第三種電気主任技術者試験(電験三種)
水力発電学習ページ

水力発電は水の位置エネルギーを電気エネルギーに変換する発電方式です。
河川や湖沼の水を高所から低所へ流下させる際の落差と流量を利用して水車を回転させ、
発電機により電力を生み出します。環境負荷が少なく再生可能エネルギーとして重要な役割を担い、
我が国の電力供給において基幹電源の一つとして位置づけられています。

第1節 水力発電の概要

1. 水力発電の基本原理

水力発電は、水の持つ位置エネルギーと運動エネルギーを利用して電気エネルギーを得る発電方式です。高い位置にある水が低い位置に流れ落ちる際に発生する力学的エネルギーを、水車によって回転運動に変換し、さらに発電機により電気エネルギーに変換します。この原理は古くから水車として利用されてきましたが、19世紀後半に発電機との組み合わせにより電力生産が可能となり、現代の水力発電技術が発展しました。

水力発電の基本的なエネルギー変換過程は以下の通りです。まず、河川や湖沼の水が太陽熱により蒸発し、雲となって降水として地表に戻る水循環により、水は高い位置に位置エネルギーを蓄えます。この位置エネルギーを持つ水を人工的に集め、落差を利用して流下させることで運動エネルギーに変換します。水車は水の運動エネルギーを受けて回転し、機械的エネルギーに変換します。最後に、水車に直結された発電機が回転エネルギーを電気エネルギーに変換して電力を生産します。

位置エネルギー(Potential Energy):物体が重力場において高い位置にあることで蓄えられるエネルギー。水力発電では、高所にある水の位置エネルギーが動力源となる。
水力発電の基本エネルギー式 \begin{align} P &= \rho g Q H \eta \\[5pt] E_p &= mgh \\[5pt] E_k &= \frac{1}{2}mv^2 \end{align}

ここで、P:出力[W]、ρ:水の密度[kg/m³]、g:重力加速度[m/s²]、Q:流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η:総合効率、E_p:位置エネルギー[J]、E_k:運動エネルギー[J]

水力発電の動作原理において重要な要素は、落差(Head)と流量(Flow)です。落差とは水が流れ落ちる高低差のことで、この落差が大きいほど水の位置エネルギーは大きくなります。流量は単位時間あたりに流れる水の体積で、流量が多いほど利用できるエネルギーも大きくなります。水力発電所の出力は、これらの落差と流量の積に比例し、さらに水車効率と発電機効率を考慮した総合効率が掛け合わされます。

例題1:基本的な水力計算
有効落差100m、流量5m³/s、総合効率85%の水力発電所の理論出力を求めよ。水の密度を1000kg/m³、重力加速度を9.8m/s²とする。

解答:

理論出力の計算:
\begin{align} P &= \rho g Q H \eta \\[5pt] &= 1000 \times 9.8 \times 5 \times 100 \times 0.85 \\[5pt] &= 4,165,000 \text{ [W]} = 4.165 \text{ [MW]} \end{align}

水力発電は再生可能エネルギーの代表的な形態であり、燃料を必要とせず、運転時に二酸化炭素を排出しない環境に優しい発電方式です。また、水の循環という自然現象を利用するため、理論的には永続的に利用可能なエネルギー源となります。さらに、水力発電所は一度建設すると数十年から100年以上の長期間にわたって安定した電力供給が可能で、維持管理費も比較的少ないという経済的な利点もあります。

2. 水力発電の特徴と利点

水力発電は他の発電方式と比較して多くの特徴と利点を有しています。最も重要な特徴は、自然の水循環を利用した再生可能エネルギーであることです。太陽エネルギーによって駆動される水循環により、河川の流水は継続的に供給されるため、適切に管理された水力発電所は半永久的に電力を生産することができます。また、運転時に化石燃料を燃焼させる必要がないため、二酸化炭素やその他の大気汚染物質を排出せず、地球温暖化対策に大きく貢献します。

技術的特徴として、水力発電は高い変換効率を持ちます。現代の水車効率は90~95%以上に達し、発電機効率も95~98%程度と非常に高く、総合効率では85~90%以上を実現できます。これは火力発電の40~60%、太陽光発電の15~20%と比較して非常に高い値です。また、起動時間が短く、数分程度で定格出力に到達できるため、電力需要の急激な変動に対する調整力として優れた特性を示します。

水力発電の主な利点
  • 環境適合性:運転時CO₂排出なし、大気汚染物質なし
  • 高効率:総合効率85~90%以上、燃料損失なし
  • 長寿命:設備寿命50~100年以上、維持費低
  • 調整力:起動停止迅速、負荷追従性良好
  • 多目的利用:治水、利水、観光との複合効果

経済的特徴として、水力発電は初期建設費は高額ですが、燃料費が不要で運転維持費が安く、長期的には非常に経済的な発電方式となります。発電所の設備寿命は50年から100年以上と長く、適切な維持管理により長期間安定した電力供給が可能です。また、建設時の大規模な土木工事により地域経済への波及効果も大きく、完成後も雇用創出や固定資産税収入などで地域に継続的な経済効果をもたらします。

系統運用上の特徴として、水力発電は電力系統の安定化に重要な役割を果たします。出力調整が容易で応答性が良いため、需要変動に対する調整電源として活用されます。特に揚水発電は、夜間の余剰電力で水を汲み上げ、昼間の電力需要ピーク時に発電する電力貯蔵システムとして機能し、系統全体の効率向上に寄与します。また、短時間での起動停止が可能なため、他の電源トラブル時のバックアップ電源としても重要です。

調整電源(Load Following Power Source):電力需要の変動に応じて出力を調整する電源。水力発電は応答性が良く、調整電源として重要な役割を担う。

水力発電の社会的利点として、治水・利水との多目的利用があります。ダム建設により洪水調節機能を持ち、下流域の洪水被害軽減に貢献します。また、農業用水や上水道の安定供給、渇水時の流量維持などの利水機能も併せ持ちます。さらに、ダム湖や発電所周辺は観光資源としても活用され、地域振興に寄与する場合が多くあります。これらの複合的な効果により、水力発電は単なる発電事業を超えた社会インフラとしての価値を持ちます。

例題2:水力発電の経済性評価
建設費100億円、年間発電量1億kWh、燃料費0円、年間維持費1億円の水力発電所について、設備利用率と単位電力量あたりのコストを求めよ。設備容量を30MWとする。

解答:

設備利用率の計算:
年間最大発電量 = 30,000kW × 24h × 365日 = 262,800,000kWh
設備利用率 = 100,000,000 ÷ 262,800,000 = 0.38 = 38%

年間コスト(建設費の償却を含まず):1億円
発電コスト = 1億円 ÷ 1億kWh = 1円/kWh
(建設費償却を含む総コストは償却期間により変動)

3. 我が国の水力発電の現状

我が国の水力発電は、明治時代後期から本格的な開発が始まり、戦前・戦後を通じて電力供給の中核を担ってきました。現在、日本の水力発電設備容量は約5,000万kWに達し、これは全電源設備容量の約20%を占めています。年間発電電力量は約1,000億kWhで、総発電電力量の約10%を担っています。特に、山間部の豊富な水資源と急峻な地形を活かした高落差の水力発電所が多数建設され、効率的な電力生産を実現しています。

地域別の特徴として、東日本では信濃川水系、利根川水系を中心とした大規模開発が行われ、中部地方では木曽川水系、天竜川水系で多くの発電所が建設されています。西日本では黒部川、神通川などの急流河川や、九州の耳川、大井川などで特色ある開発が進められてきました。これらの河川水系では、上流から下流にかけて複数の発電所を階段状に配置する「包蔵水力」の開発により、水資源の最大限活用が図られています。

包蔵水力(Potential Hydropower):河川に理論的に存在する水力エネルギーの総量。日本の包蔵水力は約2,700万kWと推定されている。

水力発電の分類別現状では、一般水力発電(揚水除く)が約2,400万kW、揚水発電が約2,700万kWとなっています。揚水発電は1960年代以降、原子力発電の夜間余剰電力を有効活用する目的で大量建設され、現在では電力系統の需給調整において不可欠な存在となっています。一般水力は大規模ダム式から小規模な流れ込み式まで多様な形態で開発され、それぞれが地域の特性に応じた電力供給を行っています。

近年の動向として、大規模水力開発適地の減少により、新規開発は小水力発電が中心となっています。農業用水路や上水道施設を利用したマイクロ水力発電、未利用落差を活用した小規模開発が注目されています。また、既設発電所の設備更新時における高効率化、出力増強なども積極的に進められており、限られた水資源の有効活用が図られています。

日本の水力発電の現状(概数)
  • 設備容量:約5,000万kW(一般水力2,400万kW、揚水2,700万kW)
  • 発電電力量:約1,000億kWh/年(総発電量の約10%)
  • 発電所数:約2,700箇所(出力1,000kW以上)
  • 平均設備利用率:一般水力約45%、揚水約6%

技術的発展として、日本の水力発電技術は世界最高水準にあります。水車効率、発電機効率ともに世界トップクラスの性能を達成し、制御技術、保守技術も高度に発達しています。特に、可変速揚水発電システム、高落差対応ペルトン水車、環境保全型魚道設備などの分野では世界をリードする技術を有しています。これらの技術は国内での活用にとどまらず、海外への技術輸出も活発に行われています。

今後の課題として、既設発電所の老朽化対策と長寿命化、小水力発電の開発促進、環境との調和、地域との共生などがあげられます。特に、建設から数十年が経過した発電所の設備更新時期を迎えており、最新技術の導入による性能向上と環境負荷低減の両立が求められています。また、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、水力発電の調整力としての価値がさらに高まることが期待されています。

4. 水力発電と環境

水力発電と環境の関係は、地球環境レベルと地域環境レベルの両面から考える必要があります。地球環境の観点では、水力発電は運転時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーとして、地球温暖化対策に重要な役割を果たします。ライフサイクル全体で見ても、建設時の材料製造や輸送、建設工事に伴うCO₂排出を考慮しても、発電量あたりのCO₂排出量は石炭火力の1/50、天然ガス火力の1/25程度と非常に少なく、環境負荷の小さい発電方式です。

地域環境への影響については、慎重な配慮が必要です。ダム建設による河川生態系への影響、特に魚類の遡上・降下への影響は重要な課題です。このため、魚道の設置、魚類増殖事業の実施、河川流量の維持(維持流量の確保)などの環境保全対策が実施されています。また、ダム湖の水質保全、下流河川の水質・水温への影響軽減、土砂流下の確保なども重要な環境配慮事項となっています。

維持流量(Maintenance Flow):ダム下流の河川環境を保全するために放流する最低限の流量。河川の生態系維持、水質保全、景観保持などを目的とする。

近年の環境技術として、環境調和型発電所の建設が進められています。魚道設備の高機能化により、様々な魚種に対応した遡上・降下ルートを確保し、生態系への影響を最小限に抑える設計が行われています。また、ダム湖の富栄養化防止のための曝気設備、下流への冷水放流防止のための選択取水設備、土砂流下のための排砂設備なども導入されており、河川環境との調和を図る技術が発達しています。

小水力発電の環境優位性として、河川の流れを大きく変えずに発電を行う小規模な水力発電は、環境への影響が少ない発電方式として注目されています。既存の農業用水路や上水道施設を活用した発電では、新たな河川改変を伴わず、環境負荷を最小限に抑えることができます。また、分散型電源としての特徴により、送電損失の削減や地域のエネルギー自給率向上にも寄与します。

例題3:水力発電のCO₂削減効果
年間発電量1億kWhの水力発電所について、石炭火力発電(CO₂排出原単位0.82kg-CO₂/kWh)と比較したCO₂削減量を求めよ。水力発電のライフサイクルCO₂排出原単位を0.02kg-CO₂/kWhとする。

解答:

石炭火力のCO₂排出量:
100,000,000kWh × 0.82kg-CO₂/kWh = 82,000,000kg-CO₂ = 82,000t-CO₂

水力発電のCO₂排出量:
100,000,000kWh × 0.02kg-CO₂/kWh = 2,000,000kg-CO₂ = 2,000t-CO₂

CO₂削減量:82,000 - 2,000 = 80,000t-CO₂/年

地域社会との共生も水力発電の重要な環境課題です。ダム建設に伴う地域住民の移転、地域文化への影響、景観の変化などに対しては、十分な合意形成と適切な対策が必要です。一方で、ダム湖を活用した観光開発、地域振興、災害防止効果など、正の側面もあります。現在では、計画段階からの住民参加、環境影響評価の充実、地域還元制度の整備などにより、地域社会との調和を図る取り組みが強化されています。

今後の環境対策として、既設発電所における環境改善、最新の環境保全技術の導入、生態系ネットワークの構築などが重要になります。また、気候変動による降水パターンの変化に対応した弾力的な運用、極端気象に対する安全性の確保なども重要な課題となっています。水力発電は環境に優しい発電方式ではありますが、持続可能な発展のためには、継続的な環境配慮と技術改善が不可欠です。

第1節の重要ポイント整理
  • 基本原理:位置エネルギー→運動エネルギー→電気エネルギー変換
  • 基本式:P = ρgQHη(落差×流量×密度×重力×効率)
  • 特徴:高効率85-90%、長寿命50-100年、調整力良好
  • 利点:CO₂排出なし、燃料不要、多目的利用可能
  • 現状:設備容量5,000万kW、発電量1,000億kWh/年
  • 環境:地球環境に優しく、地域環境への配慮が重要
第1節の試験対策ポイント
  • 基本公式:理論出力の計算式P=ρgQHηの活用
  • エネルギー変換:位置→運動→電気の変換過程
  • 特徴比較:他電源との効率・環境性能比較
  • 統計数値:日本の水力発電の設備容量・発電量
  • 環境効果:CO₂削減効果の定量的評価
  • 計算問題:落差・流量・効率からの出力計算

第2節 水力発電所の種類

1. 落差による分類

水力発電所は有効落差の大きさによって分類されます。落差の分類は国際的に統一された基準はありませんが、一般的に高落差(High Head)、中落差(Medium Head)、低落差(Low Head)の3つに分けられます。日本では高落差を200m以上、中落差を20~200m、低落差を20m未満とすることが多く、この分類は使用する水車の種類や発電所の構造、建設方法などに大きな影響を与えます。

高落差発電所(200m以上)は、山間部の急峻な地形を利用して建設されます。高い位置エネルギーを持つため、比較的少ない流量でも大きな出力が得られるのが特徴です。使用される水車は主にペルトン水車で、水圧管路は鋼管が用いられます。導水路は長距離となることが多く、取水口から発電所まで数kmから十数kmに及ぶ場合もあります。建設費は高額ですが、単位流量あたりの発電量が大きく、効率的な発電が可能です。

有効落差(Effective Head):全落差から水路損失や水圧管路損失を差し引いた、実際に水車に作用する落差。発電出力を決定する重要な要素。
落差と出力の関係 \begin{align} P &= 9.8 \times Q \times H \times \eta \\[5pt] H_{eff} &= H_{gross} - h_{loss} \\[5pt] h_{loss} &= h_{intake} + h_{penstock} + h_{tailrace} \end{align}

ここで、P:出力[kW]、Q:流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η:総合効率、H_eff:有効落差、H_gross:全落差、h_loss:損失落差

中落差発電所(20~200m)は、我が国で最も一般的な形態の水力発電所です。山間部から平野部にかけての河川で多く見られ、フランシス水車が主に使用されます。ダム式、水路式、混合式など多様な形態があり、建設地点の地形や河川条件に応じて最適な方式が選択されます。流量と落差のバランスが良く、経済性と技術的実現性を両立できる発電所として重要な位置を占めています。

低落差発電所(20m未満)は、平野部の河川や農業用水路などで建設されます。落差が小さいため大流量を必要とし、カプラン水車やプロペラ水車が使用されます。ダム式が多く、取水から放水まで比較的短い距離で構成されます。単位出力あたりの建設費は安価ですが、立地条件が限られるため、適地での集約的な開発が重要となります。

例題1:落差分類と水車選定
有効落差150m、流量8m³/s、総合効率88%の水力発電所について、落差による分類と適用される水車の種類、理論出力を求めよ。

解答:

落差による分類:150mは20~200mの範囲にあるため中落差発電所
適用水車:中落差にはフランシス水車が適している
理論出力の計算:
\begin{align} P &= 9.8 \times Q \times H \times \eta \\[5pt] &= 9.8 \times 8 \times 150 \times 0.88 \\[5pt] &= 10,348.8 \text{ [kW]} = 10.35 \text{ [MW]} \end{align}

落差分類は水車の選定だけでなく、発電所の経済性や建設方法にも大きく影響します。高落差では水圧管路の材料選定と圧力設計が重要となり、中落差では導水設備と水車設備の最適化が鍵となります。低落差では大流量処理のための設備設計と環境への配慮が特に重要になります。各落差帯における技術的特徴を理解することで、効率的で経済的な水力発電所の計画・設計が可能となります。

2. 調整方式による分類

水力発電所は水の貯留・調整能力によって分類されます。この分類は電力系統における発電所の役割や運用方式に直接関係し、ベース電源としての安定した電力供給か、調整電源としての需要変動対応かを決定します。主な分類として、流れ込み式、調整池式、貯水池式、純揚水式があり、それぞれが異なる特徴と運用特性を持ちます。

流れ込み式発電所は、河川の自然流量をそのまま利用する方式で、水の貯留能力を持ちません。取水した河川水を直接水車に導き、使用後は下流に放流します。河川流量の変動がそのまま発電出力に反映されるため、出力の調整能力は限定的です。建設費が安く、河川環境への影響も比較的少ないですが、渇水時は出力が大幅に低下し、洪水時は運転停止を余儀なくされる場合があります。小水力発電の多くがこの方式を採用しています。

流れ込み式(Run-of-River):河川の自然流量をそのまま利用する水力発電方式。水の貯留施設を持たず、河川流量の変動が直接発電出力に影響する。

調整池式発電所は、数日から数週間程度の水を貯留できる調整池を持つ方式です。日間や週間の流量変動を平滑化し、電力需要に応じた運転が可能です。昼間のピーク需要時には多くの水を使用して高出力で運転し、夜間の軽負荷時には出力を下げて水を貯留します。我が国の一般水力発電所の多くがこの方式で、電力系統の調整力として重要な役割を果たしています。

貯水池式発電所は、大容量の貯水池により季節的な流量変動を調整できる方式です。数か月から1年以上の水を貯留でき、豊水期の水を渇水期まで貯えて利用できます。年間を通じて安定した発電が可能で、ベース電源としての役割も担えます。しかし、大型ダムの建設が必要で、建設費が高額になり、環境や社会への影響も大きくなる傾向があります。

調整容量の評価 \begin{align} V_{storage} &= Q_{avg} \times T \times 86400 \\[5pt] \text{貯水率} &= \frac{V_{current}}{V_{total}} \times 100 \\[5pt] \text{調整率} &= \frac{V_{active}}{Q_{year} \times 31.536 \times 10^6} \times 100 \end{align}

ここで、V_storage:必要貯水容量[m³]、Q_avg:平均流量[m³/s]、T:調整日数[日]、V_active:有効貯水容量[m³]、Q_year:年平均流量[m³/s]

純揚水式発電所は、上池と下池の間で水を循環させる発電方式で、自然流入水を持ちません。夜間の余剰電力や安価な電力で下池から上池へ水を汲み上げ、電力需要の多い昼間に上池から下池へ水を流して発電します。電力の貯蔵システムとしての役割を持ち、電力系統の需給調整、周波数調整、緊急時のバックアップ電源として重要な機能を果たします。

例題2:調整池の必要容量計算
平均流量20m³/s、最大使用流量30m³/sの調整池式発電所で、3日間の調整を行う場合の必要貯水容量を求めよ。ただし、調整期間中の平均流入量は15m³/sとする。

解答:

3日間の流入量:
15m³/s × 3日 × 24時間 × 3600秒 = 3,888,000m³

3日間の最大使用量:
30m³/s × 3日 × 24時間 × 3600秒 = 7,776,000m³

必要貯水容量:
7,776,000 - 3,888,000 = 3,888,000m³ = 3.89×10⁶m³

各調整方式の選択は、河川の水文特性、電力系統の需要特性、経済性、環境制約などを総合的に検討して決定されます。近年では、再生可能エネルギーの大量導入に伴い、出力変動の調整機能を持つ調整池式や純揚水式の重要性が高まっています。また、既設の流れ込み式発電所に小規模な調整池を追加する改良工事なども行われており、電力系統の安定化に寄与しています。

3. 水路式と貯水池式

水力発電所の建設方式は、地形や河川特性に応じて水路式と貯水池式(ダム式)に大別されます。これらの方式は、水の取水から発電所までの導水方法が根本的に異なり、それぞれの特徴を活かした適用が行われています。方式の選定は、地形条件、河川勾配、流量、環境制約、経済性などを総合的に評価して決定されます。

水路式発電所は、河川の上流部に取水ダム(堰)を設けて水を取水し、導水路(水路トンネル、開水路、圧力管路)により水を発電所まで導く方式です。取水地点と発電所の間に大きな落差を確保でき、比較的少ない流量でも効率的な発電が可能です。導水路により河川の蛇行部分をショートカットできるため、自然落差以上の有効落差を得ることができます。山間部の急流河川で多く採用され、我が国の水力発電の代表的な形態となっています。

取水ダム(Intake Dam):水路式発電所で河川水を取水するために設けられる比較的小規模なダム。堰とも呼ばれ、主に取水機能を目的とする。

水路式の構成要素は、取水ダム、沈砂池、導水路、ヘッドタンク、水圧管路、発電所、放水路から成ります。取水ダムで河川から水を取り込み、沈砂池で土砂を除去した後、導水路で発電所近くまで水を運びます。ヘッドタンクで水量調整を行い、水圧管路により水車へ水を供給します。導水路は地形に応じてトンネル、開水路、圧力管路を組み合わせて建設され、勾配と流量を適切に設計することで効率的な導水を実現します。

貯水池式発電所(ダム式)は、河川に大型のダムを建設して人工湖(貯水池)を形成し、貯えられた水を利用して発電する方式です。ダムの直下または近傍に発電所を設置し、貯水池から直接または短い導水設備を通じて水車に水を供給します。大容量の水を貯留できるため、流量の季節変動を調整し、安定した発電が可能です。また、洪水調節、上水道供給、農業用水確保などの多目的利用も可能です。

水路式とダム式の落差比較 \begin{align} \text{水路式:} H_{total} &= H_{natural} + H_{route} \\[5pt] \text{ダム式:} H_{total} &= H_{dam} + H_{natural} \\[5pt] \text{導水路損失:} h_{loss} &= f \times \frac{L}{D} \times \frac{v^2}{2g} \end{align}

ここで、H_natural:自然落差[m]、H_route:導水による落差増加[m]、H_dam:ダム高[m]、f:摩擦係数、L:導水路長[m]、D:管径[m]、v:流速[m/s]

混合式発電所は、水路式とダム式の両方の特徴を併せ持つ方式です。比較的大きなダムで水を貯留し、さらに導水路により下流の発電所まで水を導いて発電します。ダムによる貯留機能と導水路による落差確保を同時に実現でき、大容量で効率的な発電が可能です。建設費は高くなりますが、発電効率と調整能力の両方を高いレベルで実現できる方式として、大規模開発で採用されることがあります。

例題3:水路式発電所の落差計算
取水地点の標高800m、発電所の標高400m、導水路長5km、管径3m、流量25m³/s、摩擦係数0.02の水路式発電所について、有効落差を求めよ。

解答:

全落差:800 - 400 = 400m

導水路内の流速:
v = Q/A = 25/(π×1.5²) = 3.54m/s

導水路損失:
\begin{align} h_{loss} &= f \times \frac{L}{D} \times \frac{v^2}{2g} \\[5pt] &= 0.02 \times \frac{5000}{3} \times \frac{3.54^2}{2 \times 9.8} \\[5pt] &= 21.3 \text{ [m]} \end{align} 有効落差:400 - 21.3 = 378.7m

水路式とダム式の選択には、それぞれの利点と制約を考慮する必要があります。水路式は河川環境への影響が比較的少なく、建設期間も短くできますが、導水路の建設費が高額になる場合があります。ダム式は大容量の貯水と多目的利用が可能ですが、環境や社会への影響が大きく、建設費も高額になります。近年では、環境への配慮から水路式が見直される傾向にありますが、電力系統の調整力確保の観点からは、適度な貯留能力を持つダム式の価値も高く評価されています。

4. 揚水発電所

揚水発電所は、上池と下池の間で水を循環させることで電力の貯蔵と供給を行う特殊な水力発電システムです。電力需要の少ない夜間や休日に余剰電力を使って下池から上池へ水を汲み上げ(揚水運転)、電力需要の多い昼間に上池から下池へ水を流して発電(発電運転)を行います。この仕組みにより、電力系統全体の効率向上と安定化に大きく貢献しており、現代の電力システムにおいて不可欠な設備となっています。

揚水発電の基本原理は、高い位置にある水の位置エネルギーを電力貯蔵媒体として利用することです。揚水時には電動機として動作する発電機で水を汲み上げ、電気エネルギーを位置エネルギーに変換して貯蔵します。発電時にはこの位置エネルギーを再び電気エネルギーに変換します。総合効率は70~80%程度で、エネルギー貯蔵技術としては実用的なレベルにあります。また、機械的な貯蔵方式であるため、化学的な劣化がなく、長期間の貯蔵が可能です。

揚水発電(Pumped Storage Hydroelectric):上池と下池間で水を循環させ、電力の貯蔵と供給を行う発電方式。電力系統の需給調整と安定化に重要な役割を果たす。
揚水発電の効率と容量 \begin{align} \eta_{cycle} &= \eta_{pump} \times \eta_{turbine} \\[5pt] E_{storage} &= \rho g V H \times 2.78 \times 10^{-7} \\[5pt] t_{storage} &= \frac{V}{Q_{max}} \end{align}

ここで、η_cycle:サイクル効率、η_pump:ポンプ効率、η_turbine:水車効率、E_storage:貯蔵電力量[kWh]、V:有効貯水量[m³]、H:有効落差[m]、t_storage:最大貯蔵時間[h]、Q_max:最大流量[m³/s]

揚水発電所の分類として、純揚水式と混合揚水式があります。純揚水式は自然の河川流入を持たず、上下池間での水の循環のみで運転される方式です。立地選定の自由度が高く、電力系統の需要地近くに建設できる利点があります。混合揚水式は上池に自然流入水があり、一般水力発電と揚水発電の両方の機能を持ちます。自然エネルギーも利用できるため効率的ですが、河川水系に依存するため立地が制約されます。

揚水発電所の設備構成は、上池、下池、地下発電所、水圧管路、開閉所から成ります。上下池は人工的に造成される場合が多く、特に純揚水式では両池とも人工池となります。発電所は通常地下に建設され、可逆式ポンプ水車と電動発電機が設置されます。可逆式ポンプ水車は、回転方向を変えることで水車とポンプの両方の機能を持ち、電動発電機も発電機と電動機の両方として動作します。

例題4:揚水発電所の貯蔵電力量計算
有効落差400m、上池の有効貯水量200万m³、サイクル効率75%の純揚水発電所について、貯蔵可能電力量を求めよ。

解答:

理論貯蔵電力量:
\begin{align} E_{theory} &= \rho g V H \times 2.78 \times 10^{-7} \\[5pt] &= 1000 \times 9.8 \times 2 \times 10^6 \times 400 \times 2.78 \times 10^{-7} \\[5pt] &= 2,177 \text{ [MWh]} \end{align} 実際の貯蔵電力量:
E_storage = 2,177 × 0.75 = 1,633 MWh

揚水発電の運用特性として、高速起動停止能力があります。静止状態から数分で定格出力に到達でき、発電から揚水への切り替えも迅速に行えます。この特性により、電力系統の周波数調整、負荷追従、事故時のバックアップなど、様々な系統運用サービスを提供できます。また、原子力発電や大型火力発電の夜間余剰電力を昼間のピーク需要に移行させる電力移行機能により、系統全体の設備利用率向上に寄与します。

近年では、再生可能エネルギーの大量導入に伴い、揚水発電の新たな役割が注目されています。太陽光発電や風力発電の出力変動を吸収し、安定した電力供給を実現する調整力として期待されています。また、電力自由化や電力市場の発達により、電力価格差を利用した経済運転も行われており、揚水発電所の運用方式は多様化しています。将来的には、蓄電池などの他の貯蔵技術との協調により、より高度な電力システムの構築が期待されています。

第2節の重要ポイント整理
  • 落差分類:高落差200m以上、中落差20-200m、低落差20m未満
  • 水車対応:高落差→ペルトン、中落差→フランシス、低落差→カプラン
  • 調整方式:流れ込み式、調整池式、貯水池式、純揚水式
  • 建設方式:水路式(導水路活用)、ダム式(貯水池活用)
  • 揚水発電:電力貯蔵システム、サイクル効率70-80%
  • 系統機能:調整力、周波数制御、負荷追従、バックアップ
第2節の試験対策ポイント
  • 分類基準:落差・調整方式・建設方式の分類基準と特徴
  • 水車選定:落差に応じた適切な水車型式の選択
  • 出力計算:P=9.8QHηによる各種発電所の出力計算
  • 揚水効率:サイクル効率と貯蔵電力量の計算
  • 設備特性:各方式の利点・欠点と適用条件
  • 系統運用:電力系統における各発電所の役割

第3節 理論水力

1. 水力発電の基本理論

水力発電の理論水力とは、水の持つエネルギーを電気エネルギーに変換する際の基本的な物理法則と計算方法を扱う分野です。水力発電では、水の位置エネルギーと運動エネルギーを機械的エネルギーに変換し、さらに電気エネルギーに変換します。この一連のエネルギー変換過程を定量的に評価し、最適な発電システムを設計するための理論的基礎が理論水力です。エネルギー保存則、連続の式、ベルヌーイの定理などの流体力学の基本法則が水力発電の理論的基盤となります。

水力発電の基本的なエネルギー変換は、重力ポテンシャルエネルギーから始まります。高い位置にある水は位置エネルギー E_p = mgh を持ち、この水が流下することで運動エネルギー E_k = (1/2)mv² に変換されます。水車はこの運動エネルギーを受けて回転し、機械的エネルギーに変換します。発電機は水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換し、最終的に電力として出力されます。各段階でエネルギー損失が発生するため、総合効率は各段階の効率の積として表されます。

理論水力(Theoretical Hydropower):水の持つエネルギーを完全に電気エネルギーに変換した場合の理論上の出力。実際の出力は効率を考慮して計算される。
水力発電の基本エネルギー式 \begin{align} P_{th} &= \rho g Q H \\[5pt] P_{act} &= \rho g Q H \eta_{total} \\[5pt] \eta_{total} &= \eta_{turbine} \times \eta_{generator} \times \eta_{transmission} \end{align}

ここで、P_th:理論出力[W]、P_act:実際の出力[W]、ρ:水の密度[kg/m³]、g:重力加速度[m/s²]、Q:流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η:効率

ベルヌーイの定理は水力発電の理論的基礎となる重要な法則です。理想流体において、流線上の任意の点でのエネルギーの総和は一定となります。水力発電では、この定理を用いて水の流れのエネルギー状態を解析し、有効落差や流速の関係を求めます。ベルヌーイの式は、位置エネルギー、運動エネルギー、圧力エネルギーの関係を表し、水車への水の供給条件を最適化するために使用されます。

ベルヌーイの定理 \begin{align} \frac{v_1^2}{2g} + \frac{p_1}{\rho g} + z_1 &= \frac{v_2^2}{2g} + \frac{p_2}{\rho g} + z_2 + h_{loss} \\[5pt] H &= z_1 - z_2 - h_{loss} \\[5pt] h_{loss} &= h_{friction} + h_{local} \end{align}

ここで、v:流速[m/s]、p:圧力[Pa]、z:標高[m]、h_loss:水頭損失[m]、h_friction:摩擦損失、h_local:局所損失

連続の式により、流体の質量保存則が表されます。密度一定の水では、管路の断面積と流速の積は一定となります。この原理は、水圧管路の設計や水車の流量計算において重要な役割を果たします。断面積の変化により流速が変わり、それに伴って圧力も変化するため、効率的な水の供給のためには適切な管径の選定が必要となります。

例題1:理論出力の計算
流量15m³/s、有効落差120mの水力発電所について、理論出力と、水車効率90%、発電機効率95%、伝送効率98%の場合の実際の出力を求めよ。水の密度を1000kg/m³とする。

解答:

理論出力:
\begin{align} P_{th} &= \rho g Q H \\[5pt] &= 1000 \times 9.8 \times 15 \times 120 \\[5pt] &= 17,640,000 \text{ [W]} = 17.64 \text{ [MW]} \end{align} 総合効率:
η_total = 0.90 × 0.95 × 0.98 = 0.838

実際の出力:
P_act = 17.64 × 0.838 = 14.78 MW

水力発電における損失の種類は多岐にわたります。水路損失には摩擦損失と局所損失があり、摩擦損失は管壁との摩擦により生じ、局所損失は断面変化、曲がり、弁類などで生じます。これらの損失は有効落差を減少させ、発電出力に直接影響します。また、水車損失、発電機損失、変圧器損失なども考慮する必要があり、総合的な効率評価が重要となります。

2. 有効落差と流量

有効落差は水力発電の出力を決定する最も重要な要素の一つです。全落差(総落差)から各種の水頭損失を差し引いたものが有効落差であり、実際に水車に作用する落差を表します。全落差は取水地点と放水地点の標高差ですが、水が発電所まで流れる過程で発生する摩擦損失、局所損失、速度水頭などを考慮して有効落差を正確に求める必要があります。有効落差の正確な計算は、発電所の性能予測と経済性評価において極めて重要です。

水頭損失の計算において、摩擦損失はダルシー・ワイスバッハの式により求められます。この損失は管路の長さ、直径、粗度、流速に依存し、特に長距離の導水路では大きな影響を与えます。局所損失は急拡大、急縮小、曲がり、分岐、合流、弁類などで発生し、それぞれに固有の損失係数を用いて計算されます。これらの損失を最小化することで、有効落差を最大化し、発電効率を向上させることができます。

水頭損失の計算 \begin{align} h_{friction} &= f \frac{L}{D} \frac{v^2}{2g} \\[5pt] h_{local} &= K \frac{v^2}{2g} \\[5pt] f &= \frac{0.25}{\left[\log_{10}\left(\frac{\varepsilon}{3.7D} + \frac{5.74}{Re^{0.9}}\right)\right]^2} \end{align}

ここで、f:摩擦係数、L:管路長[m]、D:管径[m]、v:流速[m/s]、K:局所損失係数、ε:粗度[m]、Re:レイノルズ数

流量の特性は河川の自然条件や発電所の運用方式により決まります。自然流量は季節変動、年変動があり、豊水期と渇水期で大きく異なります。発電所の使用流量は、利用可能な自然流量、水車の容量、電力需要などを考慮して決定されます。最大使用流量は水車の定格容量で決まり、最小使用流量は水車の効率特性や水利権の制約で決まります。効率的な発電のためには、年間を通じた流況の把握と適切な流量配分が重要です。

使用流量(Design Flow):水力発電所が実際に発電に使用する流量。自然流量と水車容量の制約により決定され、発電出力に直接影響する。

流況曲線は、河川の流量特性を表す重要な資料です。年間を通じて特定の流量以上が流れる日数を表す曲線で、発電所の設計流量決定や年間発電量の推定に使用されます。豊水流量(95日流量)、平水流量(185日流量)、低水流量(275日流量)、渇水流量(355日流量)などの基準流量により河川特性を評価し、最適な発電所計画を策定します。

例題2:有効落差の計算
全落差200m、導水路長3000m、管径2.5m、流量12m³/s、摩擦係数0.018、局所損失の合計が速度水頭の1.5倍の水力発電所について、有効落差を求めよ。

解答:

流速の計算:
v = Q/A = 12/(π×1.25²) = 2.44 m/s

速度水頭:
v²/(2g) = 2.44²/(2×9.8) = 0.304 m

摩擦損失:
\begin{align} h_{friction} &= f \frac{L}{D} \frac{v^2}{2g} \\[5pt] &= 0.018 \times \frac{3000}{2.5} \times 0.304 \\[5pt] &= 6.57 \text{ [m]} \end{align} 局所損失:
h_local = 1.5 × 0.304 = 0.456 m

有効落差:
H_eff = 200 - 6.57 - 0.456 = 192.97 m

流量と落差の最適化は水力発電所の経済性を左右する重要な設計課題です。同じ河川でも取水地点や導水路の計画により、流量と落差の組み合わせが変わります。一般的に、高落差・小流量と低落差・大流量では、建設費や運転特性が大きく異なります。高落差方式では水圧管路の建設費が高くなりますが、水車設備は小容量で済みます。低落差方式では土木工事費は安くなりますが、大容量の水車が必要となります。

水力発電所の年間発電量は、流況と発電所の運用特性により決まります。流れ込み式では自然流量がそのまま発電に反映されるため、流況曲線から年間発電量を推定できます。調整池式や貯水池式では、貯水池運用により流量配分を最適化でき、年間発電量の増加が期待できます。ただし、渇水年や異常気象時の影響も考慮し、長期的な発電量変動を評価する必要があります。

3. 水車効率と発電機効率

水車効率は水の持つエネルギーを機械的回転エネルギーに変換する際の効率であり、水力発電所の総合効率を決定する最も重要な要素の一つです。現代の水車は非常に高い効率を実現しており、フランシス水車で93~95%、ペルトン水車で90~93%、カプラン水車で90~95%程度の最高効率を達成しています。水車効率は流量や落差の変化に対して特性的な変化を示し、定格点以外では効率が低下するため、運用条件に応じた効率特性の把握が重要です。

水車効率の構成要素として、水力効率、容積効率、機械効率があります。水力効率は羽根車での理論的なエネルギー変換効率を表し、羽根車の形状や水の流入・流出角度により決まります。容積効率は羽根車を通過する有効流量と全流量の比で、内部漏れや隙間流れの影響を表します。機械効率は軸受や軸封装置での機械的損失を考慮した効率です。これらの効率の積が水車の総合効率となります。

水車効率の構成 \begin{align} \eta_{turbine} &= \eta_{hydraulic} \times \eta_{volumetric} \times \eta_{mechanical} \\[5pt] \eta_{hydraulic} &= \frac{P_{theoretical}}{P_{water}} \\[5pt] \eta_{volumetric} &= \frac{Q_{effective}}{Q_{total}} \\[5pt] \eta_{mechanical} &= \frac{P_{shaft}}{P_{hydraulic}} \end{align}

ここで、η_hydraulic:水力効率、η_volumetric:容積効率、η_mechanical:機械効率、P:出力、Q:流量

発電機効率は機械的回転エネルギーを電気エネルギーに変換する際の効率です。現代の水力発電用同期発電機は非常に高効率で、大容量機では97~98%以上、中小容量機でも95~97%の効率を実現しています。発電機の損失は、銅損(電機子巻線および界磁巻線の抵抗損失)、鉄損(電機子鉄心の磁気損失)、機械損(軸受や冷却装置の損失)、漂遊負荷損に分類されます。これらの損失は負荷率や運転条件により変化します。

同期発電機(Synchronous Generator):水力発電で一般的に使用される発電機。回転速度が系統周波数と同期し、高効率で安定した発電が可能。

効率特性曲線は、水車や発電機の負荷率に対する効率の変化を表します。一般的に、定格負荷の80~100%で最高効率となり、負荷率が低下すると効率も低下します。水車では部分負荷時の効率低下が比較的緩やかですが、発電機では軽負荷時の効率低下が顕著になります。年間を通じた運転を考慮すると、定格点だけでなく部分負荷時の効率も重要な設計要素となります。

例題3:総合効率の計算
流量20m³/s、有効落差80mの発電所で、水車効率92%、発電機効率96%、変圧器効率98%の場合の発電出力を求めよ。また、水車を流量25m³/sで運転した場合、水車効率が88%に低下するとき、この流量での発電出力を求めよ。

解答:

定格運転時(Q=20m³/s):
理論出力 = 9.8 × 20 × 80 = 15,680 kW
総合効率 = 0.92 × 0.96 × 0.98 = 0.866
発電出力 = 15,680 × 0.866 = 13,579 kW

過負荷運転時(Q=25m³/s):
理論出力 = 9.8 × 25 × 80 = 19,600 kW
総合効率 = 0.88 × 0.96 × 0.98 = 0.828
発電出力 = 19,600 × 0.828 = 16,229 kW

可変速運転は水車効率の向上と運用範囲の拡大を目的とした技術です。従来の同期発電機では回転速度が系統周波数で固定されるため、流量変化時の効率低下が避けられませんでした。可変速システムでは、電力変換装置により回転速度を自由に制御でき、様々な流量条件で最適効率での運転が可能となります。特に揚水発電所や流量変動の大きい発電所では、可変速運転による効率向上効果が大きくなります。

効率の向上対策として、水車では羽根車の形状最適化、表面仕上げの改善、隙間調整の精密化などが行われています。発電機では、高効率磁石材料の使用、損失低減設計、冷却システムの改善などにより効率向上が図られています。また、運転方法の最適化により、年間平均効率の向上も重要な課題となっています。設備の経年劣化による効率低下も考慮し、適切な保守管理により性能維持を図ることが必要です。

4. 水力発電所の出力計算

水力発電所の出力計算は、発電所の性能評価、経済性検討、系統計画において基本となる重要な技術です。出力は理論出力と実際出力に分けて考えられ、理論出力は水の持つエネルギーから算出される理論値、実際出力は各種効率を考慮した実用値です。出力計算では、瞬時出力、最大出力、年間発電量など、時間軸を考慮した様々な指標を用いて発電所の特性を評価します。また、河川流況の変動や設備の運用条件を反映した現実的な出力予測が重要となります。

基本出力式において、水力発電の出力は P = ρgQHη で表されます。この式で、ρ(水の密度)とg(重力加速度)は定数として扱えるため、実用的には P = 9.8QHη [kW] として計算されます。ここで、Q[m³/s]は使用流量、H[m]は有効落差、ηは総合効率です。この基本式を基に、様々な運転条件での出力を計算し、発電所の性能を評価します。

水力発電出力の実用計算式 \begin{align} P &= 9.8 \times Q \times H \times \eta \quad \text{[kW]} \\[5pt] P_{max} &= 9.8 \times Q_{max} \times H_{rated} \times \eta_{rated} \\[5pt] E_{annual} &= \sum_{i=1}^{365} P_i \times 24 \quad \text{[kWh]} \end{align}

ここで、P:出力[kW]、Q:流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η:総合効率、P_max:最大出力、E_annual:年間発電量

最大出力は水車の定格容量で決定されます。水車の定格流量と定格落差における最大出力が発電所の設備容量となります。ただし、実際の運転では河川流量や系統の制約により、常に最大出力で運転できるとは限りません。最大使用流量は水車容量、取水能力、水利権などにより制限され、有効落差は季節的な貯水位変動や流量変化により変動します。これらの要因を考慮した実用的な最大出力の評価が重要です。

年間発電量の計算では、月別または日別の流況データを用いて詳細な検討を行います。流れ込み式発電所では自然流量と最大使用流量の小さい方を使用流量とし、調整池式では貯水池運用を考慮した流量配分を行います。各期間の流量、落差、効率から出力を計算し、それを積算して年間発電量を求めます。豊水年、平水年、渇水年の流況を用いて、発電量の変動幅も評価します。

設備利用率(Capacity Factor):年間発電量を最大出力による年間最大可能発電量で除した値。水力発電所の稼働特性を表す重要な指標。
例題4:年間発電量の計算
最大出力10MW、年間平均出力6MW、年間運転時間8000時間の水力発電所について、年間発電量と設備利用率を求めよ。

解答:

年間発電量:
E_annual = 6MW × 8000h = 48,000 MWh

年間最大可能発電量:
E_max = 10MW × 8760h = 87,600 MWh

設備利用率:
CF = 48,000/87,600 = 0.548 = 54.8%

出力変動の要因として、河川流量の変動が最も重要です。季節変動、降雨パターン、融雪、渇水などにより流量が変化し、それに伴って出力も変動します。また、貯水位の変動による落差変化、水温による水の密度変化、設備の経年劣化による効率低下なども出力に影響します。これらの変動要因を適切に予測し、運用計画に反映することで、安定した電力供給と最適な発電所運用が可能となります。

出力調整運転では、電力需要に応じて発電出力を制御します。調整池式や貯水池式発電所では、貯水量に余裕がある限り、流量調整により出力を変化させることができます。ただし、水車効率は負荷率により変化するため、部分負荷運転時の効率低下を考慮する必要があります。また、頻繁な出力変更は設備に負担をかけるため、設備寿命や保守費用への影響も考慮した運用が重要です。

例題5:部分負荷時の出力計算
定格流量30m³/s、定格落差100m、定格効率90%の水力発電所において、流量20m³/sで運転する場合の出力を求めよ。この流量での効率は85%とする。

解答:

定格出力:
P_rated = 9.8 × 30 × 100 × 0.90 = 26,460 kW

部分負荷時の出力:
P_partial = 9.8 × 20 × 100 × 0.85 = 16,660 kW

負荷率:20/30 = 66.7%
出力比:16,660/26,460 = 63.0%
(効率低下により出力比が負荷率を下回る)

現代の水力発電所では、コンピュータシステムによる自動出力制御が一般的です。河川流量、貯水位、電力需要、系統周波数などの情報を総合的に処理し、最適な出力で自動運転されます。また、気象予測情報を活用した予測制御により、効率的な貯水池運用と安定した電力供給を両立させる技術も導入されています。これらの高度制御技術により、水力発電所の価値は単なる発電設備から電力系統の調整力としてますます重要になっています。

第3節の重要ポイント整理
  • 基本理論:P=ρgQHη、ベルヌーイの定理、連続の式
  • 有効落差:全落差から水頭損失を差し引いた実効値
  • 水頭損失:摩擦損失と局所損失、ダルシー・ワイスバッハ式
  • 流量特性:流況曲線、豊水・平水・低水・渇水流量
  • 水車効率:水力・容積・機械効率の積、90-95%
  • 発電機効率:同期発電機、95-98%の高効率
  • 出力計算:P=9.8QHη[kW]、年間発電量、設備利用率
第3節の試験対策ポイント
  • 基本公式:P=9.8QHηによる出力計算の習熟
  • 損失計算:摩擦損失と局所損失の計算方法
  • 効率計算:各種効率の定義と総合効率の求め方
  • 年間発電量:流況を考慮した発電量計算
  • 設備利用率:容量係数の定義と計算
  • 数値計算:有効数字と単位変換の注意
  • 実用計算:実際の運転条件を反映した出力評価

第4節 水車の種類

1. 衝動水車(ペルトン水車)

ペルトン水車は衝動水車の代表的な形式で、高落差・小流量の条件に適した水車です。1870年代にアメリカのライマン・ペルトンによって発明され、現在でも高落差発電所で広く使用されています。ペルトン水車の基本原理は、高圧の水をノズルから噴射して高速の水ジェットを作り、この水ジェットをバケット(水受け)で受けて回転力を得るものです。水の運動エネルギーを直接機械エネルギーに変換する衝動原理により、高い効率と優れた調整性能を実現しています。

ペルトン水車の構造は、ランナー、バケット、ノズル、偏向器、ケーシングから構成されます。ランナーは水平軸または垂直軸に取り付けられた円盤状の回転体で、その周囲に多数のバケットが配置されています。バケットは中央に分割刃(スプリッター)を持つ独特の形状で、水ジェットを効率よく左右に分割して排出します。ノズルは水圧管路からの水を高速ジェットに変換する重要な部品で、ニードル弁により流量を精密に制御できます。

衝動水車(Impulse Turbine):水の運動エネルギーを直接回転力に変換する水車。大気圧中で動作し、ランナー周囲は水で満たされない。ペルトン水車が代表例。
ペルトン水車の理論式 \begin{align} v_1 &= C_v \sqrt{2gH} \\[5pt] u &= \frac{\pi D n}{60} \\[5pt] \eta_{max} &= \frac{1}{2}\left(1 + \cos\beta\right)\left(1 - \frac{u}{v_1}\right) \\[5pt] \frac{u}{v_1} &= 0.45 \sim 0.48 \text{(最適速度比)} \end{align}

ここで、v₁:ノズル出口速度[m/s]、C_v:速度係数(0.97~0.99)、H:有効落差[m]、u:バケット速度[m/s]、D:ランナー径[m]、n:回転数[min⁻¹]、β:水ジェット偏向角

ペルトン水車の特徴として、優れた部分負荷効率があります。ノズルのニードル弁により流量を連続的に調整でき、広い負荷範囲で高効率を維持できます。また、複数のノズルを持つ多ノズル形式では、ノズルの個別制御により更に細かい出力調整が可能です。水車は大気圧中で動作するため、キャビテーションの発生がなく、高標高地での使用も可能です。始動性も良好で、無負荷から定格負荷まで迅速に移行できます。

適用範囲は、一般的に有効落差200m以上、比速度10~40の高落差・小流量条件です。国内では黒部川第四発電所(335m)、海外ではスイスのビーバートン発電所(1,770m)など、世界最高クラスの高落差発電所で採用されています。ペルトン水車は単機容量も大きく、最大で700MW級の大容量機も建設されており、高落差地点での効率的な電力開発に不可欠な技術となっています。

例題1:ペルトン水車の設計計算
有効落差600m、流量5m³/s、回転数500min⁻¹のペルトン水車について、ノズル出口速度、最適バケット速度、必要ランナー径を求めよ。速度係数を0.98とする。

解答:

ノズル出口速度:
\begin{align} v_1 &= C_v \sqrt{2gH} \\[5pt] &= 0.98 \times \sqrt{2 \times 9.8 \times 600} \\[5pt] &= 0.98 \times 108.4 = 106.2 \text{ [m/s]} \end{align} 最適バケット速度(速度比0.46として):
u = 0.46 × 106.2 = 48.9 m/s

必要ランナー径:
\begin{align} D &= \frac{60u}{\pi n} \\[5pt] &= \frac{60 \times 48.9}{\pi \times 500} \\[5pt] &= 1.87 \text{ [m]} \end{align}

運転制御では、ニードル弁による流量調整が基本となります。出力増加時はニードル弁を開いて流量を増加し、出力減少時は弁を閉じて流量を減少させます。この調整は自動制御により迅速かつ精密に行われ、系統周波数や負荷指令に応じた出力制御が可能です。多ノズル形式では、段階的なノズル開閉により大幅な出力調整も可能で、系統安定化に重要な役割を果たします。

近年の技術発展として、CFD(数値流体解析)を活用したバケット形状の最適化、高強度材料の採用による大型化、精密加工技術による効率向上などが図られています。また、デジタル制御技術の導入により、運転の自動化と最適化が進んでおり、無人運転も一般的となっています。環境対策として、運転時の騒音低減や水しぶき対策なども重要な技術課題として取り組まれています。

2. 反動水車(フランシス水車・カプラン水車)

反動水車は水の圧力エネルギーと運動エネルギーの両方を利用する水車で、フランシス水車とカプラン水車が代表的な形式です。反動水車の基本原理は、羽根車(ランナー)を水で満たし、水の流れによって生じる圧力差と運動量変化により回転力を得るものです。水の全エネルギーを段階的に回転エネルギーに変換するため、中落差から低落差の広い範囲で高効率を実現できます。世界の水力発電所の大部分で反動水車が採用されており、水力発電技術の中核を成しています。

フランシス水車は中落差用の代表的な反動水車で、1849年にイギリスのジェームス・フランシスが実用化しました。混流形と呼ばれる独特の水流形態を持ち、水はランナーに径方向から流入し、軸方向に流出します。ケーシング、ステーベーン、ガイドベーン、ランナー、ドラフトチューブから構成され、各部で水の流れを制御して効率的にエネルギー変換を行います。フランシス水車は中落差(20~200m)・中流量の条件で最も効率が良く、我が国の水力発電所で最も多く採用されています。

反動水車(Reaction Turbine):水の圧力エネルギーと運動エネルギーの両方を利用する水車。羽根車が水で満たされ、圧力変化により回転力を得る。フランシス水車とカプラン水車が代表例。

カプラン水車は低落差用の軸流反動水車で、1913年にオーストリアのヴィクトル・カプランが発明しました。プロペラ形のランナーを持ち、水は軸方向に流入・流出します。ランナー羽根が可動式で、流量に応じて羽根角度を調整できる点が大きな特徴です。この羽根角調整機構により、広い流量範囲で高効率を維持でき、河川の自然流量変動に対応した効率的な運転が可能です。低落差(20m未満)・大流量の条件で威力を発揮し、平野部の河川や農業用水路での発電に適しています。

反動水車の基本式 \begin{align} N_s &= \frac{n\sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[5pt] \eta &= 1 - \frac{C_2^2}{2gH} \\[5pt] Q &= \pi D_2 B_2 C_{2r} \\[5pt] P &= \rho g Q H \eta \end{align}

ここで、N_s:比速度、n:回転数[min⁻¹]、P:出力[kW]、H:有効落差[m]、C₂:絶対速度[m/s]、D₂:ランナー出口径[m]、B₂:ランナー出口幅[m]

比速度による分類は水車選定の重要な指標です。比速度N_s = n√P/H^5/4により水車型式が決まり、一般的にN_s = 50~300がフランシス水車、N_s = 300~1000がカプラン水車の適用範囲とされます。比速度が小さい(高落差・小流量)ほど径流に近い形状となり、比速度が大きい(低落差・大流量)ほど軸流に近い形状となります。この関係により、最適な水車型式を理論的に選定することができます。

例題2:比速度による水車選定
有効落差45m、出力15MW、回転数200min⁻¹の水力発電所について、比速度を計算し、適切な水車型式を選定せよ。

解答:

比速度の計算:
\begin{align} N_s &= \frac{n\sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[5pt] &= \frac{200 \times \sqrt{15000}}{45^{5/4}} \\[5pt] &= \frac{200 \times 122.5}{45^{1.25}} \\[5pt] &= \frac{24500}{169.7} = 144.3 \end{align} 適用水車:N_s = 144.3は50~300の範囲にあるため、フランシス水車が適している。

フランシス水車の運転制御は、ガイドベーンの開度調整により行われます。ガイドベーンは羽根車の周囲に配置された可動翼で、開度を変えることで流量と流入角を同時に制御し、効率的な出力調整を実現します。現代のフランシス水車では、油圧サーボ機構による高精度な制御が行われ、負荷変動に対する応答性も向上しています。

カプラン水車の二重調整機構は、ガイドベーン開度とランナー羽根角の組み合わせ制御により、従来の水車では実現できない優れた効率特性を実現します。流量変化に対してガイドベーンで一次調整を行い、さらにランナー羽根角で最適化を図ることで、30~100%の広い負荷範囲で90%以上の高効率を維持できます。この特性により、流量変動の大きい河川でも年間を通じて高効率運転が可能となります。

3. 水車の選定

水車の選定は水力発電所の性能と経済性を決定する最重要な設計要素です。選定にあたっては、有効落差、流量、比速度、効率特性、信頼性、経済性、環境適合性などを総合的に検討する必要があります。基本的な選定指針として、落差と流量から決まる比速度により水車型式を決定し、さらに詳細な運転条件や制約条件を考慮して最終的な仕様を決定します。適切な水車選定により、長期間にわたって安定かつ効率的な発電が可能となります。

基本選定基準として、まず有効落差により大まかな水車型式を決定します。高落差(200m以上)ではペルトン水車、中落差(20~200m)ではフランシス水車、低落差(20m未満)ではカプラン水車またはプロペラ水車が基本的な選択となります。ただし、この境界は絶対的なものではなく、流量や運転条件により多少の変動があります。比速度による詳細な検討により、最適な水車型式と主要寸法を決定します。

水車選定の基本指標 \begin{align} N_s &= \frac{n\sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[5pt] D_{specific} &= \frac{D\sqrt{H}}{Q^{0.5}} \\[5pt] \sigma &= \frac{NPSH}{H} \\[5pt] \eta_{annual} &= \frac{\sum P_i \eta_i t_i}{\sum P_i t_i} \end{align}

ここで、D_specific:比径、σ:キャビテーション係数、NPSH:有効吸込みヘッド、η_annual:年平均効率

効率特性の評価では、定格点効率だけでなく、部分負荷特性や年間平均効率を重視します。実際の運転では流量変動により部分負荷での運転時間が長いため、広い運転範囲での効率特性が重要となります。フランシス水車は定格近傍で最高効率を示しますが、部分負荷では効率低下が見られます。カプラン水車は二重調整により広範囲で高効率を維持でき、流量変動の大きい地点で有利となります。

キャビテーション(Cavitation):水の圧力が飽和蒸気圧以下になることで蒸気泡が発生し、その崩壊により羽根車が損傷する現象。低落差水車で特に注意が必要。

キャビテーション対策は、特に低落差水車で重要な検討事項です。水車内で局所的に圧力が低下すると水の沸点が下がり、蒸気泡が発生します。この泡が高圧部で崩壊すると衝撃波により羽根車表面が侵食されます。キャビテーション防止のため、水車の設置高さ(吸込みヘッド)を適切に設定し、ドラフトチューブの設計を最適化する必要があります。現代の水車では、CFD解析により詳細な圧力分布を検討し、キャビテーション発生を予測・防止しています。

例題3:水車型式の比較検討
有効落差50m、最大流量80m³/s、最小流量20m³/sの発電所で、フランシス水車とカプラン水車を比較検討せよ。回転数を150min⁻¹とする。

解答:

最大出力:P = 9.8 × 80 × 50 × 0.9 = 35,280 kW
最小出力:P = 9.8 × 20 × 50 × 0.9 = 8,820 kW

比速度(最大出力時):
N_s = 150 × √35280 / 50^1.25 = 150 × 187.8 / 177.8 = 158.4

判定:N_s = 158.4は境界域にあり、流量変動4:1を考慮するとカプラン水車が有利。
カプラン水車の二重調整により、広い流量範囲で高効率を維持可能。

経済性評価では、初期建設費、運転維持費、発電収入を総合的に比較します。高効率水車は建設費が高くなりますが、長期的な発電量増加により投資回収が可能です。また、信頼性の高い水車は故障率が低く、維持費削減効果があります。ライフサイクルコスト評価により、50年程度の運転期間を通じた経済性を検討し、最適な水車を選定します。

環境適合性も現代の水車選定で重要な要素となっています。魚類に優しい水車設計、運転騒音の低減、景観への配慮などが求められます。特に、魚道機能を持つ水車や、魚類の損傷を最小化する羽根車形状の開発が進んでいます。また、小水力発電では標準化された量産型水車により、コスト削減と環境負荷軽減を両立する取り組みも行われています。

4. 水車の特性と制御

水車の特性と制御は、水力発電所の運転性能と電力系統への貢献度を決定する重要な要素です。水車は単なる回転機械ではなく、流量・落差・回転数・効率の複雑な関係を持つシステムであり、これらの特性を正確に把握し、適切に制御することで最適な発電運転が可能となります。現代の水車制御は、デジタル技術の発達により高度に自動化され、系統周波数調整や負荷追従など、電力系統安定化において重要な役割を果たしています。

水車の運転特性は、効率特性、出力特性、流量特性により表現されます。効率特性は負荷率に対する効率の変化を示し、水車型式により異なる特徴を持ちます。ペルトン水車は部分負荷でも比較的高効率を維持し、フランシス水車は定格近傍で最高効率となり、カプラン水車は二重調整により広範囲で高効率を実現します。これらの特性を理解し、運転条件に応じた最適制御を行うことで、年間を通じた高効率運転が可能となります。

水車制御の基本式 \begin{align} \frac{dN}{dt} &= \frac{1}{T_m}(P_m - P_e) \\[5pt] P_m &= K_p Q H \\[5pt] T_w &= \frac{LV}{gHA} \\[5pt] \Delta f &= -\frac{1}{R} \Delta P_L \end{align}

ここで、N:回転数、T_m:慣性時定数、P_m:機械出力、P_e:電気出力、T_w:水撃時定数、L:水圧管路長、V:流速、A:管路断面積、R:調速機のドループ

ガバナ制御システムは水車の回転数と出力を制御する中核装置です。系統周波数の変動を検出し、ガイドベーンやニードル弁を自動調整して水車出力を制御します。現代のガバナはデジタル制御により高精度な制御が可能で、周波数調整、負荷追従、出力制限、緊急停止などの多様な制御機能を持ちます。PID制御やファジィ制御などの高度な制御アルゴリズムにより、安定かつ迅速な制御応答を実現しています。

ガバナ(Governor):水車の回転数を制御する調速装置。系統周波数に応じてガイドベーンを自動調整し、水車出力を制御する。現代はデジタル制御が主流。

水撃現象とサージタンクは、水車制御において重要な考慮事項です。ガイドベーンの急閉により水圧管路内で圧力波が発生し、これが往復することで水撃現象が生じます。過大な水撃圧は設備を損傷する危険があるため、サージタンクの設置や制御速度の調整により対策を行います。サージタンクは水圧管路途中に設けられる開放水槽で、流量変化時の圧力変動を緩和し、水撃圧を低減する重要な設備です。

例題4:水撃圧の計算
管路長2000m、管径3m、流速4m/s、音速1200m/sの水圧管路で、ガイドベーンを瞬間的に全閉した場合の水撃圧上昇を求めよ。

解答:

ジューコフスキーの式による水撃圧:
\begin{align} \Delta H &= \frac{a \Delta V}{g} \\[5pt] &= \frac{1200 \times 4}{9.8} \\[5pt] &= 489.8 \text{ [m]} \end{align} この水撃圧は非常に大きく、実際には段階的な閉操作や
サージタンクの設置により対策が必要。

系統連系制御では、水力発電所が電力系統に与える影響を考慮した制御が重要です。系統周波数調整では、周波数低下時に出力増加、周波数上昇時に出力減少を自動的に行います。負荷追従制御では、需要変動に応じた出力調整を行い、系統安定化に貢献します。また、他の発電所との協調制御により、系統全体の最適運用を実現する自動給電制御(AGC)への参加も重要な機能となっています。

運転の自動化は現代の水力発電所の標準となっています。河川流量、貯水位、電力需要、系統状況などの情報を総合的に処理し、最適な運転計画を自動的に実行します。無人化運転により、24時間365日の安定した電力供給と効率的な発電所運用を実現しています。また、予測技術の活用により、気象予報から河川流量を予測し、事前の運転計画調整も行われています。

保護制御システムにより、水車と発電機の安全を確保します。過速度保護、振動監視、軸受温度監視、油圧異常監視などの各種保護機能により、異常時の設備損傷を防止します。また、電力系統の事故時には、高速度で系統から切り離し、単独運転への移行や緊急停止を行う保護制御も重要な機能です。これらの保護システムにより、長期間にわたる安全で信頼性の高い運転を実現しています。

水車制御の主要機能
  • 周波数調整:系統周波数に応じた自動出力制御
  • 負荷追従:需要変動に対応した出力調整
  • 水撃対策:サージタンクと制御速度調整
  • 保護制御:過速度、振動、温度などの監視保護
  • 最適運転:効率最大化と系統安定化の両立
第4節の重要ポイント整理
  • ペルトン水車:衝動水車、高落差用、N_s=10-40、最適速度比0.46
  • フランシス水車:反動水車、中落差用、N_s=50-300、混流形
  • カプラン水車:反動水車、低落差用、N_s=300-1000、二重調整
  • 比速度:N_s=n√P/H^5/4、水車選定の基本指標
  • 効率特性:負荷率と効率の関係、年間平均効率
  • 制御システム:ガバナ、水撃対策、系統連系制御
第4節の試験対策ポイント
  • 水車分類:衝動・反動の原理と各水車の特徴
  • 比速度計算:N_s=n√P/H^5/4による水車選定
  • 適用範囲:落差と比速度による水車型式の判定
  • 効率特性:各水車の負荷特性と運転範囲
  • 制御原理:ガバナ制御と系統周波数調整
  • 水撃現象:原因と対策、サージタンクの役割
  • 実用計算:設計条件からの最適水車選定

第5節 水力発電所

1. 水力発電所の構成要素

水力発電所は河川の水力エネルギーを電気エネルギーに変換する複合的なシステムです。その構成要素は、取水設備、導水設備、水圧管路、発電所建屋、水車発電機、変電設備、放水設備から成り立っています。これらの設備が有機的に連携することで、河川の流水エネルギーを効率的に電力に変換し、電力系統に供給します。水力発電所の設計では、立地条件、水文条件、環境条件、経済性を総合的に考慮し、最適なシステム構成を決定する必要があります。

水力発電の基本原理は、位置エネルギーを持つ水を高所から低所に流下させ、その運動エネルギーを水車で回転エネルギーに変換し、発電機で電気エネルギーに変換することです。発電出力は流量Qと有効落差Hの積に比例し、P = 9.8QHη(kW)で表されます。この基本式から分かるように、発電出力を増加させるには流量の増加、落差の増加、効率の向上が有効です。水力発電所の計画では、これらの要素を最適化することが重要となります。

有効落差(Effective Head):総落差から各種損失水頭を差し引いた実際に発電に利用できる落差。取水位と放水位の差から管路損失、流入・流出損失を減じたもの。

発電所の分類は、立地条件と構造により多様な形式があります。ダム式発電所は河川にダムを建設して人工的に落差を作る方式で、流込み式、調整池式、貯水池式に分類されます。水路式発電所は河川の自然落差を利用する方式で、導水路により上流から取水し、下流で放水します。揚水式発電所は上下2つの貯水池を持ち、電力需要の少ない時間帯に上池に揚水し、需要の多い時間帯に発電する蓄電機能を持つ特殊な形式です。

水力発電の基本式 \begin{align} P &= 9.8 Q H \eta \quad \text{[kW]} \\[5pt] H &= H_g - h_f - h_i - h_o \\[5pt] h_f &= f \frac{L}{D} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] \eta &= \eta_t \times \eta_g \times \eta_{tr} \end{align}

ここで、P:出力[kW]、Q:流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η:総合効率、H_g:総落差[m]、h_f:管路損失[m]、h_i:流入損失[m]、h_o:流出損失[m]

発電所建屋の構造は、立地条件と設備規模により決定されます。地上式発電所は平地や緩傾斜地に建設され、建設が容易で保守性に優れます。地下式発電所は山間部や都市部で採用され、景観保護や用地節約の利点があります。半地下式は両者の中間的な形式で、地形条件に応じて選択されます。発電所建屋には、水車発電機室、制御室、変電室、予備品庫、管理室などの諸室が配置され、効率的な運転と保守が可能な設計とされます。

水車発電機の配置は、水車型式と発電所規模により決まります。竪軸配置は敷地面積を節約でき、大容量機に適しています。横軸配置は保守性に優れ、中小容量機で採用されます。複数台設置の場合は、各機の独立性を確保し、部分運転や保守時の対応を考慮した配置とします。また、クレーン設備により主要機器の搬入・搬出が可能な構造とし、計画的な保守作業を可能とします。

例題1:発電出力の計算
流量25m³/s、総落差120m、管路損失8m、流入・流出損失2mの水力発電所で、水車効率90%、発電機効率95%の場合の発電出力を求めよ。

解答:

有効落差:
H = 120 - 8 - 2 = 110 m

総合効率:
η = 0.90 × 0.95 = 0.855

発電出力:
\begin{align} P &= 9.8 \times Q \times H \times \eta \\[5pt] &= 9.8 \times 25 \times 110 \times 0.855 \\[5pt] &= 22,899 \text{ [kW]} = 22.9 \text{ [MW]} \end{align}

変電設備は発電機で発生した電力を系統電圧に昇圧し、送電線に送り出す重要な設備です。主変圧器、開閉設備、保護装置、制御装置から構成され、発電所の安全で確実な系統連系を実現します。近年はGIS(ガス絶縁開閉装置)の採用により、変電設備の小型化と信頼性向上が図られています。また、配電級の小水力発電所では、パッケージ型変電設備により、設備の標準化とコスト削減が進んでいます。

制御設備は発電所の運転を自動化し、効率的で安全な発電を実現します。中央制御装置、データ収集システム、監視制御システム、保護制御システムから構成され、無人運転を可能とします。現代の水力発電所では、デジタル技術とネットワーク技術により、遠隔監視制御や予防保全システムが導入され、運転の高度化が図られています。また、再生可能エネルギーの大量導入に対応し、系統安定化機能の強化も重要な技術課題となっています。

2. 取水設備と導水設備

取水設備と導水設備は、河川の流水を効率的に発電所に導く重要な施設です。取水設備は河川から必要な流量を確実に取水し、土砂や流木などの混入を防ぐ機能を持ちます。導水設備は取水した水を発電所まで輸送し、水圧管路に供給します。これらの設備の設計では、河川の水文特性、地形条件、環境条件を考慮し、経済性と信頼性を両立させることが重要です。特に、洪水時の安全性と渇水時の取水確保は、設計上の重要な検討事項となります。

取水堰の構造と機能について、取水堰は河川を横断して設けられる低いダムで、河川水位を上昇させて確実な取水を可能とします。固定堰と可動堰があり、河川の流量変動や洪水流量に応じて選択されます。固定堰は構造が簡単で維持費が安価ですが、洪水時の流下能力に制約があります。可動堰はゲートにより開閉でき、洪水時の流下能力が大きく、河川環境への影響も小さくできますが、建設費と維持費が高くなります。

取水堰(Intake Weir):河川を横断して設けられる堰で、河川水位を上昇させて取水を可能とする。固定堰と可動堰があり、河川条件により選択される。

取水口と除塵設備は、必要流量を確実に取水し、土砂や流木の混入を防ぐ重要な設備です。取水口は河川の左右岸または中央部に設置され、流況と河床変動を考慮した位置に設けられます。除塵設備は、粗目のバースクリーンと細目のトラッシュラックから構成され、段階的に流木や塵芥を除去します。自動清掃装置により、定期的な清掃作業を自動化し、取水の連続性を確保します。近年は、魚類の迷入を防ぐ魚類スクリーンの設置も重要な環境対策となっています。

取水設備の設計式 \begin{align} Q &= C_d B H^{3/2} \\[5pt] h_s &= \frac{V^2}{2g} \\[5pt] A &= \frac{Q}{V} \\[5pt] L &= \frac{Q}{\mu \sqrt{2gh}} \end{align}

ここで、Q:流量[m³/s]、C_d:流量係数、B:堰幅[m]、H:越流水頭[m]、h_s:流速水頭[m]、V:流速[m/s]、A:取水口面積[m²]、L:取水口幅[m]、μ:流量係数

沈砂池の役割と設計について、沈砂池は取水した河川水から土砂を除去する重要な施設です。河川水に含まれる土砂は水車や配管を摩耗させるため、発電設備保護の観点から除去が必要です。沈砂池は流速を低下させることで土砂を沈降分離し、清浄な水を下流に送ります。設計では、除去対象となる土砂の粒径、沈降速度、必要滞留時間を検討し、適切な池の寸法を決定します。また、堆積土砂の排除設備も重要な構成要素となります。

例題2:沈砂池の設計
流量15m³/s、除去対象土砂の沈降速度2cm/s、池幅10m、池深3mの沈砂池について、必要な池長を求めよ。

解答:

池内流速:
V = Q/(B×D) = 15/(10×3) = 0.5 m/s

土砂の沈降時間:
t = D/w = 3/0.02 = 150 s

必要池長:
\begin{align} L &= V \times t \\[5pt] &= 0.5 \times 150 \\[5pt] &= 75 \text{ [m]} \end{align}

導水路の種類と特徴について、導水路は取水地点から発電所までの水の輸送路で、開水路、水路トンネル、圧力トンネル、管路などの形式があります。開水路は建設費が安価で保守が容易ですが、用地確保と漏水対策が課題となります。水路トンネルは地形の制約を受けにくく、長距離導水に適していますが、建設費が高くなります。圧力トンネルは高い水圧に耐える構造で、地下深部での導水が可能です。管路は急勾配地形に適し、大きな圧力損失を生じる場合があります。

ヘッドタンクとフォアベイは、導水路の終端に設けられる調整池です。ヘッドタンクは圧力導水路の終端に設置され、水圧管路への水の供給を安定化します。フォアベイは開水路の終端に設置され、水位変動の緩和と水車への安定した給水を行います。これらの施設は、水車の負荷変動に対する水位変動を抑制し、効率的な発電運転を可能とします。また、保守時の水抜きや緊急時の水量調整機能も持ちます。

フォアベイ(Forebay):導水路の終端に設けられる前池。水位変動を緩和し、水圧管路への安定した給水を行う。ヘッドタンクとも呼ばれる。

導水施設の損失計算は、有効落差の算定において重要です。導水路の摩擦損失、局部損失、流入・流出損失を正確に計算し、設計流量での損失を最小化する必要があります。開水路では Manning の粗度係数を用いて摩擦損失を計算し、管路では Darcy-Weisbach の式により計算します。また、取水口、曲がり部、断面変化部での局部損失も考慮し、総合的な損失評価を行います。

環境対策と魚道は、現代の水力開発において重要な検討事項です。取水堰による河川の連続性阻害を軽減するため、魚道の設置が一般的となっています。魚道の種類には、階段式、傾斜隔壁式、らせん式などがあり、対象魚種と河川条件に応じて選択されます。また、河川維持流量の確保により、下流河川の環境保全も重要な設計条件となっています。近年は、魚類の行動特性を考慮した効果的な魚道設計技術の開発が進んでいます。

3. 水圧管路と放水

水圧管路は導水設備から供給された水を高圧で水車に導く重要な設備です。水圧管路の設計では、内部圧力、外部荷重、地震荷重、温度変化に対する構造安全性を確保するとともに、水撃圧対策、支持構造、伸縮継手などの詳細設計が重要となります。また、管路材料の選定、防食対策、保守性の確保も長期運用の観点から重要な検討事項です。水圧管路の良否は発電所の安全性と経済性に直結するため、慎重な設計と施工が求められます。

水圧管路の種類と構造について、水圧管路は設置方法により露出管、埋設管、トンネル内管路に分類されます。露出管は点検が容易で建設費が安価ですが、温度変化と地震の影響を受けやすくなります。埋設管は温度変化の影響が小さく地震時の安定性に優れますが、点検が困難で建設費が高くなります。トンネル内管路は大口径・高圧の場合に採用され、外部荷重から保護されますが、建設費は最も高くなります。

水圧管路の設計式 \begin{align} t &= \frac{PD}{2\sigma_a} + C \\[5pt] \Delta H &= \frac{a \Delta V}{g} \\[5pt] f &= \frac{64}{Re} \quad (Re < 2000) \\[5pt] f &= \frac{0.3164}{Re^{0.25}} \quad (Re > 4000) \end{align}

ここで、t:管厚[mm]、P:内圧[Pa]、D:管径[m]、σ_a:許容応力[Pa]、C:腐食代[mm]、ΔH:水撃圧[m]、a:音速[m/s]、ΔV:流速変化[m/s]、f:摩擦係数

管路材料と設計圧力の選定は、使用条件と経済性を考慮して決定されます。鋼管は高圧・大口径に適し、加工性と施工性に優れますが、防食対策が重要となります。ダクタイル鋳鉄管は中圧・中口径に適し、耐食性に優れますが、厚肉となりやすい特徴があります。設計圧力は、静水圧に水撃圧を加えた最大圧力とし、安全率を考慮して決定します。また、負圧対策として、外圧に対する座屈安全性も検討が必要です。

水撃圧(Water Hammer Pressure):ガイドベーンの急閉などにより管路内で発生する圧力波。ジューコフスキーの式ΔH=aΔV/gで計算される。過大な水撃圧は配管を損傷させる。

水撃現象と対策について、水撃現象は水車の負荷変動時に管路内で発生する圧力波現象で、設備の安全性に重要な影響を与えます。ガイドベーンの急閉により流速が急変すると、管路内で圧力波が発生し、これが往復することで圧力変動が生じます。過大な水撃圧は管路を損傷させる危険があるため、サージタンク、調圧水槽、エアチャンバーなどの対策設備が設置されます。また、制御速度の調整により水撃圧を低減する運転制御も重要な対策となります。

例題3:管厚の計算
内径3m、内圧1.5MPa(水頭150m相当)、材料の許容応力140MPa、腐食代3mmの鋼製水圧管について必要管厚を求めよ。

解答:

必要管厚:
\begin{align} t &= \frac{PD}{2\sigma_a} + C \\[5pt] &= \frac{1.5 \times 10^6 \times 3}{2 \times 140 \times 10^6} + 3 \\[5pt] &= \frac{4.5}{280} + 3 \\[5pt] &= 16.1 + 3 = 19.1 \text{ [mm]} \end{align} 標準管厚を考慮して20mm以上を採用。

支持構造と伸縮継手は、水圧管路の安全で安定した運用に不可欠な構造要素です。支持構造は管路重量、内圧による推力、地震荷重、温度荷重を支持し、管路の変形と移動を制御します。固定支持、案内支持、自由支持を適切に配置し、管路応力を許容値以下に制御します。伸縮継手は温度変化による管路の伸縮を吸収し、支持構造への過大な荷重を防止します。継手の種類には、伸縮管継手、ベローズ継手、球面継手などがあり、使用条件に応じて選択されます。

分岐管と合流管は、複数の水車を持つ発電所で用いられる重要な管路要素です。分岐管は主管路から各水車への分岐を行い、合流管は各水車からの放水を合流させます。分岐部では流量配分と圧力損失を考慮した設計が重要で、CFD解析により最適な形状を決定します。また、各分岐への個別制御弁の設置により、水車の個別運転と保守作業を可能とします。分岐角度、断面変化、流速分布が設計上の重要な要素となります。

放水設備と放水路は、水車を通過した水を河川に戻す重要な施設です。放水路は開水路または暗渠で構築され、放水量と洪水量を安全に流下させる能力を持つ必要があります。放水口は河川への合流点に設置され、本川の流況に影響を与えないよう設計されます。また、魚類の遡上を考慮した構造とし、河川生態系への影響を最小化します。放水設備の設計では、下流河川の流況、河床変動、環境保全を総合的に考慮する必要があります。

ドラフトチューブ(Draft Tube):反動水車の出口に設けられる拡散管。水車出口の運動エネルギーを圧力に変換し、水車効率を向上させる。吸出し高さの設定にも重要。

ドラフトチューブの機能と設計について、ドラフトチューブは反動水車に特有の設備で、水車出口の高速水流を減速して運動エネルギーを回収する重要な機能を持ちます。円錐拡散管の原理により、断面積を漸増させて流速を低下させ、運動エネルギーを圧力エネルギーに変換します。適切に設計されたドラフトチューブにより、水車効率を3~5%向上させることができます。また、水車の吸出し高さ設定において、キャビテーション防止の観点からも重要な役割を果たします。

水力発電所設備の主要損失
  • 取水損失:取水口での流入損失、スクリーン損失
  • 導水損失:開水路・管路の摩擦損失、局部損失
  • 管路損失:水圧管路の摩擦損失、曲がり損失
  • 水車損失:水車内部の流動損失、漏水損失
  • 放水損失:ドラフトチューブでの拡散損失
第5節の重要ポイント整理
  • 発電出力:P=9.8QHη、流量・落差・効率の積
  • 有効落差:総落差から各種損失を差し引いた値
  • 取水設備:取水堰、除塵設備、沈砂池の機能
  • 導水設備:開水路、トンネル、ヘッドタンクの特徴
  • 水圧管路:材料選定、水撃対策、支持構造
  • 放水設備:ドラフトチューブ、放水路の機能
第5節の試験対策ポイント
  • 発電計算:出力・効率・損失の計算問題
  • 設備構成:各設備の機能と相互関係
  • 設計条件:流量・落差・圧力の設定根拠
  • 損失評価:有効落差算定の各種損失
  • 水撃現象:原因・影響・対策の理解
  • 環境対策:魚道・維持流量の必要性
  • 経済性:建設費・維持費・効率の関係

第6節 水力発電の計算と設計

1. 水力発電所の設計計算

水力発電所の設計計算は、立地条件と運用条件を基に最適な発電システムを構築するための基礎となります。設計計算では、河川の水文データ、地形条件、電力需要、経済性を総合的に検討し、発電所規模、水車型式、主要設備仕様を決定します。特に、年間発電電力量の正確な算定は事業性評価の根幹であり、長期間の河川流量データと負荷特性を詳細に分析する必要があります。適切な設計計算により、効率的で経済的な水力発電所の実現が可能となります。

年間発電電力量の算定は、水力発電所の経済性評価において最も重要な計算です。年間発電電力量は、各月または各期間の平均流量、有効落差、運転時間、設備効率から算定されます。河川流量の季節変動、渇水年・豊水年の変動、設備の部分負荷特性を考慮し、実際の運転条件に近い条件で計算する必要があります。一般的に、10年以上の長期流量データを用いて平均的な発電電力量を算定し、さらに確率年を考慮したリスク評価も行います。

年間発電電力量の計算 \begin{align} E &= \sum_{i=1}^{12} P_i \times t_i \\[5pt] P_i &= 9.8 \times Q_i \times H \times \eta_i \\[5pt] CF &= \frac{E}{P_{max} \times 8760} \\[5pt] \eta_i &= f(Q_i/Q_{max}) \end{align}

ここで、E:年間発電電力量[kWh]、P_i:i月の平均出力[kW]、t_i:i月の時間[h]、Q_i:i月の平均流量[m³/s]、H:有効落差[m]、η_i:i月の効率、CF:設備利用率

設備利用率(Capacity Factor):年間発電電力量を最大出力と年間時間(8760h)の積で除した値。水力発電所の稼働状況を示す重要な指標。

設備利用率の計算は、水力発電所の運用効率を表す重要な指標です。設備利用率は年間発電電力量を定格出力と年間時間の積で除した値で表され、河川流量の変動特性により大きく左右されます。流込み式発電所では30~50%、調整池式では40~60%、貯水池式では50~70%程度が一般的な値となります。高い設備利用率を実現するには、適切な定格出力の設定と効率的な運用が重要です。また、複数年の変動を考慮した長期平均設備利用率により、事業性を評価します。

例題1:年間発電電力量の計算
最大出力10MW、各月の平均流量と効率が下表の水力発電所について、年間発電電力量と設備利用率を求めよ。有効落差を50mとする。
流量[m³/s]効率
1-3月150.85
4-6月250.90
7-9月180.87
10-12月120.82

解答:

各期間の出力計算:
P₁ = 9.8 × 15 × 50 × 0.85 = 6,248 kW
P₂ = 9.8 × 25 × 50 × 0.90 = 11,025 kW → 10,000 kW(出力制限)
P₃ = 9.8 × 18 × 50 × 0.87 = 7,683 kW
P₄ = 9.8 × 12 × 50 × 0.82 = 4,820 kW

年間発電電力量:
E = 6,248×2,160 + 10,000×2,184 + 7,683×2,208 + 4,820×2,208
E = 13,495 + 21,840 + 16,964 + 10,643 = 62,942 MWh

設備利用率:
CF = 62,942/(10,000×8.76) = 0.718 = 71.8%

経済性評価の手法では、建設投資の回収可能性と事業の収益性を総合的に評価します。主要な指標として、投資回収年数、内部収益率(IRR)、正味現在価値(NPV)、便益費用比(B/C)などがあります。建設費、運転維持費、発電収入をライフサイクルにわたって評価し、割引率を考慮した現在価値で比較します。水力発電は初期投資が大きく運転費が安いという特徴があるため、長期間の評価により経済性を適切に判断する必要があります。

経済性評価の基本式 \begin{align} NPV &= \sum_{t=0}^{n} \frac{CF_t}{(1+r)^t} \\[5pt] IRR &: \sum_{t=0}^{n} \frac{CF_t}{(1+IRR)^t} = 0 \\[5pt] LCOE &= \frac{\sum_{t=0}^{n} \frac{CAPEX_t + OPEX_t}{(1+r)^t}}{\sum_{t=0}^{n} \frac{E_t}{(1+r)^t}} \\[5pt] PBP &= \frac{I_0}{CF_{ave}} \end{align}

ここで、NPV:正味現在価値、CF_t:t年のキャッシュフロー、r:割引率、LCOE:均等化発電原価、CAPEX:建設費、OPEX:運転費、PBP:投資回収期間

比速度による水車選定計算は、最適な水車型式を理論的に決定する重要な手法です。比速度N_s = n√P/H^5/4により、水車の形状特性と効率特性を予測できます。ペルトン水車(N_s = 10~40)、フランシス水車(N_s = 50~300)、カプラン水車(N_s = 300~1000)の適用範囲があり、比速度計算により最適な水車型式を選定します。また、比速度から主要寸法、効率特性、キャビテーション特性も推定でき、基本設計の重要な指標となります。

例題2:比速度による水車選定
有効落差80m、最大流量40m³/s、回転数150min⁻¹の水力発電所について、最大出力、比速度を計算し、適切な水車型式を選定せよ。総合効率を88%とする。

解答:

最大出力:
P = 9.8 × 40 × 80 × 0.88 = 27,507 kW

比速度:
\begin{align} N_s &= \frac{n\sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[5pt] &= \frac{150 \times \sqrt{27507}}{80^{1.25}} \\[5pt] &= \frac{150 \times 165.8}{80^{1.25}} \\[5pt] &= \frac{24,870}{268.4} = 92.7 \end{align} 水車選定:N_s = 92.7は50~300の範囲にあるため、フランシス水車が適している。

2. 流量と水位の関係

河川の流量と水位の関係は、水力発電所の計画と運用において基礎となる重要な情報です。河川流量は降水量、融雪、流域特性により大きく変動し、この変動特性を正確に把握することが適切な発電計画の前提となります。流況曲線、確率雨量、渇水・豊水の分析により、長期的な発電可能量を予測し、設備規模と運用方法を決定します。また、地球温暖化による降水パターンの変化も考慮し、将来の流況変化への対応も重要な検討事項となります。

流況曲線の読み方について、流況曲線は河川流量の出現頻度を表すグラフで、横軸に日数、縦軸に流量をとって作成されます。豊水流量(95日)、平水流量(185日)、低水流量(275日)、渇水流量(355日)などの基準流量が定義され、水力発電所の計画において重要な指標となります。流況曲線から年間の流量分布を把握し、各流量での運転時間を推定することで、年間発電電力量の詳細な算定が可能となります。

流況曲線(Flow Duration Curve):河川流量の大きさを横軸の日数で整理したグラフ。豊水量(Q95)、平水量(Q185)、低水量(Q275)、渇水量(Q355)が定義される。
流況解析の基本式 \begin{align} Q_p &= Q_0 \left(\frac{T}{T_0}\right)^{-1/b} \\[5pt] F &= 1 - \left(\frac{Q}{Q_{max}}\right)^b \\[5pt] E &= \int_0^{365} P(Q) \cdot dt \\[5pt] CV &= \frac{\sigma}{\mu} \end{align}

ここで、Q_p:確率流量[m³/s]、T:再現期間[年]、F:累積確率、b:流況指数、CV:変動係数、σ:標準偏差、μ:平均値

渇水・豊水の影響は、水力発電の年間発電量に大きな影響を与える重要な要因です。渇水年には発電量が大幅に減少し、豊水年には発電量が増加しますが、この変動幅は河川の流況特性により異なります。一般的に、渇水年の発電量は平均年の60~80%程度まで減少し、豊水年は120~150%程度まで増加します。この変動リスクを考慮した事業計画と資金計画が重要で、確率的評価により適切なリスク管理を行う必要があります。

例題3:流況曲線による発電量計算
下表の流況データを持つ河川で、最大取水量30m³/s、有効落差60m、効率85%の発電所の年間発電電力量を求めよ。
流量[m³/s]日数[日]
50以上60
30~50120
20~30100
10~2070
10未満15

解答:

各区間の発電量計算(24時間運転):
50以上:9.8×30×60×0.85×24×60 = 192,192 MWh
30~50:9.8×30×60×0.85×24×120 = 384,384 MWh
20~30:9.8×25×60×0.85×24×100 = 300,300 MWh
10~20:9.8×15×60×0.85×24×70 = 125,125 MWh
10未満:9.8×5×60×0.85×24×15 = 18,018 MWh

年間発電電力量:
E = 192.2 + 384.4 + 300.3 + 125.1 + 18.0 = 1,020 MWh

河川流量の変動特性は、地域の気候特性、流域面積、地質条件により大きく異なります。日本の河川は、春の融雪、梅雨、台風による明確な季節変動を示し、年変動係数は0.2~0.5程度となります。また、都市化による流出特性の変化、森林伐採による保水能力の低下なども流況に影響を与えます。長期的な流量変動の把握には、30年以上の観測データの蓄積と統計解析が重要で、気候変動の影響も考慮した将来予測が求められています。

調整池容量の計算は、河川流量の変動を平準化し、安定した発電を実現するために重要です。調整池は日調整、週調整、月調整などの調整方式があり、必要容量は流況の変動特性と運用方法により決定されます。基本的な容量計算は、流入量と放流量の差の累積により求められ、最大不足量が有効貯水容量となります。また、堆砂容量、洪水調節容量も含めた総貯水容量の算定も重要な設計要素となります。

調整池(Regulating Reservoir):河川流量の日変動や週変動を調整し、安定した発電を行うための小規模な貯水池。日調整池、週調整池などがある。

3. 損失計算と効率

水力発電所の損失計算と効率評価は、発電性能の正確な予測と設備の最適化において極めて重要です。水力発電システムでは、取水から放水まで各段階で様々な損失が発生し、これらを正確に算定することで実際の発電出力を予測できます。主要な損失として、水理学的損失、機械的損失、電気的損失があり、それぞれの特性を理解し、適切な対策を講じることで総合効率の向上が可能となります。現代の高効率水力発電所では、総合効率90%以上を実現することも可能です。

各種損失の詳細計算について、水力発電所の損失は取水損失、導水損失、水圧管路損失、水車損失、発電機損失、変圧器損失に分類されます。取水損失は取水口とスクリーンでの流入損失で、設計流速により決まります。導水損失は開水路や導水トンネルでの摩擦損失と局部損失で、Manning の粗度係数とDarcy-Weisbach の式により計算されます。これらの損失を正確に算定し、有効落差を求めることが適切な出力計算の基礎となります。

各種損失の計算式 \begin{align} h_{intake} &= K_{intake} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] h_{friction} &= f \frac{L}{D} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] h_{local} &= K_{local} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] \eta_{total} &= \eta_{turbine} \times \eta_{generator} \times \eta_{transformer} \end{align}

ここで、h:損失水頭[m]、K:損失係数、V:流速[m/s]、f:摩擦係数、L:管路長[m]、D:管径[m]、η:効率

水理学的損失(Hydraulic Loss):水の流動に伴って発生する損失。摩擦損失、局部損失、流入・流出損失などがある。流速の2乗に比例する。

管路抵抗と流速の関係では、管路内の流動抵抗は Reynolds 数により層流と乱流に分類され、それぞれ異なる摩擦係数を持ちます。層流域(Re<2000)では摩擦係数f = 64/Re、乱流域(Re>4000)では Blasius の式f = 0.3164/Re^0.25 または Colebrook-White の式が用いられます。実際の水力発電所では乱流域での運転が一般的で、管壁の粗さと Reynolds 数の関数として摩擦係数が決まります。管径の選定では、建設費と損失のバランスを考慮した最適化が重要となります。

例題4:管路損失の計算
長さ1500m、内径2.5m、流量15m³/s、摩擦係数0.02の鋼管について、摩擦損失を求めよ。局部損失係数の合計を2.5とする。

解答:

管内流速:
\begin{align} V &= \frac{Q}{A} = \frac{Q}{\pi D^2/4} \\[5pt] &= \frac{15}{\pi \times 2.5^2/4} \\[5pt] &= \frac{15}{4.91} = 3.06 \text{ [m/s]} \end{align} 摩擦損失:
\begin{align} h_f &= f \frac{L}{D} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] &= 0.02 \times \frac{1500}{2.5} \times \frac{3.06^2}{2 \times 9.8} \\[5pt] &= 0.02 \times 600 \times 0.478 \\[5pt] &= 5.74 \text{ [m]} \end{align} 局部損失:
h_l = 2.5 × 3.06²/(2×9.8) = 1.19 m

全損失:h_total = 5.74 + 1.19 = 6.93 m

年間総合効率の算定は、実際の運転条件における効率特性を正確に評価する重要な指標です。年間総合効率は、各運転点での効率と運転時間を重み付けした加重平均により算定されます。水車は負荷率により効率が変化するため、流量変動の激しい河川では部分負荷での運転時間が長くなり、年間総合効率が定格効率より低下する場合があります。効率の年変動、経年変化、保守による効率回復も考慮し、ライフサイクルにわたる効率評価を行う必要があります。

年間総合効率の算定 \begin{align} \eta_{annual} &= \frac{\sum_{i=1}^{n} P_i \eta_i t_i}{\sum_{i=1}^{n} P_i t_i} \\[5pt] \eta_i &= \eta_{max} \times f\left(\frac{Q_i}{Q_{rated}}\right) \\[5pt] E_{annual} &= \sum_{i=1}^{n} P_i \eta_i t_i \\[5pt] \eta_{life} &= \frac{\sum_{y=1}^{50} E_y}{\sum_{y=1}^{50} P_{rated} \times 8760} \end{align}

ここで、η_annual:年間総合効率、P_i:i期間の出力[kW]、η_i:i期間の効率、t_i:i期間の時間[h]、E_y:y年の発電電力量[kWh]

部分負荷特性の評価は、水車型式により大きく異なる重要な特性です。ペルトン水車は部分負荷でも比較的高効率を維持し、20%負荷でも85%程度の効率を保ちます。フランシス水車は定格近傍で最高効率となり、部分負荷では効率が低下します。カプラン水車は二重調整により30~100%の広い範囲で90%以上の高効率を維持できます。河川の流況特性と水車の部分負荷特性を組み合わせ、年間を通じた効率的な運転が可能な水車選定が重要となります。

例題5:年間総合効率の計算
各負荷率における効率と年間運転時間が下表の水車について、年間総合効率を求めよ。
負荷率[%]効率[%]運転時間[h]
10092.01500
8091.52000
6089.02500
4085.02000
2078.0760

解答:

各負荷率での重み付け効率計算:
100%:1.0 × 0.920 × 1500 = 1,380
80%:0.8 × 0.915 × 2000 = 1,464
60%:0.6 × 0.890 × 2500 = 1,335
40%:0.4 × 0.850 × 2000 = 680
20%:0.2 × 0.780 × 760 = 118.56

年間総合効率:
\begin{align} \eta_{annual} &= \frac{1380 + 1464 + 1335 + 680 + 118.56}{1500 + 2000 + 2500 + 2000 + 760} \\[5pt] &= \frac{4977.56}{8760} = 0.568 = 56.8\% \end{align} 注:この値は出力重み付けした総合効率

効率向上対策では、各段階での損失低減により総合効率の向上を図ります。取水設備では適切な流速設定とスクリーン設計により流入損失を最小化し、導水設備では管路の最適径選定と表面粗さの管理により摩擦損失を低減します。水車では最新の CFD 技術による羽根形状最適化、高精度加工による表面仕上げ向上、軸受損失の低減などにより効率向上を図ります。発電機では高効率モータの採用、磁石材料の改良、巻線抵抗の低減などが効率向上に寄与します。

水力発電の主要損失項目
  • 取水損失:取水口流入損失、スクリーン損失(1~3m)
  • 導水損失:開水路・管路摩擦損失、局部損失(2~8m)
  • 水圧管路損失:摩擦損失、曲がり損失(5~15m)
  • 水車損失:流動損失、漏水損失、機械損失(効率5~12%低下)
  • 発電機損失:鉄損、銅損、機械損失(効率2~5%低下)
  • 変圧器損失:鉄損、銅損(効率1~2%低下)
第6節の重要ポイント整理
  • 年間発電電力量:E=ΣPᵢtᵢ、流況曲線との組み合わせ
  • 設備利用率:CF=E/(P_max×8760)、事業性の指標
  • 経済性評価:NPV、IRR、LCOE、長期評価の重要性
  • 比速度選定:N_s=n√P/H^5/4、水車型式決定
  • 流況曲線:流量出現頻度、発電計画の基礎
  • 損失計算:各段階の損失、有効落差の算定
  • 総合効率:年間加重平均、部分負荷特性の考慮
第6節の試験対策ポイント
  • 出力計算:P=9.8QHη、損失を考慮した有効落差
  • 年間発電量:流況データからの発電量算定
  • 設備利用率:定義と計算方法の理解
  • 比速度:計算式と水車選定への応用
  • 流況解析:豊水・平水・低水・渇水の定義
  • 管路損失:摩擦損失とベルヌーイの定理
  • 効率特性:負荷率と効率の関係
  • 経済指標:投資回収期間、内部収益率の概念

演習問題

基本計算問題

問題1:水力発電の基本出力計算
有効落差60m、流量12m³/s、水車効率88%、発電機効率94%の水力発電所の発電出力を求めよ。

解答:

総合効率:
η = η_t × η_g = 0.88 × 0.94 = 0.827

発電出力:
\begin{align} P &= 9.8 \times Q \times H \times \eta \\[5pt] &= 9.8 \times 12 \times 60 \times 0.827 \\[5pt] &= 5,863 \text{ [kW]} = 5.86 \text{ [MW]} \end{align}
問題2:比速度による水車選定
有効落差35m、出力8MW、回転数200min⁻¹の水力発電所について、比速度を求め、適切な水車型式を選定せよ。

解答:

比速度の計算:
\begin{align} N_s &= \frac{n\sqrt{P}}{H^{5/4}} \\[5pt] &= \frac{200 \times \sqrt{8000}}{35^{5/4}} \\[5pt] &= \frac{200 \times 89.4}{35^{1.25}} \\[5pt] &= \frac{17,888}{99.8} = 179.3 \end{align} 水車選定:N_s = 179.3は50~300の範囲にあるため、フランシス水車が適している。
問題3:ペルトン水車の設計計算
有効落差400m、流量8m³/s、回転数300min⁻¹のペルトン水車について、ノズル出口速度、最適バケット速度、必要ランナー径を求めよ。速度係数を0.98とする。

解答:

ノズル出口速度:
\begin{align} v_1 &= C_v \sqrt{2gH} \\[5pt] &= 0.98 \times \sqrt{2 \times 9.8 \times 400} \\[5pt] &= 0.98 \times 88.5 = 86.7 \text{ [m/s]} \end{align} 最適バケット速度(速度比0.46として):
u = 0.46 × 86.7 = 39.9 m/s

必要ランナー径:
\begin{align} D &= \frac{60u}{\pi n} \\[5pt] &= \frac{60 \times 39.9}{\pi \times 300} \\[5pt] &= 2.54 \text{ [m]} \end{align}
問題4:年間発電電力量と設備利用率
最大出力15MW、年間平均出力8MWで運転される水力発電所の年間発電電力量と設備利用率を求めよ。

解答:

年間発電電力量:
\begin{align} E &= P_{ave} \times 8760 \\[5pt] &= 8000 \times 8760 \\[5pt] &= 70,080,000 \text{ [kWh]} = 70.08 \text{ [GWh]} \end{align} 設備利用率:
\begin{align} CF &= \frac{P_{ave}}{P_{max}} \\[5pt] &= \frac{8000}{15000} = 0.533 = 53.3\% \end{align}

応用計算問題

問題5:管路損失を含む有効落差の計算
総落差80m、管路長1200m、管径2.0m、流量20m³/s、摩擦係数0.025の水圧管路において、有効落差を求めよ。取水・放水損失の合計を3mとする。

解答:

管内流速:
\begin{align} V &= \frac{Q}{A} = \frac{Q}{\pi D^2/4} \\[5pt] &= \frac{20}{\pi \times 2^2/4} = \frac{20}{3.14} = 6.37 \text{ [m/s]} \end{align} 管路摩擦損失:
\begin{align} h_f &= f \frac{L}{D} \frac{V^2}{2g} \\[5pt] &= 0.025 \times \frac{1200}{2.0} \times \frac{6.37^2}{2 \times 9.8} \\[5pt] &= 0.025 \times 600 \times 2.07 = 31.1 \text{ [m]} \end{align} 有効落差:
H = 80 - 31.1 - 3 = 45.9 m
問題6:流況曲線による年間発電電力量
下表の流況データを持つ河川で、最大取水量25m³/s、有効落差50m、効率85%の発電所について年間発電電力量を求めよ。
流量[m³/s]日数[日]
40以上80
25~40100
15~25120
5~1550
5未満15

解答:

各区間の発電量計算(24時間運転):
40以上:9.8×25×50×0.85×24×80 = 199,920 MWh
25~40:9.8×25×50×0.85×24×100 = 249,900 MWh
15~25:9.8×20×50×0.85×24×120 = 239,904 MWh
5~15:9.8×10×50×0.85×24×50 = 49,980 MWh
5未満:9.8×2.5×50×0.85×24×15 = 3,741 MWh

年間発電電力量:
E = 199.9 + 249.9 + 239.9 + 50.0 + 3.7 = 743.4 GWh
問題7:調整池容量の計算
日平均流入量30m³/s、ピーク時間(8時間)の必要流量45m³/sの調整池について、必要な有効貯水容量を求めよ。

解答:

1日の流入量:
V_in = 30 × 24 × 3600 = 2,592,000 m³

ピーク時間の使用量:
V_peak = 45 × 8 × 3600 = 1,296,000 m³

オフピーク時間の使用量:
V_off = (2,592,000 - 1,296,000) ÷ 16時間 = 81,000 m³/h
= 22.5 m³/s × 16時間

必要貯水容量(ピーク時の不足分):
\begin{align} V_{storage} &= (45 - 30) \times 8 \times 3600 \\[5pt] &= 15 \times 28800 \\[5pt] &= 432,000 \text{ m³} \end{align}
問題8:揚水発電の効率計算
揚水発電所で、揚水時の消費電力120MW、発電時の出力90MW、運転時間がそれぞれ8時間ずつの場合、総合効率を求めよ。

解答:

揚水時の消費電力量:
E_pump = 120 × 8 = 960 MWh

発電時の出力電力量:
E_gen = 90 × 8 = 720 MWh

総合効率:
\begin{align} \eta_{total} &= \frac{E_{gen}}{E_{pump}} \\[5pt] &= \frac{720}{960} = 0.75 = 75\% \end{align}

知識確認問題

問題9:水車の分類と特徴
次の記述について、正しいものには○、誤っているものには×を付けよ。

(1) ペルトン水車は衝動水車で、高落差・小流量に適している
(2) フランシス水車は軸流形の反動水車である
(3) カプラン水車はランナー羽根角が可変で、二重調整機構を持つ
(4) 比速度が大きいほど低落差・大流量用の水車となる
(5) 水車の最適速度比は一般に0.8~0.9程度である

解答:

(1) ○ - ペルトン水車は衝動水車の代表で高落差に適用
(2) × - フランシス水車は混流形(径流・軸流の複合)の反動水車
(3) ○ - カプラン水車は羽根角とガイドベーン開度の二重調整
(4) ○ - 比速度 N_s = n√P/H^5/4 より、H小でP大だと比速度大
(5) × - 最適速度比はペルトン水車で0.45~0.48程度
問題10:水力発電所の分類
以下の空欄に適切な語句を入れよ。

(1) 河川にダムを建設して人工的に落差を作る方式を(   )式という。
(2) 河川の自然落差を利用し、導水路により取水する方式を(   )式という。
(3) 流量調整能力により、(   )式、(   )式、(   )式に分類される。
(4) 電力需要の変動に対応するため、上下2つの貯水池を持つ(   )発電がある。
(5) 発電に利用できる落差を(   )落差といい、総落差から各種(   )を差し引いた値である。

解答:

(1) ダム
(2) 水路
(3) 流込み式、調整池式、貯水池
(4) 揚水発電
(5) 有効落差、損失
問題11:水力発電の用語説明
次の用語について説明せよ。

(1) キャビテーション
(2) 水撃現象
(3) サージタンク
(4) ドラフトチューブ
(5) 設備利用率

解答:

(1) キャビテーション:水の圧力が飽和蒸気圧以下になることで蒸気泡が発生し、その崩壊により羽根車が損傷する現象
(2) 水撃現象:ガイドベーンの急閉により管路内で圧力波が発生し往復する現象。過大な圧力上昇を起こす
(3) サージタンク:水圧管路途中に設けられる開放水槽。水撃圧の緩和と流量変化時の圧力変動を抑制
(4) ドラフトチューブ:反動水車の出口に設けられる拡散管。水車出口の運動エネルギーを圧力に変換し効率向上
(5) 設備利用率:年間発電電力量を最大出力と年間時間の積で除した値。発電所の稼働状況を示す指標
問題12:総合知識問題
水力発電に関する次の記述について、正しいものを選べ(複数回答可)。

A. 水力発電の出力は流量と落差の積に比例する
B. ペルトン水車は大気圧中で動作するためキャビテーションが発生しない
C. フランシス水車の比速度は一般に300~1000の範囲である
D. 揚水発電所の総合効率は一般に70~80%程度である
E. 取水堰の魚道設置は河川生態系保護の観点から重要である
F. 水車の部分負荷特性は年間発電電力量の算定に影響しない

解答:

正解:A、B、D、E

解説:
A. ○ - P = 9.8QHη より出力は流量×落差×効率
B. ○ - ペルトン水車は大気圧中動作でキャビテーション無し
C. × - フランシス水車の比速度は50~300、300~1000はカプラン水車
D. ○ - 揚水発電の総合効率は70~80%が一般的
E. ○ - 魚道は河川の連続性確保と生態系保護に重要
F. × - 部分負荷特性は効率に影響するため年間発電量算定に重要
水力発電分野の重要公式まとめ
  • 発電出力:P = 9.8QHη [kW]
  • 比速度:N_s = n√P/H^5/4
  • ペルトン水車ノズル速度:v₁ = C_v√(2gH)
  • 最適速度比:u/v₁ = 0.45~0.48(ペルトン水車)
  • 設備利用率:CF = E/(P_max × 8760)
  • 管路摩擦損失:h_f = f(L/D)(V²/2g)
  • 水撃圧:ΔH = aΔV/g
水力発電学習の総まとめ
  • 基本原理:位置エネルギー→運動エネルギー→回転エネルギー→電気エネルギー
  • 水車分類:衝動(ペルトン)と反動(フランシス・カプラン)の特徴
  • 選定基準:比速度による理論的選定と運転条件の考慮
  • 設計計算:有効落差、年間発電量、経済性評価の手法
  • 運転特性:効率特性、制御方式、系統連系の理解
  • 環境配慮:魚道設置、河川維持流量確保の重要性
  • 技術動向:小水力開発、効率向上技術、デジタル化

まとめ

水力発電は自然の水の流れから電気エネルギーを取り出す最も歴史ある再生可能エネルギー技術です。河川の位置エネルギーを水車により回転エネルギーに変換し、発電機で電気エネルギーに変換する基本原理は100年以上変わりませんが、技術の進歩により効率と信頼性は大幅に向上しています。我が国では全発電量の約8%を占める重要な電源であり、カーボンニュートラル実現に向けて、その役割はますます重要性を増しています。

水力発電の基本理論から始まり、水車の種類と特性、発電所の構成要素、設計計算手法まで、本資料で学習した内容は水力発電技術の基礎から応用まで幅広くカバーしています。特に、出力計算式P=9.8QHη、比速度による水車選定、有効落差の算定、年間発電電力量の評価、効率特性と制御方式などは、水力発電の計画・設計・運用において日常的に活用される重要な技術知識です。これらの理論的基礎を確実に理解することで、実際の発電所設計や運用業務に対応できる技術力を身につけることができます。

地球温暖化対策と持続可能なエネルギー社会の構築が急務となる現代において、水力発電の技術的価値と社会的意義はさらに高まっています。既存ダムの有効活用、小水力発電の普及促進、揚水発電による系統安定化、デジタル技術を活用した運転最適化など、水力発電技術も新たな発展段階を迎えています。また、魚道設置による生態系保護、景観への配慮、地域との共生など、環境調和型の開発手法も重要な技術課題として取り組まれています。

第三種電気主任技術者試験の学習を通じて習得した水力発電の知識は、発電所の運転・保守、電力系統の計画・運用、再生可能エネルギー事業の企画・管理、環境アセスメント業務など、幅広い実務分野で必ず活用されます。理論と実践の両面から水力発電技術を深く理解し、クリーンで持続可能なエネルギーシステムの構築と、豊かで環境に調和した社会の実現に貢献していただければと思います。水力発電は単なる技術ではなく、自然の恵みを活用して人類の発展と環境保全を両立させる叡智の結晶なのです。