冬の乾燥した日にドアノブに触れると「バチッ」と感じる経験はありませんか?または、セーターを脱いだときに「パチパチ」という音と共に小さな火花が見えることはありませんか?これらは私たちの日常生活でよく遭遇する静電気現象です。
静電気は私たちの生活の中だけでなく、産業界でも重要な役割を果たしています。例えば、コピー機やプリンターでの印刷、自動車の塗装、粉体の付着防止など、様々な場面で活用されています。一方で、電子部品の損傷や爆発・火災のリスクなど、静電気が引き起こす問題も存在します。
第三種電気主任技術者試験における重要性
静電気力に関する知識は、第三種電気主任技術者試験の「理論」科目において必ず出題される重要分野です。特に電荷の性質やクーロンの法則、静電誘導の概念は基本的な問題として頻出します。これらの基礎を確実に理解することで、より複雑な電界や電位、コンデンサなどの問題にも対応できるようになります。
この学習ページでは、物理初学者でも理解できるよう、静電気の基本から応用まで、具体例を交えながら丁寧に解説していきます。数式についても、その物理的意味を理解できるよう、段階的に説明していきます。
電荷とは、物質が持つ電気的な性質のことです。自然界には2種類の電荷が存在し、それらは正電荷と負電荷と呼ばれています。
電荷の例
• 陽子(原子核の構成粒子):正電荷
• 電子(原子核の周りを回る粒子):負電荷
異なる種類の電荷同士(正と負)は引き合う力(引力)が働き、同じ種類の電荷同士(正と正、負と負)は反発し合う力(斥力)が働きます。これが静電気力の基本的な性質です。
電荷の大きさを表す単位はクーロン(記号: C)です。これは国際単位系(SI)で定められた基本単位です。
電子の電荷量
1個の電子が持つ電荷量は、約 \(-1.602 \times 10^{-19}\) クーロン(C)です。マイナス記号は、電子が負の電荷を持つことを示しています。この値は素電荷と呼ばれる基本的な物理定数です。
実用的な場面では、1クーロンはかなり大きな電荷量です。日常的な静電気現象では、マイクロクーロン(μC、\(10^{-6}\) C)やナノクーロン(nC、\(10^{-9}\) C)のオーダーで考えることが多いです。
1クーロンとは
1クーロンの電荷とは、約 \(6.24 \times 10^{18}\) 個の電子が持つ電荷量に相当します。つまり、6,240,000,000,000,000,000個もの電子が集まった量です。これは非常に大きな数字であり、日常的な静電気現象ではこれほど多くの電荷が関わることはありません。
電荷保存の法則とは、孤立系において電荷の総量は常に一定であるという物理法則です。つまり、電荷は生成されたり消滅したりすることはなく、ただ移動するだけです。
摩擦による帯電の例
プラスチックの定規を布で擦ると、定規は負に帯電し、布は正に帯電します。ここでは電荷が新たに生まれたわけではなく、布から定規へ電子が移動しただけです。定規が獲得した負電荷と布が失った負電荷(つまり、正に帯電した量)は等しくなります。
電荷保存の法則は、電気回路や電磁気学のあらゆる現象を考える上での基本原理として非常に重要です。第三種電気主任技術者試験では、この法則を応用した問題がしばしば出題されます。
物質の電気的性質を理解するためには、原子レベルの構造を知る必要があります。原子は主に以下の粒子から構成されています:
通常、原子は電気的に中性であり、陽子の数と電子の数が等しくなっています。しかし、摩擦や接触などによって電子が移動すると、原子または物体全体が電気的に帯電します。
帯電のメカニズム
異なる物質同士を摩擦すると、一方から他方へ電子が移動することがあります。これは物質の電子親和力の差によるもので、電子を奪いやすい物質(電子親和力が高い)と電子を失いやすい物質(電子親和力が低い)があります。例えば、ガラスと絹を擦ると、電子は絹からガラスへ移動し、ガラスは負に帯電し、絹は正に帯電します。
電荷の基礎知識のまとめ
静電気力は、電荷を持つ物体間に働く力です。その方向は以下のように決まります:
静電気力の方向は、2つの電荷を結ぶ直線上にあります。つまり、中心力(central force)としての性質を持ちます。
クーロンの法則は、2つの点電荷間に働く静電気力の大きさを表す法則です。以下の式で表されます:
ここで:
上記の式では電荷の大きさの絶対値を取っているため、力の大きさのみを表しています。力の方向については、前述のように電荷の符号によって決まります。
クーロンの法則の一般形
力の大きさと方向を同時に表すベクトル形式では、以下のように表されます:
ここで \(\hat{r}_{12}\) は電荷1から電荷2へ向かう単位ベクトルです。この式では、\(q_1 q_2\) の符号によって力の方向が自動的に決まります。
クーロン定数 \(k\) は、真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) を用いて次のようにも表されます:
\[k = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\]ここで、真空の誘電率 \(\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12} \, \mathrm{F/m}\) (ファラッド/メートル)です。
誘電率は、物質内での電界の強さが真空中と比べてどれだけ弱まるかを表す物理量です。誘電率には以下の2種類があります:
物質中での2つの点電荷間に働く静電気力は、以下の式で表されます:
物質 | 比誘電率 \(\varepsilon_r\)(おおよその値) |
---|---|
真空 | 1.0 |
空気 | 1.0006 |
水 | 80 |
ガラス | 4〜10 |
ポリエチレン | 2.3 |
比誘電率が大きいほど、物質中での静電気力は弱まります。これは物質内の分子が分極(電気的に偏り)することで、外部からの電界を打ち消す効果があるためです。
クーロンの法則において、静電気力の大きさは距離の二乗に反比例します。これは逆二乗則と呼ばれる重要な特徴です。
距離依存性の例
ある2つの点電荷間の距離が2倍になると、静電気力の大きさは \((1/2)^2 = 1/4\) になります。つまり、元の力の4分の1になります。同様に、距離が3倍になると、力は \((1/3)^2 = 1/9\) になり、元の力の9分の1になります。
この逆二乗則の性質は、重力の法則と同じであり、点から放射状に広がる場の一般的な特徴です。第三種電気主任技術者試験では、この距離依存性に関する計算問題がよく出題されます。
クーロンの法則のまとめ
静電誘導とは、帯電した物体が近づくことによって、別の物体内に電荷の偏りが生じる現象です。これは実際に電荷が移動しなくても起こります。
例えば、正に帯電した物体が中性の導体に近づくと、導体内の自由電子(負電荷)は正電荷に引き寄せられて表面に移動します。その結果、導体の正電荷に近い側は負に帯電し、反対側は正に帯電します。この状態で導体を接地すると、正電荷は地面に逃げ、負電荷だけが残ります(誘導帯電)。
静電誘導は、導体と絶縁体で異なる挙動を示します:
導体での静電誘導 | 絶縁体での静電誘導 |
---|---|
自由電子が物体内を移動できる | 電荷は移動できないが、分子レベルでの分極が起こる |
表面に電荷が集まる | 分子内で電荷の偏りが生じる |
電荷の移動が速い | 分極の応答は比較的遅い |
外部電界を完全に打ち消す(導体内部の電界はゼロになる) | 外部電界を部分的に弱める(絶縁体内部の電界は弱まるが、ゼロにはならない) |
静電誘導を利用した帯電の方法は、以下の手順で行われます:
静電誘導の特徴
静電誘導による帯電では、誘導体の電荷は失われません。つまり、誘導体を使って何度でも別の物体を帯電させることができます。これは摩擦帯電と異なる点です。
静電誘導は日常生活の様々な場面で見られます:
日常での静電誘導の例
静電誘導のまとめ
静電気は様々な産業分野で利用されています:
静電気は便利な面がある一方で、様々な問題を引き起こす可能性もあります:
静電気による着火エネルギー
人体が感じる静電気放電(いわゆる「バチッ」とした衝撃)のエネルギーは、約1〜10 mJ(ミリジュール)程度です。これは、水素やアセチレンなどの可燃性ガスの最小着火エネルギー(0.01〜0.02 mJ)よりも大きいため、危険な環境では特に注意が必要です。
静電気による問題を防ぐために、様々な対策が行われています:
静電気対策の具体例
半導体工場では、静電気による製品損傷を防ぐために、以下のような対策が取られています:
静電気の応用と対策のまとめ
問題1:クーロンの法則の基本計算
点電荷 \(q_1 = 2 \times 10^{-6} \mathrm{C}\) と点電荷 \(q_2 = 3 \times 10^{-6} \mathrm{C}\) が真空中で \(0.1 \mathrm{m}\) 離れている。この2つの点電荷間に働く静電気力の大きさを求めよ。
解答:
クーロンの法則より、2つの点電荷間に働く静電気力の大きさは次の式で表される:
\[F = k \frac{|q_1 \times q_2|}{r^2}\]ここで:
これらの値を式に代入すると:
\begin{align*} F &= k \frac{|q_1 \times q_2|}{r^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{|2 \times 10^{-6} \times 3 \times 10^{-6}|}{(0.1)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{6 \times 10^{-12}}{0.01} \\ &= 9 \times 10^9 \times 6 \times 10^{-10} \\ &= 5.4 \times 10^0 \text{ N} \end{align*}したがって、2つの点電荷間に働く静電気力の大きさは \(5.4 \, \mathrm{N}\) である。
なお、\(q_1\) と \(q_2\) はともに正の電荷なので、この力は斥力として働く。
問題2:誘電体中での静電気力
問題1と同じ2つの点電荷が、比誘電率 \(\varepsilon_r = 4\) の誘電体中で同じ距離だけ離れている場合、静電気力の大きさを求めよ。
解答:
誘電体中での静電気力は、真空中の力を比誘電率 \(\varepsilon_r\) で割ることで求められる:
\[F = \frac{k |q_1 \times q_2|}{r^2 \varepsilon_r}\]問題1で求めた真空中での力は \(5.4 \, \mathrm{N}\) であった。比誘電率が \(\varepsilon_r = 4\) の誘電体中では:
\[F = \frac{5.4}{4} = 1.35 \, \mathrm{N}\]したがって、誘電体中での静電気力の大きさは \(1.35 \, \mathrm{N}\) である。
誘電体中では静電気力が弱まることが分かる。これは誘電体の分子が分極することにより、外部からの電界を部分的に打ち消すためである。
問題3:電荷量の計算
真空中で、点電荷 \(q_1 = 4 \times 10^{-6} \, \mathrm{C}\) から \(0.2 \, \mathrm{m}\) 離れた点に、別の点電荷 \(q_2\) がある。この2つの点電荷間に \(9 \, \mathrm{N}\) の引力が働いているとき、\(q_2\) の電荷量を求めよ。
解答:
クーロンの法則より:
\[F = k \frac{|q_1 \times q_2|}{r^2}\]ここで、\(F = 9 \, \mathrm{N}\)、\(k = 9 \times 10^9 \, \mathrm{N \cdot m^2/C^2}\)、\(q_1 = 4 \times 10^{-6} \, \mathrm{C}\)、\(r = 0.2 \, \mathrm{m}\) である。
\(q_2\) について解くと:
\begin{align*} 9 &= 9 \times 10^9 \times \frac{|4 \times 10^{-6} \times q_2|}{(0.2)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{|4 \times 10^{-6} \times q_2|}{0.04} \\ &= 9 \times 10^9 \times |4 \times 10^{-6} \times q_2| \times 25 \\ \frac{9}{9 \times 10^9 \times 4 \times 10^{-6} \times 25} &= |q_2| \\ \frac{9}{9 \times 10^5} &= |q_2| \\ |q_2| &= 10^{-5} \, \mathrm{C} \end{align*}力が引力であることから、\(q_1\) と \(q_2\) は異符号であることが分かる。\(q_1\) が正電荷なので、\(q_2\) は負電荷となる:
\[q_2 = -10^{-5} \, \mathrm{C} = -1 \times 10^{-5} \, \mathrm{C}\]したがって、点電荷 \(q_2\) の電荷量は \(-1 \times 10^{-5} \, \mathrm{C}\) である。
第三種電気主任技術者試験 過去問(類似問題)
真空中において、点電荷 \(q_1 = 2 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) と点電荷 \(q_2 = -6 \times 10^{-9} \, \mathrm{C}\) が \(3 \, \mathrm{cm}\) 離れている。このとき、点電荷 \(q_1\) に働く力の大きさと向きを求めよ。
解答:
クーロンの法則より、点電荷 \(q_1\) に働く静電気力の大きさは:
\[F = k \frac{|q_1 \times q_2|}{r^2}\]ここで:
これらの値を式に代入すると:
\begin{align*} F &= 9 \times 10^9 \times \frac{|2 \times 10^{-9} \times (-6 \times 10^{-9})|}{(0.03)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{|{-12} \times 10^{-18}|}{9 \times 10^{-4}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{12 \times 10^{-18}}{9 \times 10^{-4}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{12}{9} \times 10^{-18+4} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{4}{3} \times 10^{-14} \\ &= 12 \times 10^9 \times 10^{-14} \\ &= 12 \times 10^{-5} \\ &= 1.2 \times 10^{-4} \, \mathrm{N} \end{align*}力の向きについては、\(q_1\) は正電荷、\(q_2\) は負電荷なので、異符号の電荷間には引力が働く。したがって、点電荷 \(q_1\) には、点電荷 \(q_2\) の方向に向かう引力が働く。
結論として、点電荷 \(q_1\) には、大きさが \(1.2 \times 10^{-4} \, \mathrm{N}\) で、点電荷 \(q_2\) に向かう方向の力が働く。
第三種電気主任技術者試験 過去問(類似問題)
空気中(比誘電率 \(\varepsilon_r \approx 1\))において、2つの小さな金属球 A と B があり、それぞれ \(q_A = 3 \times 10^{-8} \, \mathrm{C}\) と \(q_B = -1 \times 10^{-8} \, \mathrm{C}\) の電荷を持っている。球 A と B の中心間距離は \(5 \, \mathrm{cm}\) である。
(1) 球 A が球 B から受ける静電気力の大きさを求めよ。
(2) 球 A と球 B を導線で接続した後、再び離した場合、それぞれの球の電荷はいくらになるか。また、この状態で球 A が球 B から受ける静電気力の大きさと向きを求めよ。
解答:
(1) 初期状態での静電気力
クーロンの法則より:
\[F = k \frac{|q_A \times q_B|}{r^2}\]ここで:
これらの値を式に代入すると:
\begin{align*} F &= 9 \times 10^9 \times \frac{|3 \times 10^{-8} \times (-1 \times 10^{-8})|}{(0.05)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{|-3 \times 10^{-16}|}{2.5 \times 10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3 \times 10^{-16}}{2.5 \times 10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{3}{2.5} \times 10^{-16+3} \\ &= 9 \times 10^9 \times 1.2 \times 10^{-13} \\ &= 10.8 \times 10^{-4} \\ &= 1.08 \times 10^{-3} \, \mathrm{N} \end{align*}したがって、球 A が球 B から受ける静電気力の大きさは \(1.08 \times 10^{-3} \, \mathrm{N}\) である。向きは、異符号の電荷間なので引力となり、球 B に向かう方向である。
(2) 導線で接続した後の状態
2つの金属球を導線で接続すると、電荷は再分配される。電荷保存則より、全電荷は保存される:
\[q_A + q_B = 3 \times 10^{-8} + (-1 \times 10^{-8}) = 2 \times 10^{-8} \, \mathrm{C}\]金属球の大きさが同じと仮定すると(問題文に明記されていないため)、再分配後は両方の球で電荷密度が等しくなり、電荷は均等に分配される:
\[q_A' = q_B' = \frac{q_A + q_B}{2} = \frac{2 \times 10^{-8}}{2} = 1 \times 10^{-8} \, \mathrm{C}\]この状態での静電気力は、同符号の電荷間なので斥力となる:
\begin{align*} F' &= 9 \times 10^9 \times \frac{|1 \times 10^{-8} \times 1 \times 10^{-8}|}{(0.05)^2} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{10^{-16}}{2.5 \times 10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{10^{-16}}{2.5 \times 10^{-3}} \\ &= 9 \times 10^9 \times \frac{1}{2.5} \times 10^{-16+3} \\ &= 9 \times 10^9 \times 0.4 \times 10^{-13} \\ &= 3.6 \times 10^{-4} \, \mathrm{N} \end{align*}したがって、再分配後の状態では、球 A が球 B から受ける静電気力の大きさは \(3.6 \times 10^{-4} \, \mathrm{N}\) であり、向きは球 B から遠ざかる方向(斥力)である。
演習問題のポイント
本ページでは、第三種電気主任技術者試験の重要分野である「静電気力」について学習しました。電荷の基本概念からクーロンの法則、静電誘導、応用と対策まで、幅広く解説しています。次のステップとしては、「電界と電位」や「コンデンサと静電エネルギー」などの関連トピックへ進むことで、電磁気学の理解をさらに深めることができます。
本ページの内容をしっかりと理解し、演習問題を繰り返し解くことで、試験での得点力向上につながります。基本的な概念と計算方法をマスターして、第三種電気主任技術者試験に自信を持って臨みましょう。
学習のポイント
静電気力の学習で特に重要な点は以下の通りです:
次回の学習では、「電界と電位」について解説します。電荷から生じる電界と、電界内での電荷の移動に関わる電位という概念を理解することで、電磁気学の理解がさらに深まります。