送電とは、発電所で発電された電力を変電所や配電設備を経由して、需要地まで送り届けるための技術です。現代の電力系統において、送電技術は電力の安定供給を支える重要な役割を担っています。
送電の重要性
送電技術は、発電所から離れた場所に電力を効率よく届けるために不可欠です。日本の電力系統では、主に高電圧の交流送電が採用されており、電力損失を低減するために様々な技術が用いられています。
私たちの日常生活や産業活動は、送電技術によって支えられています:
送電分野は、第三種電気主任技術者試験の「電力科目」において重要な出題範囲となっています。特に以下の項目が頻出です:
送電技術を効果的に学習するためには、以下のステップで進めることをお勧めします:
送電線路は、発電所から変電所、あるいは変電所から変電所へ電力を送るための設備です。送電線路は主に架空送電線路と地中送電線路に分類されます。第三種電気主任技術者試験では、送電線路の構成と設備に関する問題が頻出するため、各構成要素の特徴と役割を正確に理解することが重要です。
架空送電線路は、鉄塔や電柱などの支持物を用いて、空中に送電線を張り巡らせる方式です。日本の送電線路の大部分はこの架空送電線路で構成されており、特に郊外や山間部で多く採用されています。
架空送電線路の主な構成要素には以下のものがあります:
がいしの選定では、送電電圧に応じた絶縁耐力、機械的強度、汚損耐電圧などを考慮します。電圧が高くなるほど、がいしの連数を増やして絶縁距離を確保する必要があります。
鉄塔の高さや形状は、送電電圧、送電容量、鉄塔間隔(径間)、地形条件などによって決定されます。特別高圧送電線では、電線間および電線と地面との離隔距離を確保するため、高さが数十メートルに達する大型鉄塔が使用されます。
架空地線の保護角(送電線と架空地線を結ぶ線と鉛直線のなす角)は、一般的に30度以下に設定され、この範囲内に送電線が収まるように配置されます。
架空送電線路の特徴
・建設コストが比較的低い(地中送電線路の1/3〜1/5程度)
・保守・点検が容易で、故障時の修復も比較的短時間で可能
・自然環境(雷、風、雪、塩害など)の影響を受けやすい
・景観への影響がある
・広い用地と鉄塔間の空間が必要
・電圧階級によって必要な絶縁離隔距離が異なる(66kV:約1m、154kV:約2m、275kV:約3m、500kV:約5m)
・コロナ放電による電力損失やノイズが発生することがある(特に高電圧送電線)
絶縁離隔距離の計算例(第三種電気主任技術者試験対策)
送電電圧が77kVの架空送電線路における最小絶縁離隔距離を簡易的に計算する。
解答:
架空送電線路の相間および相-大地間の絶縁離隔距離は、一般的に次の簡易式で概算できます:
\[d ≈ \frac{U}{150} + 0.5 \, \text{[m]}\]
ここで、\(U\)は送電線路の最高電圧[kV]です。
77kVの場合:
\[d ≈ \frac{77}{150} + 0.5 ≈ 0.51 + 0.5 = 1.01 \, \text{[m]}\]
したがって、最小絶縁離隔距離は約1.01mとなります。実際の設計では安全率を考慮して、これより大きな離隔距離を確保します。
地中送電線路は、ケーブルを地中に埋設して電力を送る方式です。主に都市部や景観への配慮が必要な地域、あるいは空港周辺などの上空制限がある地域で採用されています。また、海峡や河川を横断する場合には海底・河底ケーブルとして使用されます。
地中送電線路の主な構成要素には以下のものがあります:
ケーブルの構造は、内側から導体、絶縁体、遮蔽層、外装(防水層)という多層構造になっています。特に高電圧ケーブルでは、絶縁体内の電界分布を均一化するために導体表面に半導電層が設けられています。
地中送電線路の特徴
・自然環境(雷、風、雪、塩害など)の影響を受けにくい
・景観への影響が少なく、都市部での送電に適している
・建設コストが高い(架空送電線路の3〜5倍)
・静電容量が大きく、充電電流が増加する(長距離送電では補償設備が必要)
・故障時の探査や修理が難しく、復旧に時間がかかる
・ケーブルの冷却が重要で、許容電流は熱的制約を受ける
・電磁界が地表で遮蔽されるため、電磁環境への影響が小さい
・ケーブルの絶縁設計が重要(特に高電圧送電の場合)
地中ケーブルの充電電流の計算
地中ケーブルの静電容量は架空線よりも大きく、充電電流が問題となります。充電電流は以下の式で計算できます:
\[I_c = 2\pi f C V \,\, [A/km/相]\]
ここで、
\(I_c\) = 充電電流 [A/km/相]
\(f\) = 周波数 [Hz]
\(C\) = 静電容量 [F/km/相]
\(V\) = 相電圧 [V]
例えば、66kVのCVケーブル(静電容量:0.25μF/km/相)の場合、充電電流は:
\[I_c = 2\pi \times 60 \times 0.25 \times 10^{-6} \times \frac{66 \times 10^3}{\sqrt{3}} \approx 3.0 \,\, [A/km/相]\]
架空線と地中ケーブルの比較(試験対策)
架空送電線路と地中送電線路の違いについて、以下の項目で比較してください。
(1) 建設コスト (2) 送電可能距離 (3) 許容電流 (4) 故障率と復旧時間
解答:
(1) 建設コスト:地中送電線路は架空送電線路に比べて3〜5倍高い。これは、掘削工事、管路設置、マンホール設置などの土木工事費用に加え、ケーブル自体の価格も高いためである。
(2) 送電可能距離:地中ケーブルは静電容量が大きく充電電流が増加するため、補償設備なしでの送電可能距離は架空線に比べて短い。一般的に、高圧CVケーブルでは10〜20km程度が経済的な限界とされている。
(3) 許容電流:同じ導体断面積の場合、地中ケーブルは熱放散が困難なため、架空線よりも許容電流が小さい。ただし、複数回線の敷設が容易なため、総送電容量は確保しやすい。
(4) 故障率と復旧時間:地中ケーブルは外部環境の影響を受けにくいため故障率は架空線よりも低いが、一旦故障した場合の原因特定や修復に要する時間は長く、数日から数週間かかることもある。一方、架空線は故障率が高いものの、目視点検が可能で復旧も比較的短時間(数時間〜数日)で可能なことが多い。
送電方式は大きく交流送電と直流送電(HVDC: High Voltage Direct Current)に分けられます。
項目 | 交流送電 | 直流送電(HVDC) |
---|---|---|
主な特徴 | ・変圧器で電圧変換が容易 ・多数地点への送電が容易 |
・長距離送電に適する ・異周波数系統の連系が可能 |
損失 | ・静電容量による充電電流損 ・表皮効果による損失 |
・変換所での損失 ・線路損失は少ない |
設備 | ・変圧器による電圧変換 ・CB(遮断器)などの開閉機器 |
・変換所(サイリスタなど) ・フィルタ設備 |
適用例 | ・一般的な電力系統 ・近・中距離送電 |
・長距離送電(北海道-本州間連系など) ・海底ケーブル ・異周波数連系(東西日本間) |
直流送電の実例
日本国内では、以下のような直流送電設備があります:
送電線路の回線数による分類として、単回線送電と複回線送電があります。
項目 | 単回線送電 | 複回線送電 |
---|---|---|
構成 | 1つの回線(三相線)のみで構成 | 2つ以上の回線を並行して設置 |
信頼性 | 1回線故障で全停電 | 1回線故障でも他回線で送電可能 |
送電容量 | 単一回線の容量に制限 | 複数回線の合計容量まで送電可能 |
建設コスト | 比較的低い | 高い(鉄塔が大型化) |
用地 | 比較的狭い | 広い(ただし単回線を2ルート確保するより狭い) |
複回線送電の利点
複回線送電は、供給信頼度の向上、送電容量の増加、将来の容量拡張への対応などの利点があります。特に重要な送電線路では、信頼性向上のために複回線方式が採用されています。
送電線路は電気的に分布定数回路として扱われ、以下の4つの基本的なパラメータで特性が表されます:
これらのパラメータは単位長さあたりの値として表され、以下のように線路定数と呼ばれています:
\(r\) = 単位長さあたりの抵抗 [Ω/km]
\(l\) = 単位長さあたりのインダクタンス [H/km]
\(g\) = 単位長さあたりのコンダクタンス [S/km]
\(c\) = 単位長さあたりのキャパシタンス [F/km]
送電線路の全長を \(l\) [km] とすると、全体のパラメータは次のようになります:
\[R = r \times l \,\, [\Omega]\]
\[L = l \times l \,\, [H]\]
\[G = g \times l \,\, [S]\]
\[C = c \times l \,\, [F]\]
一般的に送電線路の解析では、\(G\) は非常に小さいため無視されることが多いです。
送電線路における電力損失は主に導体の抵抗によるジュール熱として発生します。三相送電線路の電力損失は以下の式で計算できます:
\[P_{loss} = 3 I^2 R \,\, [W]\]
ここで、
送電電力 \(P\) と受電端電圧 \(V\)、力率 \(\cos \phi\) を用いると、電力損失は次のように表すこともできます:
\[P_{loss} = \frac{P^2 R}{V^2 \cos^2 \phi} \,\, [W]\]
例題:送電損失の計算
抵抗 \(R = 5 \,\Omega\) の送電線路で、線路電流 \(I = 200 \,A\) が流れている場合の三相送電線路の電力損失を求めなさい。
解答:
三相送電線路の電力損失は次の式で計算できます:
\[P_{loss} = 3 I^2 R\]
各値を代入して:
\begin{align*} P_{loss} &= 3 \times (200 \,A)^2 \times 5 \,\Omega \\ &= 3 \times 40,000 \times 5 \\ &= 600,000 \,W \\ &= 600 \,kW \end{align*}
したがって、電力損失は 600 kW となります。
送電線路の電圧降下は、抵抗とインダクタンスによって生じます。短距離送電線路(100km以下)の場合、送電線路を集中定数回路として扱い、電圧降下は以下の式で近似できます:
\[\Delta V \approx IR\cos\phi + IX\sin\phi \,\, [V]\]
ここで、
送電電力 \(P\) と受電端電圧 \(V\) を用いると、電圧降下率は次のように表されます:
\[\varepsilon = \frac{\Delta V}{V} \times 100 \,\, [\%]\]
電圧降下の低減方法
・送電電圧を上げる(送電電圧を2倍にすると電流は1/2になり、電圧降下は1/2に、電力損失は1/4になる)
・導体断面積を大きくする(抵抗を下げる)
・力率を改善する(進相コンデンサの設置など)
・直列コンデンサを設置する(線路リアクタンスを相殺)
例題:電圧降下の計算
抵抗 \(R = 2 \,\Omega\)、リアクタンス \(X = 5 \,\Omega\) の送電線路で、電流 \(I = 100 \,A\)、力率 \(\cos\phi = 0.8\)(遅れ)の負荷に送電している場合の電圧降下を求めなさい。
解答:
電圧降下は次の式で計算できます:
\[\Delta V = IR\cos\phi + IX\sin\phi\]
\(\sin\phi = \sqrt{1-\cos^2\phi} = \sqrt{1-0.8^2} = \sqrt{1-0.64} = \sqrt{0.36} = 0.6\)
各値を代入して:
\begin{align*} \Delta V &= 100 \,A \times 2 \,\Omega \times 0.8 + 100 \,A \times 5 \,\Omega \times 0.6 \\ &= 160 + 300 \\ &= 460 \,V \end{align*}
したがって、電圧降下は 460 V となります。
力率は、皮相電力に対する有効電力の比率で、電力システムの効率を表す重要な指標です。第三種電気主任技術者試験では、力率に関する計算問題が頻出するため、計算方法の理解と演習が重要です。力率は以下の式で表されます:
\[\cos\phi = \frac{P}{S} = \frac{P}{\sqrt{P^2+Q^2}}\]
ここで、
力率に関する重要な関係式
電力の三角形から導かれる重要な関係式:
・\(S^2 = P^2 + Q^2\)(皮相電力、有効電力、無効電力の関係)
・\(P = S \cos\phi\)(有効電力)
・\(Q = S \sin\phi\)(無効電力)
・\(\tan\phi = \frac{Q}{P}\)(力率角の正接)
これらの関係式を理解することで、力率計算を効率的に行うことができます。
力率が低い(特に遅れ力率の場合)と、送電線路に以下のような悪影響が生じます:
力率と必要な電流の関係は以下の式で表されます:
\[I = \frac{P}{V\cos\phi} \,\, [A]\]
この式から、同じ有効電力 \(P\) を送電する場合、力率 \(\cos\phi\) が低いほど必要な電流 \(I\) は大きくなることがわかります。
電流増加と電力損失の計算例
力率 \(\cos\phi = 0.8\)(遅れ)の負荷に対し、力率を1.0まで改善した場合の電流減少率と電力損失減少率を計算してみましょう。
解答:
改善前の電流を \(I_1\)、改善後の電流を \(I_2\) とすると:
\begin{align*} \frac{I_2}{I_1} &= \frac{P/(V\cos\phi_2)}{P/(V\cos\phi_1)} \\ &= \frac{\cos\phi_1}{\cos\phi_2} \\ &= \frac{0.8}{1.0} \\ &= 0.8 \end{align*}
つまり、電流は改善前の80%になり、電流減少率は20%です。
電力損失は電流の2乗に比例するため、電力損失の比率は:
\begin{align*} \frac{P_{loss,2}}{P_{loss,1}} &= \left(\frac{I_2}{I_1}\right)^2 \\ &= (0.8)^2 \\ &= 0.64 \end{align*}
つまり、電力損失は改善前の64%になり、電力損失減少率は36%です。
このように、力率改善によって電流と電力損失を大幅に削減できることがわかります。
力率を改善するには、遅れ無効電力を減少させる(または進み無効電力を供給する)必要があります。主な改善方法は以下の通りです:
進相コンデンサによる力率改善の場合、必要なコンデンサ容量は以下の式で計算できます:
\[Q_C = P(\tan\phi_1 - \tan\phi_2) \,\, [var]\]
ここで、
また、\(\tan\phi\) は力率から以下の式で求めることができます:
\[\tan\phi = \frac{\sin\phi}{\cos\phi} = \frac{\sqrt{1-\cos^2\phi}}{\cos\phi}\]
例題:力率改善の計算
有効電力 \(P = 100 \,kW\)、力率 \(\cos\phi = 0.7\)(遅れ)の負荷がある。この力率を0.95(遅れ)まで改善するために必要な進相コンデンサの容量を求めなさい。
解答:
力率から \(\sin\phi\) を計算し、有効電力 \(P\) と力率 \(\cos\phi\)、および \(\sin\phi\) を用いて必要な容量を計算します。
改善前: \(\cos\phi_1 = 0.7\) のとき、
\begin{align*} \sin\phi_1 &= \sqrt{1-\cos^2\phi_1} \\ &= \sqrt{1-0.7^2} \\ &= \sqrt{1-0.49} \\ &= \sqrt{0.51} \\ &\approx 0.714 \end{align*}
改善後: \(\cos\phi_2 = 0.95\) のとき、
\begin{align*} \sin\phi_2 &= \sqrt{1-\cos^2\phi_2} \\ &= \sqrt{1-0.95^2} \\ &= \sqrt{1-0.9025} \\ &= \sqrt{0.0975} \\ &\approx 0.312 \end{align*}
必要な進相コンデンサの容量 \(Q_C\) は次式で計算できます:
\begin{align*} Q_C &= P \times \left( \frac{\sin\phi_1}{\cos\phi_1} - \frac{\sin\phi_2}{\cos\phi_2} \right) \\ &\approx 100 \,kW \times \left( \frac{0.714}{0.7} - \frac{0.312}{0.95} \right) \\ &\approx 100 \,kW \times (1.02 - 0.329) \\ % 例題の丸めに合わせる &= 100 \,kW \times 0.691 \\ &\approx 69.1 \,kvar \end{align*}
したがって、必要な進相コンデンサの容量は約 69.1 kvar です。
補足:直接計算法(電気主任技術者試験での計算時間短縮法)
試験時間が限られている場合、以下の方法で素早く計算することもできます:
無効電力は \(Q = P\tan\phi\) で求められるため、
改善前の無効電力: \(Q_1 = P\tan\phi_1 = 100 \times 1.02 = 102 \,kvar\)
改善後の無効電力: \(Q_2 = P\tan\phi_2 = 100 \times 0.329 = 32.9 \,kvar\)
必要なコンデンサ容量: \(Q_C = Q_1 - Q_2 = 102 - 32.9 = 69.1 \,kvar\)
この方法では、三角関数の計算を最小限に抑えることができます。
力率改善には以下のような経済効果があります:
力率改善による投資回収計算
力率改善設備の投資回収期間は以下の式で概算できます:
\[\text{投資回収期間} = \frac{\text{設備投資額}}{\text{年間節約額}}\]
年間節約額は、電力損失減少による節約と電気料金の力率割引による節約の合計です。
力率改善における注意点
・過補償に注意すること(進み力率になりすぎると電圧上昇や不安定化を引き起こす可能性がある)
・高調波環境下では、共振現象を避けるための対策が必要
・負荷変動が大きい場合は、自動力率調整装置の設置を検討
・コンデンサの経年劣化に注意し、定期的な点検と容量測定を実施
・系統全体のバランスを考慮した力率改善計画を立てること
第三種電気主任技術者試験では、頻出の力率値に対する \(\sin\phi\) と \(\tan\phi\) の値を素早く計算できることが重要です。以下の表を覚えておくと計算時間を短縮できます:
力率 \(\cos\phi\) | \(\sin\phi\) | \(\tan\phi\) |
---|---|---|
1.0 | 0.0 | 0.0 |
0.95 | 0.312 | 0.329 |
0.9 | 0.436 | 0.484 |
0.85 | 0.527 | 0.620 |
0.8 | 0.6 | 0.75 |
0.75 | 0.661 | 0.882 |
0.7 | 0.714 | 1.02 |
0.6 | 0.8 | 1.33 |
0.5 | 0.866 | 1.73 |
演習問題:力率改善による経済効果
工場の受電設備において、平均負荷が 500 kW、力率が 0.75(遅れ)である。この力率を 0.95(遅れ)まで改善した場合:
(1) 必要な進相コンデンサの容量
(2) 受電電流の減少率
(3) 送電線損失(\(I^2R\))の減少率
を求めなさい。
解答:
(1) 必要な進相コンデンサの容量
上記の表から、\(\cos\phi_1 = 0.75\) のとき \(\tan\phi_1 = 0.882\)、\(\cos\phi_2 = 0.95\) のとき \(\tan\phi_2 = 0.329\) です。
\begin{align*} Q_C &= P(\tan\phi_1 - \tan\phi_2) \\ &= 500 \,kW \times (0.882 - 0.329) \\ &= 500 \,kW \times 0.553 \\ &= 276.5 \,kvar \end{align*}
したがって、必要な進相コンデンサの容量は約 276.5 kvar です。
(2) 受電電流の減少率
力率改善前後の電流比は:
\begin{align*} \frac{I_2}{I_1} &= \frac{\cos\phi_1}{\cos\phi_2} \\ &= \frac{0.75}{0.95} \\ &= 0.789 \end{align*}
つまり、電流は改善前の 78.9% になります。
電流の減少率は:
\begin{align*} \text{減少率} &= (1 - 0.789) \times 100\% \\ &= 21.1\% \end{align*}
(3) 送電線損失の減少率
送電線の損失は電流の2乗に比例するため:
\begin{align*} \frac{P_{loss,2}}{P_{loss,1}} &= \left(\frac{I_2}{I_1}\right)^2 \\ &= (0.789)^2 \\ &= 0.623 \end{align*}
つまり、損失は改善前の 62.3% になります。
損失の減少率は:
\begin{align*} \text{減少率} &= (1 - 0.623) \times 100\% \\ &= 37.7\% \end{align*}
したがって、力率改善によって送電線損失は約 37.7% 減少します。
送電線路は電力系統の重要な構成要素であり、安定した電力供給を維持するためには適切な運用と保護が不可欠です。
送電線路では様々な障害が発生します。第三種電気主任技術者試験では、これらの障害メカニズムと対策について出題されることが多いため、詳細な理解が求められます。
雷害は送電線路の最も重要な障害の一つで、特に日本のような雷活動が活発な地域では重要な対策課題です。雷害には主に以下の種類があります:
雷害発生時の現象
雷害発生時には以下のような諸現象が観察されます:
・がいし連での閃絡(フラッシュオーバー)
・電線間の相間短絡
・電線と大地間の地絡
・遮断器の動作(保護リレーの応動による)
・自動再閉路装置の動作(一時的な故障の場合)
・避雷器の動作(雷サージ電流の流出)
雷害に対する対策
対策 | 内容 | 効果・特徴 |
---|---|---|
架空地線の設置 | 送電線の上部に接地された金属線を張り、雷撃を受け止める | ・直撃雷を防止(遮蔽効果) ・保護角(遮へい角)は通常45度以下に設定 ・OPGW(光ファイバー複合架空地線)も広く使用 |
がいし連数の増加 | がいしの数を増やして絶縁強度を向上させる | ・雷インパルス耐電圧の向上 ・雷害多発地域では標準より多く使用 ・コスト増加のデメリットあり |
避雷器の設置 | 過電圧を制限するために変電所や重要箇所に設置 | ・雷サージを大地に放流 ・酸化亜鉛形(ZnO)避雷器が主流 ・変電所引き込み部に必須 |
鉄塔接地抵抗の低減 | 鉄塔の接地抵抗を下げて逆フラッシュオーバーを防止 | ・一般地域:30Ω以下 ・雷害多発地域:10Ω以下 ・接地線の増設や接地棒の打ち込み、接地材の使用など |
アークホーンの設置 | フラッシュオーバーの際のアーク発生位置を制御する | ・がいしや金具の損傷防止 ・アークの発生位置を制御 ・再閉路成功率向上に寄与 |
高速度再閉路の採用 | 雷撃による一時的な故障後に自動的に送電を再開 | ・一時的な雷害への有効な対策 ・一般的に0.3〜0.5秒程度の不動作時間を設定 ・系統安定度向上にも寄与 |
逆フラッシュオーバー発生の条件計算(試験対策)
雷撃電流 \(I\) [kA]、鉄塔接地抵抗 \(R\) [Ω]、がいしの雷インパルス耐電圧 \(V_{FO}\) [kV] とすると、逆フラッシュオーバーの発生条件は次式で表されます:
\[I \times R > V_{FO}\]
例えば、鉄塔接地抵抗が20Ω、がいしの雷インパルス耐電圧が1000kVの場合、逆フラッシュオーバーが発生する最小雷撃電流は:
\[I > \frac{V_{FO}}{R} = \frac{1000}{20} = 50 \, \text{kA}\]
このように、接地抵抗が低いほど、より大きな雷撃電流に耐えられることになります。
送電線路では電気的障害だけでなく、機械的な障害も発生します。特に冬季の着氷や着雪による障害は重要な問題です。
スリートジャンプ・ギャロッピング対策
対策 | 内容 | 特徴・効果 |
---|---|---|
相間スペーサの設置 | 相間に絶縁性のスペーサを取り付け、電線間隔を保持 | ・相間短絡防止に有効 ・振動そのものは抑制できない |
ダンパの設置 | 電線に振動減衰装置を取り付ける | ・振動エネルギーを吸収 ・ストックブリッジダンパ、スパイラルダンパなど |
相導体間隔の拡大 | 複導体の場合、導体間隔を広げる | ・振動時の相間短絡リスク低減 ・風による空気力学的特性の改善 |
電線張力の最適化 | 電線の張力を適切に設定する | ・高張力にすると弛度が小さくなり振動影響が低減 ・過度の張力は金具・支持物への負担増加 |
着氷防止対策 | 電線への着氷を防止する技術 | ・電線ヒーター ・撥水・撥氷コーティング ・電線振動装置 |
特殊電線の採用 | 断面形状の工夫により空力特性を改善 | ・8の字型断面電線 ・表面に凹凸をつけた電線 ・ねじれ電線 |
がいし(碍子)の表面汚損は、絶縁性能を低下させ、送電線事故の重要な原因となります。特に沿岸部や工業地帯では深刻な問題となります。
がいし汚損対策
対策 | 内容 | 特徴・効果 |
---|---|---|
がいし洗浄 | 定期的にがいし表面を洗浄する | ・高圧水やブラシによる物理的洗浄 ・活線洗浄技術の発達 ・コストと労力がかかる |
シリコーン塗布がいし | がいし表面にシリコーン系撥水剤を塗布 | ・水滴の形成を防止(撥水性) ・汚損物の付着抑制 ・定期的な塗り直しが必要 |
ポリマーがいし | シリコーンゴムなどの高分子材料製がいし | ・優れた撥水性 ・軽量で施工が容易 ・紫外線劣化に注意が必要 |
長幹がいし | がいしの漏れ距離を増加させたがいし | ・単位電圧あたりの漏れ距離が長い ・重量増加のデメリット |
霧がいし | 複雑なひだを持つ特殊形状のがいし | ・漏れ距離の増加 ・雨による自然洗浄効果 ・汚損に強い |
耐塩害用装置 | 塩害地域用の特殊な保護装置 | ・洗浄装置の常設 ・がいしカバー ・防風防塵バリア |
汚損がいしの漏れ距離計算(試験対策)
汚損地域におけるがいしの必要漏れ距離は以下の式で概算できます:
\[L = k \times U \,\, [\text{mm}]\]
ここで、
\(L\) = 必要漏れ距離 [mm]
\(U\) = 最高運転電圧 [kV]
\(k\) = 汚損度に応じた係数 [mm/kV](軽汚損:16〜20、中汚損:20〜25、重汚損:25〜31、特殊重汚損:31以上)
例えば、重汚損地域で77kVの送電線の場合:
\[L = 28 \times 77 = 2156 \,\, [\text{mm}]\]
したがって、少なくとも2156mmの漏れ距離を持つがいしを選定する必要があります。
送電線路で発生するその他の主要な障害と対策を以下に示します:
電圧階級 | 一般的な対策 | 導体構成例 |
---|---|---|
〜154kV | 単一ACSR導体で十分 | ACSR 160mm²〜410mm²(単導体) |
275kV | 複導体方式が一般的 | ACSR 410mm²×2導体 |
500kV | 多導体方式が必須 | ACSR 410mm²×4導体、間隔40cm |
1000kV以上 | 特殊多導体方式 | ACSR 810mm²×8導体、特殊配置 |
第三種電気主任技術者試験対策のポイント
送電線障害に関する試験対策として、以下の点を重点的に理解しておきましょう:
・雷害の種類と発生メカニズム(特に直撃雷と誘導雷の違い)
・逆フラッシュオーバーの条件と対策(特に接地抵抗低減の重要性)
・がいし汚損の種類と汚損フラッシュオーバーのメカニズム
・スリートジャンプとギャロッピングの違いと対策
・障害別の主要対策技術の特徴と適用条件
・高速度再閉路方式の効果と適用条件
送電線路の保護には、以下のような方式が用いられます:
保護方式 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
過電流保護 | 定格を超える電流を検出して遮断 | ・構成が簡単 ・短い線路に適用 ・選択性に劣る |
距離保護 | 故障点までの電気的距離(インピーダンス)を検出して遮断 | ・高い選択性 ・バックアップ保護が可能 ・中長距離線路に適用 |
方向保護 | 故障電流の方向を検出して遮断 | ・環状網やループ系統に適用 ・選択性が高い |
比率差動保護 | 保護区間の両端の電流の差を検出して遮断 | ・高い選択性と感度 ・通信回線が必要 ・内部故障のみに動作 |
パイロットリレー保護 | 通信回線を利用して両端の情報を交換し、協調動作 | ・高速度保護が可能 ・選択性が高い ・通信回線が必要 |
保護リレーシステムの条件
保護リレーシステムは以下の条件を満たす必要があります:
・高速性:故障を速やかに検出し、除去する
・選択性:故障区間のみを選択的に遮断する
・感度:小さな故障も確実に検出する
・信頼性:必要なときに確実に動作し、不要なときは動作しない
・経済性:保護の目的に対して過剰なコストをかけない
保護システムの主要機器である保護リレーと遮断器は、電力系統を事故から守るための最重要設備です。第三種電気主任技術者試験では、これらの設備に関する問題が頻出するため、詳細な理解が必要です。
保護リレーは、検出する電気量や保護原理によって以下のように分類されます:
分類 | リレーの種類 | 主な用途・特徴 |
---|---|---|
電流リレー | 過電流リレー(OCR) | 設定値を超える電流を検出して動作。短絡・過負荷保護に使用。 |
地絡過電流リレー(OCGR) | 零相電流(地絡電流)を検出して動作。地絡事故保護に使用。 | |
方向過電流リレー(DOCR) | 特定方向の過電流のみに動作。環状系統や並列回線の保護に有効。 | |
比率差動リレー | 保護区間の入出力電流差を検出。変圧器・発電機・母線保護に使用。 | |
電圧リレー | 過電圧リレー(OVR) | 設定値を超える電圧を検出。過電圧保護・地絡検出に使用。 |
不足電圧リレー(UVR) | 電圧が設定値以下になると動作。モーター保護や系統分離に使用。 | |
地絡方向リレー | 零相電圧と零相電流の位相関係から地絡方向を検出。 | |
インピーダンスリレー | 距離リレー | 故障点までのインピーダンスを測定。送電線保護の主保護として使用。 |
リアクタンスリレー | 回路のリアクタンス成分のみを測定。短い送電線の保護に適する。 | |
周波数リレー | 低周波リレー(UFR) | 周波数低下を検出。負荷遮断や系統分離に使用。 |
高周波リレー(OFR) | 周波数上昇を検出。発電機の回転速度上昇保護などに使用。 | |
パイロットリレー | 位相比較リレー | 線路両端の電流位相を比較。通信回線を使用した高速保護。 |
方向比較リレー | 線路両端の電流方向を比較。通信回線を使用した高速保護。 |
保護リレーの動作原理と特性
1. 距離リレー(第三種電気主任技術者試験での頻出項目)
距離リレーは、電圧と電流の比(インピーダンス)から故障点までの電気的距離を算出して動作します。主に送電線保護に使用され、以下の特徴があります:
この多段階の時限設定により、故障点に最も近いリレーが最も早く動作し、選択性が確保されます。
2. 比率差動リレー
比率差動リレーは、保護区間の両端の電流の差を比率として検出します。以下の特徴があります:
比率差動リレーは変圧器保護の主保護として広く使用されており、内部故障に対して高感度でありながら、外部故障時の誤動作を防止できます。
遮断器は、保護リレーからの指令を受けて故障区間を系統から切り離す重要な機器です。大電流の遮断能力と高速動作が要求されます。
分類 | 遮断器の種類 | 主な特徴・用途 |
---|---|---|
ガス遮断器 | SF6ガス遮断器(GCB) | ・六フッ化硫黄ガスの優れた絶縁・アーク消弧性能を利用 ・現在の特別高圧遮断器の主流 ・遮断容量が大きく、遮断時間が短い ・保守点検の頻度が少ない ・環境への配慮(SF6ガスは温室効果ガス)が必要 |
気中遮断器(ACB) | ・大気圧の空気をアーク消弧媒体とする ・低圧・高圧用途に使用 ・構造が簡単で信頼性が高い ・大容量遮断には不向き |
|
真空遮断器(VCB) | ・真空中でのアーク消弧特性を利用 ・主に3~36kVの高圧系統で使用 ・小型で遮断性能が優れている ・再起電圧が高くなりやすい ・保守点検が容易 |
|
油遮断器 | 大量油遮断器(OCB) | ・絶縁油中でアークを消弧 ・タンク全体に油を充填 ・遮断時の爆発・火災のリスクがある ・現在はほとんど使用されていない |
少量油遮断器(MOCB) | ・消弧室のみに油を充填 ・大量油遮断器より安全性が向上 ・小型化が可能 ・老朽設備の更新により減少中 |
|
ガス絶縁開閉装置(GIS) | ・SF6ガスで絶縁された金属容器内に遮断器・断路器・接地開閉器等を一体収納 ・コンパクトで信頼性が高い ・設置面積が小さく、塩害・公害の影響を受けにくい ・特別高圧変電所で広く採用 |
遮断器の重要特性
・定格遮断電流:遮断器が安全に遮断できる最大短絡電流値(kA)
・定格電圧:遮断器の絶縁設計の基準となる電圧(kV)
・定格遮断時間:事故検出から遮断完了までの時間(サイクル数で表示、例:2サイクル=33ms@60Hz)
・短時間耐電流:遮断器が短時間(通常1秒)耐えられる最大電流(kA)
・投入電流:遮断器が安全に投入できる最大電流(通常は定格遮断電流の2.5倍程度)
・遮断責務:遮断器が負担する電気的ストレス(直流成分、過渡回復電圧など)
保護リレーシステムの選択性を確保するために、保護協調が重要です。保護協調とは、事故時に最も事故点に近い保護装置のみが動作するように、各保護装置の動作特性(感度と時限)を調整することです。
保護協調の計算例(第三種電気主任技術者試験対策)
放射状の配電系統において、上位系統から順に遮断器A、B、Cがあり、それぞれに過電流リレーが設置されている。最下流の遮断器Cの動作時間を0.3秒とする場合、上位の遮断器B、Aの時限設定はどうすべきか。ただし、保護協調時間差は0.2秒以上必要とする。
解答:
保護協調の原則に従い、下位から上位に向かって時限を長くします。
遮断器Cの動作時間:0.3秒
遮断器Bの動作時間:0.3 + 0.2 = 0.5秒
遮断器Aの動作時間:0.5 + 0.2 = 0.7秒
これにより、故障発生時には最も故障点に近い遮断器のみが動作し、選択性が確保されます。
送電線路の保護では、系統安定度の維持や設備保護のために高速度遮断が重要です。特に重要な送電線路では、以下のような高度な保護・遮断方式が採用されています:
送電線の故障の約80%は一時的な故障(雷撃による短絡など)です。高速度再閉路方式は、このような一時的な故障に対応するために、一旦遮断した後に自動的に再投入する方式です。
三相送電線路で単相地絡などの単相故障が発生した場合、故障相のみを遮断し、健全相は送電を継続する方式です。三相遮断方式と比較して以下の利点があります:
二次アークとは
単相遮断後に残る健全相から、静電結合や電磁結合によって故障相に誘起される電流によって維持されるアークのことです。単相再閉路の成功には、このアークが自己消弧することが必要です。二次アーク消弧対策として、以下の方法があります:
・4脚鉄塔の採用(相間距離の拡大)
・アークホーン間隔の最適化
・中性点リアクトルの設置
・補償装置の設置
送電線路の両端の電流を比較して保護区間内の故障を検出する方式です。通信回線を使用して両端の電流情報をリアルタイムで交換します。
試験対策:保護リレーと遮断器に関する問題例
送電線の保護リレーに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
解答:3
方向性リレー(方向リレー)は、電流の方向(潮流方向)を判別して特定方向の過電流に対してのみ動作するリレーです。「潮流の方向に関係なく」という記述は誤りです。方向性リレーは、環状系統や並列回線など、故障点に対して複数の電流供給経路がある場合に、正しい故障区間のみを選択的に遮断するために使用されます。
従来の電磁リレーや静止形リレーに代わり、現在では多機能デジタルリレー(マイクロプロセッサリレー)が主流となっています。これらの最新技術には以下のような特徴があります:
第三種電気主任技術者試験対策ポイント
保護リレーと遮断器に関する試験対策としては、以下の点を重点的に理解しておきましょう:
・各種保護リレーの動作原理と適用箇所
・距離リレーのゾーン設定と時限協調
・比率差動リレーの動作特性(差電流と拘束電流の関係)
・遮断器の種類と特性の違い(特にSF6ガス遮断器と真空遮断器)
・高速度再閉路方式の動作シーケンスと不動作時間
・単相遮断方式と三相遮断方式の違いと適用条件
・保護協調の基本原則(時限協調、電流協調、方向協調)
中性点接地方式は、三相交流系統の中性点(Y結線の場合の中心点)と大地との接続方法を指します。選択する接地方式によって、地絡事故時の過電圧や地絡電流の大きさが異なります。
日本の電力系統で採用されている主な中性点接地方式は以下の通りです:
接地方式 | 概要 | 特徴 | 適用範囲 |
---|---|---|---|
直接接地方式 | 中性点を直接大地に接続 | ・地絡電流が大きい ・地絡時の過電圧が小さい ・保護リレーの検出が容易 |
・特別高圧系統(154kV以上) ・低圧系統(100/200V) |
抵抗接地方式 | 中性点と大地の間に抵抗を挿入 | ・地絡電流を制限 ・地絡時の過電圧を抑制 ・アークの自己消弧は期待できない |
・特別高圧系統(22kV〜77kV) |
リアクトル接地方式 (消弧リアクトル) |
中性点と大地の間にリアクトルを挿入 | ・充電電流を相殺 ・地絡時のアークが自己消弧 ・保護リレーの検出が困難 |
・特殊な高圧系統 |
非接地方式 | 中性点を大地に接続しない | ・地絡電流が小さい(充電電流のみ) ・地絡時の健全相の対地電圧上昇 ・一線地絡で送電継続可能 |
・高圧系統(6.6kV) |
日本における中性点接地方式の適用
日本では、電圧階級によって以下のような中性点接地方式が一般的に採用されています:
・特別高圧(154kV以上):直接接地方式
・特別高圧(22kV〜77kV):抵抗接地方式
・高圧(6.6kV):非接地方式(一部抵抗接地方式)
・低圧(100/200V):直接接地方式(多くはTT方式またはTN方式)
各接地方式における地絡時の特性は以下の通りです:
非接地系統の一線地絡時の健全相電圧上昇
非接地系統で一線地絡が発生すると、健全相の対地電圧は線間電圧に上昇します:
\[V_{健全相-大地} = \sqrt{3} \times V_{相電圧} = V_{線間電圧}\]
直接接地系統の地絡電流
直接接地系統の地絡電流は、故障点の抵抗を無視すると以下のように計算できます:
\[I_g = \frac{3V_0}{Z_1 + Z_2 + Z_0}\]
ここで、
\(I_g\) = 地絡電流
\(V_0\) = 零相電圧
\(Z_1\) = 正相インピーダンス
\(Z_2\) = 逆相インピーダンス
\(Z_0\) = 零相インピーダンス
例題:非接地系統の健全相電圧上昇
三相3線式6.6kV(線間電圧)の高圧配電線において、一線地絡が発生した場合の健全相の対地電圧を求めなさい。
解答:
相電圧は \(V_{相電圧} = \frac{V_{線間電圧}}{\sqrt{3}} = \frac{6.6}{\sqrt{3}} = 3.81 \,kV\)
非接地系統で一線地絡が発生した場合、健全相の対地電圧は線間電圧に上昇します:
\begin{align*} V_{健全相-大地} &= \sqrt{3} \times V_{相電圧} \\ &= \sqrt{3} \times 3.81 \\ &= 6.6 \,kV \end{align*}
したがって、健全相の対地電圧は 6.6 kV となります。
送電線路は高電圧で運用されるため、高電圧工学の基礎知識が重要です。特に絶縁協調と過電圧対策は、送電設備の信頼性確保に不可欠です。
絶縁協調とは、電力系統内の様々な機器の絶縁強度を調整し、過電圧が発生した場合に最も影響の少ない箇所で絶縁破壊が起こるように設計することです。
絶縁協調の考え方
・保護装置(避雷器など)は最も低い絶縁強度に設定
・自己復帰が困難な機器(変圧器など)は高い絶縁強度に設定
・自己復帰が容易な機器(空気絶縁区間など)は中間の絶縁強度に設定
絶縁設計では、以下の要素を考慮する必要があります:
送電線路で発生する主な過電圧とその対策は以下の通りです:
過電圧の種類 | 概要 | 特徴 | 主な対策 |
---|---|---|---|
雷過電圧 | 雷撃による過電圧 | ・波頭長が短く、波高値が高い ・局所的に発生 ・確率的に発生 |
・架空地線の設置 ・避雷器の設置 ・がいし連数の増加 ・耐雷設計の強化 |
開閉過電圧 | 遮断器などの開閉動作時に発生 | ・波頭長が長く、波高値は比較的低い ・系統全体に伝搬 ・操作によって発生 |
・抵抗投入方式の採用 ・避雷器の設置 ・同期投入の採用 ・サージアブソーバの設置 |
一時的過電圧 | 地絡事故や負荷遮断時に発生 | ・商用周波数の過電圧 ・数秒〜数分間持続 ・系統条件によって発生 |
・中性点接地方式の選定 ・無効電力制御 ・保護リレーの適切な設定 |
雷過電圧の推定式(岸の式)
直撃雷による過電圧の推定には、岸の式が用いられます:
\[V = \frac{I_0 Z_0}{2} \,\, [V]\]
ここで、
\(V\) = 雷過電圧 [V]
\(I_0\) = 雷電流 [A]
\(Z_0\) = 送電線のサージインピーダンス [Ω]
避雷器は、過電圧から電力設備を保護するための重要な機器です。主な特性は以下の通りです:
現代の送電線路では、主に酸化亜鉛形(ZnO)避雷器が使用されています。これは非直線抵抗特性に優れ、放電ギャップを必要としないという利点があります。
避雷器の設置箇所
避雷器は以下の箇所に設置されることが多いです:
・変電所の主要機器(変圧器、遮断器など)の近く
・送電線路の引き込み部分
・開閉所の主要機器の近く
・特に雷害の多い地域の送電線路上
ここでは、送電分野に関する演習問題を解いて、理解を深めましょう。
問題1(基本計算問題)
抵抗 \(R = 3 \,\Omega\)、リアクタンス \(X = 4 \,\Omega\) の送電線路がある。この送電線路に三相平衡負荷を接続し、送電端から 10 MW(力率0.8遅れ)の電力を受電端で消費している。受電端の線間電圧が 66 kV のとき、以下の値を求めなさい。
解答:
与えられた条件:
(1) 線路電流の計算
三相回路の受電電力は \(P = \sqrt{3} V_R I \cos\phi\) で表されるので、線路電流 \(I\) は:
\begin{align*} I &= \frac{P}{\sqrt{3} V_R \cos\phi} \\ &= \frac{10 \times 10^6}{\sqrt{3} \times 66 \times 10^3 \times 0.8} \\ &= \frac{10 \times 10^6}{91.2 \times 10^3} \\ &= 109.6 \,A \end{align*}
(2) 送電損失の計算
三相回路の送電損失は \(P_{loss} = 3 I^2 R\) で計算できます:
\begin{align*} P_{loss} &= 3 \times I^2 \times R \\ &= 3 \times (109.6)^2 \times 3 \\ &= 3 \times 12,012.16 \times 3 \\ &= 108,109.44 \,W \\ &\approx 108.1 \,kW \end{align*}
(3) 送電端の線間電圧の計算
送電端電圧は、受電端電圧と電圧降下の和として計算できます。まず、\(\sin\phi\) を計算します:
\(\sin\phi = \sqrt{1-\cos^2\phi} = \sqrt{1-0.8^2} = \sqrt{0.36} = 0.6\)
次に、相電圧での電圧降下を計算します:
\begin{align*} \Delta V &= IR\cos\phi + IX\sin\phi \\ &= 109.6 \times 3 \times 0.8 + 109.6 \times 4 \times 0.6 \\ &= 262.8 + 262.8 \\ &= 525.6 \,V \end{align*}
受電端の相電圧は \(V_{R,相} = \frac{V_{R,線間}}{\sqrt{3}} = \frac{66,000}{\sqrt{3}} = 38,105 \,V\)
したがって、送電端の相電圧は:
\(V_{S,相} = V_{R,相} + \Delta V = 38,105 + 525.6 = 38,630.6 \,V\)
送電端の線間電圧は:
\(V_{S,線間} = \sqrt{3} \times V_{S,相} = \sqrt{3} \times 38,630.6 = 66,910 \,V \approx 66.9 \,kV\)
したがって、送電端の線間電圧は約 66.9 kV となります。
問題2(基本計算問題)
送電容量 100 MVA、送電距離 50 km の架空送電線路において、アルミ導体の断面積を 200 mm² から 400 mm² に増加させた場合、送電損失はどのように変化するか。ただし、導体の抵抗率は \(2.8 \times 10^{-8} \,\Omega \cdot m\) とし、力率は変化しないものとする。
解答:
導体の抵抗は断面積に反比例します。抵抗 \(R\) は以下の式で計算できます:
\[R = \rho \times \frac{l}{A}\]
ここで、
断面積を \(A_1 = 200 \,mm²\) から \(A_2 = 400 \,mm²\) に増加させると、抵抗の比は:
\begin{align*} \frac{R_2}{R_1} &= \frac{A_1}{A_2} \\ &= \frac{200}{400} \\ &= 0.5 \end{align*}
送電損失 \(P_{loss}\) は抵抗に比例するため:
\begin{align*} \frac{P_{loss,2}}{P_{loss,1}} &= \frac{R_2}{R_1} \\ &= 0.5 \end{align*}
したがって、導体の断面積を 200 mm² から 400 mm² に増加させると、送電損失は元の損失の 50%(半分)になります。
問題3(基本計算問題)
有効電力 5 MW、無効電力 4 Mvar(遅れ)の負荷に対して、力率を 0.95(遅れ)まで改善したい。必要な進相コンデンサの容量を求めなさい。また、力率改善による電流の減少率を計算しなさい。
解答:
与えられた条件:
改善前の力率を計算します:
\begin{align*} \cos\phi_1 &= \frac{P}{\sqrt{P^2 + Q_1^2}} \\ &= \frac{5}{\sqrt{5^2 + 4^2}} \\ &= \frac{5}{\sqrt{25 + 16}} \\ &= \frac{5}{\sqrt{41}} \\ &= \frac{5}{6.4} \\ &\approx 0.78 \end{align*}
改善後の無効電力 \(Q_2\) は、\(\tan\phi_2 = \frac{Q_2}{P}\) より:
\begin{align*} \tan\phi_2 &= \sqrt{\frac{1}{\cos^2\phi_2} - 1} \\ &= \sqrt{\frac{1}{0.95^2} - 1} \\ &= \sqrt{\frac{1}{0.9025} - 1} \\ &= \sqrt{1.108 - 1} \\ &= \sqrt{0.108} \\ &\approx 0.329 \end{align*}
したがって、改善後の無効電力は:
\begin{align*} Q_2 &= P \times \tan\phi_2 \\ &= 5 \times 0.329 \\ &= 1.645 \,Mvar \end{align*}
必要な進相コンデンサの容量 \(Q_C\) は、改善前と改善後の無効電力の差です:
\begin{align*} Q_C &= Q_1 - Q_2 \\ &= 4 - 1.645 \\ &= 2.355 \,Mvar \end{align*}
次に、力率改善による電流の減少率を計算します。
電流は皮相電力に比例し、電圧が一定の場合、皮相電力は \(S = \frac{P}{\cos\phi}\) で表されます。
改善前の皮相電力:
\begin{align*} S_1 &= \frac{P}{\cos\phi_1} \\ &= \frac{5}{0.78} \\ &\approx 6.41 \,MVA \end{align*}
改善後の皮相電力:
\begin{align*} S_2 &= \frac{P}{\cos\phi_2} \\ &= \frac{5}{0.95} \\ &\approx 5.26 \,MVA \end{align*}
電流の減少率は:
\begin{align*} \frac{I_2 - I_1}{I_1} \times 100\% &= \frac{S_2 - S_1}{S_1} \times 100\% \\ &= \frac{5.26 - 6.41}{6.41} \times 100\% \\ &= \frac{-1.15}{6.41} \times 100\% \\ &\approx -17.9\% \end{align*}
したがって、電流は約 17.9% 減少します。
問題(第三種電気主任技術者試験 類似問題)
架空送電線路の保護に関する以下の記述のうち、誤っているものを選びなさい。
解答:4
それぞれの記述について検討します:
したがって、誤っているのは選択肢4です。
問題(第三種電気主任技術者試験 類似問題)
三相3線式66kV送電線路において、A相が地絡した。この送電線路の中性点接地方式が非接地方式である場合、地絡後のB相及びC相の対地電圧として、最も適切なものを次の中から選びなさい。
解答:2
三相3線式66kV送電線路では、相電圧(線間電圧と中性点間の電圧)は:
\begin{align*} V_{相電圧} &= \frac{V_{線間電圧}}{\sqrt{3}} \\ &= \frac{66}{\sqrt{3}} \\ &\approx 38.1 \,kV \end{align*}
非接地方式の送電線路で一相(A相)が地絡すると、地絡相(A相)の対地電圧はほぼ0Vとなり、健全相(B相およびC相)の対地電圧は線間電圧(66kV)に上昇します。
これは、地絡によって系統の中性点が移動するためです。非接地系統では、三相の対地静電容量が等しい場合、中性点は三相ベクトルの中心にありますが、一相が地絡すると地絡点が新たな中性点となり、健全相の対地電圧は線間電圧に等しくなります。
したがって、B相及びC相の対地電圧として最も適切なのは、「約66kV」(選択肢2)です。
問題(第三種電気主任技術者試験 類似問題)
送電線の絶縁設計に関する以下の記述のうち、誤っているものを選びなさい。
解答:4
それぞれの記述について検討します:
したがって、誤っているのは選択肢4です。
本ページでは、第三種電気主任技術者試験の送電分野について学習しました。重要なポイントは以下の通りです:
第三種電気主任技術者試験の送電分野では、主に以下のような問題が出題される傾向があります:
これらの問題に対応するためには、基本的な公式や概念を理解するだけでなく、実際の計算問題を解く練習が重要です。本ページで紹介した演習問題を繰り返し解くことで、理解を深めることができます。
送電分野の学習の次は、以下の関連分野について学習することをお勧めします:
これらの分野を総合的に学習することで、電力系統全体についての理解が深まり、第三種電気主任技術者試験の電力科目に万全の対策をとることができます。
学習のポイント
・基本的な公式を理解し、応用できるようにする
・実際の計算問題を解く練習を重ねる
・送電、変電、配電の関連性を意識して学習する
・過去問を解いて出題傾向を把握する
・実務での応用を意識して学習することで理解が深まる