に自動的に注入する受動的安全系統(動力源不要)です。
原子力発電所の安全設計は、深層防護(Defense in Depth)の考え方に基づいています。これは、単一の防護手段に依存せず、複数の独立した防護層を設けることで、仮にある防護層が機能しなくても次の防護層が安全を確保するという多重防護の思想です。IAEAが提唱する深層防護は5つのレベルで構成されます。
図5-2 深層防護の5段階と原子炉の固有安全性
原子力発電に関連する放射線には、α線、β線、γ線、中性子線の4種類があります。α線はヘリウムの原子核(陽子2個+中性子2個)で、電離作用が大きいが透過力は小さく、紙1枚で遮蔽できます。β線は電子の流れで、α線より透過力が大きくアルミニウム板数mm程度で遮蔽されます。γ線は電磁波(光子)で透過力が大きく、鉛やコンクリートなど密度の高い物質で遮蔽します。中性子線は電荷を持たない粒子で、水やコンクリートなど水素を多く含む物質で減速・遮蔽します。
図6-1 放射線の種類と遮蔽物の関係
放射線に関する主要な物理量と単位は以下のとおりです。放射能の単位はベクレル(Bq)で、1秒間に崩壊する原子核の数を表します。吸収線量の単位はグレイ(Gy)で、物質1kgあたりに吸収される放射線エネルギー(1Gy = 1J/kg)です。等価線量と実効線量の単位はシーベルト(Sv)で、放射線の人体への影響を評価する指標です。等価線量は吸収線量に放射線加重係数を掛けたもので、実効線量はさらに組織加重係数を考慮したものです。
| 物理量 | SI単位 | 旧単位 | 換算 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 放射能 | Bq(ベクレル) | Ci(キュリー) | 1 Ci = 3.7×10¹⁰ Bq | 1秒間の崩壊数 |
| 吸収線量 | Gy(グレイ) | rad(ラド) | 1 Gy = 100 rad | 1kgあたりの吸収エネルギー |
| 等価線量 | Sv(シーベルト) | rem(レム) | 1 Sv = 100 rem | 放射線の生体影響 |
| 照射線量 | C/kg | R(レントゲン) | 1R = 2.58×10⁻⁴ C/kg | 空気の電離量 |
w_R:放射線加重係数(γ線・β線=1、α線=20、中性子=5〜20)
w_T:組織加重係数(各臓器の放射線感受性に応じた重み付け)
解答:
\begin{align} A(t) &= A_0 \times \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T_{1/2}} \\[5pt] &= 100 \times \left(\frac{1}{2}\right)^{24/8} = 100 \times \left(\frac{1}{2}\right)^3 \\[5pt] &= 100 \times \frac{1}{8} = \textbf{12.5 MBq} \end{align}原子力発電所から発生する放射性廃棄物は、放射能レベルに応じて高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に大別されます。高レベル放射性廃棄物は、使用済燃料の再処理で発生する廃液をガラス固化したもので、極めて高い放射能を持ちます。ガラス固化体は30〜50年間の冷却貯蔵後、地下300m以深の安定した地層に処分する「地層処分」が基本方針です。
低レベル放射性廃棄物は、放射能濃度に応じてL1(比較的高い)、L2(比較的低い)、L3(極めて低い)に分類されます。L3はトレンチ処分(浅い地中に埋設)、L2はピット処分(コンクリートピットに埋設)、L1は余裕深度処分(地下50〜100m)が計画されています。日本では青森県六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設センターでL2の処分が行われています。
放射線防護の三原則は、時間(被ばく時間の短縮)、距離(線源からの距離の確保)、遮蔽(適切な遮蔽材の使用)です。放射線の強度は線源からの距離の2乗に反比例します(逆二乗の法則)。γ線の遮蔽には鉛やコンクリートが、中性子線の遮蔽には水やポリエチレンなどの水素含有物質が有効です。
I₀:線源の強さ、r:距離、μ:線減弱係数[1/cm]、x:遮蔽体の厚さ[cm]、x1/2:半価層(線量率を半分にする厚さ)
解答:
(1) 逆二乗の法則より:日本の原子力発電は、1966年に東海発電所(ガス冷却炉、16.6万kW)が営業運転を開始したことに始まります。その後、軽水炉の導入が進み、BWR(福島第一、柏崎刈羽など)とPWR(美浜、大飯、玄海など)がほぼ同数建設されました。2011年3月の福島第一原子力発電所事故以前には、54基の原子力発電所が稼働し、総発電電力量の約30%を担っていました。
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う津波により、東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融(メルトダウン)を含む重大事故が発生しました。1〜3号機で炉心損傷が生じ、水素爆発により建屋が損壊、大量の放射性物質が環境中に放出されました。この事故を受けて全原発が順次停止し、原子力規制委員会が設置されて新規制基準が制定されました。
図7-1 日本の原子力発電の基数と発電比率の推移(概略)
福島第一原発事故の教訓を踏まえ、2012年に原子力規制委員会が発足し、2013年7月に新規制基準が施行されました。新規制基準では、従来の設計基準事故への対策に加え、シビアアクシデント(重大事故)対策が義務化されました。主な強化項目として、基準地震動の見直し・引上げ、基準津波の策定、電源喪失対策の強化(移動式発電機・電源車の配備)、冷却機能喪失対策、水素爆発防止対策(静的触媒式水素再結合器等)、格納容器ベント設備(フィルタ付き)の設置、航空機衝突等のテロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の設置などが求められています。
新規制基準のもとで、各電力会社は安全対策工事を実施して審査を申請し、合格した発電所から順次再稼働が進められています。原子炉の運転期間は、原則40年とされ、規制委員会の認可を受けた場合に限り最大20年の延長が可能です(合計最長60年)。その後の法改正により、審査等で停止していた期間を除外する制度も導入されました。
原子力発電所の廃炉(デコミッショニング)は、放射性物質で汚染された施設を解体・撤去して更地に戻す作業です。通常の廃炉は20〜30年程度の期間を要し、解体工事、放射性廃棄物の処理・処分、サイト解放の手順で進められます。福島第一原発の廃炉は、溶融した燃料デブリの取出しという前例のない作業を含むため、30〜40年という長期にわたる計画となっています。
使用済燃料の管理は、原子力発電における最大の課題の一つです。日本では、使用済燃料を再処理してウランとプルトニウムを回収するクローズドサイクルを基本方針としていますが、青森県六ヶ所村の再処理工場は竣工が大幅に遅れています。また、高レベル放射性廃棄物の最終処分場(地層処分施設)の立地も未定であり、2020年に北海道の寿都町と神恵内村が文献調査に応募したのが現状です。
次世代の原子炉として、安全性・経済性の向上を図った小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)が世界的に注目されています。SMRは電気出力30万kW以下の小型原子炉で、工場でモジュール製造してサイトに輸送・組立てする方式により建設コストの低減と工期短縮が期待されます。また、受動的安全系を多く取り入れることで安全性の向上も図られています。
その他の先進的原子炉概念として、高温ガス炉(HTGR)は炉心出口温度700〜950℃の高温が得られ、高効率発電に加えて水素製造への利用が期待されています。溶融塩炉(MSR)は核燃料を溶融塩に溶解した液体燃料を使用する方式で、トリウム燃料サイクルへの適用が検討されています。核融合炉は重水素と三重水素の核融合反応を利用するもので、ITER(国際熱核融合実験炉)による研究開発が進められていますが、実用化にはまだ数十年を要すると考えられています。
解答:
ウラン235 1gに含まれる原子数:解答:
(1) 原子炉の熱出力:解答:
(1) 24日後の放射能:解答:
(1) 逆二乗の法則:解答:
(1) × - 軽水炉では低濃縮ウラン(3〜5%)を使用。20%以上は高濃縮ウラン(兵器級は90%以上)解答:
(1) 五重の壁解答:
正解:A、D、F解答:
(1) P - PWRのみ蒸気発生器を有する解答:
(1) ○ - 高速炉は減速材なしで高速中性子を直接利用する原子力発電は、ウランなどの核燃料の核分裂反応で発生する膨大な熱エネルギーを利用して蒸気タービンを駆動し、電気エネルギーを得る発電方式です。少量の燃料で大量のエネルギーを取り出せる特徴を持ち、発電時にCO₂をほとんど排出しないことから、ベースロード電源として電力の安定供給とカーボンニュートラルの実現に重要な役割を担っています。アインシュタインの質量エネルギー等価式E=mc²が示すように、核エネルギーの源は質量欠損であり、ウラン235の核分裂1回あたり約200MeVという化学反応の約5,000万倍のエネルギーが放出されます。
本テキストでは、核分裂の基本原理から始まり、BWR・PWR両炉型の構造と特徴、核燃料の製造から廃棄物処分に至る核燃料サイクル、原子炉の制御と安全装置、放射線管理と防護の基礎、そして原子力発電の現状と将来展望まで、電験三種の出題範囲を網羅的に学習しました。特に、実効増倍率と反応度の概念、四因子公式、放射能の半減期計算、逆二乗の法則と遮蔽計算は、原子力発電分野の計算問題の基盤となる重要な知識です。
2011年の福島第一原子力発電所事故は、原子力安全に対する認識を根本から変え、新規制基準の制定やシビアアクシデント対策の義務化など、安全対策の大幅な強化につながりました。深層防護の考え方に基づく多重の安全対策、軽水炉の固有安全性(負の反応度温度係数)、ECCSをはじめとする工学的安全施設の理解は、電気主任技術者として原子力発電に関わるうえで不可欠な知識です。
今後、小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉(HTGR)などの次世代原子炉の実用化、廃炉技術の確立、高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現など、原子力発電は多くの技術的・社会的課題に向き合いながらも、脱炭素社会の実現に向けた重要な選択肢として位置づけられています。第三種電気主任技術者試験の学習を通じて習得した原子力発電の知識は、発電所の運転管理、電力系統の計画、エネルギー政策の理解など、幅広い実務分野で活用されます。