【第三種電気主任技術者試験】パワーエレクトロニクス完全解説 | 基礎から試験対策まで

目次

1. イントロダクション

1.1 パワーエレクトロニクスの概要と重要性

パワーエレクトロニクスは、電力の変換や制御を半導体デバイスを用いて行う技術分野です。具体的には、電気エネルギーの形態(電圧、電流、周波数)を効率よく変換し、様々な電気機器の制御を可能にします。

パワーエレクトロニクスの主な役割:

  • 交流から直流への変換(整流)
  • 直流から交流への変換(インバータ)
  • 直流電圧の昇圧・降圧(チョッパ)
  • 交流電圧・周波数の変換(サイクロコンバータ)

この技術は現代の電力システムにおいて不可欠であり、エネルギー効率の向上や精密な電力制御を実現し、省エネルギー社会の構築に貢献しています。

1.2 日常生活や産業での応用例

パワーエレクトロニクス技術は私たちの日常生活や産業のあらゆる場面で活用されています。

日常生活での応用例:

  • スマートフォンやノートPCの充電器(AC-DCコンバータ)
  • LED照明の調光制御
  • 家電製品(エアコン、冷蔵庫など)のインバータ制御
  • IH調理器のインバータ回路
  • 電気自動車の充電システムと駆動制御

産業分野での応用例:

  • 工場の生産設備における可変速モータドライブ
  • 無停電電源装置(UPS)
  • 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーシステム
  • 電気鉄道の電力変換装置
  • 高電圧直流送電(HVDC)システム

これらの応用例からわかるように、パワーエレクトロニクスは電力の効率的な利用と制御において重要な役割を果たしています。

1.3 第三種電気主任技術者試験における位置づけ

パワーエレクトロニクスは第三種電気主任技術者試験(電験三種)の機械科目において重要な出題分野となっています。特に以下の内容が頻出しています:

電験三種 機械科目におけるパワーエレクトロニクスの出題傾向:

  • 半導体デバイス(ダイオード、サイリスタ、トランジスタ、IGBTなど)の基本特性と動作原理
  • 整流回路(半波整流、全波整流)の構成と動作
  • チョッパ回路(降圧型、昇圧型、昇降圧型)の原理と特性
  • インバータ回路の種類と動作原理
  • 各回路における電圧・電流波形の特徴
  • パワーエレクトロニクス装置の応用例

例年の試験では、パワーエレクトロニクス関連の問題が機械科目の中で1〜2問程度出題されることが多く、基本的な回路の理解と簡単な計算問題が中心となっています。

1.4 学習の進め方

パワーエレクトロニクスを効率的に学習するためには、以下のような順序で進めることをお勧めします:

  1. 半導体デバイスの基礎を理解する:各デバイスの特性と動作原理をしっかり把握しましょう。
  2. 基本回路の構成と動作を学ぶ:整流回路、チョッパ回路、インバータ回路などの基本的な回路について、その構成と動作原理を理解しましょう。
  3. 波形解析の方法を習得する:各回路における電圧・電流波形の特徴とその読み取り方を学びましょう。
  4. 計算問題に取り組む:基本的な計算問題を解くことで、理論の理解を深めましょう。
  5. 応用例を学ぶ:実際の機器や設備でのパワーエレクトロニクスの応用例を学ぶことで、実務的な理解を深めましょう。

学習のポイント:

パワーエレクトロニクスは、電気回路の知識と半導体デバイスの特性理解が基礎となります。まずは基本的な電気回路(直流回路、交流回路)の知識をしっかり復習した上で学習を進めると効果的です。また、回路図や波形を見て動作を理解する力を養うことが重要です。

2.1 半導体デバイスの基礎

パワーエレクトロニクスの理解には、半導体の基本的な性質と動作原理の知識が不可欠です。第三種電気主任技術者試験では、この分野からの出題も多く見られます。

半導体とは

半導体は、電気伝導性が導体(金属など)と絶縁体(セラミックスなど)の中間にある物質です。温度や不純物の添加(ドーピング)によって電気的性質を制御できる特性を持ちます。

半導体の特徴:

  • 電気の通しやすさが変わる:電気をよく通す金属と、電気を通さない絶縁体の中間の性質を持っています。温度や光などの条件によって、電気の通しやすさが大きく変わります
  • 電子の通り道の構造:半導体の中には、電子が普段いる場所(価電子帯)と電子が自由に動き回れる場所(伝導帯)があり、その間には適度な大きさの「立入禁止区域」(バンドギャップ)が存在します
  • 温度による変化:温度が上がると電気抵抗が下がります。これは金属とは逆の性質で、温度が上がると電子が動きやすくなるためです
  • 少しの不純物で大きく変わる:ほんの少量の他の物質を混ぜる(不純物添加)だけで、電気的な性質が劇的に変化します。これを利用して様々な電子部品が作られています
  • 光で電気が通りやすくなる:光を当てると電子が励起されて動きやすくなり、電気を通しやすくなる性質があります。これは太陽電池などに応用されています

半導体材料

パワーエレクトロニクスで使用される主な半導体材料について理解しましょう。

主要な半導体材料:

  • シリコン(Si):最も一般的に使用される半導体材料。安価で加工性に優れ、性能のバランスが良い。
  • ゲルマニウム(Ge):初期の半導体デバイスに使用された材料。現在はほとんど使用されない。
  • 炭化ケイ素(SiC):高耐圧・高温動作が可能なワイドバンドギャップ半導体。パワーデバイスとしての利用が進んでいる。
  • 窒化ガリウム(GaN):高速スイッチングが可能なワイドバンドギャップ半導体。高周波・高電力デバイスに適している。

半導体の伝導の仕組み

半導体内部では、「電子」と「正孔(ホール)」という2種類の電荷キャリアが電気伝導に関与します。

電子と正孔:

  • 電子:マイナスの電荷を持ち、伝導帯を移動できる自由電子
  • 正孔(ホール):プラスの電荷を持つと考えられる「電子の抜け穴」で、価電子帯を移動できる

半導体の伝導メカニズム:

半導体の伝導は電子の「バケツリレー」のようなものと考えられます。例えば、ある原子から隣の原子へ電子が移動すると、元の原子には「正孔」ができます。さらに別の電子がこの正孔を埋めると、今度はその電子が移動してきた場所に新たな正孔ができます。このように、電子が移動する方向とは逆方向に正孔が移動しているように見える現象が起こります。

真性半導体と不純物半導体

半導体は、不純物の有無によって、真性半導体と不純物半導体に分類されます。

真性半導体(Intrinsic Semiconductor):

  • 不純物を含まない純粋な半導体
  • 電子と正孔の数が等しい
  • 伝導に寄与するキャリア密度が低いため、導電率は低い
  • シリコンやゲルマニウムなどの単体半導体の純粋な結晶

不純物半導体(Extrinsic Semiconductor):

  • 半導体に意図的に不純物を添加したもの
  • 不純物の種類により、n型半導体とp型半導体に分けられる
  • 不純物添加により、特定のキャリア(電子または正孔)の濃度が増加
  • 導電率が真性半導体よりも大幅に向上

n型半導体とp型半導体

不純物半導体は、添加する不純物の種類によってn型とp型に分類されます。これらは現代の半導体デバイスの基礎となっています。

n型半導体:

  • ドーパント(不純物):リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などのV族元素
  • 仕組み:シリコン(IV族)結晶にV族元素を添加すると、4つの共有結合を形成した後に1つの余分な電子が残る。この余分な電子が自由電子として伝導に寄与する。
  • 電気的特性:電子が多数キャリア、正孔が少数キャリア
  • 例え話:「余分な人がいる満員の部屋」のように、余分な電子が自由に動き回れる状態

p型半導体:

  • ドーパント(不純物):ボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などのIII族元素
  • 仕組み:シリコン結晶にIII族元素を添加すると、共有結合に1つの電子が不足する(正孔ができる)。この正孔が伝導に寄与する。
  • 電気的特性:正孔が多数キャリア、電子が少数キャリア
  • 例え話:「一人足りない席がある部屋」のように、電子の抜け穴(正孔)が移動できる状態

pn接合とは

p型半導体とn型半導体を接合すると「pn接合」が形成されます。これはダイオードなどの半導体デバイスの基本構造です。

pn接合の形成:

p型とn型の半導体を接合すると、接合面付近で次のような現象が起こります:

  1. 電子と正孔の移動:n型半導体には電子がたくさんあり、p型半導体には正孔(電子の穴)がたくさんあります。これらが境界を越えてお互いの領域に移動していきます(拡散現象)
  2. 電気を通さない層ができる:電子と正孔が移動した後、境界付近には動けるキャリア(電子や正孔)が少なくなり、電気を通しにくい「空乏層」という層が形成されます
  3. 内部に電場が生まれる:n側には正の電荷を持つイオン、p側には負の電荷を持つイオンが残るため、これらの間に電気の力(内部電界)が発生します
  4. バランスが取れた状態になる:キャリアを拡散させようとする力と、内部電界がキャリアを押し戻そうとする力が釣り合い、安定した平衡状態に達します

pn接合の整流作用

pn接合の最も重要な特性は「整流作用」です。これは電流を一方向にのみ流す性質で、ダイオードの基本原理となります。

電流が流れやすい方向に電圧をかけた時:

p型側にプラス、n型側にマイナスの電圧をかけると(順方向バイアス):

  • 外から加えた電圧が、内部にもともとある電気の力と逆向きになり、内部の電気の力が弱くなります
  • 電気を通しにくい層(空乏層)が薄くなり、電子と正孔が境界を越えて移動しやすくなります
  • p型側からn型側への正孔の流れと、n型側からp型側への電子の流れが活発になります
  • その結果、大きな電流が流れます

電流が流れにくい方向に電圧をかけた時:

p型側にマイナス、n型側にプラスの電圧をかけると(逆方向バイアス):

  • 外から加えた電圧が、内部にもともとある電気の力と同じ向きになり、内部の電気の力がさらに強くなります
  • 電気を通しにくい層(空乏層)が厚くなり、電子と正孔が境界を越えて移動できなくなります
  • ごくわずかな少数キャリアだけが電流として流れます(漏れ電流)
  • その結果、ほとんど電流が流れません

水道管の例え:

pn接合の整流作用は水道管の逆止弁に例えることができます。順方向バイアスは水が流れる方向に弁を押す状態で、水(電流)は自由に流れます。逆方向バイアスは水が弁を閉める方向に押す状態で、水はほとんど流れません。

pn接合の降伏現象

pn接合に大きな逆方向電圧を印加すると、ある電圧(降伏電圧)を超えたとき、急激に電流が増加する現象が起こります。これを降伏と呼びます。

降伏のメカニズム:

  1. ツェナー降伏:不純物をたくさん混ぜた(高濃度ドープ)pn接合で起こる現象です。非常に強い電気の力によって、原子にくっついている電子が無理やり引きはがされます。これは電子が普段いられない場所に直接飛び移る現象で、まるで高い壁を一気に飛び越えるようなイメージです。
  2. アバランシェ降伏:不純物をあまり混ぜていない(低濃度ドープ)pn接合で起こる現象です。電圧が高くなると電子が高速で加速され、結晶にぶつかって新しい電子と正孔のペアを作り出します。この新しく生まれた電子がまた加速されて結晶にぶつかり、さらに多くの電子と正孔を作るという連鎖反応(雪崩のような現象)が起きて、電流が一気に増加します。

降伏現象の応用:

ダイオードの降伏現象は一見すると望ましくない特性のように思えますが、実はこれを積極的に利用したデバイスもあります。例えば、一定の逆方向電圧(降伏電圧)で安定した動作をするツェナーダイオードは、電圧基準回路や過電圧保護回路などに広く使用されています。

半導体の温度特性

半導体デバイスの特性は温度によって大きく変化します。特にパワーエレクトロニクスでは、高温での動作が避けられないため、温度特性の理解が重要です。

温度上昇による主な影響:

  • 電気を運ぶ粒子が増える:温度が上がると熱のエネルギーによって、電気を運ぶ粒子(電子と正孔)がたくさん作られます
  • 粒子の動きが鈍くなる:温度が上がると原子が激しく振動するようになり、電子や正孔の動きが邪魔されて移動しにくくなります
  • 電流が流れ始める電圧が下がる:温度が上がるとダイオードに電流を流すのに必要な電圧が下がります(温度が1℃上がるごとに約2mV下がります)
  • 逆方向の漏れ電流が増える:温度が上がると本来少ないはずのキャリアが増えるため、電流を止めているはずの方向にも電流が多く流れるようになります
  • 壊れる電圧が変わる:温度が上がると、ツェナー降伏が起こる電圧は下がり、アバランシェ降伏が起こる電圧は上がります

温度による影響の実例:

例えば、25℃で0.7Vの順方向電圧を持つシリコンダイオードは、100℃では約0.55Vまで低下します。また、逆方向漏れ電流は温度が10℃上昇するごとに約2倍になるため、高温環境での使用には注意が必要です。

半導体デバイスの基礎 重要ポイントまとめ:

  • 半導体の特性:導体と絶縁体の中間的な性質を持ち、温度や不純物によって電気的特性が変化する
  • n型半導体:余分な電子(自由電子)を持ち、電子が主な電荷キャリアとなる
  • p型半導体:電子の不足(正孔)があり、正孔が主な電荷キャリアとなる
  • pn接合:p型とn型を接合すると空乏層と内部電界が形成され、整流作用が生じる
  • 整流作用:順方向では電流が流れやすく、逆方向では電流がほとんど流れない特性
  • 降伏現象:大きな逆電圧で急激に電流が増加する現象(ツェナー降伏とアバランシェ降伏)
  • 温度特性:温度上昇により順方向電圧が下がり、逆方向漏れ電流が増加する

2.2 パワー半導体デバイスの種類と特性

パワーエレクトロニクスで使用される主な半導体デバイスとその特性について詳しく解説します。電験三種では、各デバイスの動作原理、特性、用途について頻出の試験範囲となっています。

1. 整流ダイオード

最も基本的なパワー半導体デバイスで、一方向のみに電流を流す性質を持ちます。pn接合の整流作用を利用しています。

整流ダイオードの特徴:

  • 順方向では小さな電圧降下(シリコンダイオードで約0.6〜1.0V)で大電流を流せる
  • 逆方向では定格電圧まで電流をほぼ遮断(微小な漏れ電流のみ)
  • 制御端子を持たないため、オン・オフの制御はできない(受動素子)
  • 主に交流を直流に変換する整流回路に使用
  • 高速スイッチング用途には「高速回復ダイオード」や「ショットキーバリアダイオード」が使用される

整流ダイオードの主な定格パラメータ:

  • 最大順電流 \(I_F\):連続して流すことができる最大の順方向電流
  • 最大逆電圧 \(V_{RM}\):印加できる最大の逆方向電圧(これを超えると絶縁破壊)
  • 順電圧降下 \(V_F\):定格電流が流れるときの順方向電圧降下(導通損失に関係)
  • 逆回復時間 \(t_{rr}\):逆バイアスになってから完全に電流が遮断されるまでの時間(高速スイッチング性能に関係)

試験でよく出題される整流ダイオードの種類:

  • 一般整流ダイオード:一般的な整流用途
  • 高速回復ダイオード(FRD: Fast Recovery Diode):逆回復時間が短く、高周波スイッチング回路に適する
  • ショットキーバリアダイオード(SBD):金属と半導体の接合で、順電圧降下が小さく、逆回復時間が非常に短い
  • ツェナーダイオード:特定の逆電圧で電流を流す特性があり、定電圧素子として使用

2. サイリスタ(SCR: Silicon Controlled Rectifier)

ゲート電極からの制御信号によってオン状態にすることができる三端子のパワー半導体デバイスです。pnpn構造を持ち、アノード、カソード、ゲートの3つの端子があります。

サイリスタの等価回路:

サイリスタは2つのトランジスタ(pnpとnpn)が互いにフィードバック結合した構造と考えることができます。ゲート信号により一度導通が始まると、相互にベース電流を供給し合って導通状態が維持されます(ラッチング)。

サイリスタの特徴:

  • ゲートにプラスの電流パルス(短い電気信号)を送ることでのみオン状態になります(プラスの電流でスイッチを入れる仕組み)
  • 一度電気が通り始めると、ゲートへの信号がなくなっても電流が流れ続けます(一度入ったスイッチが勝手に入りっぱなしになる特性)
  • 電流がホールディング電流より少なくなるか、または逆向きの電圧がかかると自然にオフ状態に戻ります
  • 主に交流電源の位相(タイミング)を制御して電力をコントロールするのに使われます(交流の波のどの部分で電気を通すかを調整できるため)
  • 意図的にオフにする機能がないため、交流回路では自然に電流が止まるのを待つのが基本です(直流回路では特別な回路でオフにする必要があります)

サイリスタの重要用語:

  • 点弧(スイッチオン):ゲートに信号を送ることで、サイリスタが電気を通す状態になることです
  • 消弧(スイッチオフ):サイリスタが電気を通さない状態に戻ることです
  • ラッチング電流 \(I_L\):一度スイッチが入ったサイリスタが、ゲート信号がなくてもオンの状態を保つために必要な最小限の電流です
  • ホールディング電流 \(I_H\):サイリスタがオンの状態を維持し続けるために必要な最小限の電流です(通常、ラッチング電流よりも小さい値です \(I_H < I_L\))
  • 点弧角 \(\alpha\):交流電源を使った制御回路で、交流の波が始まってからサイリスタをオンにするまでの角度(タイミング)のことです
  • ターンオフ時間 \(t_q\):サイリスタがオフの状態に完全に戻るまでにかかる時間です(回路を設計する際に重要な要素です)

サイリスタ関連デバイス:

  • トライアック(TRIAC):両方向に電流を制御できるサイリスタ(双方向性)、AC制御に適する
  • GTO(Gate Turn-Off Thyristor):ゲート信号でオフ制御も可能なサイリスタ
  • ダイアック(DIAC):ゲートを持たない双方向性スイッチ素子、トライアックのゲート駆動に使用
  • サイリスタの位相制御回路:点弧角を変えることで出力電圧を制御(\(V_{out} = \frac{V_m}{2\pi}(1+\cos\alpha)\) ※全波整流の場合)

3. パワートランジスタ

電流増幅作用を持つ三端子デバイスで、パワーエレクトロニクスでは主にバイポーラトランジスタ(BJT)やパワーMOSFETが使用されます。完全なオン・オフ制御が可能な点が大きな特徴です。

パワートランジスタの種類と特徴:

  • バイポーラトランジスタ(BJT)
    • ベースに流す電流でコレクタ電流をコントロールする電流制御タイプです(\(I_C = h_{FE} \times I_B\):コレクタ電流=増幅率×ベース電流)
    • オンの時の電圧降下が小さく、電力の無駄が少ないです(コレクタ-エミッタ間の飽和電圧 \(V_{CE(sat)}\) が低い)
    • 制御回路が複雑になります(常にベース電流を流し続ける必要があるため)
    • スイッチングの速度は普通程度です(電荷が蓄積されることで遅れが生じます)
    • 電流密度が高く、複数を並列につなぐのが難しいです
  • パワーMOSFET
    • ゲートにかける電圧でドレイン電流をコントロールする電圧制御タイプです
    • 入力インピーダンスが高く、ゲートを制御するのに必要な電力がとても小さいです
    • 非常に高速なスイッチングができます(ナノ秒単位の速さ)
    • 温度が上がるとオン抵抗が増加します(温度係数がプラス)
    • 複数を並列につなぎやすく、電流が均等に分かれやすいです
    • 高い電圧に耐えられる製品ほどオン抵抗が高くなる傾向があります(\(R_{DS(on)} \propto V_{DSS}^{2.5}\):オン抵抗は耐圧の2.5乗に比例)
    • 主に高周波で低〜中程度の電圧の用途に向いています

パワーMOSFETの重要パラメータ:

  • ドレイン-ソース間耐圧 \(V_{DSS}\):ドレインとソースの間にかけることができる最大電圧です
  • オン抵抗 \(R_{DS(on)}\):オン状態の時のドレイン-ソース間の抵抗値で、電力損失に直接関係する重要な値です
  • ゲートしきい値電圧 \(V_{GS(th)}\):MOSFETが電気を通し始めるのに必要な最小限のゲート-ソース間電圧です
  • 入力容量 \(C_{iss}\):ゲートを制御する回路の設計に影響する容量で、スイッチングの速度に関係します
  • ターンオン時間 \(t_{on}\) とターンオフ時間 \(t_{off}\):オンになるまでの時間とオフになるまでの時間で、スイッチングの速度を表すパラメータです

4. IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor: 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)

MOSFETとバイポーラトランジスタの特長を組み合わせた高性能パワーデバイスです。1980年代以降、中〜高電圧・大電流領域での用途で急速に普及しました。

IGBTの特徴:

  • 制御のしやすさ:MOSFETと同じように高い入力インピーダンス(電圧制御)を持ち、ゲートの制御が簡単です
  • 効率の良さ:バイポーラトランジスタのように低いオン電圧特性を持ち、電力の無駄が少ないです(コレクタ-エミッタ間飽和電圧 \(V_{CE(sat)}\) が低い)
  • スイッチング特性:オンになるのは高速ですが、オフになる時に「テール電流」というだらだらと流れる電流が発生します(内部の電子と正孔がゆっくり消えるため)
  • 使用できる範囲:中程度から高い周波数(数kHz〜数十kHz)での大電力制御に適しています
  • 主な使い道:インバータ回路、モータの制御、無停電電源装置(UPS)、溶接機などで使われています
  • 高電圧対応の利点:高い電圧に耐えられる製品でも、オン電圧の増加が比較的少なく、MOSFETより有利です

IGBTの重要パラメータと試験ポイント:

  • コレクタ-エミッタ間耐圧 \(V_{CES}\):コレクタとエミッタの間にかけることができる最大電圧です
  • 連続コレクタ電流 \(I_C\):コレクタに連続して流すことができる最大電流です
  • コレクタ-エミッタ間飽和電圧 \(V_{CE(sat)}\):オン状態の時にコレクタ-エミッタ間で発生する電圧降下で、電力損失に直接関係する重要な値です
  • ゲート-エミッタ間しきい値電圧 \(V_{GE(th)}\):IGBTが電気を通し始めるのに必要な最小限のゲート電圧です
  • スイッチング時間:オンになる時の遅れ時間 \(t_d(on)\)、電流が立ち上がる時間 \(t_r\)、オフになる時の遅れ時間 \(t_d(off)\)、電流が立ち下がる時間 \(t_f\) の各時間です
  • テール電流:オフになる時に発生する、だらだらと流れ続ける電流成分で、内部の電子と正孔がゆっくり消えることが原因です(スイッチング損失に大きく影響します)

最新のIGBT技術とトレンド(試験対策):

  • トレンチゲート構造:チャネル密度の向上によるオン電圧の低減
  • フィールドストップ構造:薄型ウェハ技術による損失低減
  • キャリアライフタイム制御:テール電流の低減によるスイッチング損失の改善
  • RB-IGBT(逆導通IGBT):内蔵ダイオードを持つIGBT
  • RC-IGBT(逆阻止IGBT):逆方向耐圧を持つIGBT

5. 最新のパワー半導体デバイス

近年、シリコン(Si)に代わる新材料を用いたパワー半導体デバイスの研究開発と実用化が進んでいます。特に炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いたデバイスが注目されています。

SiCデバイスの特徴:

  • バンドギャップが広く、高耐電圧・高温動作が可能
  • 熱伝導率が高く、放熱性に優れる
  • Siデバイスに比べてオン抵抗が大幅に低減
  • 高速スイッチングが可能(スイッチング損失の低減)
  • 主にSiC-MOSFETやSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)として実用化
  • 用途:高効率インバータ、電気自動車用電力変換器、太陽光発電用パワーコンディショナなど

パワー半導体デバイスの選択基準(試験対策ポイント):

  • 電圧・電流定格:必要な耐電圧と電流容量に対応したデバイスを選択
  • スイッチング周波数:高周波用途ではMOSFETやIGBT、低周波ではサイリスタが有利
  • 制御の容易さ:電圧制御(MOSFET/IGBT)か電流制御(BJT)か
  • 損失:導通損失(オン抵抗や飽和電圧)とスイッチング損失のバランス
  • 保護機能:過電流・過電圧・過熱に対する耐性や保護回路の必要性
  • パッケージ:放熱性、絶縁性、実装の容易さ
  • コスト:デバイス自体の価格と周辺回路も含めたシステム全体のコスト

パワー半導体デバイスに関する練習問題:

次の文章の空欄に当てはまる適切な語句を選びなさい。

「IGBTは( A )のような入力特性と( B )のような出力特性を兼ね備えたデバイスである。IGBTのターンオフ時に発生する( C )は、スイッチング損失の主要因となる。一方、パワーMOSFETは( D )が高いという特徴があり、高耐圧品では損失が増大する。」

  1. A:サイリスタ  B:MOSFET   C:サージ電流  D:オン抵抗
  2. A:MOSFET   B:サイリスタ  C:テール電流  D:オン抵抗
  3. A:MOSFET   B:BJT     C:テール電流  D:オン抵抗
  4. A:BJT     B:MOSFET   C:サージ電流  D:スイッチング周波数

解答:c. A:MOSFET   B:BJT     C:テール電流  D:オン抵抗

解説:

IGBTとパワーMOSFETの特徴について

IGBTの良いところ
IGBTは2つの優れた特徴を持っています:

制御しやすい:MOSFETと同じように、少ない電力で簡単にオン・オフを制御できます(電圧で制御)
効率が良い:バイポーラトランジスタのように、電流を流すときの電圧降下が小さく、無駄な電力消費が少なくて済みます

IGBTの課題
IGBTをオフにするとき、「テール電流」という現象が起こります。これは電流がすぐに止まらず、だらだらと流れ続ける現象です。この原因は、IGBT内部の電子と正孔(電気の穴)がゆっくりと消えていくためです。この余分な電流により、スイッチング時に熱が発生し、効率が下がる主な原因となります。

パワーMOSFETの課題
パワーMOSFETは高い電圧に耐えられるように作ると、オン抵抗(電流を流すときの抵抗)が大きくなってしまいます。具体的には、耐圧が高くなると、オン抵抗は耐圧の2.5乗に比例して増加します。これにより、大きな電流を流す用途では、抵抗による電力損失が大きくなってしまいます。

2.3 スイッチング動作の基本

パワーエレクトロニクスの本質は、半導体デバイスを高速でスイッチング(オン/オフ)させることによる電力制御です。この基本的な仕組みと原理を理解することが、パワーエレクトロニクス全体の理解につながります。

電力制御の2つの方法

電力を制御する方法には大きく分けて2つの方法があります。これらの違いを理解することで、スイッチング方式の利点が明確になります。

電力制御の方法:

  1. 抵抗による制御方式(リニア方式)
    • 可変抵抗や半導体の動作領域を利用して電流を制限する方法
    • 連続的に滑らかな制御が可能
    • 制御素子自体で大きな電力損失が発生(熱として放出)
    • 効率が低く、発熱が大きい
    • 例:ボリュームによる音量調整、トランジスタのリニア領域を使った回路
  2. スイッチングによる制御方式
    • スイッチのオン・オフの時間比率で平均電力を制御する方法
    • オン状態では最大電力を供給、オフ状態では電力供給ゼロ
    • 理想的なスイッチでは損失が極めて小さい
    • 高効率で発熱が少ない
    • 例:LED調光器、スイッチング電源、インバータ

日常生活の例:

水道の蛇口を例にすると、リニア制御は蛇口を半開きにして水量を調節する方法、スイッチング制御は蛇口を完全に開けたり閉めたりする動作を繰り返し、開けている時間の割合で平均水量を調節する方法に例えられます。後者は一見無駄に見えますが、半開き状態で発生する圧力損失(エネルギー損失)がないため、理論的にはエネルギー効率が高くなります。

理想スイッチと実際のスイッチ

スイッチング制御の理解には、理想的なスイッチと実際の半導体スイッチの違いを知ることが重要です。

理想スイッチの特性:

  • オン状態:抵抗ゼロ(電圧降下なし)で電流を流す
  • オフ状態:抵抗無限大(漏れ電流なし)で電流を完全に遮断
  • スイッチング時間:ゼロ(瞬時に切り替わる)
  • 損失:ゼロ(熱の発生なし)

実際の半導体スイッチの特性:

  • オン状態:有限のオン抵抗や飽和電圧による電圧降下あり
  • オフ状態:微小な漏れ電流あり
  • スイッチング時間:有限(ナノ秒〜マイクロ秒オーダー)
  • 損失:導通損失とスイッチング損失が発生

半導体スイッチの動作状態

半導体スイッチには主に3つの動作状態があります。これらを理解することがスイッチングの基本です。

半導体スイッチの動作状態:

  1. オン状態(導通状態)
    • 大電流が流れ、電圧降下が小さい状態
    • MOSFET:チャネルが形成されて低抵抗状態
    • IGBT:コレクタ-エミッタ間が低抵抗状態
    • この状態での損失を「導通損失」と呼ぶ
  2. オフ状態(遮断状態)
    • 電流がほとんど流れず、全電圧を耐える状態
    • MOSFET:チャネルが消滅して高抵抗状態
    • IGBT:コレクタ-エミッタ間が高抵抗状態
    • この状態での損失は非常に小さい(理想的にはゼロ)
  3. 遷移状態(スイッチング中)
    • オン状態とオフ状態の間の過渡的な状態
    • 電圧と電流が同時に大きな値をとる期間がある
    • この状態での損失を「スイッチング損失」と呼ぶ

交通信号の例え:

半導体スイッチの動作状態は交通信号に例えることができます。オン状態は青信号(電流が自由に流れる)、オフ状態は赤信号(電流が停止)、そして遷移状態は黄信号(過渡状態)のようなものです。理想的には青と赤の切り替えが瞬時に行われれば効率的ですが、実際には安全のために黄信号の時間が必要です。半導体スイッチでも同様に、物理的な制約から遷移状態が存在し、ここでエネルギー損失が発生します。

スイッチング波形と動作の仕組み

実際のスイッチング動作を波形で見ると、オンからオフ、オフからオンへの遷移がどのように起こるかがわかります。

ターンオン過程(オフ→オン):

  1. ターンオン遅延時間(turn-on delay time):制御信号が入ってから電流が流れ始めるまでの時間
  2. 電流立ち上がり時間(current rise time):電流がゼロから最大値まで増加する時間
  3. 電圧立ち下がり時間(voltage fall time):電圧が最大値からほぼゼロまで減少する時間

ターンオフ過程(オン→オフ):

  1. ターンオフ遅延時間(turn-off delay time):制御信号が切れてから電圧が上昇し始めるまでの時間
  2. 電圧立ち上がり時間(voltage rise time):電圧がほぼゼロから最大値まで増加する時間
  3. 電流立ち下がり時間(current fall time):電流が最大値からゼロまで減少する時間

スイッチング損失のメカニズム

スイッチング損失は、ターンオン・ターンオフ時の過渡状態で発生します。なぜこの損失が発生するのかを理解しましょう。

スイッチング損失が発生する仕組み:

  • 物理的な制約:半導体内部の寄生容量や寄生インダクタンスにより、電圧や電流が瞬時に変化できない
  • 電圧と電流の重なり:スイッチング過渡期に電圧と電流が同時に大きな値をとる期間がある
  • 損失の計算原理:瞬時電力 \(p(t) = v(t) \times i(t)\) が大きくなり、これが熱として消費される
  • 周波数の影響:スイッチング周波数が高いほど、単位時間あたりのスイッチング回数が増えるため損失も増加

車の発進と停止の例え:

スイッチング損失は、車の発進と停止に例えることができます。静止状態(オフ)から一定速度(オン)まで加速する過程や、一定速度から停止するまでの減速過程ではエネルギー消費(燃料消費)が大きくなります。これは、加速や減速の際にはエンジンや制動システムでのエネルギー損失が大きいためです。同様に、半導体スイッチも遷移状態でのエネルギー損失が大きくなります。

デューティサイクルによる電力制御

スイッチングによる電力制御の基本概念は「デューティサイクル」です。これは平均電力を制御するための重要な概念です。

デューティサイクルとは:

  • スイッチングの1周期におけるオン時間の割合
  • 数式表現:D = オン時間 ÷ 周期 = オン時間 ÷ (オン時間 + オフ時間)
  • 0(常にオフ)から1(常にオン)までの値をとる
  • パーセントで表すと0%〜100%

デューティサイクルによる平均値の制御:

  • 平均電圧 = 入力電圧 × デューティサイクル
  • デューティサイクルが大きいほど平均出力も大きくなる
  • 例:100Vの電源でD=0.3のとき、平均電圧は30V

水道栓の例え:

デューティサイクルによる制御は、水道の蛇口を一定のリズムで開閉するようなものです。10秒間のうち5秒間だけ蛇口を全開にして水を出し、残りの5秒間は完全に閉めるとします(D=0.5)。この場合、10秒間の平均水量は、常に蛇口を半開きにしておいた場合と同じになります。しかし、エネルギー効率の点では、全開/全閉の切り替え方式の方が優れています(全開時は圧力損失が最小限で済むため)。

パワーエレクトロニクスの基本的な制御方式

スイッチングを用いた電力制御には、いくつかの基本的な制御方式があります。これらの違いを理解しましょう。

主要な制御方式:

  1. PWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)
    • スイッチング周波数を一定に保ち、オン時間の幅を変える方式
    • 最も広く使われている制御方式
    • 回路設計がシンプルで予測可能な動作
    • フィルタリングがしやすい(一定周波数のノイズ)
    • 用途:インバータ、スイッチング電源、モータ制御など
  2. PFM(Pulse Frequency Modulation、パルス周波数変調)
    • パルス幅を一定に保ち、スイッチング周波数を変える方式
    • 軽負荷時の効率が良い(スイッチング回数が減少)
    • ノイズスペクトラムが広がる(EMIフィルタリングが難しい)
    • 用途:軽負荷効率が重要なバッテリー駆動機器など
  3. 位相制御
    • 交流電源の位相角を基準にしてスイッチングタイミングを制御する方式
    • 主にサイリスタなどの位相制御デバイスで使用
    • 交流電源の一部を切り取る形で電力を制御
    • 用途:交流電力制御、調光器、ヒーター制御など

スイッチングによる波形の生成

スイッチングを利用すると、単なる電力制御だけでなく、様々な波形を生成することもできます。これがインバータの基本原理です。

スイッチングによる波形生成の基本:

  • 矩形波の生成:最も基本的なスイッチング出力
  • 擬似正弦波の生成:複数の電圧レベルを使用して階段状の波形を作る
  • PWM正弦波の生成:正弦波に比例したデューティサイクルを持つPWM信号を生成し、フィルタで平滑化
  • 多レベルインバータ:複数のスイッチと電圧源を組み合わせて、より正弦波に近い波形を生成

スイッチング損失の低減技術

スイッチング損失はパワーエレクトロニクス回路の重要な損失要因です。これを低減するためのいくつかの基本技術を紹介します。

スイッチング損失低減の基本アプローチ:

  1. スイッチング周波数の最適化
    • 必要以上に高い周波数を使用しない
    • 他の回路要素(フィルタなど)との最適なバランスを取る
  2. 高速スイッチングデバイスの選択
    • ターンオン・ターンオフ時間が短いデバイスを使用
    • 例:SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体
  3. ゲート駆動回路の最適化
    • 適切なゲート抵抗値の選択
    • 高性能ゲートドライバICの使用
  4. スナバ回路の活用
    • スイッチングデバイスの周辺に配置する補助回路
    • スイッチング時の電圧・電流のサージを抑制
  5. ソフトスイッチング技術
    • ZVS(Zero Voltage Switching):電圧がゼロのときにスイッチング
    • ZCS(Zero Current Switching):電流がゼロのときにスイッチング
    • 共振回路を利用して実現

電車の発車の例え:

ソフトスイッチング技術は、電車が発車するときに徐々に加速するようなものです。急発進ではなく、ゆっくりと速度を上げていくことでエネルギー効率が向上し、乗客も快適です。同様に、半導体デバイスも「電圧ゼロ」や「電流ゼロ」の状態でスイッチングすることで、過渡状態でのエネルギー損失を大幅に低減できます。

スイッチング動作の基本 重要ポイントまとめ:

  • 制御方法の違い:リニア制御とスイッチング制御の基本的な違いと長所・短所
  • 理想と現実のギャップ:理想スイッチと実際の半導体スイッチの違い
  • スイッチの動作状態:オン状態、オフ状態、遷移状態の特性
  • スイッチング損失:電圧と電流の重なりによる損失の発生メカニズム
  • デューティサイクル:オン時間の割合による平均電力の制御
  • 基本制御方式:PWM、PFM、位相制御の特徴と用途
  • 波形生成:スイッチングによる様々な波形の生成方法
  • 損失低減技術:スイッチング損失を減らすための基本アプローチ

3. 数式と理論

3.1 整流回路の理論

整流回路は交流(AC)を直流(DC)に変換する回路で、パワーエレクトロニクスの基本的な応用の一つです。

半波整流回路

最も基本的な整流回路で、交流の片側の半波のみを通過させます。

半波整流回路の平均出力電圧:

\[V_{dc} = \frac{1}{T} \int_{0}^{T} v(t) \, dt = \frac{1}{2\pi} \int_{0}^{\pi} V_m \sin \omega t \, d(\omega t) = \frac{V_m}{\pi}\]

ここで、\(V_m\) は入力交流電圧の最大値、\(T\) は周期です。

入力交流電圧の実効値を \(V_{rms}\) とすると、\(V_m = \sqrt{2} \times V_{rms}\) であるため:

\[V_{dc} = \frac{V_m}{\pi} = \frac{\sqrt{2} \times V_{rms}}{\pi} \approx 0.45 \times V_{rms}\]

全波整流回路

交流の正負両サイクルを利用して直流を得る回路です。ダイオードブリッジ回路が一般的に使用されます。

全波整流回路の平均出力電圧:

\[V_{dc} = \frac{2}{\pi} V_m = \frac{2\sqrt{2}}{\pi} V_{rms} \approx 0.9 \times V_{rms}\]

全波整流は半波整流の2倍の平均電圧を出力します。

三相整流回路

三相交流電源を用いた整流回路は、単相整流回路に比べて出力の脈動が少なく、より高い電力変換効率を持ちます。

三相全波整流回路の平均出力電圧:

\[V_{dc} = \frac{3\sqrt{2}}{\pi} V_{rms(L-L)} = \frac{3\sqrt{6}}{\pi} V_{rms(L-N)} \approx 1.35 \times V_{rms(L-L)}\]

ここで、\(V_{rms(L-L)}\) は線間電圧の実効値、\(V_{rms(L-N)}\) は相電圧の実効値です。

整流回路の平滑化:

整流回路の出力には脈動(リプル)が含まれます。これを低減するために、コンデンサを並列に接続した平滑回路が用いられます。平滑コンデンサの容量が大きいほどリプルは小さくなりますが、過大な突入電流や高調波電流が問題となることがあります。

例題:単相全波整流回路の平均出力電圧

単相交流100V(実効値)を全波整流した場合の平均出力電圧を求めなさい。

解答:

\begin{align*} V_{dc} &= \frac{2\sqrt{2}}{\pi} V_{rms} \\ &= \frac{2\sqrt{2}}{\pi} \times 100 \\ &= \frac{2 \times 1.414}{\pi} \times 100 \\ &= \frac{282.8}{3.14} \\ &\approx 90 \, \mathrm{V} \end{align*}

3.2 チョッパ回路の理論

チョッパ回路(DC-DCコンバータ)は、直流電圧を別の電圧レベルの直流に変換する回路です。電力変換効率が高く、電圧制御の応答性にも優れているため、様々な電子機器や電力制御システムに広く使用されています。第三種電気主任技術者試験では頻出分野の一つです。

チョッパ回路の基本的な原理と仕組み

チョッパ回路とは:

チョッパ回路とは、直流電圧を「刻む(チョップする)」ことで、別の直流電圧に変換する回路です。これは変圧器が交流でしか使えないのに対し、直流を直接変換できるという大きな利点があります。

直流変圧の基本的な考え方:

例えば100Vの直流電源に対して、スイッチを1秒間に50%だけONにすると、平均して50Vの電圧が得られます。これが最も基本的なチョッパの考え方です。しかし、このままでは出力は脈動する直流となります。そこで、インダクタとコンデンサを用いて平滑化することで安定した直流を得ます。

チョッパ回路の動作の基本要素:

  1. スイッチング素子:高速でON/OFFを繰り返す半導体スイッチ(MOSFET、IGBT、サイリスタなど)
  2. エネルギー蓄積素子:インダクタ(コイル)とコンデンサ
  3. 還流ダイオード:インダクタに蓄えられたエネルギーの放出経路を確保
  4. 制御回路:スイッチング素子のON/OFFタイミングを制御

エネルギー蓄積と放出のメカニズム

インダクタ(コイル)の基本的な性質:

  1. 電流の急激な変化を妨げる性質(電流に関する慣性のような性質)
  2. エネルギーを磁界の形で蓄える機能(\(E = \frac{1}{2}LI^2\))
  3. 電圧と電流の関係:\(V_L = L \frac{dI}{dt}\)(電流の変化率に比例した電圧が発生)

インダクタのエネルギー蓄積・放出の仕組み:

  • エネルギー蓄積時:インダクタに電圧が加わると、徐々に電流が増加し、磁界の形でエネルギーが蓄積される
  • エネルギー放出時:電源が切られると、蓄積されたエネルギーを維持するために、インダクタは電流を流し続けようとする。このとき、電圧の極性が反転し、これが「キックバック電圧」として現れる

このエネルギーの蓄積と放出のサイクルがチョッパ回路の基本原理です。

スイッチング動作とデューティサイクル

チョッパ回路の基本原理:

チョッパ回路は、スイッチングデバイス(MOSFET、IGBT等)の高速オン・オフ動作によって、電源からのエネルギー供給を制御し、インダクタやコンデンサにエネルギーを蓄積・放出させることで所望の出力電圧を得ます。この制御の基本パラメータがデューティサイクル(D)です。

\[D = \frac{t_{ON}}{t_{ON} + t_{OFF}} = \frac{t_{ON}}{T}\]

ここで、\(t_{ON}\)はスイッチのオン時間、\(t_{OFF}\)はオフ時間、\(T\)はスイッチング周期です。

デューティサイクルの例:

  • D = 0.2:スイッチが1周期の20%の時間だけON状態
  • D = 0.5:スイッチが1周期の50%の時間ONで50%がOFF(ON/OFF時間が等しい)
  • D = 0.8:スイッチが1周期の80%の時間ONで20%がOFF

還流ダイオードの役割

還流ダイオードの重要性:

チョッパ回路において、還流ダイオード(フリーホイーリングダイオード)は非常に重要な役割を果たします。インダクタに蓄積されたエネルギーが放出される際の電流経路を確保し、スイッチング素子を保護します。

還流ダイオードなしの場合の問題:

もし還流ダイオードがなければ、スイッチがOFFになった瞬間、インダクタは電流を維持しようとして非常に高い電圧(キックバック電圧)を発生させ、スイッチング素子を破壊する可能性があります。還流ダイオードはこの高電圧から回路を保護すると同時に、インダクタのエネルギーを負荷に供給する経路を提供します。

連続モードと不連続モード

インダクタ電流の二つの動作モード:

  1. 連続モード(CCM: Continuous Conduction Mode):インダクタ電流が常に0より大きく、一周期を通して流れ続ける状態
  2. 不連続モード(DCM: Discontinuous Conduction Mode):インダクタ電流が周期の一部でゼロになる状態

動作モードが変わる条件:

軽負荷(出力電流が小さい)、小さなインダクタンス値、低いスイッチング周波数などの条件で不連続モードになりやすくなります。不連続モードでは、電圧変換比がデューティサイクルだけでなく負荷条件にも依存するようになります。

1. 降圧チョッパ(Buck Converter)

入力電圧より低い出力電圧を得るための回路です。電験三種では最も基本的なDC-DCコンバータとして必ず理解しておくべき回路です。

降圧チョッパの基本構成:

基本的な降圧チョッパは、スイッチング素子(S)、還流ダイオード(D)、インダクタ(L)、出力コンデンサ(C)、負荷抵抗(R)で構成されます。これらが特定の配置で接続されることで、入力電圧より低い出力電圧を生成します。

降圧チョッパの動作説明:

  1. スイッチON時
    • 入力電源がインダクタLと負荷に直接接続される
    • インダクタには電圧(Vi-Vo)が加わり、電流が徐々に増加
    • この時、インダクタは磁気エネルギーを蓄える
    • 同時に、負荷とコンデンサにも電流が供給される
  2. スイッチOFF時
    • 入力電源から回路が切り離される
    • インダクタは電流を維持しようとし、電圧の極性が反転する
    • この電圧によって還流ダイオードが導通する
    • インダクタに蓄えられたエネルギーがダイオードを通して負荷に供給される
    • インダクタ電流は徐々に減少する

この「蓄えて放出する」サイクルが高速で繰り返されることで、平均的に入力電圧より低い電圧が出力されます。

降圧チョッパの基本関係式:

1. 出力電圧と入力電圧の関係(連続モード):

\[V_o = D \times V_i\]

ここで、\(V_o\) は出力電圧、\(V_i\) は入力電圧、\(D\) はデューティサイクル(0〜1の値)です。

2. 出力電流と入力電流の関係(理想状態):

\[I_i = D \times I_o\]

ここで、\(I_i\) は入力電流の平均値、\(I_o\) は出力電流です。この関係は電力保存則(\(P_i = P_o\))から導かれます。

3. インダクタの電流リプル:

\[\Delta I_L = \frac{V_i \times D \times (1-D)}{L \times f}\]

ここで、\(\Delta I_L\) はインダクタ電流のリプル、\(L\) はインダクタンス、\(f\) はスイッチング周波数です。

4. 出力電圧リプル(連続モード):

\[\Delta V_o \approx \frac{\Delta I_L}{8 \times C \times f} = \frac{V_i \times D \times (1-D)}{8 \times L \times C \times f^2}\]

ここで、\(\Delta V_o\) は出力電圧リプル、\(C\) は出力コンデンサの容量です。

降圧チョッパの動作モード:

1. 連続モード(CCM: Continuous Conduction Mode)

  • インダクタ電流が常に0より大きい状態
  • スイッチON時:\(\frac{dI_L}{dt} = \frac{V_i - V_o}{L}\)
  • スイッチOFF時:\(\frac{dI_L}{dt} = -\frac{V_o}{L}\)
  • 定常状態では、1周期でのインダクタ電流の変化は0になる(\(\int_0^T \frac{dI_L}{dt} dt = 0\))

2. 不連続モード(DCM: Discontinuous Conduction Mode)

  • 軽負荷時などに、インダクタ電流が0になる期間が生じる状態
  • この場合、出力電圧と入力電圧の関係は次式となる:
  • \[V_o = \frac{V_i \times D^2}{D^2 + 2 \times \frac{L \times I_o}{V_i \times T}}\]
  • 連続モードと不連続モードの境界条件:
  • \[I_{o(crit)} = \frac{V_i \times D \times (1-D) \times T}{2 \times L}\]

降圧チョッパの設計例:

入力電圧が48V、出力電圧を24V、最大出力電流が5A、スイッチング周波数が50kHzの降圧チョッパを設計する。

1. デューティサイクルの計算:

\[D = \frac{V_o}{V_i} = \frac{24}{48} = 0.5\]

2. インダクタンスの最小値(連続モード動作のため):

連続モードと不連続モードの境界となる臨界インダクタンスは:

\[L_{crit} = \frac{(1-D) \times R}{2 \times f} = \frac{(1-0.5) \times \frac{24}{5}}{2 \times 50 \times 10^3} = \frac{0.5 \times 4.8}{100 \times 10^3} = 24 \, \mu\mathrm{H}\]

通常は臨界値の2〜3倍を選択するため、L = 70μHとする。

3. 出力コンデンサの容量計算(電圧リプル1%以下とする):

\[C \geq \frac{(1-D)}{8 \times L \times f^2 \times \frac{\Delta V_o}{V_o}} = \frac{0.5}{8 \times 70 \times 10^{-6} \times (50 \times 10^3)^2 \times 0.01} \approx 36 \, \mu\mathrm{F}\]

安全マージンを考慮して、C = 100μFを選択する。

2. 昇圧チョッパ(Boost Converter)

入力電圧より高い出力電圧を得るための回路です。太陽光発電のMPPT制御、バッテリ駆動機器、LED照明など幅広い用途に用いられます。

昇圧チョッパの基本構成:

昇圧チョッパの基本構成はインダクタ(L)、スイッチング素子(S)、ダイオード(D)、出力コンデンサ(C)、負荷抵抗(R)からなります。降圧チョッパとは配置が異なり、この配置によって入力電圧よりも高い出力電圧を得ることができます。

昇圧チョッパの動作説明:

  1. スイッチON時
    • インダクタが入力電源に直接接続され、電流が増加する
    • インダクタには入力電圧Vi全体が加わる
    • インダクタが磁気エネルギーを蓄える(充電フェーズ)
    • この間、ダイオードは逆バイアスとなり、負荷はコンデンサからエネルギーを受け取る
  2. スイッチOFF時
    • インダクタは蓄えたエネルギーを放出しようとし、電圧の極性を保ったまま電流を流し続ける
    • インダクタの電圧は入力電圧に加算される形となる
    • インダクタからの電圧と入力電圧の和によってダイオードが順バイアスとなる
    • 入力源とインダクタの両方からエネルギーが出力コンデンサと負荷に供給される
    • この結果、出力電圧は入力電圧より高くなる

つまり、スイッチのON/OFFによって、インダクタを「チャージポンプ」のように使い、入力電圧よりも高い電圧を発生させるのが昇圧チョッパの原理です。

昇圧チョッパの基本関係式:

1. 出力電圧と入力電圧の関係(連続モード):

\[V_o = \frac{V_i}{1-D}\]

ここで、\(V_o\) は出力電圧、\(V_i\) は入力電圧、\(D\) はデューティサイクル(0〜1の値)です。

2. 出力電流と入力電流の関係(理想状態):

\[I_i = \frac{I_o}{1-D}\]

入力電流は出力電流より大きくなります(エネルギー保存則による)。

3. インダクタの電流リプル:

\[\Delta I_L = \frac{V_i \times D}{L \times f}\]

4. 出力電圧リプル(連続モード):

\[\Delta V_o \approx \frac{I_o \times D}{C \times f}\]

昇圧チョッパの重要な特性:

  • スイッチがON時:インダクタにエネルギーを蓄積し、負荷はコンデンサから電力供給
  • スイッチがOFF時:インダクタに蓄えられたエネルギーと入力電源からのエネルギーが合わさって負荷に供給
  • 昇圧比の限界:理論上はDが1に近づくと出力電圧は無限大になるが、実際には損失や寄生成分により制限される
  • 実際の昇圧比限界の要因
    • インダクタの直列抵抗
    • スイッチング素子のオン抵抗またはVCE(sat)
    • ダイオードの順方向電圧降下
    • スイッチング損失
    • 磁気飽和
  • 不連続モードでの出力電圧:\(V_o = V_i \times (1 + \frac{D^2 \times T}{2 \times L \times I_o})\)

例題:昇圧チョッパの計算問題

入力電圧12Vの昇圧チョッパ回路で、出力電圧を36Vにするためのデューティサイクルを求めよ。また、このとき出力電流が2Aの場合、入力電流と入力電力を求めよ。ただし、回路の損失は無視するものとする。

解答:

1. 出力電圧と入力電圧の関係式より、必要なデューティサイクルを求める:

\begin{align*} V_o &= \frac{V_i}{1-D} \\ 36 &= \frac{12}{1-D} \\ 1-D &= \frac{12}{36} = \frac{1}{3} \\ D &= 1 - \frac{1}{3} = \frac{2}{3} \approx 0.667 \end{align*}

2. 入力電流の計算:

\begin{align*} I_i &= \frac{I_o}{1-D} \\ &= \frac{2}{1-0.667} \\ &= \frac{2}{0.333} \\ &= 6 \, \mathrm{A} \end{align*}

3. 入力電力の計算:

\begin{align*} P_i &= V_i \times I_i \\ &= 12 \times 6 \\ &= 72 \, \mathrm{W} \end{align*}

4. 確認:出力電力は \(P_o = V_o \times I_o = 36 \times 2 = 72 \, \mathrm{W}\) となり、入力電力と一致する(損失を無視した場合)。

3. 昇降圧チョッパ(Buck-Boost Converter)

入力電圧より高い出力電圧も低い出力電圧も得ることができる回路です。ただし、出力電圧の極性が入力と逆になる特徴があります。

昇降圧チョッパの基本関係式:

1. 出力電圧と入力電圧の関係(連続モード):

\[V_o = -\frac{D}{1-D} \times V_i\]

ここで、出力電圧 \(V_o\) の負の符号は、出力電圧の極性が入力と逆であることを示しています。

2. 入出力電流の関係:

\[I_i = \frac{I_o \times D}{1-D}\]

3. インダクタの電流リプル:

\[\Delta I_L = \frac{V_i \times D}{L \times f}\]

4. 出力電圧リプル:

\[\Delta V_o \approx \frac{I_o \times D}{(1-D) \times C \times f}\]

昇降圧チョッパの特徴と応用:

  • 特徴:入力電圧より高い/低い出力電圧が得られるが、極性が反転する
  • 動作原理
    • スイッチON時:インダクタにエネルギーを蓄積(負荷から切り離される)
    • スイッチOFF時:インダクタに蓄えられたエネルギーが負荷に放出される(入力から切り離される)
  • 応用例
    • バッテリ駆動機器(バッテリ電圧が変動する場合)
    • LED駆動回路
    • 可変電源
  • デューティサイクルによる出力電圧変化
    • D = 0.5のとき:|Vo| = Vi
    • D < 0.5のとき:|Vo| < Vi(降圧動作)
    • D > 0.5のとき:|Vo| > Vi(昇圧動作)

4. Ćuk(チュック)コンバータと絶縁型コンバータ

昇降圧動作が可能で、入出力のリプル電流が小さい特徴を持つĆukコンバータや、入出力間を電気的に絶縁できる各種絶縁型コンバータも、高度な応用に用いられます。

Ćukコンバータの特徴:

  • 昇降圧動作が可能(出力極性は反転)
  • 入力側と出力側の両方でリプル電流が小さい
  • 出力電圧と入力電圧の関係:\(V_o = -\frac{D}{1-D} \times V_i\)
  • 2つのインダクタと1つのコンデンサ(エネルギー転送用)を使用

絶縁型DC-DCコンバータの種類:

  • フライバックコンバータ:昇降圧動作、単巻変圧器(実際はインダクタ)使用、小電力用途
  • フォワードコンバータ:降圧動作、変圧器でエネルギー直接伝送、中電力用途
  • プッシュプルコンバータ:降圧動作、変圧器の利用効率が高い、中〜大電力用途
  • ハーフブリッジコンバータ:降圧動作、電圧ストレスが小さい、中〜大電力用途
  • フルブリッジコンバータ:降圧動作、変圧器利用効率が最も高い、大電力用途

5. チョッパ回路の制御方式

チョッパ回路の性能を最大限に引き出すためには、適切な制御方式が重要です。主な制御方式には以下のようなものがあります。

主なチョッパ制御方式:

  • 電圧モード制御:出力電圧をフィードバックし、基準電圧と比較して制御
    • 構成が簡単
    • 入力電圧変動に対する応答が比較的遅い
  • 電流モード制御:インダクタ電流と出力電圧をフィードバック
    • 入力電圧変動に対する応答が速い
    • 過電流保護機能が組み込める
    • デューティサイクルが0.5を超えると不安定になる場合がある(スロープ補償が必要)
  • ヒステリシス制御:出力電圧(または電流)をしきい値の範囲内に保つ制御
    • 応答が非常に速い
    • スイッチング周波数が一定でない

6. チョッパ回路の効率と損失

チョッパ回路の効率は通常80%〜95%程度と高いですが、様々な要因による損失が発生します。

チョッパ回路の主な損失要因:

  • 導通損失
    • スイッチングデバイスのオン抵抗または飽和電圧による損失
    • ダイオードの順方向電圧降下による損失
    • インダクタの銅損(巻線抵抗による損失)
  • スイッチング損失
    • ターンオン・ターンオフ時の過渡損失
    • 損失は周波数に比例して増加
  • 駆動回路損失:ゲート駆動に必要な電力
  • 磁気損失:インダクタやトランスのコア損失(ヒステリシス損失、渦電流損失)
  • 容量性損失:寄生容量の充放電によるエネルギー損失

効率の計算:

\[\eta = \frac{P_o}{P_i} = \frac{P_o}{P_o + P_{loss}} \times 100\%\]

ここで、\(\eta\) は効率(%)、\(P_o\) は出力電力、\(P_i\) は入力電力、\(P_{loss}\) は全損失です。

練習問題

降圧チョッパ回路において、入力電圧100V、スイッチング周波数20kHz、インダクタンス500μH、出力コンデンサ容量220μFとする。デューティサイクルを0.4に設定したとき、次の問いに答えよ。

(1) 理想的な回路での出力電圧を求めよ。

(2) 連続モードで動作している場合のインダクタ電流リプルの大きさを求めよ。

(3) 出力電圧リプルを計算せよ。

解答:

(1) 出力電圧の計算:

\begin{align*} V_o &= D \times V_i \\ &= 0.4 \times 100 \\ &= 40 \, \mathrm{V} \end{align*}

(2) インダクタ電流リプルの計算:

\begin{align*} \Delta I_L &= \frac{V_i \times D \times (1-D)}{L \times f} \\ &= \frac{100 \times 0.4 \times (1-0.4)}{500 \times 10^{-6} \times 20 \times 10^3} \\ &= \frac{100 \times 0.4 \times 0.6}{10} \\ &= \frac{24}{10} \\ &= 2.4 \, \mathrm{A} \end{align*}

(3) 出力電圧リプルの計算:

\begin{align*} \Delta V_o &\approx \frac{\Delta I_L}{8 \times C \times f} \\ &= \frac{2.4}{8 \times 220 \times 10^{-6} \times 20 \times 10^3} \\ &= \frac{2.4}{35.2} \\ &\approx 0.068 \, \mathrm{V} = 68 \, \mathrm{mV} \end{align*}

したがって、出力電圧リプルは約68mVです。このリプル率は \(\frac{68 \times 10^{-3}}{40} \times 100\% = 0.17\%\) となり、非常に小さいことがわかります。

チョッパ回路 重要ポイントまとめ:

  • 基本回路:降圧、昇圧、昇降圧の3種類の基本動作とその変換比の式を確実に理解する
  • 連続モードと不連続モード:それぞれの動作条件と電圧変換式の違いを理解する
  • 動作解析:スイッチのON/OFF時の等価回路と電流・電圧の変化を理解する
  • インダクタとコンデンサの役割:エネルギー蓄積素子としての機能と、リプル抑制効果を理解する
  • 計算問題への対応:基本式を用いて、与えられた条件から出力電圧、デューティサイクル、入出力電流、リプル等を計算できるようにする
  • 応用回路:基本回路からの派生回路についても概要を理解しておく

3.3 インバータ回路の理論

インバータ回路は、直流(DC)を交流(AC)に変換する回路です。周波数や電圧を可変にできる特長があり、様々な用途に使用されています。

単相インバータ

直流電源から単相交流を生成する回路です。主にフルブリッジ型(H型)構成が用いられます。

単相フルブリッジインバータの動作原理:

  1. スイッチS1とS4がON、S2とS3がOFF:負荷に正の電圧が印加される
  2. スイッチS2とS3がON、S1とS4がOFF:負荷に負の電圧が印加される

これらを交互に繰り返すことで、負荷に交流電圧を供給します。

三相インバータ

直流電源から三相交流を生成する回路です。主に6個のスイッチングデバイスを用いた構成が一般的です。

三相インバータの特徴:

  • 三相交流モータの可変速駆動に広く使用されている
  • 高調波成分が単相インバータより少ない
  • 電力変換効率が高い

PWM(パルス幅変調)制御

インバータの出力電圧や周波数を制御する一般的な方法として、PWM制御が広く用いられています。

PWM制御におけるスイッチング周波数と出力周波数:

インバータのスイッチング周波数は通常、目的の出力周波数より十分高く設定されます(数kHzから数十kHz)。出力周波数と振幅は、変調波(通常は正弦波)の周波数と振幅によって制御されます。

PWMインバータの特徴:

  • 出力電圧と周波数を広範囲に調整可能
  • 低次高調波の低減が可能
  • スイッチング損失が比較的大きい

3.4 制御方式と波形解析

パワーエレクトロニクス回路における制御方式と、生成される波形の特性について学びましょう。

パワーエレクトロニクスの主な制御方式

目的に応じて様々な制御方式が用いられます。

主な制御方式:

  1. 電圧制御:出力電圧を一定に保つ制御
  2. 電流制御:出力電流を一定に保つ制御
  3. 速度制御:モータの回転速度を制御
  4. トルク制御:モータのトルクを制御

高調波と電源品質

パワーエレクトロニクス回路は、スイッチング動作により高調波成分を生成します。これらは電源品質の低下や他の機器への干渉を引き起こす可能性があります。

高調波成分の計算(フーリエ級数展開):

周期関数 \(f(t)\) は次のようにフーリエ級数で表現できます:

\[f(t) = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} \left[ a_n \cos(n\omega t) + b_n \sin(n\omega t) \right]\]

ここで、\(a_0, a_n, b_n\) はフーリエ係数、\(n\) は高調波の次数を表します。

高調波対策:

  • フィルタの使用:LCフィルタなどで高調波成分を除去
  • 多相化:相数を増やして特定の高調波を相殺
  • PWM制御の最適化:スイッチングパターンを工夫して高調波を低減
  • アクティブフィルタ:能動的に高調波を打ち消す装置の導入

力率改善(PFC: Power Factor Correction)

パワーエレクトロニクス機器は、力率の低下を引き起こすことがあります。これを改善するための技術も重要です。

力率の定義:

\[PF = \frac{P}{S} = \frac{P}{V_{rms} \times I_{rms}}\]

ここで、\(PF\) は力率、\(P\) は有効電力、\(S\) は皮相電力です。

高調波を含む場合の力率は次式で表されます:

\[PF = \frac{\cos\phi}{\sqrt{1 + THD^2}}\]

ここで、\(\phi\) は基本波の電圧と電流の位相差、\(THD\) は電流の全高調波歪みです。

例題:PWMインバータの出力電圧実効値

デューティサイクル可変のPWMインバータにおいて、入力直流電圧が200Vで変調率が0.8のとき、基本波成分の出力電圧実効値を求めなさい。

解答:

フルブリッジインバータの場合、基本波成分の出力電圧実効値 \(V_{1rms}\) は次式で求められます:

\begin{align*} V_{1rms} &= \frac{M \times V_{dc}}{\sqrt{2}} \\ &= \frac{0.8 \times 200}{\sqrt{2}} \\ &= \frac{160}{1.414} \\ &\approx 113 \, \mathrm{V} \end{align*}

ここで、\(M\) は変調率、\(V_{dc}\) は入力直流電圧です。

4. 応用と実例

4.1 モータドライブへの応用

パワーエレクトロニクスの最も重要な応用の一つがモータの可変速駆動です。様々な種類のモータに対応した駆動回路が開発されています。

インバータによる三相誘導モータの可変速駆動

三相誘導モータは産業用途で最も広く使用されているモータタイプであり、インバータを用いた可変速駆動が主流となっています。

三相誘導モータの可変速駆動の特徴:

  • 電源周波数を変えることで回転速度を制御(\(N = 120f/p\)、ここで\(N\)は回転速度[rpm]、\(f\)は周波数[Hz]、\(p\)は極数)
  • V/f制御:電圧と周波数を一定の比率で変化させることで、トルク特性を維持
  • ベクトル制御:磁束とトルクを独立して制御し、より高精度な速度・トルク制御を実現

DCモータドライブ

直流モータは制御性に優れており、チョッパ回路による駆動が一般的です。

DCモータドライブの特徴:

  • 電機子電圧制御による広範囲の速度制御が可能
  • 界磁電流制御による弱め界磁制御も可能
  • トルク特性が良好であり、精密な速度制御が可能
  • 4象限運転(正転・逆転、力行・回生)が可能

ブラシレスDCモータ(BLDC)とPMSMの駆動

永久磁石を用いた高効率モータであるBLDCモータと永久磁石同期モータ(PMSM)の駆動にもパワーエレクトロニクスが不可欠です。

BLDC/PMSMドライブの特徴:

  • 電子的な整流(コミュテーション)を行うため、インバータ回路が必要
  • 位置センサ(ホールセンサ、エンコーダなど)または無センサ制御による位置検出
  • 高効率、高出力密度、長寿命
  • 家電製品、電気自動車、産業機器など幅広い用途に使用

4.2 電源装置への応用

パワーエレクトロニクスは様々な電源装置に応用され、電力の効率的な変換と制御を実現しています。

スイッチング電源

従来の線形電源に比べて高効率、小型軽量化が可能なスイッチング電源は、パワーエレクトロニクスの代表的な応用例です。

スイッチング電源の特徴:

  • 高周波スイッチングによる変圧器の小型化
  • 高効率(通常80%以上、最新のものでは95%以上)
  • 入力電圧範囲が広い(ユニバーサル入力対応)
  • 出力電圧の安定性が高い(フィードバック制御)
  • 力率改善回路(PFC)の搭載による電源品質の向上

無停電電源装置(UPS)

停電時にバックアップ電源を提供するUPSもパワーエレクトロニクス技術の重要な応用例です。

UPSの種類と特徴:

  • 常時商用方式(パッシブスタンバイ型):通常は商用電源を直接使用し、停電時のみインバータが動作
  • 常時インバータ方式(オンライン型):常にインバータを通して電力を供給し、電源品質が最も高い
  • ラインインタラクティブ方式:上記2方式の中間的特性を持つ

バッテリ充電器

様々な二次電池を効率的に充電するためのバッテリ充電器にもパワーエレクトロニクス技術が活用されています。

バッテリ充電器の特徴:

  • 定電流・定電圧制御による最適な充電プロファイル
  • バッテリの種類(鉛蓄電池、リチウムイオン電池など)に応じた充電方法
  • 高効率・小型化・保護機能

4.3 産業分野での利用例

パワーエレクトロニクスは様々な産業分野で活用され、生産性向上や省エネルギー化に貢献しています。

産業用モータドライブシステム

工場の生産設備や機械装置などでは、多くのモータが使用されており、これらを効率的に制御するためにパワーエレクトロニクス技術が不可欠です。

産業用モータドライブの応用例:

  • 工作機械の主軸駆動
  • コンベヤベルトやエレベータの駆動
  • ポンプやファンの可変速制御
  • 圧延機や押出機などの重負荷駆動

再生可能エネルギーシステム

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーシステムでは、発電した電力を系統連系するためにパワーエレクトロニクス技術が使用されています。

再生可能エネルギーシステムにおけるパワーエレクトロニクスの役割:

  • 太陽光発電:DCからACへの変換、最大電力点追従(MPPT)制御
  • 風力発電:可変速運転によるエネルギー捕捉の最大化、系統連系用のACーAC変換
  • 系統連系制御:電圧・周波数・位相の制御、単独運転防止
  • 蓄電システム:電力の充放電制御、エネルギーマネジメント

電気自動車(EV)の駆動システム

電気自動車の心臓部であるモータ駆動システムには高効率・高出力密度のパワーエレクトロニクス技術が使用されています。

EVのパワーエレクトロニクス:

  • インバータ:バッテリの直流電力をモータ駆動用の交流に変換
  • DC-DCコンバータ:高電圧バッテリから低電圧系(12V)への電力供給
  • オンボードチャージャ:外部AC電源からバッテリへの充電
  • 回生ブレーキシステム:制動エネルギーの回収と再利用

4.4 技術的課題と対策

パワーエレクトロニクスの応用において、いくつかの技術的課題があります。これらの課題に対する対策も重要な知識です。

電磁ノイズ(EMI/EMC)

パワーエレクトロニクス回路の高速スイッチングは電磁ノイズを発生させ、周囲の機器に悪影響を及ぼす可能性があります。

電磁ノイズ対策:

  • フィルタの使用:入出力にEMIフィルタを設置
  • シールド:回路や配線の適切なシールド
  • グラウンディング:適切な接地設計
  • 配線レイアウト:ノイズ源となる配線と感度の高い信号線の分離
  • スイッチング速度の最適化:dv/dt、di/dtの制限
  • スナバ回路:スイッチング時のサージ電圧・電流を抑制

効率と損失

パワーエレクトロニクス回路の効率向上は重要な課題です。主な損失要因とその対策を理解しましょう。

主な損失要因と対策:

  1. 導通損失:デバイスの低オン抵抗化、並列接続
  2. スイッチング損失:スイッチング周波数の最適化、ソフトスイッチング技術
  3. 磁気部品の損失:高性能磁性材料の使用、適切な設計
  4. ドライブ回路の損失:ゲート駆動回路の最適化

ソフトスイッチング技術の例:

  • ZVS(Zero Voltage Switching):ゼロ電圧スイッチング、スイッチがターンオンする瞬間の電圧をゼロにする
  • ZCS(Zero Current Switching):ゼロ電流スイッチング、スイッチがターンオフする瞬間の電流をゼロにする
  • これらの技術により、スイッチング損失を大幅に低減することが可能

熱設計と冷却

パワーエレクトロニクス機器の信頼性と性能を確保するためには、適切な熱設計と冷却が不可欠です。

熱設計と冷却技術:

  • ヒートシンク:熱を効率的に放散させるための金属製放熱板
  • 強制空冷:ファンによる強制的な空気の流れで冷却
  • 水冷:水などの液体を用いた高効率な冷却方式
  • ヒートパイプ:熱を効率的に移動させる装置
  • 熱解析:シミュレーションによる熱設計の最適化

熱抵抗の計算:

\[T_j = T_a + P_{loss} \times R_{th(j-a)}\]

ここで、\(T_j\) は接合部温度[°C]、\(T_a\) は周囲温度[°C]、\(P_{loss}\) は損失電力[W]、\(R_{th(j-a)}\) は接合部から周囲までの熱抵抗[°C/W]です。

高電圧・大電流への対応

高電圧・大電流を扱うパワーエレクトロニクス機器では、特別な設計上の配慮が必要です。

高電圧・大電流対応の技術:

  • デバイスの直列接続:より高い耐電圧を実現
  • デバイスの並列接続:より大きな電流容量を実現
  • 絶縁設計:適切なクリアランスとクリープ距離の確保
  • 電流バランス技術:並列デバイス間の電流バランスを確保
  • 電圧均等化技術:直列デバイス間の電圧均等化

パワーエレクトロニクスの技術的課題と対策のまとめ:

パワーエレクトロニクス機器の設計においては、電磁ノイズ対策、効率向上、熱管理、高電圧・大電流への対応など、多くの技術的課題があります。これらの課題に対して適切な対策を講じることで、高性能・高信頼性・高効率なパワーエレクトロニクスシステムを実現することができます。

第三種電気主任技術者試験では、これらの基本的な課題と対策について理解していることが求められます。

5. 演習問題

5.1 基本計算問題

問題1:整流回路の平均出力電圧

単相交流100V(実効値)を次の各整流回路で整流した場合の平均出力電圧を求めなさい。

  1. 半波整流回路
  2. 全波整流回路(ブリッジ型)

解答:

(1) 半波整流回路の平均出力電圧

半波整流回路の平均出力電圧は次式で求められます:

\begin{align*} V_{dc} &= \frac{V_m}{\pi} = \frac{\sqrt{2} \times V_{rms}}{\pi} \\ &= \frac{\sqrt{2} \times 100}{\pi} \\ &= \frac{1.414 \times 100}{3.14} \\ &\approx 45 \, \mathrm{V} \end{align*}

(2) 全波整流回路(ブリッジ型)の平均出力電圧

全波整流回路の平均出力電圧は次式で求められます:

\begin{align*} V_{dc} &= \frac{2V_m}{\pi} = \frac{2\sqrt{2} \times V_{rms}}{\pi} \\ &= \frac{2 \times 1.414 \times 100}{3.14} \\ &\approx 90 \, \mathrm{V} \end{align*}

解説:

整流回路の平均出力電圧は、入力交流電圧の波形と整流方式によって決まります。半波整流では交流の正の半周期のみを利用するため、全波整流の半分の平均電圧となります。実際の回路では、ダイオードの順方向電圧降下(約0.6〜1.0V)による損失があるため、実際の出力電圧はさらに低くなります。

問題2:チョッパ回路の計算

入力電圧48Vの降圧チョッパ回路において、出力電圧を24Vにするために必要なデューティサイクルを求めなさい。また、このときの出力電流が5Aの場合、入力電流の平均値を求めなさい。ただし、回路の損失は無視するものとする。

解答:

(1) 必要なデューティサイクル

降圧チョッパの出力電圧は次式で表されます:

\[V_o = D \times V_i\]

ここで、\(V_o = 24 \, \mathrm{V}\)、\(V_i = 48 \, \mathrm{V}\) であるため:

\begin{align*} D &= \frac{V_o}{V_i} \\ &= \frac{24}{48} \\ &= 0.5 \end{align*}

したがって、必要なデューティサイクルは0.5(50%)です。

(2) 入力電流の平均値

理想的なチョッパ回路(損失がない場合)では、入力電力と出力電力が等しくなります:

\[P_i = P_o\] \[V_i \times I_i = V_o \times I_o\]

ここで、\(I_i\) は入力電流、\(I_o = 5 \, \mathrm{A}\) は出力電流です。したがって:

\begin{align*} I_i &= \frac{V_o \times I_o}{V_i} \\ &= \frac{24 \times 5}{48} \\ &= \frac{120}{48} \\ &= 2.5 \, \mathrm{A} \end{align*}

別の考え方:デューティサイクル \(D = 0.5\) のとき、スイッチはオン時間の間だけ入力から電流を引き込みます。その間の電流値は出力電流と同じ \(I_o = 5 \, \mathrm{A}\) であるため、平均入力電流は \(I_i = D \times I_o = 0.5 \times 5 = 2.5 \, \mathrm{A}\) となります。

解説:

この問題は、降圧チョッパの基本的な動作原理と電力保存則を理解しているかを確認するものです。降圧チョッパは入力電圧より低い出力電圧を得るための回路であり、出力電圧はデューティサイクルに比例します。また、理想的な回路(損失がない場合)では入出力の電力が等しくなるため、電流は電圧に反比例します。

問題3:インバータの出力電圧

入力直流電圧が300Vの単相フルブリッジインバータにおいて、正弦波PWM制御を行っている。変調率が0.8のとき、出力の基本波成分の実効値を求めなさい。

解答:

単相フルブリッジインバータの正弦波PWM制御における出力基本波成分の実効値は次式で計算できます:

\[V_{1rms} = \frac{M \times V_{dc}}{\sqrt{2}}\]

ここで、\(M\) は変調率(この場合は0.8)、\(V_{dc}\) は入力直流電圧(300V)です。

\begin{align*} V_{1rms} &= \frac{M \times V_{dc}}{\sqrt{2}} \\ &= \frac{0.8 \times 300}{\sqrt{2}} \\ &= \frac{240}{1.414} \\ &\approx 169.7 \, \mathrm{V} \end{align*}

解説:

正弦波PWM制御を用いたインバータでは、変調波(正弦波)と搬送波(三角波)を比較することでスイッチングパターンを生成します。変調率 \(M\) は変調波の振幅と搬送波の振幅の比率を表し、出力電圧の大きさを制御するパラメータです。変調率が0から1の範囲では、出力基本波成分の振幅は変調率に比例します。

実際のインバータでは、スイッチング損失や電圧降下などにより、実際の出力電圧は理論値よりもやや低くなることがあります。

問題4:昇圧チョッパの計算

入力電圧が12Vの昇圧チョッパ回路において、出力電圧を36Vにするために必要なデューティサイクルを求めなさい。また、出力電流が2Aのとき、入力電流の平均値を求めなさい。ただし、回路の損失は無視するものとする。

解答:

(1) 必要なデューティサイクル

昇圧チョッパの出力電圧と入力電圧の関係は次式で表されます:

\[V_o = \frac{V_i}{1-D}\]

ここで、\(V_o = 36 \, \mathrm{V}\)、\(V_i = 12 \, \mathrm{V}\) であるため:

\begin{align*} 36 &= \frac{12}{1-D} \\ 36(1-D) &= 12 \\ 36 - 36D &= 12 \\ -36D &= 12 - 36 \\ -36D &= -24 \\ D &= \frac{24}{36} \\ D &= \frac{2}{3} \approx 0.667 \end{align*}

したがって、必要なデューティサイクルは約0.667(66.7%)です。

(2) 入力電流の平均値

理想的なチョッパ回路(損失がない場合)では、入力電力と出力電力が等しくなります:

\[P_i = P_o\] \[V_i \times I_i = V_o \times I_o\]

ここで、\(I_i\) は入力電流の平均値、\(I_o = 2 \, \mathrm{A}\) は出力電流です。したがって:

\begin{align*} I_i &= \frac{V_o \times I_o}{V_i} \\ &= \frac{36 \times 2}{12} \\ &= \frac{72}{12} \\ &= 6 \, \mathrm{A} \end{align*}

解説:

昇圧チョッパは入力電圧より高い出力電圧を得るための回路です。デューティサイクル \(D\) が大きいほど出力電圧は高くなりますが、理論的には \(D\) が1に近づくと出力電圧は無限大になります(実際には損失などにより制限されます)。

また、昇圧動作においては入力電流は出力電流より大きくなります。これは、電力保存則に基づいており、電圧が上がる分だけ電流は下がります。実際の回路では、インダクタやスイッチなどの損失があるため、入力電流はさらに大きくなります。

5.2 応用問題

問題1

整流回路にコンデンサをつなげた回路があります。コンデンサの容量は100μF、負荷抵抗は1kΩです。入力電圧が100V、周波数60Hzのとき、出力電圧のリプル(波打ち)の大きさとして最も近いものを次の中から選びなさい。

  1. 0.8V
  2. 1.7V
  3. 2.5V
  4. 3.3V

解答:b. 1.7V

解説:

整流回路の出力にコンデンサをつなげると、電圧の波打ち(リプル)を小さくできます。このリプル電圧は次の式で計算できます:

\(V_r = \frac{I_L}{f \times C}\)

ここで、\(I_L\)は負荷に流れる電流、\(f\)は周波数、\(C\)はコンデンサの容量です。

ステップ1:平均出力電圧を求める

半波整流回路の平均出力電圧は:

\(V_{dc} = \frac{100 \times 1.414}{3.14} ≈ 45V\)

ステップ2:負荷電流を求める

オームの法則により:

\(I_L = \frac{45V}{1000Ω} = 0.045A = 45mA\)

ステップ3:リプル電圧を求める

\(V_r = \frac{0.045}{60 \times 100 \times 10^{-6}} = \frac{0.045}{0.006} = 7.5V\)

ただし、半波整流の場合は実際のリプルはこの値より小さくなり、約1/4程度になります:

\(V_r(実際) ≈ \frac{7.5}{4} ≈ 1.9V\)

選択肢の中では、b. 1.7Vが最も近い値です。

ポイント:

コンデンサの容量が大きいほど、またコンデンサに流れる電流が小さいほど、リプル電圧は小さくなります。

問題2

サイリスタを使った整流回路があります。入力電圧は100V、周波数は60Hzです。負荷抵抗は10Ωです。サイリスタのゲートに30°のタイミングで信号を送ったとき、負荷に流れる電流の平均値として最も近いものを次の中から選びなさい。

  1. 2.5A
  2. 4.2A
  3. 6.0A
  4. 8.5A

解答:b. 4.2A

解説:

サイリスタを使った回路では、ゲートに信号を送るタイミング(点弧角)によって出力電圧をコントロールできます。

ステップ1:入力電圧のピーク値を求める

入力電圧100V(実効値)のピーク値は:

\(V_m = \sqrt{2} \times 100 = 141.4V\)

ステップ2:平均出力電圧を求める

点弧角30°のときの平均出力電圧は次の式で求められます:

\(V_{dc} = \frac{V_m}{2\pi}(1 + \cos 30°)\)

計算すると:

\(V_{dc} = \frac{141.4}{2\pi}(1 + 0.866) = \frac{141.4 \times 1.866}{6.28} ≈ 42V\)

ステップ3:負荷電流を求める

オームの法則により:

\(I_{dc} = \frac{V_{dc}}{R} = \frac{42}{10} = 4.2A\)

したがって、負荷に流れる電流の平均値は約4.2Aです。

問題3

IGBTの特徴に関する次の記述のうち、誤っているものを選びなさい。

  1. MOSFETとバイポーラトランジスタの特長を組み合わせた構造を持つ。
  2. ゲート駆動には大きな電流を必要とする。
  3. 高速スイッチングが可能である。
  4. オン状態での電圧降下が小さい。

解答:b. ゲート駆動には大きな電流を必要とする。

解説:

IGBTの特徴について、各選択肢を検討します:

  1. MOSFETとバイポーラトランジスタの特長を組み合わせた構造を持つ - 正しい。IGBTはMOSFETの入力特性(高入力インピーダンス、電圧制御)とバイポーラトランジスタの出力特性(低オン抵抗、大電流容量)を組み合わせた構造になっています。
  2. ゲート駆動には大きな電流を必要とする - 誤り。IGBTのゲートはMOSFET構造であり、高入力インピーダンスを持ちます。そのため、ゲート駆動には電圧制御が主であり、定常状態ではほとんど電流を必要としません(スイッチング時の充放電電流は必要)。これはバイポーラトランジスタとは対照的で、バイポーラトランジスタはベース電流による制御が必要です。
  3. 高速スイッチングが可能である - 正しい。IGBTはMOSFETほどではないものの、バイポーラトランジスタよりも高速なスイッチングが可能です。特にターンオン時は高速ですが、ターンオフ時にはテール電流により若干の遅れが生じることがあります。
  4. オン状態での電圧降下が小さい - 正しい。IGBTはオン状態でのコレクタ-エミッタ間電圧降下が小さいという特徴があります。これはバイポーラトランジスタの特性を引き継いだものであり、大電流を扱う用途で有利です。

したがって、誤っている記述は b. 「ゲート駆動には大きな電流を必要とする」です。

6. まとめ

6.1 重要ポイントの要約

パワーエレクトロニクスの基本概念:

  • パワーエレクトロニクスは、半導体デバイスを用いた電力変換・制御技術
  • 主要な変換形態:AC→DC(整流)、DC→AC(インバータ)、DC→DC(チョッパ)、AC→AC(サイクロコンバータ)
  • 電力用半導体デバイス(ダイオード、サイリスタ、トランジスタ、IGBT等)の特性と適切な選択が重要
  • スイッチング動作を利用した電力制御が基本原理

主要回路と理論:

  • 整流回路:半波整流 \(V_{dc} = \frac{V_m}{\pi}\)、全波整流 \(V_{dc} = \frac{2V_m}{\pi}\)
  • チョッパ回路:降圧型 \(V_o = D \times V_i\)、昇圧型 \(V_o = \frac{V_i}{1-D}\)、昇降圧型 \(V_o = -\frac{D}{1-D} \times V_i\)
  • インバータ回路:単相・三相、パルス幅変調(PWM)による出力制御
  • デューティサイクル \(D\) による出力制御と電力変換効率の最適化

応用分野:

  • モータドライブ:三相誘導モータ、DCモータ、BLDCモータなどの可変速駆動
  • 電源装置:スイッチング電源、UPS、バッテリ充電器
  • 産業応用:生産設備、ポンプ/ファン制御、鉄道車両
  • 再生可能エネルギー:太陽光発電、風力発電のパワーコンディショナ
  • 電気自動車:モータ駆動用インバータ、充電システム

技術的課題と対策:

  • 電磁ノイズ(EMI/EMC):フィルタ、シールド、グラウンディング
  • 効率と損失:導通損失・スイッチング損失の低減、ソフトスイッチング技術
  • 熱管理:適切な冷却設計、熱抵抗の最小化
  • 高調波対策:フィルタ、多相化、最適PWM制御
  • 力率改善(PFC):力率改善回路の導入

第三種電気主任技術者試験における重要事項:

  • 各種パワー半導体デバイスの基本的な動作原理と特性を理解すること
  • 基本的な電力変換回路(整流回路、チョッパ回路、インバータ回路)の動作原理と基本式を覚えること
  • 電圧・電流波形の特徴と波形解析の基礎を理解すること
  • 実際の機器や設備における応用例を知っておくこと
  • 基本的な計算問題に対応できるようにすること

6.2 次の学習単元への橋渡し

パワーエレクトロニクスの基礎を理解したら、次のステップとして以下の関連分野への学習を進めるとよいでしょう:

  1. 電動機制御工学:パワーエレクトロニクスを応用した各種電動機の制御理論と実践
  2. 制御工学:フィードバック制御、PID制御、デジタル制御などの応用
  3. 電力システム工学:電力系統との連系技術、系統安定化技術
  4. 再生可能エネルギー工学:太陽光発電、風力発電システムへの応用
  5. 蓄電技術:バッテリー管理システム、電力貯蔵技術

学習を深めるためのアドバイス:

  • 理論だけでなく、実際の回路や波形を観察する経験を積むことが重要です。可能であれば、シミュレーションソフトや実験キットを活用して実践的な理解を深めましょう。
  • 実際の機器や設備におけるパワーエレクトロニクス技術の応用例を調査し、理論と実践の結びつきを理解しましょう。
  • 過去の試験問題を多く解くことで、出題傾向と解法のパターンを掴みましょう。
  • 新しい技術動向(SiC、GaNなどの新材料デバイス、デジタル制御技術の進化など)にも注目しておくと、より幅広い視点で理解できます。

パワーエレクトロニクスは、現代の電気・電子システムにおいて不可欠な技術分野です。基礎をしっかり理解し、応用力を身につけることで、第三種電気主任技術者試験の合格だけでなく、実務においても大いに役立つ知識となるでしょう。