【機械】令和6年 (上期) 問4|V/f一定制御下での誘導電動機の回転速度に関する計算問題
\( V/f \) 一定制御インバータで駆動されている \( 6 \) 極の誘導電動機がある。
この電動機は,端子電圧を \( V \) [V],周波数を \( f \) [Hz] として,\( V/f = 4 \) 一定制御インバータによって \( 66 \) [Hz] で駆動されている。
このときの滑りは \( 5 \%\) であった。
この誘導電動機の回転速度 \([ \mathrm{min}^{-1} ]\) の値として,正しいのは次のうちどれか。
合格への方程式
三相誘導電動機の基礎
誘導電動機とは
誘導電動機は最も広く使われている交流電動機です。固定子(ステータ)に流れる三相交流によって回転磁界を作り、回転子(ロータ)に誘導電流を発生させて回転させる仕組みです。身近な例では、エアコンの室外機ファンや洗濯機などに使われています。
誘導電動機の構造
- 固定子(ステータ):三相の巻線が配置され、回転磁界を発生
- 回転子(ロータ):かご形または巻線形の導体が配置
- エアギャップ:固定子と回転子の間の空隙
動作原理
誘導電動機の動作は以下の手順で行われます:
- 固定子の三相巻線に三相交流を印加
- 固定子内に回転磁界が発生
- 回転磁界が回転子導体を横切る
- 回転子に誘導電流が発生(ファラデーの法則)
- 誘導電流と磁界の相互作用でトルクが発生(フレミングの左手の法則)
- 回転子が回転を始める
誘導電動機の特徴
- 構造が簡単で堅牢
- 保守が容易
- 効率が高い
- 起動トルクが大きい
- 速度制御が比較的困難(インバータで解決)
同期速度
同期速度とは
同期速度とは、固定子が作る回転磁界の回転速度のことです。この速度は電源周波数と電動機の極数によって決まり、負荷の大小に関係なく一定です。回転子は同期速度よりもわずかに遅い速度で回転します。
三相誘導電動機の同期速度
三相誘導電動機の極数が p、電源の周波数が f [Hz] の時、同期速度 Ns [min⁻¹] は
\[ N_{\mathrm{s}} = \frac{120f}{p} \]となります。
係数120の意味
この式の係数120は次のように導かれます:
- 1秒間に f 回の磁界の変化が起こる
- 1分間では 60f 回の変化
- p極の電動機では、1回転するのに p/2 回の変化が必要
- よって、1分間の回転数は 60f ÷ (p/2) = 120f/p
一般的な同期速度の例
50Hz電源の場合の同期速度:
極数 p | 同期速度 Ns [min⁻¹] | 用途例 |
---|---|---|
2極 | 3000 | 小型ファン、工作機械主軸 |
4極 | 1500 | 一般産業用(最も一般的) |
6極 | 1000 | ポンプ、送風機 |
8極 | 750 | 大型ポンプ、コンプレッサ |
周波数と同期速度の関係
電源周波数を変化させることで同期速度を変えることができます。これがインバータによる可変速制御の原理です。インバータは電源周波数を自由に変えることで、誘導電動機の回転速度を制御します。
滑りの概念
滑り(スリップ)とは
滑り(スリップ)とは、同期速度と実際の回転速度の差を同期速度で割った値です。誘導電動機の回転子は、同期速度よりもわずかに遅く回転する必要があります。もし同期速度と同じ速度で回転すると、回転子に誘導電流が流れなくなり、トルクが生じなくなってしまいます。
誘導機の滑りの定義
誘導機の同期速度が Ns [min⁻¹]、回転子の回転速度が N [min⁻¹] である時、誘導機の滑り s は、
\[ s = \frac{N_{\mathrm{s}} - N}{N_{\mathrm{s}}} \]と定義されます。
滑りから回転速度を求める
滑りの式を整理すると、
\[ \begin{aligned} sN_{\mathrm{s}} &= N_{\mathrm{s}} - N \\[10pt] N &= N_{\mathrm{s}} - sN_{\mathrm{s}} \\[10pt] &= (1 - s)N_{\mathrm{s}} \end{aligned} \]と同期速度から回転速度が導出できます。
滑りの一般的な値
- 無負荷時:s ≈ 0.01~0.02(1~2%)
- 定格負荷時:s ≈ 0.03~0.05(3~5%)
- 起動時:s = 1(100%、回転子静止状態)
- 発電機運転時:s < 0(同期速度より高速回転)
滑りと運転状態
滑りの値によって誘導機の運転状態が決まります:
- s > 0:電動機運転(一般的な運転状態)
- s = 0:同期運転(実際には不可能)
- s < 0:発電機運転(同期速度より高速で駆動)
- s > 1:制動運転(逆方向の回転磁界)
滑りと効率の関係
滑りが小さいほど効率は良くなります。これは回転子での損失(滑り損失)が小さくなるためです。高効率な誘導電動機ほど滑りが小さく設計されています。
計算例題
例題1: 同期速度の計算
4極の三相誘導電動機を50Hzの電源で運転する場合の同期速度を求めよ。
解答
同期速度の公式に値を代入します:
\[ \begin{aligned} N_{\mathrm{s}} &= \frac{120f}{p} \\[10pt] &= \frac{120 \times 50}{4} \\[10pt] &= \frac{6000}{4} \\[10pt] &= 1500 \mathrm{\ [min^{-1}]} \end{aligned} \]よって、同期速度は 1500 min⁻¹ です。
例題2: 滑りの計算
同期速度が1500 min⁻¹の誘導電動機が、定格負荷時に1440 min⁻¹で回転している場合の滑りを求めよ。
解答
滑りの公式に値を代入します:
\[ \begin{aligned} s &= \frac{N_{\mathrm{s}} - N}{N_{\mathrm{s}}} \\[10pt] &= \frac{1500 - 1440}{1500} \\[10pt] &= \frac{60}{1500} \\[10pt] &= 0.04 = 4\% \end{aligned} \]よって、滑りは 0.04(4%)です。
例題3: 回転速度の計算
6極の三相誘導電動機を60Hzの電源で運転し、滑りが3%の場合の実際の回転速度を求めよ。
解答
まず同期速度を計算します:
\[ N_{\mathrm{s}} = \frac{120 \times 60}{6} = 1200 \mathrm{\ [min^{-1}]} \]次に、滑りから回転速度を求めます:
\[ \begin{aligned} N &= (1 - s)N_{\mathrm{s}} \\[10pt] &= (1 - 0.03) \times 1200 \\[10pt] &= 0.97 \times 1200 \\[10pt] &= 1164 \mathrm{\ [min^{-1}]} \end{aligned} \]よって、実際の回転速度は 1164 min⁻¹ です。
例題4: インバータ運転の計算
4極の誘導電動機をインバータで30Hzの周波数で運転する場合、滑り4%での回転速度を求めよ。
解答
30Hz運転時の同期速度:
\[ N_{\mathrm{s}} = \frac{120 \times 30}{4} = 900 \mathrm{\ [min^{-1}]} \]滑り4%での実際の回転速度:
\[ \begin{aligned} N &= (1 - 0.04) \times 900 \\[10pt] &= 0.96 \times 900 \\[10pt] &= 864 \mathrm{\ [min^{-1}]} \end{aligned} \]よって、回転速度は 864 min⁻¹ です。
計算時の注意点
- 極数 p は磁極の総数(N極とS極の合計)
- 回転速度の単位は通常 min⁻¹(rpm)
- 滑りは小数または百分率で表される
- 周波数と極数の関係を正確に把握する
- 実際の電動機では、定格滑りは3~5%程度
🔍 ワンポイントアドバイス: 誘導電動機の問題では、まず「同期速度 Ns = 120f/p」を計算し、次に「滑り s」から「実回転速度 N = (1-s)Ns」を求める流れが基本パターンです。滑りの概念では「回転子が同期速度に追いつけない分」がポイントで、これがあるからこそ誘導電流が流れてトルクが生まれることを理解しておきましょう。また、極数は「2極、4極、6極...」と偶数であることも覚えておきましょう。
さあ、今日は誘導電動機の回転速度の問題やね!まず問題を整理しよか。6極の誘導電動機があって、V/f比一定制御で66Hzで運転されとる。滑りは5%や。この条件で回転速度を求めるんやけど、まず何から始めたらええと思う?
まず同期速度を求める必要があります。誘導電動機では、回転子の回転速度は同期速度より少し遅くなるので、まずは基準となる同期速度を計算します。
そうやな!まずは同期速度を求めるんや。同期速度の公式、覚えてるか?極数がp、周波数がfのとき、同期速度Nsはどう表せるか教えてくれる?
同期速度の公式は次のようになります:
\[ N_s = \frac{120f}{p} \]ここで、\(N_s\)は同期速度[min⁻¹]、\(f\)は周波数[Hz]、\(p\)は極数です。
バッチリや!ほんなら数値を代入してみよか。極数p=6、周波数f=66Hzやから、同期速度を計算してみて。計算は丁寧にやってな!
与えられた条件を公式に代入します:
・極数 p = 6
・周波数 f = 66 Hz
\[ \begin{aligned} N_s &= \frac{120 \times f}{p} \\[10pt] &= \frac{120 \times 66}{6} \\[10pt] &= \frac{7920}{6} \\[10pt] &= 1320 \, \mathrm{[min^{-1}]} \end{aligned} \]したがって、同期速度は1320 min⁻¹となります。
よっしゃ!同期速度が1320 min⁻¹って分かったな。ほんで次はいよいよ実際の回転速度を求めるで。滑り(すべり)って概念、知ってるか?滑りs=5%=0.05っていう条件が与えられてるんやけど、滑りと回転速度の関係はどうなってる?
滑り(すべり)sは、同期速度と実際の回転速度の差を表す指標です。滑りの定義は:
\[ s = \frac{N_s - N}{N_s} \]これを回転速度Nについて解くと:
\[ \begin{aligned} sN_s &= N_s - N \\[10pt] N &= N_s - sN_s \\[10pt] N &= (1 - s)N_s \end{aligned} \]つまり、実際の回転速度は同期速度に(1-s)を掛けた値になります。
完璧や!滑りの公式もバッチリやな。ほんなら最後の計算や。同期速度Ns=1320 min⁻¹、滑りs=0.05を使って、実際の回転速度Nを求めてみて。ここまで来たらもうゴールは目の前やで!
与えられた条件を使って実際の回転速度を計算します:
・同期速度 \(N_s = 1320 \, \mathrm{[min^{-1}]}\)
・滑り \(s = 5\% = 0.05\)
\[ \begin{aligned} N &= (1 - s) \times N_s \\[10pt] &= (1 - 0.05) \times 1320 \\[10pt] &= 0.95 \times 1320 \\[10pt] &= 1254 \, \mathrm{[min^{-1}]} \end{aligned} \]したがって、この誘導電動機の回転速度は1254 min⁻¹です。
選択肢と照らし合わせると、答えは(3) 1254となります。
お疲れさま!バッチリ正解やで!最後に今回のポイントをまとめとこか。誘導電動機の回転速度計算は、①同期速度を求める、②滑りを使って実際の回転速度を求める、この2ステップが基本やったな。覚えとくべき公式は何やった?
今回学んだ重要な公式をまとめます:
1. 同期速度の公式
\(N_s = \frac{120f}{p}\)
2. 滑りの公式
\(s = \frac{N_s - N}{N_s}\)
3. 実際の回転速度
\(N = (1 - s)N_s\)
この3つの公式を順番に使えば、誘導電動機の回転速度問題は必ず解けます。特に「滑り」の概念は重要で、誘導電動機では回転子が同期速度より少し遅く回転するということを理解しておきましょう。
解説まとめ
■ V/f一定制御と誘導電動機の特性とは
V/f一定制御は、誘導電動機の可変速制御において最も基本的な制御方式です。電圧Vと周波数fの比を一定に保つことで、磁束を一定に保ち、全速度域でトルク特性を安定させることができます。誘導電動機の回転速度は、電源周波数と極数によって決まる同期速度から、負荷によって決まる滑りを差し引いた値となります。インバータ制御により周波数を変化させることで、効率的な速度制御が可能になります。
■ 計算手順と公式
- 三相誘導電動機の同期速度の計算
極数と電源周波数から同期速度を求めます。
\( N_s = \frac{120f}{p} \)
ここで、Nsは同期速度[min⁻¹]、fは周波数[Hz]、pは極数です。
- 誘導機の滑りの定義
滑りは同期速度と回転速度の差を同期速度で割った値として定義されます。
\( s = \frac{N_s - N}{N_s} \)
ここで、sは滑り、Nは回転速度[min⁻¹]です。
- 滑りから回転速度の導出
滑りの式を変形して回転速度を求めます。
\( N = (1-s)N_s \)
この関係式により、同期速度と滑りから実際の回転速度を計算できます。
■ 具体的な計算例
問題条件
- 極数: \( p = 6 \)極
- 運転周波数: \( f = 66 \ \mathrm{[Hz]} \)
- 滑り: \( s = 5\% = 0.05 \)
- V/f比: 4(一定)
同期速度の計算
\[ \begin{aligned} N_s &= \frac{120f}{p} \\[5pt] &= \frac{120 \times 66}{6} \\[5pt] &= \frac{7920}{6} \\[5pt] &= 1320 \ \mathrm{[min^{-1}]} \end{aligned} \]実際の回転速度の計算
滑り \( s = 0.05 \) のときの回転速度は:
\[ \begin{aligned} N &= (1-s)N_s \\[5pt] &= (1-0.05) \times 1320 \\[5pt] &= 0.95 \times 1320 \\[5pt] &= 1254 \ \mathrm{[min^{-1}]} \end{aligned} \]結論:この誘導電動機の回転速度は 1254 [min⁻¹] である。(解答:選択肢(3))
■ 実務上の留意点
V/f一定制御インバータと誘導電動機の運用における実務上の留意点です。
- V/f一定制御は簡単で安価な制御方式ですが、低速域でのトルク不足や高速域での効率低下に注意が必要です。
- 滑りは負荷トルクに比例して増加するため、重負荷時には回転速度が低下します。高精度な速度制御が必要な場合はベクトル制御を検討します。
- インバータの出力周波数を変化させる際は、電動機の温度上昇や振動に注意し、適切な加減速時間を設定する必要があります。
- 極数の多い電動機(多極機)は同期速度が低く、極数の少ない電動機(少極機)は同期速度が高くなります。用途に応じた適切な極数選定が重要です。
- 実際の設備では、機械損失や電動機の温度特性により、計算値と実測値に差が生じることがあります。
- 省エネルギー効果を最大化するため、負荷に応じた最適な運転周波数の選定や、軽負荷時の電圧低減制御なども検討されます。