電柱の上に取り付けられた灰色の箱、大きな発電所や変電所で見かける巨大な機器、家電製品やスマートフォンの充電器の中に入っている小さな部品—これらはすべて「変圧器」の一種です。変圧器は電気エネルギーの電圧を変換する重要な電気機器で、私たちの日常生活と産業活動を支える電力系統に不可欠な存在です。
変圧器は電磁誘導の原理を利用して、ある交流電圧を別の交流電圧に変換します。この特性により、発電所で発生した高電圧の電力を、変電所で段階的に電圧を下げて、私たちの家庭や工場で使いやすい電圧に変換することができます。また、電子機器では小型の変圧器が使われ、家庭用の100Vや200Vの電圧を、電子回路に適した低い電圧に変換しています。
第三種電気主任技術者試験における重要性
変圧器に関する知識は、第三種電気主任技術者試験の「理論」と「機械」の両科目において重要な出題分野となっています。特に、変圧器の基本原理、等価回路、各種特性、結線方式などが頻出します。変圧器は電力系統において電圧変換を行う唯一の機器であり、電気設備の設計・運用・保守において必須の知識となります。
変圧器の最大の特徴は、可動部分がなく静止した状態で動作する「静止器」であることです。このため、回転機と比較して保守が容易で寿命が長いという利点があります。一方で、鉄心での鉄損や巻線での銅損などの損失があり、これらを最小化する設計が重要です。
この学習ページでは、変圧器の基本構造から始まり、動作原理、特性、応用と特殊変圧器まで、第三種電気主任技術者試験の対策として必要な内容を丁寧に解説していきます。電力系統における変圧器の役割と基本特性を理解することで、電気技術者としての基礎知識を身につけましょう。
変圧器は主に「鉄心」と「巻線」から構成されています。これらの構造と役割を理解することが、変圧器の動作原理を理解する基礎となります。
鉄心は変圧器の磁気回路を形成する部分で、主に以下の種類があります:
鉄心の形状には、次のような種類があります:
珪素鋼板を積層する理由は、交流磁束による渦電流損失を低減するためです。通常、珪素鋼板の厚さは0.23〜0.35mm程度で、表面には絶縁処理が施されています。珪素鋼板には、磁気特性を向上させるために珪素が約3〜4.5%添加されています。
方向性珪素鋼板
大型の変圧器では、「方向性珪素鋼板」が使用されることが多いです。これは特定の方向(圧延方向)に磁化特性が優れており、鉄心の磁束方向と圧延方向を合わせることで、鉄損を低減し効率を向上させることができます。ただし、非方向性の珪素鋼板と比べて高価なため、小型変圧器では一般的に使用されません。
変圧器の巻線は、電流を通して磁束を発生させたり、磁束の変化によって誘起電圧を発生させたりする役割を持ちます。巻線は主に2種類あります:
巻線の構造には、次のような種類があります:
巻線の材料は、一般的には銅が使用されますが、コストや重量の削減が必要な場合にはアルミニウムが使用されることもあります。巻線には絶縁処理が施され、巻線間や鉄心との間の絶縁が確保されています。
巻線の絶縁
変圧器の巻線には、次のような絶縁方式が採用されています:
大型の油入変圧器では、絶縁油が絶縁材料として使用されます。一方、乾式変圧器では、エポキシ樹脂などの固体絶縁材料が使用されます。
変圧器は、用途や構造によって様々な種類に分類されます:
分類基準 | 種類 | 特徴 |
---|---|---|
相数 | 単相変圧器 | 単相回路用、構造が簡単 |
三相変圧器 | 三相回路用、鉄心利用率が高い | |
冷却方式 | 乾式変圧器 | 防災性高、内部設置可、中小容量向き |
油入変圧器 | 冷却・絶縁性能高、大容量向き | |
ガス絶縁変圧器 | 不燃性、環境対応、高価 | |
用途 | 電力用変圧器 | 大容量、高効率、長寿命 |
配電用変圧器 | 中小容量、経済性重視 | |
計器用変圧器 | 高精度、電圧・電流変換用 | |
特殊変圧器 | 整流器用、試験用など特殊用途 |
変圧器の運転中には、鉄損や銅損による発熱が生じます。これを効率良く冷却するための方式が採用されています:
冷却方式の選定
変圧器の冷却方式は、容量、設置環境、経済性などを考慮して選定されます。一般的に、小容量の変圧器では自冷式が、大容量になるほど強制冷却方式が採用されます。例えば、配電用変圧器(数百kVA)では油浸自冷式が、大型の電力用変圧器(数百MVA)では油浸送油風冷式や油浸送油水冷式が採用されることが多いです。また、屋内設置の場合には防災性を考慮して乾式変圧器が選ばれる傾向があります。
油入変圧器で使用される絶縁油には、次のような役割があります:
従来は鉱油(変圧器油)が主に使用されてきましたが、近年は環境や防災性を考慮して、シリコーン油や植物油などの難燃性絶縁油の使用も増えています。
変圧器の基本構造のまとめ
変圧器の動作は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいています。このセクションでは、変圧器の基本的な動作原理と電気的特性について解説します。
変圧器の動作原理は、次のようなステップで説明できます:
ファラデーの電磁誘導の法則によれば、誘導起電力は次の式で与えられます:
ここで:
磁束が正弦波状に変化する場合(\(\phi = \Phi_m\sin\omega t\))、誘導起電力の実効値は次のようになります:
ここで:
理想変圧器の条件
理想変圧器とは、以下の条件を満たす変圧器です:
実際の変圧器では、これらの条件は完全には満たされませんが、大型の高効率変圧器では理想状態に近づきます。
変圧器の一次側と二次側の電圧と電流の関係は、巻数比によって決まります:
電圧比:
\[\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2} = a\]電流比(理想変圧器の場合):
\[\frac{I_1}{I_2} = \frac{N_2}{N_1} = \frac{1}{a}\]ここで:
理想変圧器では、一次側の入力電力と二次側の出力電力が等しくなります(電力保存則):
変圧比の計算例
一次電圧6600V、二次電圧210Vの変圧器の巻数比を求めます:
一次巻線が二次巻線の約31.43倍の巻数を持つことがわかります。
この変圧器で、二次側で30Aの電流が流れている場合、一次側の電流は:
\begin{align*} I_1 = I_2 \times \frac{N_2}{N_1} = 30 \times \frac{1}{31.43} \approx 0.954 \, \mathrm{A} \end{align*}理想変圧器では、約0.954Aの電流が一次側に流れることになります。
この関係から、次のことがわかります:
実際の変圧器では、理想的な条件は満たされず、様々な損失や漏れインピーダンスが存在します。これらを考慮した等価回路が用いられます:
変圧器の等価回路では、次の要素が考慮されます:
これらの要素を含む詳細な等価回路は、解析の目的に応じて簡略化されることがあります。よく使われる簡略等価回路には、次のようなものがあります:
T型等価回路の変圧器定数:
等価回路の簡略化
変圧器の等価回路は、解析の目的によって次のように簡略化されることがあります:
大型の変圧器では、励磁電流が定格電流の数%程度であり、負荷特性の計算では励磁回路を無視できる場合が多いです。
変圧器の動作状態を視覚的に理解するために、ベクトル図が用いられます。ベクトル図では、電圧、電流、磁束などの関係を矢印(ベクトル)で表現します。
変圧器のベクトル図は、負荷の力率や巻線の結線方式によって様々な形になります。基本的な単相変圧器のベクトル図の作成手順は次の通りです:
ベクトル図の解釈
添付のベクトル図から、次のような情報を読み取ることができます:
例えば、遅れ力率負荷では、電流 \(\vec{I}\) は電圧 \(\vec{V}\) に対して遅れており、リアクタンス成分 \(X\vec{I}\sin\theta\) によって起電力 \(\vec{E}\) はより大きな進み位相を持ちます。
一方、進み力率負荷では、\(\vec{I}\) が \(\vec{V}\) に対して進み、起電力 \(\vec{E}\) の進み角 \(\delta\) は小さくなります。
三相変圧器では、結線方式(Y-Y、Y-Δ、Δ-Y、Δ-Δなど)によってベクトル図が異なります。特に、一次側と二次側で結線方式が異なる場合(Y-ΔやΔ-Y)、線間電圧間に30°の位相差が生じることに注意が必要です。
変圧器の動作原理のまとめ
変圧器の性能を理解するためには、その特性を知ることが重要です。このセクションでは、変圧器の無負荷特性、負荷特性、効率、電圧変動率について解説します。
無負荷特性とは、二次側が開放された状態(無負荷状態)での変圧器の特性を指します。主な無負荷特性には以下のものがあります:
無負荷電流は通常、定格電流の数%程度(大型変圧器では1〜5%、小型変圧器では10〜30%)です。無負荷損失(鉄損)は電圧の二乗に比例し、周波数にも依存します。
鉄損の計算式:
\[P_i = P_h + P_e\]ここで:
無負荷電流の成分
無負荷電流(励磁電流)\(I_0\) は、磁化電流 \(I_m\) と鉄損電流 \(I_w\) のベクトル和として表されます:
ここで、磁化電流 \(I_m\) は主磁束を発生させるための電流で、電圧より90°遅れます。鉄損電流 \(I_w\) は鉄損による電力損失を補うための電流で、電圧と同相です。一般的に、大型変圧器では \(I_m\) が \(I_w\) より大きく、無負荷力率は0.1〜0.3程度と低くなります。
負荷特性とは、変圧器に負荷を接続した状態での特性を指します。主な負荷特性には以下のものがあります:
負荷特性は、変圧器の等価回路パラメータを用いて解析されます。特に、漏れインピーダンス(抵抗分とリアクタンス分)が負荷特性に大きな影響を与えます。
電圧変動の要因
変圧器の二次電圧が負荷によって変動する主な要因は、以下の2つです:
力率の影響として、遅れ力率負荷では電圧降下が大きくなり、進み力率負荷では電圧降下が小さくなる(場合によっては電圧上昇となる)ことが挙げられます。
短絡試験(二次側を短絡し、一次側に定格電流が流れる程度の電圧を印加する試験)により、変圧器の等価回路パラメータのうち、漏れインピーダンス成分が測定できます。
変圧器の効率は、出力電力に対する入力電力の比率で定義されます:
ここで:
変圧器の主な損失には、以下のものがあります:
鉄損は電圧にほぼ比例し、負荷の大きさにはほとんど依存しません。一方、銅損は負荷電流の二乗に比例します。
銅損の計算式:
\[P_c = I_1^2 r_1 + I_2^2 r_2 \approx I_1^2 (r_1 + r_2')\]ここで:
最大効率の条件
変圧器の効率は負荷率によって変化し、ある負荷率で最大となります。最大効率となる条件は、鉄損と銅損が等しくなる点です:
この時の負荷率(定格負荷に対する比率)は次式で求められます:
\[x = \sqrt{\frac{P_i}{P_{c,R}}}\]ここで、\(P_{c,R}\) は定格負荷時の銅損です。大型変圧器では、最大効率となる負荷率は70〜80%程度となります。
実際の変圧器の効率は非常に高く、大型変圧器では99%以上、中型変圧器でも97〜98%程度の効率が達成されています。効率の高さは、変圧器が可動部分を持たない静止器であることの大きな利点の一つです。
電圧変動率(または電圧変化率)は、変圧器の負荷特性を表す重要な指標の一つです。これは、定格負荷時と無負荷時の二次電圧の差を定格負荷時の二次電圧で割った値として定義されます:
ここで:
電圧変動率は、漏れインピーダンスと負荷の力率によって変化します。等価回路パラメータを用いると、近似的に次式で計算できます:
ここで:
力率による電圧変動率の変化
電圧変動率は負荷の力率によって大きく変化します:
実際の配電用変圧器では、電圧変動率は3〜5%程度に設計されることが多いです。
変圧器の特性のまとめ
変圧器は様々な用途に応用されており、特殊な目的のために設計された変圧器も多くあります。このセクションでは、配電用変圧器、三相変圧器、特殊変圧器、並行運転について解説します。
配電用変圧器は、電力系統において高電圧の配電線からの電力を、一般需要家が使用できる低電圧に変換する役割を担います。
主な配電用変圧器の特徴:
配電用変圧器では、電圧調整のために次のような機能が設けられることがあります:
柱上変圧器の例
日本の一般的な住宅地域で使用される柱上変圧器は、単相3線式の10〜30kVA程度のものが多いです。この変圧器は、6600Vの高圧配電線から、100/200Vの低圧配電線への変換を行います。構造は、油入自冷式の単相変圧器で、雷サージから保護するためのギャップやアレスターが付属しています。タップ切替は、通常、無電圧時(停電時)に手動で行われます。
三相変圧器は、三相交流電力を変換するための変圧器です。三相変圧器には次の2種類があります:
三相変圧器の結線方式には、次のような基本形式があります:
結線方式 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
Y-Y結線 | 高電圧に適する、中性点が利用可能、第3次高調波の問題あり | 超高圧送電用 |
Δ-Δ結線 | 第3次高調波の問題なし、巻線電圧が線間電圧と同じ | 中小容量の配電用 |
Y-Δ結線 | 降圧用に適する、位相差30°あり、第3次高調波を抑制 | 降圧用(系統連系など) |
Δ-Y結線 | 昇圧用に適する、位相差30°あり、二次中性点が利用可能 | 昇圧用(発電所など) |
結線方式による位相関係
Y-ΔやΔ-Y結線では、一次側と二次側の線間電圧間に30°の位相差が生じます。これは電力系統の連系において重要な要素です。変圧器の結線を表す際には、「結線記号」が用いられ、例えばYyn0(一次Y結線、二次Y結線、中性点引き出し、位相差0°)のように表記されます。第三種電気主任技術者試験では、この結線記号と位相差の理解が重要です。
三相変圧器での特別な結線方式には、以下のようなものがあります:
特定の目的のために設計された特殊変圧器には、次のようなものがあります:
単巻変圧器(自己変圧器)の特徴
単巻変圧器(オートトランス)は、一次と二次が電気的に接続されており、一部の巻線が共用されています。主な特徴は:
単巻変圧器の実際の巻線容量(通過容量)は、二巻変圧器の等価容量より小さくなります:
\[S_{\text{通過}} = S_{\text{等価}} \times \left(1 - \frac{V_2}{V_1}\right) \quad \text{(昇圧の場合)}\]例えば、100kVAの等価容量を持つ単巻変圧器で、変圧比が100V:110V(10%昇圧)の場合、実際の巻線容量は100kVA×(1-100/110)=9.1kVAとなります。
計器用変成器は、高電圧・大電流の測定を安全に行うために重要な役割を果たします。計器用変圧器(PT/VT)は電圧を、計器用変流器(CT)は電流を変換します。これらは高い精度が要求され、「変成比誤差」と「位相角誤差」が重要な性能指標となります。
並行運転とは、2台以上の変圧器を並列に接続して負荷を分担させる運転方法です。並行運転により、次のような利点が得られます:
変圧器を安全に並行運転するための条件(並行条件)は以下の通りです:
並行運転時の負荷分担
並行運転時の各変圧器の負荷分担は、基本的にインピーダンス電圧百分率に反比例します。2台の変圧器の並行運転で、定格容量とインピーダンス電圧百分率がそれぞれ \(S_1\)、\(e_1\) と \(S_2\)、\(e_2\) の場合、負荷電流の分担比は次のようになります:
したがって、インピーダンス電圧百分率が等しい場合は、定格容量に比例して負荷が分担されます。
実際の並行運転では、変圧器間の特性差(特にインピーダンス電圧百分率の差)によって、循環電流が生じる場合があります。循環電流は有効電力を消費し、変圧器の温度上昇や効率低下を引き起こすため、できるだけ小さくする必要があります。
並行運転の実例
配電用変電所では、複数の配電用変圧器を並行運転することが一般的です。例えば、3台の20MVA変圧器を設置し、低負荷時は1台または2台を運転、重負荷時は3台全てを運転するといった運用が行われます。これにより、各時間帯での効率的な運転が可能になります。また、1台が故障しても残りの変圧器で運転を継続できる冗長性も確保されます。ただし、並行運転時には保護リレーの協調や遮断器容量の適正化などの検討も必要です。
変圧器の応用と特殊変圧器のまとめ
問題1:変圧比と電流の計算
変圧比が20:1の理想変圧器があり、一次側に200Vの電圧が印加されている。二次側に5Ωの抵抗負荷が接続されているとき、(a) 二次電圧、(b) 二次電流、(c) 一次電流を求めよ。
解答:
(a) 二次電圧の計算:
変圧比が20:1なので、二次電圧は次のように求められます:
\begin{align*} \frac{V_1}{V_2} &= \frac{N_1}{N_2} = 20:1 \\[10pt] V_2 &= \frac{V_1}{20} \\[10pt] &= \frac{200}{20} \\[10pt] &= 10 \, \mathrm{V} \end{align*}(b) 二次電流の計算:
二次側に5Ωの抵抗負荷が接続されているので、二次電流は次のように求められます:
\begin{align*} I_2 &= \frac{V_2}{R_2} \\[10pt] &= \frac{10}{5} \\[10pt] &= 2 \, \mathrm{A} \end{align*}(c) 一次電流の計算:
理想変圧器では、次の関係が成り立ちます:
\begin{align*} \frac{I_1}{I_2} &= \frac{N_2}{N_1} = \frac{1}{20} \\[10pt] I_1 &= I_2 \times \frac{N_2}{N_1} \\[10pt] &= 2 \times \frac{1}{20} \\[10pt] &= 0.1 \, \mathrm{A} \end{align*}したがって、二次電圧は10V、二次電流は2A、一次電流は0.1Aです。
確認のため、一次側と二次側の電力を計算してみます:
\begin{align*} P_1 &= V_1 \times I_1 = 200 \times 0.1 = 20 \, \mathrm{W} \\ P_2 &= V_2 \times I_2 = 10 \times 2 = 20 \, \mathrm{W} \end{align*}両者が等しいことから、理想変圧器の電力保存則が満たされていることが確認できます。
問題2:変圧器の効率と損失
定格容量100kVA、定格電圧6600V/210Vの変圧器がある。無負荷試験では、一次側に6600Vを印加したとき、一次電流は0.5A、入力電力は900Wであった。また、短絡試験では、一次側に400Vを印加したとき、一次電流は15.2A、入力電力は1600Wであった。この変圧器の全負荷時の効率と力率0.8の75%負荷時の効率を求めよ。
解答:
(1) まず、無負荷試験から鉄損(無負荷損失)を求めます:
\[P_i = 900 \, \mathrm{W}\](2) 次に、短絡試験から銅損(負荷損失)を求めます。短絡試験では定格電流の状態で測定するため、実際の定格電流に対する補正が必要です:
定格電流は:
\[I_{1,R} = \frac{S_R}{V_1} = \frac{100 \times 10^3}{6600} = 15.15 \, \mathrm{A}\]短絡試験での測定電流は15.2Aなので、ほぼ定格電流と見なせます。よって、定格負荷時の銅損は:
\[P_c = 1600 \, \mathrm{W}\](3) 全負荷時(定格負荷時)の効率を計算します:
\begin{align*} \eta_{FL} &= \frac{P_o}{P_o + P_i + P_c} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{S_R \times \cos\phi}{S_R \times \cos\phi + P_i + P_c} \times 100\% \end{align*}ここで、力率が指定されていないため、一般的な変圧器の定格力率である0.8と仮定します:
\begin{align*} \eta_{FL} &= \frac{100 \times 10^3 \times 0.8}{100 \times 10^3 \times 0.8 + 900 + 1600} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{80000}{80000 + 900 + 1600} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{80000}{82500} \times 100\% \\[10pt] &= 97.0\% \end{align*}(4) 力率0.8の75%負荷時の効率を計算します。75%負荷時の銅損は負荷率の二乗に比例するので:
\[P_{c,75\%} = P_c \times (0.75)^2 = 1600 \times 0.5625 = 900 \, \mathrm{W}\]よって、75%負荷時の効率は:
\begin{align*} \eta_{75\%} &= \frac{S_R \times 0.75 \times \cos\phi}{S_R \times 0.75 \times \cos\phi + P_i + P_{c,75\%}} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{100 \times 10^3 \times 0.75 \times 0.8}{100 \times 10^3 \times 0.75 \times 0.8 + 900 + 900} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{60000}{60000 + 900 + 900} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{60000}{61800} \times 100\% \\[10pt] &= 97.1\% \end{align*}したがって、全負荷時の効率は97.0%、力率0.8の75%負荷時の効率は97.1%となります。この結果から、この変圧器は75%負荷時にわずかに効率が高くなっていることがわかります。これは、負荷率が下がると銅損が減少するためですが、あまりに低負荷になると今度は全損失に対する鉄損の割合が大きくなり、効率が下がることになります。
問題3:変圧器の電圧変動率
ある変圧器の等価抵抗が1.2%、等価リアクタンスが4.8%である。この変圧器に力率0.8(遅れ)の負荷を接続した場合の電圧変動率を求めよ。また、力率1.0および力率0.8(進み)の場合の電圧変動率も求めよ。
解答:
変圧器の電圧変動率は、近似的に次の式で計算できます:
\[\varepsilon \approx (r \cos\phi + x \sin\phi) \times 100\%\]ここで:
(1) 力率0.8(遅れ)の場合:
\(\cos\phi = 0.8\)(遅れ)であるため、\(\sin\phi = \sqrt{1-\cos^2\phi} = \sqrt{1-0.8^2} = 0.6\)(正の値)となります。
\begin{align*} \varepsilon &\approx (r \cos\phi + x \sin\phi) \times 100\% \\[10pt] &= (0.012 \times 0.8 + 0.048 \times 0.6) \times 100\% \\[10pt] &= (0.0096 + 0.0288) \times 100\% \\[10pt] &= 0.0384 \times 100\% \\[10pt] &= 3.84\% \end{align*}(2) 力率1.0の場合:
\(\cos\phi = 1.0\)であるため、\(\sin\phi = 0\)となります。
\begin{align*} \varepsilon &\approx (r \cos\phi + x \sin\phi) \times 100\% \\[10pt] &= (0.012 \times 1.0 + 0.048 \times 0) \times 100\% \\[10pt] &= 0.012 \times 100\% \\[10pt] &= 1.2\% \end{align*}(3) 力率0.8(進み)の場合:
\(\cos\phi = 0.8\)(進み)であるため、\(\sin\phi = -\sqrt{1-\cos^2\phi} = -\sqrt{1-0.8^2} = -0.6\)(負の値)となります。進み力率では、電流は電圧より位相が進むので、\(\sin\phi\) は負の値になります。
\begin{align*} \varepsilon &\approx (r \cos\phi + x \sin\phi) \times 100\% \\[10pt] &= (0.012 \times 0.8 + 0.048 \times (-0.6)) \times 100\% \\[10pt] &= (0.0096 - 0.0288) \times 100\% \\[10pt] &= -0.0192 \times 100\% \\[10pt] &= -1.92\% \end{align*}したがって、力率0.8(遅れ)の場合の電圧変動率は3.84%、力率1.0の場合は1.2%、力率0.8(進み)の場合は-1.92%となります。
電圧変動率が負の値になるということは、負荷を接続すると無負荷時より電圧が上昇することを意味します。これは、進み力率負荷の特性で、リアクタンス降下が電圧降下ではなく電圧上昇として作用するためです。
問題4:変圧器の特性計算(第三種電気主任技術者試験 類似問題)
定格容量1500kVA、定格電圧6600V/440Vの三相変圧器がある。無負荷試験では一次側に定格電圧を印加したときの損失が8kW、短絡試験では二次側を短絡し、一次側に480Vを印加したときの損失が15kWであった。この変圧器の力率0.9で運転した場合の75%負荷時の効率を求めよ。
解答:
(1) まず、無負荷試験から鉄損(無負荷損失)を求めます:
\[P_i = 8 \, \mathrm{kW}\](2) 次に、短絡試験から定格負荷時の銅損(負荷損失)を求めます。短絡試験は480Vで行われていますが、定格電圧は6600Vです。銅損は電圧の二乗に比例するため、定格負荷時の銅損は次のように計算されます:
\begin{align*} P_c &= P_{\text{短絡}} \times \left(\frac{V_{\text{定格}}}{V_{\text{短絡}}}\right)^2 \\[10pt] &= 15 \times \left(\frac{6600}{480}\right)^2 \\[10pt] &= 15 \times \left(\frac{6600}{480}\right)^2 \\[10pt] \end{align*}ここで計算の誤りがあります。短絡試験では一次側に低い電圧を印加して定格電流を流すため、電圧比で補正する必要はありません。したがって、短絡試験で得られた損失15kWが定格負荷時の銅損となります:
\[P_c = 15 \, \mathrm{kW}\](3) 75%負荷時の銅損は、負荷率の二乗に比例するので:
\[P_{c,75\%} = P_c \times (0.75)^2 = 15 \times 0.5625 = 8.44 \, \mathrm{kW}\](4) 力率0.9で運転した場合の75%負荷時の効率を計算します:
\begin{align*} \eta_{75\%} &= \frac{S_R \times 0.75 \times \cos\phi}{S_R \times 0.75 \times \cos\phi + P_i + P_{c,75\%}} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{1500 \times 0.75 \times 0.9}{1500 \times 0.75 \times 0.9 + 8 + 8.44} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{1012.5}{1012.5 + 8 + 8.44} \times 100\% \\[10pt] &= \frac{1012.5}{1028.94} \times 100\% \\[10pt] &= 98.4\% \end{align*}したがって、この変圧器の力率0.9で運転した場合の75%負荷時の効率は98.4%となります。
問題5:変圧器の並行運転(第三種電気主任技術者試験 類似問題)
100kVA(インピーダンス電圧4%)と200kVA(インピーダンス電圧5%)の2台の変圧器を並行運転し、合計250kVAの負荷に給電している。各変圧器の負荷分担を求めよ。
解答:
並行運転時の各変圧器の負荷分担は、基本的にインピーダンス電圧百分率に反比例し、定格容量に比例します。2台の変圧器の負荷分担比は次の式で計算できます:
\[\frac{S_1}{S_2} = \frac{S_{R1} \times e_2}{S_{R2} \times e_1}\]ここで:
変圧器1(100kVA, 4%)と変圧器2(200kVA, 5%)の負荷分担比は:
\begin{align*} \frac{S_1}{S_2} &= \frac{S_{R1} \times e_2}{S_{R2} \times e_1} \\[10pt] &= \frac{100 \times 5}{200 \times 4} \\[10pt] &= \frac{500}{800} \\[10pt] &= \frac{5}{8} \end{align*}合計負荷が250kVAなので、次の方程式を解きます:
\[S_1 + S_2 = 250\] \[\frac{S_1}{S_2} = \frac{5}{8}\]2つ目の式から:
\[S_1 = \frac{5}{8} \times S_2\]これを1つ目の式に代入すると:
\begin{align*} \frac{5}{8} \times S_2 + S_2 &= 250 \\[10pt] \frac{5 + 8}{8} \times S_2 &= 250 \\[10pt] \frac{13}{8} \times S_2 &= 250 \\[10pt] S_2 &= 250 \times \frac{8}{13} \\[10pt] &= 2000 \times \frac{1}{13} \\[10pt] &= 153.8 \, \mathrm{kVA} \end{align*}よって、\(S_1\) は:
\begin{align*} S_1 &= 250 - S_2 \\[10pt] &= 250 - 153.8 \\[10pt] &= 96.2 \, \mathrm{kVA} \end{align*}あるいは、\(S_1 = \frac{5}{8} \times S_2 = \frac{5}{8} \times 153.8 = 96.1 \, \mathrm{kVA}\) としても同じ結果が得られます(端数の処理による微小な差異はあります)。
したがって、100kVAの変圧器は約96.2kVA(負荷率約96.2%)、200kVAの変圧器は約153.8kVA(負荷率約76.9%)の負荷を分担します。
確認のため、計算した負荷分担比を求めてみると:
\[\frac{S_1}{S_2} = \frac{96.2}{153.8} \approx \frac{5}{8}\]という関係が成り立っています。
演習問題のポイント
本ページでは、第三種電気主任技術者試験の重要分野である「変圧器」について学習しました。変圧器の基本構造から動作原理、特性、応用と特殊変圧器まで、幅広く解説しています。変圧器は電力系統における電圧変換を行う唯一の機器であり、その特性を理解することは電気技術者にとって必須の知識です。
本ページの内容をしっかりと理解し、演習問題を繰り返し解くことで、試験での得点力向上につながります。また、実務においても変圧器の選定や運用、保守に役立つ知識となるでしょう。
学習のポイント
変圧器の学習で特に重要な点は以下の通りです:
次回の学習では、「電力系統」について解説します。変圧器は電力系統の重要な構成要素の一つであり、送電・配電システム全体の中での役割を理解することで、電気主任技術者としての知識がさらに深まります。